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* テイルズ短編集(2)
 

日時: 2020/04/26(日) 17:16:40
名前: 牙蓮

自称「ハイグレ×テイルズSS作家」牙蓮が綴っていく短編集、第二段になります。
まだ前スレに余裕はあるのですが、完結前の作品の合間にごちゃごちゃ差し込みたくなかったのでこちらを立てさせてもらいました。(決して、打ち切り前提の措置ではありませぬのでご容赦を……)
扱いとしては前集同様短編での投稿を基本とし、皆様に楽しんで頂ける作品をお送りしていきます♪


  新着

TOG最終決戦ifを早く書けと怒られるかもしれませんが、ごたごたしている小説王国の現状に利用者として何か行動を起こさねばと投稿した次第です。
ハイグレ小説書き、負けずにここで頑張っていきますよー!

さて、本作ですが、言い間違いってありますよね?
何故か勘違いして覚えてたり、最新の流行り言葉を勢いで使って言い間違えたり……。
日常にいくらでも転がっていそうな笑い話、ハイレグから派生したハイグレもまさにドンピシャで該当する事でしょう。
そんな勘違いからハイグレを不可抗力的に取り入れてしまったら面白そうだなとネタを編んでみました。
テイルズで言い間違いといったらもう、あの人しかいないでしょう(笑)
戦闘シーンも絡んでくるのでこれはつい先日ラスボス戦書いて温まっている今しか書けないだろう、と勢いのまま書いてみました。
ここ最近続いている突発ネタですが、どうぞお楽しみください。


  目録

・TOS    あっ、間違えちゃった。失敗、失敗〜……(New)
・TOB    ハイグレのおまじない
・TOA    鮨詰めハイグレ
・TOZ    変態ハイグレ人間アリーシャの公開脱毛ショー(下)
・TOZ    変態ハイグレ人間アリーシャの公開脱毛ショー(上)
・TORays   新年ハイグレのご挨拶
・TOAsteria ホントノワタシ


 
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* Re: テイルズ短編集(2) ( No.27 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:14:17
名前: 牙蓮

「クククッ、まだ転向せぬのだな?」
「…………」
「もう気付いているとは思うが、そなたの体は既にハイグレに蝕まれておる。そなた達が『ハイレグ水着』と呼ぶこのハイグレを始め、手袋、靴下、そしてハイヒールに至るまで、全てハイグレ星域内で作られたハイグレ粒子を宿し一品なのだ。もちろん我らハイグレ粒子を体内に有するハイグレ人間にとっては体機能を促進させる秘薬にも等しい存在なのだが、そなたのような未洗脳者が着用すれば段階的に体内へハイグレ粒子を受け入れざるを得ない秘毒となり得る。
 その毒性はハイグレ単体から手袋、チョーカー、マスクといった装身具を纏う毎に増していき、先日そなたと同じだけの装備品を整えてやった演者は壇上へ上がる事なく転向してしまった。そして我らがハイグレ粒子を生み出し快感に浸る、ハイグレポーズ。その因子に呼び覚まされたハイグレ粒子は活動を活発にさせるのだが、そなたはリハーサルを含め五〇〇を超える数のハイグレを刻みながらも、未だ未洗脳者として抗い続けているのだから実に興味深い!」

 覆面に小皺を寄せ破顔するパンスト分隊長は上機嫌に空いた右手を、アリーシャの右腋へ潜り込ませる。

「――あひぃっ!?」
「だが、既に体の方は抗いきれないようだな。そなたは常時演技のつもりだったのであろうが、ハイグレ粒子は着実に学習を続けている。ハイグレ人間が第一次欲求としてインプットしている、ハイグレポーズ。それと腋毛脱毛という刺激との関連付けを、これだけの多数回、しかも衆人環視の緊張の下で敢行してきたのだから、そなたの腋は既に真の性感帯となっているのだよ」
「そ、そんなっ……!?」
「安心するがよい。そなたの精神力を以てすれば、まだ時間はあるようだ。これから我自らが綿密な調教を手掛け、従来の性感帯はおろか、脱毛を伴った変態ハイグレポーズでしか満足できない真正の『変態ハイグレ人間』に仕立ててやるからなぁ!」
「や、やめっ――ひぃぃっ!? ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 全力でその腕を振り払おうにも、右腋をちょっと抓まれただけで勝手にハイグレポーズを刻んでしまう哀れな体。階下の喧騒は怒号と悲鳴から一定の落ち着きを取り戻し、不揃いなハイグレコールのみが暗がりに木霊する。壇上のスポットライトに照らされ、ハイレグ水着という色とりどりの花を咲かせた野営地で今、アリーシャの新たな苦難の歴史が幕を開ける……。









* Re: テイルズ短編集(2) ( No.28 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:15:02
名前: 牙蓮






     鮨詰めハイグレ




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.29 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:18:45
名前: 牙蓮


 自由と解放の証である大空には薄暗い雪雲がどんよりと垂れ込めており、世界は繭の中でじっと目覚めの刻を待つ蚕のようにその試練を耐え凌いでいる。見渡す限り延々と白銀の大地が連なる北限、シルバーナ大陸。この終わりなき雪化粧は険しい山脈の麓へ位置する街に貴族の保養地として発展するための多大な恩恵をもたらしてきたのだが、地元民にとっては同時に悩ましい存在である事は言うまでもない。
 この土地には歓楽地の解放感と共に、曇天特有の息苦しさが同居している。しかしながらそんな彼らの苦悩を尻目に、降りしきる猛吹雪さえも些事に過ぎないとばかりに白翼を輝かせた一機の飛行艇が中空を滑走していく。

「ティアさん、アニスさん! ケテルブルクの様子はどうですか!?」
「――ダメね。カジノやホテル、知事邸の辺りまでくまなく確認してみたけど、どこもハイグレ人間で一杯だわ」
「ふみゅぅ〜。これでマルクトの街や村も全滅って事!? 本当にまだ侵略されてない場所なんて、残ってるのかなぁ……?」

 そう少女が吐き出した絶望的な問い掛けによって、コックピット内は一気に重苦しい空気に包まれる。皆の気持ちを代弁しこの沈黙を作り出した少女――、殆ど黒と言っていい栗毛を耳の上で可愛らしくツインテールに纏め、前掛のついたピンクのワンピースがよく似合うしっかり者の彼女、アニス・タトリンはその腕に抱きかかえたぬいぐるみ、トクナガへ顔を埋(うず)めるようにして溢れ出る気持ちを抑え込む。
 ゴォォーっと鳴り響く低い稼働音は、まるで死神の笑い声のよう。そんな中でもただ一人、最前席で操縦桿を握る褐色の防寒着に身を包んだ少女ノエルは即座に舵を切り、飛空艇アルビオールの機体をケテルブルクの街並みから引き離していく。

(はぁ……。ダメね、私……)

 眼下で輝くリゾート街はみるみるうちに雪雲のベールの中へ溶け込んでいき、世界は灰色一色で埋め尽くされる。もはや不要となった双眼鏡を目元から払い除けるようにして外し、彼女、ティア・グランツは内心でそう呟いた。

(あれくらいの惨状を目にしただけで、こんなに動揺してしまうなんて……。感情を律する事もできなければ、兵士として失格だわ)

 凝り固まった目頭をゆっくり揉み解し、垂れてきた前髪を脇へ流そうとも気分は一向に晴れてこない。普段は睨んでいるようだとも言われる鋭い眼差しも、規律を示す軍服の凛々しさも今はやや鳴りを潜める。
 幾ばくもせぬ内に機体は駆動音をより一段と高鳴らせ、壁を引き裂くかの如き強引さで雪雲の層を突破する。その瞬間視界がホワイトアウトしたかと思えば、一転して広がる眩いばかりの景色。彼女の生まれ故郷では一度も目にする機会などなかった、青空や大海。その何物にも代え難い「生の世界」を実感させる絶景を前に、初めて目にした時の感動が呼び覚まされ幾分か気が楽になる。しかしそれと同時に、どこまでも透き通る「青」という色は彼女の記憶をズキズキと刺激し、胸中で燻る不安を再び燃え上がらせるのであった。

(くっ……! さっきから色鮮やかな物を目にした途端に、あのけばけばしい水着が思い出されて仕方ないわ。
 それに、何故だか分からないけど……。さっきから、ハイレグ水着姿の人々を見る度、ずっと。半年前の旅で出会ったあの、レムの塔に集う無気力なレプリカ達と重なって見えて悪寒が……)

「――ねぇ、二人共」

 そんな思考の渦に囚われそうになっていた矢先、不意に声を掛けられ視線をコックピット内へと戻す。

「これから、どうすればいいのかな……?」

 振り向くと、自分とは反対側の席へ座るアニスが不安そうな面持ちで言葉を発している。

「いきなり『ハイグレ魔王軍』なんて言う奴らが現れたかと思ったら、街のみんなを次々に撃ち抜いていって……。私やティア、それに荷物室へ避難してきた人達は偶然、ダアトまで試験飛行に来てたノエルのお陰で助かったんだけどぉ……。地上に取り残された人達はみんな、あいつらに洗脳されちゃったんだよ!?」
「そう、ですね……。シェリダン、ベルケンドに、バチカル……。ケセドニアやカイツールを経由してマルクトの街も全部見て回りましたけど、どこもハイグレ人間で一杯でした」

 操舵桿を握ったまま口だけで答えるノエルの声は僅かに震えていた。今挙げた街の中には当然、彼女の故郷も含まれている。家族はどうなったのか、同僚達は洗脳されてしまったのか……? かつて起こった惨劇の中でも気丈に振る舞っていた彼女とはいえ、今回は事態の全容が見えないだけに空恐ろしさを感じているのかもしれない。

「もう、生存者は残されていないのかしら? 誰でもいいから、まずは一人でも見つかれば希望が持てるのだけど……」

 そう呟いたティアの頭の中には自然と、六人の姿が思い起こされる。半年前に巻き起こった予言(スコア)とレプリカ、そして大地の在り方について問われた激動の旅路を共にした六人の仲間達。既にその内の三人は故人であるから見つける術はないとして、あの激戦の中を生き抜いた仲間達ならばと儚い期待を抱かざるを得ない。

「ってゆーか! ガイやナタリアならともかく、あの大佐があっさり洗脳されてるなんて思えないんだけど?」
「た、確かにそうね。私も丁度、大佐なら一番可能性があるんじゃないかって考えてた所よ。と言うより、大佐がハイレグ水着着てる姿なんて想像したくないというか……」
「あぁ〜、確かにぃ……」
「ですが、ジェイドさんのいるグランコクマは、さっき訪れた時――」

 盛り上がる二人とは対照的に冷静な声で指摘するノエルに、ティアも表情を引き締め答える。

「えぇ。さっき遠目に見た限りでは、防衛線が引かれていなかった。元々グランコクマという都市は、戦時下になれば要塞と化す城郭都市よ。それがこうもあっさり厳戒態勢を解いていたという事は、既に敵の手に落ちたと考えるべきね」
「でもでも、ピオニー陛下の事もあるし、どこかに隠れてるだけかもよ?」
「だとしても、あの広い帝都を闇雲に探し回るのは危険よ。今はハイグレポーズを繰り返しているだけのハイグレ人間達だって、私達が近寄れば襲い掛かってくるのかもしれないし」
「う〜ん……」
「こんな時こそ焦らず、確実な方法を探しましょう。今の所生き残りは私達だけなんだし、唯一の戦力である私やアニスが倒れたら誰がノエル達を守っていけばいいの――」


  ――ドンッ! ドンッ!


 打開策が打ち出せず議論が熱を帯びていく中、不意にくぐもった衝撃音がコックピット内へ響き渡る。

「なっ、何っ!?」

 敵襲かっ……!? 緊迫した空気が一気に三人の闘争心を駆り立て、少女達は本能のままに戦杖を手に通路へと転がり出る。しかし――、


  ――ドンッ! ドンッ!


 唯一の出入り口であるハッチには何の変化も見られず、再び鈍い衝撃音だけがどこからともなく鳴り響く。まるで地の底から轟いてくる銅鑼の音の如きその咆哮は不可視であるが故の不安を掻き立て、ティアとアニスは険しい表情のまま顔を見合わせる。

「……何の音?」
「さ、さぁ……?」
「――多分、この真下から聞こえてきている感じがしますので、荷物室で何かあったんだと思います」

 首を傾げる少女達とは裏腹に、この船の整備までやってのけるノエルはそう推測した。

「……もしかしたら、さすがに詰め込み過ぎたのかもしれないわね。朝のラッシュ時に乗ったバチカルの天空客車に匹敵する、いや、もしかしたらそれ以上かもしれないくらい、積載制限ギリギリまで乗ってもらったから……」
「あぁ〜、最後はトクナガで『こんにゃろ〜!』って押し込みたい感じだったもんねぇ〜。まぁ巨大化させると天井に引っ掻かっちゃうから実行できなかったんだけど……」

 アニスはそう言って背中に負ったぬいぐるみ、トクナガの頭を掴んでブンブン振り回す。人形士(パペッター)である彼女は自身の音素(フォニム)振動数を暗号キーとして、トクナガを巨大化させ操る事ができる。2mを超す巨躯を以て豪快な肉弾戦を繰り広げるその戦闘スタイルは圧巻の一言に尽きるものの、このような狭い空間においては身動きすら取れなくなるのが玉に瑕である。

「そ、それはともかくとして……。じゃあ私達で下の様子を見てくればいいかしら?」

 彼女の撒き散らした毒には極力触れないようにして、ティアは声を励まし二人にそう提案する。

「そうだね。何かしてあげれる事があるとは思わないけど、喧嘩とかが酷くなったら大変だしぃ〜」
「そうですね。では、よろしくお願いします。その間私は機体の安定に努めますが、次の目的地はどうしましょうか?」
「そうね……。今すぐには決められそうにないわ。だから、なるべく人目につかないよう、中央大海上空辺りを旋回してもらえるかしら?」
「了解しました!」

 ショートカットの金髪を僅かに揺らし、ノエルは歯切れのいい返事で答える。こんな時でもまだ、大空を駆け回る喜びが失われてはいないのは数少ない救いだ。そんな彼女に安心してコックピットを任せ、ティアとアニスは一つ頷き合うと床に取り付けられた金属製の扉を引き開け、そそり立つハッチの中へと身を投じていった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.30 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:24:38
名前: 牙蓮


  ――カンッ カンッ カンッ

 薄暗いアルビオール内部の廊下へ、不規則な金属音が二つ鳴り響いていた。この艦は先行して造られた一号機と共に、創世歴時代の遺産の復元という考古学的知見、音機関研究を目的として製造された試作機であり、乗り心地や快適性にまで配慮された旅客船とは言い難い。鉄板がそのまま壁材となった狭い通路は建設現場を思わせる武骨さを誇っており、赤色の照明灯も何とか歩く事ができるほどの光度しか保っていない。
 そんな中をティアとアニスは軍靴を掻き鳴らし慣れた足取りで進んでいくと、格納されたタラップのすぐ側に控える荷物室の両扉に相対する。


  ――ドンッ! ドンッ!


 駆動音のハーモニーを乱す金属音の二つ目、穿つような打撃音はコックピットでの予想通り眼前の大部屋から聞こえてくる。

「やっぱり、この中からみたいね」
「うーん……。最悪、廊下やハッチにぶら下がってもらうしかないかもだけど、音機関が剥き出しになってる所も多いからあんまり歩き回ってほしくないってノエルが言ってたしねぇ〜」

 ブツブツ文句を言いつつも、アニスは向かって右側のドアノブへ手を沿える。ティアも辺りの安全を確認して反対側の取っ手を掴むと、振り向いて相棒と顔を見合わせた。

「じゃあ、いくわよ」
「りょ〜かいっ! せーっの!」

  ――バタンッ

 閂を外して一斉に扉を開け、鮨詰めになった荷物室を開放する。同時に巨人の息吹よろしく吐き出された、もわっと籠った不愉快な熱気に顔をしかめつつも、二人は外開きの扉の陰から飛び出し口々に声を張り上げる。

「みなさん、お静かにっ!」
「くぉ〜らぁ〜! 暴れても部屋は広がんないんだから、もうちょっと大人しく待っとけこのボ――はぅあ!?」

 開け放した途端、雪崩れるようにしてこちらへ向かってくる人々のうねりに思わず息を呑む。しかし彼女らを真に驚かせたのは、そんな彼らの予想だにしない姿形であった。

「なんで、ハイグレ人間っ!?」

 倒れ込んでくる人々は皆、赤、青、緑……。色鮮やかなハイレグ水着を身に着けている。ここへ逃げ込んだ時には確かにローレライ教団のローブを着込んだ信者ばかりだったはず。それが一人残らずハイグレ人間に転向してしまったという信じ難い光景に、アニスはただただ迫り来る肉壁に対し見呆けていた。
 そこへ――、

「――くっ!」

  〜〜クロア リュォ ズェ トゥエ リュォ レィ

 即座に反応したティアの澄んだ歌声が響き渡る。音律士(クルーナー)である彼女の旋律は譜となって音素(フォニム)を紡ぎ、術の体系を構成していく。そして――、

  ――ガィンッ!

 ユリアの第二譜歌の恩恵である譜術、フォースフィールドが発動し半透明の障壁が生成される。内側から押され伸び切った膜のように、戸口から外側へ膨れるようにして展開したシールドは押し出されるハイグレ人間の波を狙い通り受け止め、アニスを圧殺の危機から救う。

「ティア! ありがとう……」
「えぇっ。でも、まだ押してくるというのっ……!?」

 苦悶の表情を浮かべ術を維持するティアに対し、手助けしようにも通常の譜術士(フォニマー)に過ぎず譜歌を扱えないアニスにはどうする事もできない。

「ってか、そもそも何でこの中の人達が洗脳されちゃってんの!?」
「多分っ……! ここへ逃げ込んできた人達の中に、スパイが紛れ込んでたんじゃないかしら? 混乱に乗じて群衆に紛れ込む、私達神託の盾(オラクル)騎士団情報部でも用いられていた潜入任務の基本よっ……!」
「えぇ〜〜〜!? じゃあ私達って、上手く立ち回って逃げられたっていうよりか、まんまとあいつらの思惑通りに乗せられて――」
「アニス! 詮索も後悔も後よっ! すぐにこの事をノエルに知らせて、着陸を指示してきて頂戴! ハイグレ人間が同乗している以上、アルビオールの中も安全とは言い切れないわ」
「う、うん。分かった!」

 幼いながらも導師守護役(フォンマスターガーディアン)として数々の修羅場をくぐり抜けてきた神託の盾(オラクル)の騎士、アニス。ティアの要請にすぐさま冷静さを取り戻し、今来た廊下を一目散に駆け戻っていく。

「これで何とか、最悪の事態は回避できるといいのだけれど……。後は私が、ここを死守して――うぅっ!?」

 そう呟き己に活を入れようとしたのも束の間、再び押し寄せる人海の荒波にティアは呻き声を抑えられない。いくら半年前の動乱によって大気中の音素(フォニム)が減少傾向にあるからといって、人々を押し留める障壁を張り続ける事くらい造作もないはず。しかしその浅はかな目論見は、ハイグレ人間の非常識さによって脆くも崩れ去っていく。

「何なの、この重圧っ!? まるでグランドダッシャーをひっきりなしに打ち付けられているみたいだわ……!」

 アニスが戻るまでの数分程の間に、中の様子を窺って状況判断の材料にしようとしていたけれども、正直それどころではない。彼らは今も尚、無理矢理術を破らんが如く強引に責め立ててくる。現代の術体系において上級術へ区分される程の強い衝撃、もはや一分たりとて持ち堪えられそうになかった。

「このままじゃ、アルビオールにハイグレ人間がっ……! ――やるしか、ないわね」

 想像される事態は自身の根負けによってハイグレ人間がアルビオール全体へ解き放たれた末、スパイの手によって船内は全滅……。最悪の場合墜落という危険性すら孕む未来を回避すべく、ティアは研ぎ澄まされた碧眼をキッと釣り上げ覚悟を決める。
 腹を括ってからの彼女の行動は非常に早かった。まずは術を維持する手法を変え、第二譜歌に相当するフレーズを幾度となくリピート歌唱し掲げていた戦杖を手放す。その間に素早く左扉を引き寄せ障壁ギリギリまで接近させると、ガーターベルトに仕込んであった投擲ナイフを床へ打ち込み離れていかないよう楔として仮止めする。そしてもう片方の扉も同じように手繰り寄せると、取っ手にもう一本抜き放ったナイフを軽く突き刺し、準備万端。

「――いくわっ!」

 譜歌の合間に一つ息を整え、前だけをひたと見据える。仲間を守るため、そして未来への可能性を繋げるため……。彼女は全神経を最大限まで研ぎ澄ませ、一世一代の大勝負に打って出る。

「はあぁぁぁっ!!」

  ――ブォッ!!

 裂帛の気合と共に全身のフォンスロットを開放し、譜術を極限まで強化する。ティアの体内に宿りし潤沢な音素(フォニム)を受け取った障壁は狂おしいまでの輝きを放ちその勢いを増すと、迫り来るハイグレ人間達を逆に荷物室の中へと押し返し始めた。そして――、

  ギイィィィ――

 当のティア本人は大量の音素(フォニム)を放出し強烈な脱力感に襲われているにも関わらず、後ろ手に扉を掴んで突進する。余りの負担に歌を紡ぐ口端からは泡が零れ落ち、ハイヒールで踏みしめる足取りもどこか覚束ない。しかしそれでも彼女は歩みを止めず、気迫の籠った一歩一歩は次第に確かな成果を顕在化させる。
 張り出していた障壁は今やすっかり真っ平に、いや、逆に荷物室の中へ落ち窪んでいくかの如くハイグレ人間に抗っている。これだけの成果を上げる高出力譜術は強力な武器なれど、術者との距離が少し離れただけでも威力が激減してしまう諸刃の剣。自らと違ってセオリーを超越したジェイドという類稀な才能ならば扉の外から押し返す事もできたであろうが、生憎ティアにはそこまでの才覚はない。その事を重々承知しているからこそ、最後の一瞬まで術を維持するべく……。彼女は迷う事なく、フォースフィールドの張り巡らされた僅かな隙間へと華奢な体を投げ出した。

  ィィィ――、バタンッ!

 直後、確かな手応えと共に頑丈な両扉がピタッと合わさり、放たれた魔の巣窟は再び閉ざされた。その衝撃を以てあらかじめドアノブ付近へ刺されていたナイフがからりと音を立てて抜け落ち、仕込まれていた譜術が発動する。後学のためにとジェイドと共に解析していた、創世歴時代よりいかなる者の侵入をも阻んできた防衛術式、封咒(ふうじゅ)。大地を支えるセフィロトの各所へ施されていた術のように強力な代物ではないけど、これで内側のハイグレ人間達からは決してアプローチできない強力な封印が完成した。

(アニス、ノエル……。後は、頼んだわよっ……!)

 一心不乱に歌い続けた喉には痰が絡まり、思うように音を発せない。三人全員が犠牲になる危険があるのならいっそ、確実に扉を閉ざして残り二人に希望を託した方がより戦略的である。そんな兵士としてどこまでも冷徹な判断を下したティアは、自らを捨て石としてハイグレ人間ひしめく荷物室の中へ障壁諸共消えていったのだった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.31 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:28:03
名前: 牙蓮


「きゃあっ!?」

  ――ドンッ!

 扉が閉ざされると同時に解放していたフォンスロットは遂に限界を迎え、フォースフィールドがバラバラに砕け散る。淡い光を放ちながら雪解けのように消え行く亀甲状の欠片、そしてそれらを乗り越え迫り来る色とりどりの水着に彩られし波濤。態勢を整える間もなくティアは弾け飛ぶゴムのように詰め寄るハイグレ人間達に押され、自らが閉ざしたばかりの金戸へ背中から叩き付けられた。

「うぅっ……。ちょっと、押さないでっ……!」

 唇を湿らせやっとの思いでその一言を吐き出すものの、それ以上の抵抗などできやしない。限界以上の力を振り絞った体はまだガクガクと震えており、両足で立っているのがやっとといった有様。覆い被さるようにして倒れ込んできた男の下で顔を背け、突き刺さる肩甲骨の痛みやムワッと湧き上がる蒸したこの部屋の中で熟成された濃密な臭気に耐えるしかない。

「くっ、このっ……!」

 相手が民間人だと思えば躊躇われるものの、ハイグレ人間ならば容赦しない。少しでも自分から離れる気を起こさせ、防波堤になってくれればとの思いで三度ガーターベルトから隠しナイフを取り出し、毛むくじゃらの太腿に突き立てようとするが――。

「――っ!? きゃあぁっ!?」

 幸か不幸かその瞬間、機体がまるで旋回でもするかの如く急速に右舷方向へ傾いていき荷物室の中を掻き乱す。苦しめられていた圧力が和らぎホッと一息つけたのも束の間、今度は左から流れてくるハイグレ人間達が次々とその体を打ち付けていき否応なく押し流される。
 手にした投擲ナイフはどこへやらスルスルと床を滑っていき、眼前の大扉ももはや波の中……。隅っこの方でなるべく縮こまっていようと安易に目論んでいた思惑は露と消え、気付けば四方をハイグレ人間に囲まれる大海の中へ投げ出されていた。


 「ハイグレッ、ハイグッ……。――あー、もうっ! ハイグレできないったらありゃしないよっ!」

 「うわーん! うわーん!」
  「誰かっ、お願いします! この子にハイグレさせてあげてくださいっ!!」

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
  「ちょっと、旦那ぁっ! あっしらにも少しぐらい、ハイグレさせてほしいでゲスよぉっ!?」
 「うるせぇっ! 俺だって転向後以来、初めてのハイグレなんだっ! 誰にも邪魔はさせねぇっ!!」


 汗ばんだ素肌に絶えず揉まれ人混みを移動していく不快感の中聞こえてくるのは、どれも切羽詰まった怒号ばかり。ハイグレ人間の存在意義たるハイグレポーズ、そのためだったら何だってやる……。そんな歪んだ本性をまざまざと見せつけられ、蒸し暑い部屋の中だというのにどこか寒気がした。

「ハイグレッ、ハイッ……。ハイグッ! チッ……」
「あ、あのっ……!」

 中央部の喧騒から外れ、ようやくぎゅうぎゅう詰めなれど立ち止まる事ができたかと思えば……。今度は隣のハイグレ人間が密集状況も弁えず無理矢理ハイグレポーズを試みるものだから、気が休まらない。
 がに股になれないまでも体の前で交差させた両腕を勢いよく振り上げるものだから、突き出された肘がプルンッ、プルンッと豊満な果実を下から打つ。一定のリズムで繰り返されるそれはいやらしい愛撫のようでもあり、ティアは堪らず声を掛けてしまった。

「こんな狭い場所でそんなに腕を振り上げたら、私や他の人に当たって、その……。胸に刺さって、痛いのだけど?」
「……お言葉ですがね、姐さん。胸の痛みなんかよりも大事な物が、俺達にはあるんじゃないですかい? あんたもハイグレ人間だったら、それくらい分か――」
「わ、私は……!」

 荒々しいポーズとは一転して、諭すように語り掛けてくる男の渋い声にティアは動揺を隠せない。くるりと振り向く長身痩躯の体、軍服に包まれた肢体を見て驚きに見開かれる隻眼の左目。
 このような反応を見せたハイグレ人間が次に何を成そうとするのかは、逃走中嫌と言う程目にしてきた。ティアは咄嗟に両腕を振り上げると緑色のハイレグ水着が張り付く男の体を押し倒し、その反動も利用して行き場のない室内を彷徨う群衆の中へと自ら飛び込んでいった。


 「きゃあっ!?」
  「何しやがる、この屑がぁっ!?」

「ごめんなさいっ。通、してっ……!」

 体をぶつけられ押し退けられたハイグレ人間達から罵声を浴びせられるものの、ティアは一歩でも遠く自身に興味を示した隻眼の男から距離を取っていく。元はと言えばハイグレポーズをする広さを確保できないこの混雑状況が騒動の原因。ティア達二人が立ち退いた事で生じたちょっとしたスペースには今や数多のがに股が突き出されており、追跡を躱すという当面の目的は難なく達せられた。
 しかしふらつく体で駆け出した代償は、早々に訪れる。素足やヒール、それに靴下だけといった部屋履きの人までもが存在する悪い足場において呆気なく踵を取られてしまい、ティアは右足を蹴り上げるようにして背中から無様に転んだのだった。

  ――ドンッ!

「す、すみません! 大丈夫ですか?」

 壁のように頑丈な、それでいて生温かい異性特有の逞しい胸板に受け止められ、思わず謝罪を口にする。

「大丈夫ぅ〜。俺ぇ、ハイグレ擦れるのぉ、大好きぃ〜」

 鬱憤の溜まったこの空間においては余りに不釣り合いな、気の抜けた返事。しかしそんな感想を抱く余裕もあればこそ、次なる非常識がティアの下に襲い来る。

「すりぃ、すりすりぃ〜。すりすりすりぃ〜」
「えっ!? あのっ、ちょっ……」

 突然力強い両腕によって胴回りを掴まれ抱き上げられたかと思うと、右に左に激しく揺さぶられる。それも背後の男性と体を密着させたまま、互いの衣服が擦れ合うその感触を楽しむかのように……。

(ひ、ひぃぃ〜〜〜!? お尻の辺りに何か、固い物が当たって……。これってまさか、男の人の……!?)

 痴漢など可愛い物だと言わんばかりの公然セクハラに断固として対処したいものの、男の手は簡単に振り解けそうもない。両腕も気を付けの姿勢のままがっちりホールドされているので、力を籠めるどころかガーターベルトへ手を伸ばし強硬手段に訴え出る術さえ失われてしまう。
 よく見ればチラホラと、周囲でも抱き合って互いの体を擦り合わせている二人組が見受けられる。ハイグレ人間としての常識においてこれが責められるべき行為でないのだとすれば、助けなど望むべくもない。このままハイグレポーズの代わりとして慰み物にされ続けるのだと絶望しかけたその瞬間、不意に開けていた景色が遮られる。


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.32 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:31:34
名前: 牙蓮


「――っ!?」

 グッと臍(へそ)の辺りを押さえつけられ、嫌な汗が頬を伝う。背後の肉棒とは違った、無機物特有の冷たい感触に戦慄しないはずがない。この肉塊とハイレグ水着だけの世界において、一体何が……!? 恐る恐る自身の腹部へと視線を移してみれば、マジックミストを思わせる灰色の球体が腹にめり込み存在を主張していた。
 ツルツルに磨き上げられたそれは暗がりの中鈍い輝きを湛え、台座に捧げられた宝物を支えるかの如く伸びる円筒状の金属体が殊更異彩を放っている。まるで今は亡き恩師の譜業銃を思い起こさせる、特殊な形状の武器。そんな得物を突き付けひたと見据えてくる男の視線に対し、ティアはゆっくり口を開いていく。

「まさか、あなたが……!?」

 その顔は決して、見慣れたと言える程のものではない。しかしながら共に訓練に励んだ日々、騎士の叙勲を授かりし日の事は鮮明に覚えている。あの頃と変わらない逞しい体に派手な黄緑色の水着を張り付けて、神託の盾(オラクル)騎士団の同輩は饒舌に語り掛けてくる。

「ったくよ。折角任務達成できそうだったんだから、もう一回閉めるんじゃねぇよ」
「ラリー・ヒューズ……。あなたが、紛れ込んだスパイだったのね」
「あぁ、そうさ。ハラマキレディース様から命令されたもんでね。俺達ダアト守備隊は哨戒任務中、パンスト兵様から一足先に洗脳して頂けたんだ。そしてこれから決行する全世界一斉蜂起に向けて好都合な素材だという事で、内側から未洗脳者共を瓦解させるための潜入スパイとして一人ひとり仕立て上げられていったってわけさ」
「くっ……」
「で、その時だ! 処置完了を祝して、有難い訓示を頂いたもんだからよ……。『どこの世界にも最後まで未練ったらしく、魔王軍から逃げ回る生意気なやつがいるもんだからねぇ。だからそういう奴らが面倒な所へ逃げ込まないよう、特に空へ飛んでっちまわないよう十分注意しておきな!』ってな。
 俺はそれを聞いて、すぐにお前達の事が思い浮かんだ。だからこうしてマークしてやってりゃ見事に逃げ込んでくれたもんで、避難民は全滅! あれだけ情報部への配属を願ってたお前がこうして、諜報戦で後れを取るだなんて傑作だなっ!!」
「うっ……。わ、私はっ……!」

 やはり思っていた通り、最初から完全に仕組まれていた。彼の言葉を借りるなら、その道の専門家でありながら見抜けず窮地に追い込まれた自分の不甲斐なさが情けなくて悔しくて堪らない。

「まぁ待て。泣くのは後に取っときな。ハイグレ洗脳して頂けた嬉し涙、って奴にさぁ……!」

 そう芝居がかった台詞でティアを挑発すると、ラリーは凄惨な笑みを浮かべグリップを握る手に力を籠める。

  ――ボゥッ

 引き金に手を触れるや、淡い輝きを放ち始める先端の球体。この輝きに触れてしまったら最後だと分かっているからこそ、死に物狂いで体を振り乱すもののハイグレ人間の拘束はそう簡単には解けない。

「このっ。放しな、さいっ……!」
「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「ハハハッ。特に命じた覚えもないが、まるで未洗脳者の磔だなぁ! まぁこれだけのハイグレ人間を阿鼻叫喚に陥れたんだ。お前には似合いの最期だと思うぜ」
「黙りなさい! 私は、まだ……」
「楽しかったぜ、未洗脳者。お前のハイグレはどんな色になるのか、なぁっ!!」
「きゃあぁぁぁーーーっ!?」

  パアァァァ――

 そして必死の抗言虚しく、薄暗い船倉の最奥にて桃色の大輪が花開く。腹部より迫り来るその衝撃は瞬く間に体全体へと押し広がっていき、ティアはあらん限りの声量で叫び続けた。まるで体の内側へ溶岩を流し込まれたかのよう、とても耐えられない! ほんの数秒に過ぎないであろう時間が数分、いや、数時間にさえも思え、このまま溶け落ちてなくなってしまうのではないかという恐慌に駆られる。しかし、

(――オホホホホッ!)

 どこからともなく、甲高い笑い声が聞こえてきた。これが謂う所の走馬灯、死の世界へ繋がる呼び鈴なのかと思いきや、何かが違う。それは死に行く人間が思い描く妄想などではなく、音律士(クルーナー)としての感覚に訴えかけてくる確かに実在する音。にも関わらずこの絶叫と力の奔流とが交錯する混沌とした世界の中にあっても尚、澄んだ輝きを失わない不思議な調べは一体……?

(――アタシを受け入れなさい。ハイグレにおなりなさい……)

 虚空より届くその呼び掛けは、更に声を大にしてティアの下へと迫ってくる。まるで肉親の慈愛であるかのように、まるで生来の友が送る親愛であるかのように……。

「……あぁ。あなたが、始祖……。ハイグレ魔王、様……」

 無意識のうちに湧き上がるその感情は思考という名のフィルターを簡単にすり抜け、知り得ないはずの言葉を、さも慣れ親しんだ教義の如く滑らかに口走っていた。
 その瞬間、あれ程の苦痛をもたらしていた濁流が一転して緩やかな清流へと変わった。紅蓮の暴風雨は一瞬にして桃色の揺り籠へと転じ、その中をたゆたいし幼子へ新たなる道標が授けられる。それはまさに、迷える子羊達を幾年(いくとせ)もかけて諭し、万物の理の中で共に奏でてきた在りし日の予言(スコア)の如く……。虚無の中投げ入れられた一筋の光に導かれ、ティア・グランツという人物を象る全ての構成要素が一つひとつ丁寧に再構成されていく……。



 ………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.33 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:33:57
名前: 牙蓮


「……ほぅ、ライトパープルのハイグレか。あんま派手なイメージってなかったけど、結構似合ってるぜ」

 眼前の輝きに目を細めながら、ラリーは光線銃を引いていく。これだけの密集状況、腕を動かすだけでも一苦労であり、何とか押し退けた得物は所定の胸元へ戻す余裕もなくそのまま足刳の中へ……。
 そんなせせこましさと格闘する事十数秒、すっかり光度の下がった同輩の体はピチピチの極薄レオタードに包まれていた。

「――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレ人間ティア、洗脳完了しました」

 抱き上げられたまま両脚を無様に折り曲げ、彼女はそう宣言した。未だ自由の利かない体故、正式なポーズは取れないものの硬質な踵が交わるスケルトン仕様のハイヒールに、手袋を奪われた素の指先はまさに生まれ変わった証。先程まで動揺の色を隠せないでいた面差しもすっかり元のキリっとした鋭さを取り戻しており、内面的にもハイグレへの拒否反応はなさそうだ。

「おめでとう、ティア。これでお前も俺達の仲間だな」
「えぇ、あなたのお陰よ。ハイグレッ! ハイグレッ! 私もあなた達と一緒に、早くハイグレポーズしてみたいのだけ――あんっ! ひぃっ!?」

 その自然な語り口は以前、教会内でふとすれ違った時に交わした世間話と何ら変わりない。しかしながらそんな口上の最中、彼女は唐突に首を仰け反らせ艶のある矮声を吐き出したのだった。

「すりすりぃ〜」

 単に洗脳の光で目が眩み呆けていただけなのか、はたまた光線の余波を浴びて滾る体に歓喜していたのか……? いずれにせよ、先程まで動きを止めていた羽交い締め男は再びティアを慰み物に『触れ合い』を再開していく。

「あんっ! なにっ、これっ……!
 ひぃんっ!?
 ――さっきまでと全然、違……!」

 喧騒の中、ラリーの下までキュッ、キュッと擦れ合う音が聞こえてきそうな程、激しい揺さぶり。パンスト兵とはまた違った形の大きな被り物をしたハイグレ男は念願のハイグレ美女を手に入れ気を良くしたのか、更にペースを上げていく。

「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「うあっ、おぉっ! んひぃっ!?
 あっ、いやっ! 感、じっ、てぇ……!
 んっ、んひぃ、んいぃぃっ!! おっ、おふぅっ! うげぇっ……」

 未知の感覚に顔を振り乱して戸惑う、新米ハイグレ人間。普段の彼女からは考えられないくらいに乱れ、舌を突き出し激しくむせ返っていながらもその股布はじんわりと湿っていた。

「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「っ! ぶっ、ぐぅっ! あっ、あぐっ、ひぃぃっ……!」

 だらんと弛緩し人形の如く脚を躍らせる姿を見れば、彼女が水着の触感だけで達してしまった真正の変態である事は一目瞭然。しかし……、

「すりすりぃ、すりすりすりぃ〜」
「あっ、あっ、くっ! こっ、このっ……!」

 ラリー達一般兵からは想像もつかないような修羅場をくぐり抜けてきた、歴戦の勇者である彼女。男も同様にスパンを緩め余韻に浸っていると見るや、その一瞬の隙を逃さず反転攻勢に打って出る。
 その方法は先程までと何ら変わらず、両腕を外側へ押し広げて無理矢理拘束を打ち破ろうとする力業なれど、変化はすぐに訪れる。洗脳前はどこ吹く風とばかりに鉄壁の守りを誇っていた男の両手が俄かに震え始め、傍目にも拮抗しているのだと分かる。そして僅か数秒後、ティアは洗脳の磔を自力で振り解き、尾っぽのように伸びる白濁液を引き連れながらラリーの懐へと飛び込んできたのだった。

「きゃっ!? ごめんなさい、ラリー」
「なに、気にすんな。俺もお前の身体能力がハイグレ人間並みに強化されてるって確認できて、安心したよ」

 とは言うものの、そんな返答も耳に入っているのやら……。彼女は挨拶もそこそこに向き直ったかと思うと、共に果てた男に詰め寄り啖呵を切る。

「いい加減にしなさい! ハイグレ人間の嗜みというものは、それだけじゃないでしょ!?」
「あ〜?」

 対して手隙になった両手をぶらぶらと、体の左右でゆったり揺らしている砂色ハイグレ男から真剣さは感じられない。それでも尚、生真面目なティアは自らのハイグレ観について熱く語っていく。

「確かにあなたのハイグレを擦り合わせたい気持ちも分かるし、実際にやってみて私も気持ち良かったわ。それについては感謝しているし、お尻に刺さってたあなたのオチ〇ポもとても熱くて立派で……。今度は是非、プリップリのザーメンをお口でちゃんと頂きたいなって思ったくらいよ」

 キッと眉を吊り上げハイグレ人間としての務めを果たしているつもりなのだろうけど、可笑しくて仕方ない。先程まであんなに嫌がっていたティアが、ハイグレを擦り合わせてイッていた! その上、訓練兵時代は打ち上げで下ネタを言ってきた相手を完膚なきまでに叩きのめしたという伝説を持つあいつが、ザーメンをごっくんしたいだなんて……!
 スパイとして行動する必要上、未洗脳者の思考パターンが分からなければならない。そのために敢えて洗脳を不完全にし、双方の感性で物事を客観視できる絶妙なバランスを生み出して下さったハラマキレディース様に感謝する他ない。

「でもやっぱり、ハイグレ人間といったらまずはハイグレポーズでしょう!? 少なくとも私はそう考えるわ。己のリビドーに従い理性を律する事ができなければ、ハイグレ人間として失格――きゃあっ!?」
「うおっ!?」

 ドヤ顔で言い放たれる、未洗脳者側から見れば支離滅裂極まりない決め台詞。そんなハイグレの伝道師としての醜態を悪い笑みを湛えて見守っていた最中、不意に世界が反転した。再び封印されてから二度目、今度のは大きい! 一般の客船どころか軍用艦ですらあり得ない空独特の急転舵に、ラリー含め全てのハイグレ人間達が押し流されていく。
 いくら未洗脳者以上の屈強な肉体を持っているとはいえ、不測の事態には弱い。即座に状況を読み解き背後の柔らかい肢体を支えに何とか態勢を立て直そうとするラリーだったが、地に着いたと思った両脚は虚しく空を掻き肉団子の一部と化してしまう。

  ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!

 そして照明灯が再び天空に瞬いたかと思えば響き始める、歓喜の矮声。淘汰され僅かに生み出された隙間をこれ幸いに、比較的表層にて難を逃れたハイグレ人間達が束の間の楽園を謳歌していた。

「――っ!?」

 スパイとしてたとえ本能が抑制されていようと、やはりハイグレポーズはできるものならしたい。そんなラリーも反射的にハイグレスポットを探していたのだが、潮流に取り残された潮溜まりの如くぽっかり空いた空白地帯を見つけ左足を突き出していた。

「ここだっ! ハッ――」
「ハイグレッ! ハイグッ!? おい、押すなよっ!」

 しかしながら、周りは皆ハイグレ人間。突き出すような距離にいて、間に合うはずがない。誰よりも早くこのチャンスに乗じた一人、人波を押し留めた張本人である恰幅のいい男性のみがたった一回刻めたばかりであり、ラリーやティアを始めがに股を振り上げた群衆は互いの脚を絡ませ合っただけだった。

 「うっ、ニーハイの感覚がっ……」
  「ちょっと、暑苦しい脛毛を引っ付けないでっ!」

「…………」
「まぁ、なんだ、ティア。そんな物欲しそうな顔してても、もう無理だって。またチャンスは巡ってくるだろうから、その時に初ハイグレを――」
「『押すな』、ですって……!?」

 意気消沈するティアを見かねて掛けたラリーの宥めももはや耳に入っておらず、自制心を失った彼女は幸運を手にした男の胸元を掴んでいきり立っていた。

「あなた、まだ貪る気だったの!? こっちはどんな思いで突き出して……!」
「んな事言われたってなぁ、嬢ちゃん。俺だって欲求不満なんだよ」
「あなたに何が分かるの!? こっちは初ハイグレなのよっ! お願い、もう気が狂いそうで我慢できないわ!!」

 髪を振り乱し喚き散らすその姿は常軌を逸しているようにも思うが、それは一方でハイグレ人間としてあるべき姿を示している。ハイグレのために理性を律する、ハイグレポーズのためだったら全てを投げ打つ……。その覚悟は人間としての生を捨て、ハイグレ洗脳の完成を意味していた。

「これで、当面の任務は完了だな。後はできるだけ扉の近くで待ち構えて……」

 もはや自分のテコ入れは必要ないと確信したハイグレスパイは群衆の一人と化したモブハイグレ人間から視線を切り、そっと言い争いの場から距離を取っていく。胸を押し付けられ、イチモツを引っ掛けながら進んでいく人垣の中は決して快適とは言えない。そんな彼を見送るように、背後から「ハイグレポーズ、やらせてぇ〜〜〜っ!!」というソプラノの絶叫が届けられたのだった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.34 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:37:31
名前: 牙蓮



  数時間後……


「ま、頑張った方でしょう」

 波の音や鳥のさえずり、果ては空を切る風さえも感じられない静寂の地において男の呟きがぽつりと漂う。大きく抉られた僅かばかりの大地を覆うように広がる紅い結晶群が超常の景色を織り成すここは北極点、アブソーブゲート。かつてはエネルギー革命を巻き起こし文明の根幹を支えたプラネットストームの収束点、そしてかつて変革を求めし男が一度は因果の終結点として定めた決戦の地……。そんな彼ら、彼女らにとって因縁深きこの原野へ、自由を求め逃走を続けていたアルビオールは着陸し翼を休めていたのだった。

「大佐、お見事です! まさか、こうも思惑通りに事が運ぶとは!」

 大佐と呼ばれた男の脇に控えるハイレグ姿の水着男が――、疾走感のある水色の布地に軍靴、鼻先までを覆う一枚板のプレートヘルムというあべこべな格好をした元マルクト兵のハイグレ人間が興奮気味にまくし立てる。しかし当の大佐、軍服時代と変わらぬ色合いのハイレグ水着を引き締まった肉体に張り付け、悠然と微笑むハイグレ人間ジェイド・カーティスはどこ吹く風とばかりにさらりと受け流した。

「まぁあなたはこの艦に搭乗した経験がありませんからねぇ。驚くのも無理はないでしょう」
「と、言いますと?」
「アルビオールは一見、燃料の続く限り飛行を継続できるように思われがちですが、適宜休息が必要なんです。通常の飛行譜石ならともかく、改良を重ねた錬成飛譜石による負荷はそう軽くない。ですからいずれクールダウンのための着陸に迫られると予測できたので、そこを狙ったまでの事です」
「はぁ、なるほど……。
 ですが、その着陸地点がここ、アブソーブゲートになると看破できたのはやはり、この操縦士と顔見知りだった大佐の功績です!」

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 尚も食い下がり、そう力説して見せたハイグレ兵が指し示す先には二人のハイグレ人間の姿が。アルビオールを取り囲むようにして展開した旧マルクト帝国軍第三師団の面々に見守られ、順化のためのハイグレポーズを繰り返しているのはサンバイザーを額に上げ、防寒着と変わらぬ茶色のハイレグ水着が眩しいハイグレ人間ノエル。そしてその隣で彼女の内面を如実に表現した漆黒のハイレグ水着を着て幼児体型を精一杯誇張しているハイグレ人間アニスの計二人は、警戒こそしながらタラップを降りてきたものの万全の布陣で待ち構えていたジェイド隊の奇襲によって敢え無く洗脳されてしまったのだった。

「いえいえ、そんな。大した根拠なんてありませんでしたよー。もはや彼女らが寄港できる拠点など、キムラスカにもマルクトにもありませんから必然的に無人地帯へ向かうしかない。となれば最も人気のないアブソーブゲートかラジエイトゲートの二極、そのどちらかを目指すと考えるのが自然です。
 まぁ正直、ラジエイトゲートとの五分五分の賭けではありましたけど、何とか、ね……」
「…………」
「南極点であるラジエイトゲートはキムラスカ側の管轄ですし、彼らを信じる他ありません。あなたもこれくらい先を見通せないと、いつまでも私の補佐官で終わってしまいますよ〜、レ〜ントッ♪」
「うっ……。ぜ、善処します……」

 ハイグレ人間となった今でも他者の傷口を抉る辛辣な話術は健在であり、元マルクト兵レントは顔を引きつらせる。この人ならば今後もハイグレ魔王軍の方々さえも丸め込んで、辣腕を振るい続けるに違いない……。そんな確信めいた予感に恐れをなし、水飲み鳥の如く何度も首を縦に振って見せた。

「ほらほら、遊んでないで。早く行きますよ?」
「はっ、ハイグレッ!」

 しかしそんな部下の内面を知ってか知らずか、上官はさも愉快そうに檄を飛ばす。片手を挙げ地上の部隊へ引き続き包囲網の堅持を指示し、自らレント以下数人の部下を率いてアルビオール内部へと突入する。

  カッ カッ カッ カッ――

「さぁ洗脳の時間です。操縦士はもはやこちらの手の内ですから、無駄な抵抗は諦めて――おや?」

 足音高らかにタラップを駆け上がり、先頭を行くその姿が艦底に消えていったかと思えばそんな呟きが聞こえてくる。何事かとレント達後続にも緊張が走り、新たな得物である光線銃を握り直す。慎重に進んでいく中外部からの光は徐々に遮られ、代わりに艦艇特有のツンとした機械油の臭いに出迎えられた。
 突入した艦内は薄暗く、タラップを収納するためのレールが床を這い壁面には計器類と思われる装置が随所に配され狭苦しい印象を受ける。しかしそれは軍人である彼らにとって、ここまで乗ってきた軍艦も同じなのだから特段珍しいものではない。そんな中でジェイドの興味を引いた物とは一体……? 問い掛けるまでもなくハイグレ人間達の目はコックピットへ続くと思われる廊下の隣でぼんやりと輝く、不自然な両扉の表面へと吸い寄せられていた。

「大佐、この譜陣は一体?」
「…………」

 レントが近寄り尋ねようとも、ジェイドは答えない。譜術士(フォニマー)の素養を持つレントがいくら観察しようと全く理解できない特殊な紋様を、血に濡れたかのような紅い双眸でじっと見据えるばかり。そんな時間が数秒続いたかと思えば、不意に何かに気付いたかの如く声を上げる。

「アニマート! すぐに引き返して、難民保護の態勢を整えさせてください」
「ハイグレッ! ハイグレッ!」
「そして、マエストーゾ。あなたはこのまま私に代わって隊を率い、コックピット制圧をお願いします」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ――ですが、師団長よ。ワシら雑兵だけでの突入は、些か荷が勝ちすぎてはおりませぬか?」
「問題ありません。どうせ巡回するだけになりますから……」
「は……? ――いえっ、ハイグレッ! ハイグレッ!」

 真意を明かさぬ隊長の言葉に一瞬虚を突かれたものの、壮年の軍曹はすぐさま新世界の敬礼にて応え若人達と共に廊下の奥深くへと消えていく。
 緊急事態を伺わせる騒がしさの後、艦底に残されたのはジェイドとレントの二人のみ。取り立てた根拠はないが、敬愛する上司が一歩進み出たのに合わせてレントも後退るとその唇に皮肉な笑みが浮かぶ。

「そう。ここは下がっていた方が、身のためですよ……」

 フッと掌をかざし紋章を下から上へ撫で上げると、あれだけ揺らぎのなかった譜陣が跡形もなく消えてしまう。途端に轟く、龍の咆哮の如き金属音。本能的に危ないと感じたレントがたじろぎ剥き出しの尻で鉄板とキスしたと同時に、堅牢な両扉が外側へ向け弾け飛んだ。

* Re: テイルズ短編集(2) ( No.35 )
 
日時: 2019/07/13(土) 16:41:49
名前: 牙蓮



  『ハイグレエェェ〜〜〜〜ッ!!!』


 鼻の曲がりそうな臭気が吐き出されたのが早いか、荷物室の中から色とりどりのハイグレ人間達が我先に飛び出してくる。

 「ふぅ〜〜。やっと出られたでゲス!」
  「あ〜んっ、ハイグレよ! 早くハイグレさせなっ!!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグ――いてっ!?」
  「この屑がっ! そんなにハイグレしたいなら、とっとと進みやがれっ!」

「た、大佐っ。これはっ!?」

 予想だにしなかった猛る奔流を前に、レントはただ目を見張るばかり。眼前を駆けていくハイグレ人間達は皆一様に汗ばんで顔を気色ばませており、苦難の跡を伺わせる。この中で一体何があったのか、そもそも彼らは何に駆り立てられて走るのか? 訳も分からず視線を彷徨わせていると、対岸で傍流が廊下へ流れ込まないよう涼し気に交通整理するジェイドと目線が重なった。

「恐らく彼らは、パンスト兵様から逃れようとした元避難民です。それがどういう訳か船内でパンデミックを起こし、譜術士(フォニマー)に封印されてしまったといった所でしょう。洗脳直後からこの鮨詰め状態で囚われていたのだとしたら、彼らの鬼気迫る表情にも納得がいくというものです」
「な、なるほど……」

 自分は軍本部で交戦中に洗脳して頂けたから思う存分ハイグレポーズに浸れたけれども、人混みに揉まれ満足に股も開けない状況で新たな人生をスタートさせたとなると同情を禁じ得ない。
 その後も自由を求めた大進撃は勢い衰えずに続き、ようやくまばらになってきた頃には祭りを終えた後のような疲労感がずっしりのしかかってくる。

 「はいぐれ、はいぐれ……。はいぐれ……」
  「頑張ってね、ローコちゃん。もうすぐお外だからね……」

「さて、今の母娘で脱出を優先したハイグレ人間は最後のようです。では、行きますよ」
「はっ、ハイグレッ!」

 行くと言われてもその意図を図りかねるが、まだ部屋の中からはハイグレコールが聞こえてくる。いずれにせよ苦境に喘ぐ同胞が残されているのならば、放ってはおけない。そんな軍人としての使命感、いや、ハイグレ魔王様の尖兵としての義務感を胸に、二人は混沌の坩堝と化していた荷物室の内部へ突入する。

  『ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!』

「うっ……」

 そんな二人を出迎えたのは、想像を超える劣悪な環境だった。薄暗い船倉は汗や涎、その他体液による湿気で蒸しっと湿っており、鉄板に染み付いてしまったのではないかと錯覚するすえた臭いも相当なもの。そして各所に零れる白濁液や粘性の水溜まりによって、たがが緩んだハイグレ人間としてのリヒドーが掻き立てられていく。人々の不満と欲望とが咲き乱れる場末の盛り場のような惨状を前に、レントは股布から手を離せないでいた。

「出したいのなら構いませんよ。このようなハイグレポーズを見せつけられた以上、ハイグレ人間としては当然の反応です」
「……はい」

 実に彼らしい自由裁量だと感謝しつつも、今は任務中であるからと必死に言い聞かせて既(すんで)の所で我慢する。ジェイドが指摘するように、部屋に残る事を選択した数十人のハイグレ人間達は皆思い思いのペースでハイグレポーズに耽っていた。薄闇の中でも分かるくらいに顔を赤らめ、上擦った吐息と共に引き上げていく腕は刃のように鋭い。その身体症状は単に密集の圧力に苦しめられた所以に過ぎないはずなのに、どこか色っぽく見え……。
 そんな発情ハイグレポーズに悶々としているレントを尻目に、ジェイドは男性用ハイヒールを持ち上げ部屋の奥へと歩を進めていく。

「た、大佐……?」
「…………」

 水溜まりに足を取られないようレントも懸命について行くが、やはり答えはない。何故この人はこうも平気なのか、そもそもこの部屋に何があると言うのか……? 湧き上がる疑問は何一つとして解決しないまま、部屋の奥壁が段々と近付いてきて、そして――。


  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


「――やはりあなたでしたか、ティア」

 辿り着いた最奥。そこにはかつて予言(スコア)を巡る動乱にて名を馳せた英雄、ティア・グランツの変わり果てた姿があった……。



「うぅっ!? くっ、もうっ……」

  ――ドピュッ

 その姿を目にした途端、レントの股間が爆発した。単に目の前の人物が旧知の間柄、一年分に渡る大量の報告書においてよくその名を目にしていたからだとか、そんな生易しい理由じゃない。確かに他のハイグレ人間同様、大量の汗をかき上気したその表情は色っぽくてすぐに魅入られてしまう。しかしそれ以上に、その身なりの破壊力が半端ではなかった。
 光線銃より彼女が与えられた極薄のハイレグ水着は今や汗に浸されスケスケになっており、内側の恥ずかしい部分までもが外から透けて見える。薄闇の室内とライトパープルといった布色も相まって、その透過率は肌の色と判別できないレベルだと断じて過言ではない。そんなハイレグ水着のピッタリ感を維持したまま裸ハイグレに興じるという、極上のエロスを体現して見せていたのだった。

「いけませんねぇ〜、未来ある若者をこんな風に誘惑しては。見かけによらず、随分と男漁りがお好きなのですね♪」

  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 人格を否定するようなジェイドの挑発にも、ティアは一切答えない。いや、答えられないと言った方が正しいのか……。焦点を結ばぬ瞳は既に光を失っており、ハイグレポーズを我慢し続けた心は既に折れてしまったように見受けられる。

「聞こえませんか……。まぁ、今はいいでしょう。ですが、これだけは覚悟しておいてください。
 いくら未洗脳の状態とはいえ、百人を超すハイグレ人間達を阿鼻叫喚に陥れた罪は決して消えてなくならない。グランコクマへ護送しハラマキレディース様の御前へ引き立てられた折には、然るべき『お仕置き』があなたの身に下されます」

 その発言からは元仲間を案ずる心遣いや情状酌量を求める思いやりは感じられない。あるのはただ、ハイグレの尖兵としてハイグレに仇なす者を打ち滅ぼす冷たい瞳だけだった。

「――では、引き揚げますよ」
「えっ!? ちょっ――」

 一転して殺気を消し踵を返したジェイドの後姿を、レントは慌てて呼び止める。

「ですが、この部屋のハイグレ人間達を保護しなくては!」
「あぁ、その件ですか」

 振り返ったジェイド、その瞳にはイタズラっぽい憎たらしい笑みが宿っていた。

「それは現状、不可能というものです。ここのハイグレ人間は皆快楽に溺れ切ってしまっているため、我々が触れようとしただけで、ほら」

  「っ!? ハイグレエェェェ〜〜〜ッ!!?」

 ハイレグ水着と同じ素材でできたロング手袋で臍(へそ)の辺りを突っついた瞬間、ティアは首を仰け反らせ獣の咆哮を上げた。ガクガクと震える腰の下では陰毛がびっしりと張り付き、これでもかと醜態を晒し上げる。

「恐らくこの混雑状況でハイグレを擦り合わせ、慰め過ぎた事が原因です。ですから我々が触れただけで絶頂の嵐、護送は不可能なんですよ」
「…………」

 言われてみれば彼女に限らず、残った人々は一人ぽつんと佇むというよりかは誰かと触れ合えそうな近距離で股を開きポーズを取っている。困難を切り抜ける一つの知恵だったと言えば聞こえがいいが、ハイグレ粒子だだ漏れで治療を要するその醜態にレントは言葉を失う。

「では、行きますよ。彼らにはこのまま、暴走したハイグレ粒子をある程度放出してもらうしかない。でないと地上の第七譜術士(セブンスフォニマー)を呼んだ所で、代謝を立て直す事は難しいでしょう。
なに、気にする事はありません。我々ハイグレ人間の感性から言えば、少々羽目を外した程度の醜態に過ぎないのですから♪」

  「ハイグレェッ! ハイグレッェ!ハイグレエェェッ!!」

 最低限の尊厳を守って見せたジェイドの口添えを前にしても尚、ティアは気が触れんばかりの勢いでハイグレポーズを繰り返す。涎を垂らし、白目を剥いて絶頂するその姿に、かつての凛々しき騎士としての面影はない。
 こうして同じハイグレ人間であるジェイドやレントからも哀憐の視線を向けられし傀儡ティア・グランツは、乳輪丸出しの豊胸を振り乱し倉庫の置物として在り続けたのだった……。









* Re: テイルズ短編集(2) ( No.36 )
 
日時: 2020/04/04(土) 17:21:19
名前: 牙蓮






     ハイグレのおまじない




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.37 )
 
日時: 2020/04/04(土) 17:24:30
名前: 牙蓮


  ――ワイワイ ガヤガヤ……

 薄暗い灯りに照らされつまみとして持ち込まれた干し肉の香ばしい匂いが充満する中、歓談の音色が幾重にも重なって渦巻いている。どこにでもある街角の酒場に隣接した小ホールとはいえ、中々の盛況ぶりだと言えるだろう。ざっと見積もっても、百人以上はいるだろうか? ともかくそれだけの観衆が着席し知人友人との会話にて暇を持て余す中、開演の時は今か今かと大いに待ちわびているのだった。

「――うっ!? ちょっと、こんなにっ……。はぁ〜……」

 そんな満員状態に近い客席を眼下に望む舞台袖で、盛大な溜息が垂れ幕目掛けて吹き零される。カチューシャに添えられた付け耳をイジイジ弄くり回しながら、ベルベット・クラウはまるで内気な少女の如く濡れた瞳を揺らしていた。

「なんじゃ、ベルベット。さては、まだ覚悟が決まっておらんのかえ?」
「ま、マギルゥ……! あんたねぇ、こんな事そう簡単に割り切れるわけ――」
「じゃが、このまっこと不運で巡り合わせの悪い『当たりクジ』を引き当てたのは他ならぬ、おぬし自身じゃぞ〜?
 この街で我らマギルゥ奇術団が新幕、大奇術ショーを執り行うという事は前々から触れ込んでおったではないか。そしていざ準備に取り掛からんと『今回は助手が二人欲しい』と言わんや否や、おぬしら全員ときたら醜い擦り付け合いなんぞ始めおってからに!
 心優し〜い儂はその醜態を咎めるどころか、間を取り持って折衷案まで出してやったんじゃぞ!? 何の種も仕掛けもない公平な『クジ引き』で決めよう、それは皆納得の上だったんじゃないのかえ〜?」
「くっ……」
「――おぬしの引きが弱い! ただそれだけの事じゃ。潔く諦める他なかろうて」
「それはそう、なんだけどっ……!」

 ダンっ、と地団駄を踏むと同時に、硬質なハイヒールが床板を穿つけたたましい音が鳴り響く。

「だからって、この衣装はないでしょっ!? 何であたしがこんな格好……」
「いかにもタコにも、奇術ショーの助手と言えば昔からバニーガールと相場が決まっておる。何、おぬしのバリボーな魅力が遺憾なく引き立っておる故、もっと鳩胸を張ってアピールするとよいぞよ〜♪」
「あんた……、喰らうわよ」
「お〜。くわばら、くわばら。
 そこまで言うんじゃったら、今から坊をひん剥いてバニーボーイでもやらせてみるかのぅ?」
「ちょっと、フィーは関係ないでしょ!? あの子だって嫌がってたんだから、だったらあたしがっ……!」
「なら、覚悟を決めるんじゃな。ほれほれ、開演の時間まであと五分とないぞよ?」
「くっ……」

 袋小路へ追い込み、心を抉るような発言でとどめを刺したマギルゥはそっとベルベットの下を離れていく。いつもは「どーでもいい」と口癖のように繰り返している彼女も、此度ばかりは丹念にネタの最終確認を行う。半ば即興のような形で披露している普段の奇術の他に、今回は大掛かりな仕掛けも予定しているだけに念には念を入れてと言う事か。
 前屈みになって箱の中を覗く傍ら、スカートの如く腰巻きにされた本がペロリと捲れ上がる。普段は奇抜な格好だしよくそれで街中を出歩けるものだと思っていた『悪の大魔法使い(本人談)』の装いも、今だけはとても羨ましい。それ程までに今自分自身が身をやつしている格好、ウサミミカチューシャに蝶ネクタイ、きめ細かい扇情的な網タイツにハイヒール。左腕の包帯を隠すための超ロング手袋を両腕にはめ、それと同じ色をした深紅のハイレグレオタードという出で立ちが、どうしても受け入れられなかった。

「――ベルベット」

 そんな葛藤の最中、もう一人の生け贄がやって来る。エレノア・ヒューム。この馬鹿が付く程のお人好しで正直者でもある彼女はすっかり郷に入ってバニーガールの衣装を着こなし、今はベルベットと対になる青を基調としたハイレグレオタード姿で舞台袖へ控える。

「まだ、慣れませんか?」
「当たり前でしょ!? あんたはその、こんな格好で人前に出るって考えて、恥ずかしくないの? ただでさえ緊張するっていうのに……」
「恥ずかしい……は、ともかく。小規模とはいえ、これだけのお客さんが入ってる舞台ですからね。
 私だってそりゃ、緊張くらいします。だからこうやって、緊張を解すおまじないを――」
「おまじない?」

 そう言われふと、懐かしい記憶が蘇る。あれはまだ、大切なものに囲まれていた穏やかな時代……。村の子供達でお遊戯の成果を披露する事になって、最後まで舞台へ上がれずぐすっていたあたしへセリカ姉さんが教えてくれた、緊張しないおまじない。あれはえっと、確か――。

「掌にVの字を書いて飲み込み、こうやって気合いを入れるんです。ハイグレっ! ハイグレっ! って」
「えっ……? ――えぇっ!?」

 記憶を辿る中、目の前で予想外の出来事が巻き起こる。エレノアは己の掌に指で文字を書いてパクっと飲み込む仕草をしたかと思うと、そのまま両腕を股元へ押しやって足刳のラインに沿ってビシっ、ビシっと引き上げたのだった。

「ちょっと待ちなさい! 確か緊張を解くおまじないって、『人』って字を書くんじゃなかったっけ?」
「えっ、そうなんですか!? でも聖寮ではこれが昔からの定番だって聞いてますよ。
 勝利の証であるVサインを飲み込んでその力を身に宿し、全ての礎である足腰に喝を入れるんです。こうやって、ハイグレっ! ハイグレっ!」

  ――ビシっ! ビシっ!

「ちょっ!? 分かったから、とにかくやめなさい。見てるこっちが恥ずかしいわ……」

 確かにエレノアが言う通り、歴とした謂れがあるのかもしれない。しかしながら今現在のハイレグレオタード姿でしようものなら、股間へ食い込む股布を見せびらかしたいだけの変態にしか見えない。

「一度やってみると案外、気持ちが落ち着きますよ? 試しに、ベルベットもほら……」
「えっ、あたしも……?」

 とは言えこうなってしまった以上、意地でも自分の意見を引き下げようとしない彼女の頑固な気質はベルベットもよく知っている。全く気乗りはしないが、せめて気休めにでもなってくれればとばかりに左の掌を広げ……。

「まずはVサインですね。こうやって、目一杯大きく――」
「……こんな感じかしら?」

  ――キュっ キュっ

 グローブに包まれた掌の上を、同じく赤色の人差し指が折り返し這っていく。布と布とが擦れる感覚の下でねちょっと潤滑油のように滑る、僅かな水気。今更ながらに手汗をかく程緊張していたのだと、ベルベットは思い知る。

「それで、――あむっ」
「そうです! そして最後にいきますよー、ハイグレっ! ハイグレっ!」
「は、はいぐれ。はいぐれ……」

 ビシっ、ビシっと腕を振り上げるエレノアに倣って、ベルベットも両腕を体の前で上下させる。

「ベルベット、真面目にやってください! もっと勢いよくです、ほらっ」
「分かったわよ……。はいぐれっ、はいぐれっ」
「もっと重心を落として! 膝を開いて!」
「くっ……。はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
「いい感じです。後はお腹の底から声を出して、一撃必中の気迫をお股に籠めて! せーのっ――!
 ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 二人の声が見事に重なり合い、舞台袖に広がる暗がりの中響き合う。がに股ポーズに加え激しい上下運動によってレオタードの股布は寄り集まり、正真正銘の変態だなとベルベットは自覚する。しかしながらそれ以上に、何とも言えない高揚感が湧き上がってくる事実を否定できない。

「どうですか? 少しは緊張が解れましたか?」
「えぇ、何だかさっきまでの悩みが嘘みたいよ。今ならショーの成功のため、何だってできる。この感覚、まるで――」
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.38 )
 
日時: 2020/04/04(土) 17:28:49
名前: 牙蓮



  ビイィィィーー!!

 その後何か付け加えて言おうとしたものの、突然鳴り響いたブザー音に掻き消されてしまう。これは――。

「ほれほれ、二人とも! お喋りの時間はそこまでじゃ。
 さぁ、我らマギルゥ奇術団が誇る一世一代の舞台へ、駆け上がろうぞ!」

 割って入ったマギルゥに背を押され、三人はあれよあれよと言う間に垂れ幕の裏までにじり出る。最後に一つ、ポンと背中を叩きスポットライトの下へ駆け出していくマギルゥ。残された二人は一度目を合わせて頷き合い、エレノア、そしてベルベットの順番で熱狂渦巻くステージへと踏み出していった。

「待たせたのぅ〜、皆の衆! 今宵は我がマギルゥ奇術団が送る大奇術ショーを、心行くまで楽しんでいってくれぃ!!」

  『ワアァァァーーっ!』

 主役の登場に会場は沸き、最初の掴みとしては上々の雰囲気。その間にエレノアはマギルゥの後ろを通って彼女の右側へ、そしてベルベットはある程度距離を取って左側へ立ち並び、スタンバイを終える。

「儂こそがこの一座の座長である、八紘四海を股にかけ、ドラゴンも笑う大魔法使い! その名も、マジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ! 略してマギルゥと覚えおけぃ!」

  『オオォォォーーっ!』

「そしてこやつらが、儂のアシスタント共じゃ。ほれ、軽く挨拶してみい」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ご紹介に与り、光栄です。
 ――蒼海の神姫! 私がアシスタントのキュート担当、バニーガールのエレノアです。エレノアバニーとお呼びください。ぴょん、ぴょん♪」

  『かっ……、可愛えぇぇぇ――っ!!』

   『エレノアさぁーーんっ! いやっ、エレノアバニぃーーっ!!』

  『うおぉぉぉーーっ! 結婚してくれぇぇぇーーっ!!』

 いつも通りと言えば、いつも通りな反応。彼女の整った容姿と滲み出る真っ直ぐな気質に中てられ、客席の男共はすっかり骨抜きとなる。

「ほれほれ、こっちの鳩ポッポバニーはどうかえ?」
「――紅蓮の豪王! っていうのはウ・ソ☆
 あたしがアシスタントのプリティ担当、ベルベットバニーよ。みんなと仲良くなりたいから気安く『ベルちゃん』って呼んでほしいんだぴょん♪ ハイグレっ! ハイグレっ!」

  『うおぉぉぉーーっ! 食い込み丸見えだぜぇぇぇーーっ!』

   『ひゃおぉぉぉーーうっ! ベルちゃぁーーんっ!!』

  『ティーチミーバリボォォォーーっ!』

 壇上からぱっくり開いたがに股ポーズで股間の食い込みを見てくださいと指し示すベルベットバニー。そのエロプリティな姿にこれまでを上回る今日一番の歓声が巻き起こる。

「べ、ベルベットっ……!?」
「ほう。何か吹っ切れたって顔してるな、あいつ」
「あぁ。エレノア共々、何か秘策があるのかもしれん」

 その熱狂ぶりに、いや、振り切れた二人の自己紹介に、最後尾で見守るライフィセット、ロクロウ、アイゼンの男性陣も度肝を抜かれる。そんな中絶妙な間合いを見計らって、マギルゥの切れ味鋭いツッコミが炸裂する。

「って、おーいっ! 儂に相談なくいつの間にそんな高度な自己紹介準備しとるんじゃーいっ!?
 とまぁこんなデコボコトリオがお送りするショータイムじゃが、最後まで楽しんでいっておくれ。ほれ、挨拶!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ――ぴょん、ぴょん♪」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ――ぴょん、ぴょん♪」

 さすがは稀代の大魔法使いと言うべきか……。この一瞬で彼女らのキャラ設定を巧みに把握し、軽く手懐けてみせる。
 そんな最高の掴みを皮切りにして、奇術ショーは大盛況のまま滞りなく進行していく。十八番の鳩出しに大脱出劇、果ては凡れ――、いや、ノルミン聖隷の火の輪くぐりといった様々な演目に人々は沸き立つ。しかしながらそれら奇術の合間合間に振り撒かれるアシスタント達の媚びやハイグレポーズが最も歓声を集めていたという事実に、幕切れを終えたマギルゥが大いに嫉妬していたとかいないとか……。




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.39 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:18:45
名前: 牙蓮






     あっ、間違えちゃった。失敗、失敗〜……




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.40 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:24:46
名前: 牙蓮


 時は変革期。テセアラが王都、メルトキオにて……。

 後の世においては『世界再生の成就』として華々しく記されるこの瞬間も、今はまだ歴史の審判を下される少し前。突如巻き起こった大地震を皮切りに、繁栄の象徴としてそびえ立つ救いの塔の崩壊、そして空を引き裂き現れた紫電の暗雲によって天はやや日の光を減じた怪しげな虚空へと変貌する。それはまさに破滅への序章、衰退をも超えた地獄の始まりかと思える光景に国全体が恐怖に包まれる。

  『ワアァァァーーっ!!』

 しかし、そんな時にも関わらず。――いや、そんな時だからこそ、ここ王立闘技場は血沸き肉躍る異様な熱気に包まれていたのだった……。



「――終わりです! 塵と化しなさい。 ――奥義! 烈破、焔焦撃!!」
「ぐわあぁぁーーっ!?」

 叩き付けられた戦斧が招く爆発的な地熱の噴出によって旋風は散らされ、雪解け間近の銀髪がどうっと崩れ落ちる。


『決ぃまったあぁぁーーっ!! プレセア選手、強烈な一撃によりウッドロウ選手をダウン!
 本日一番の好カード、スーパーハイクラス・エキシビションマッチも佳境に突入! 遂に均衡が崩れたぞおぉぉーーっ!!』


 今の一撃で大きく抉られたバトルフィールドよりも一段高い実況席で、司会者は方々へ唾を飛ばしまくっていた。彼に煽られ歓声を上げる、満員の観客達。そんな熱狂の中朗々たる詠唱がコロシアムの最下層に響き渡る。

「――神の槌、虚空より来りて裁きを振るわん……! メテオスォーム!」

  ――ドオォォンっ! ドオォォンっ! 

 突き上げられた右手に導かれ、彼方より飛来する大型の隕石。

「くっ……! ――フォースフィールド!」
「きゃっ!? ――レデュース・ダメージ!」
「冗談じゃないよっ! ――衝弾符!」
「甘いです。 ――地精陣!」

 それに対し挑戦者達は皆一様に手を止め、防御奥義にて上級昌霊術を迎え撃つ。壊滅的な炎と土塊、それに荒れ狂う閃光。しかしながらそれらを以てしても薄緑色に発光する障壁が破られる事はない。
 合計十数発のインパクトは発生した時同様唐突に鳴りやみ、大規模なクレーターが残されたフィールドはもうグチャグチャ。しかしその一方で、強制的に差し止められた戦況はこれを機に一旦の仕切り直しとなる。

「みんなー、頑張れーっ!」
「うひょ〜、確かメルディちゃんって言ったか? ガキんちょに負けねぇエッグい術使うねぇ〜。俺さま、観客席でよかったかも」
「でもっ! プレセアの秘奥義も十分、凄かったよね!」
「ああ。そう思うのなら、声に出して応援してやるといい」
「う、うん。分かった。
 ――頑張れーっ! プ、プププ、プレっ……。プレセっ、プレっ、ァっ……」

 リーガルに促されるまま声を上げるも、空回りしてばかりのジーニアス。そんな彼の様子に失笑しながらもロイドとゼロスも仲間達へ声援を送り続ける。
 観客席の最前列に並ぶ男性陣四人、彼ら含め再生の神子一行は来るべき最終決戦に向け各地の様子を見て回っていた。そんな中でふと目にした、闘技場新カテゴリー増設の案内。これまでの三人制パーティ戦と異なり、四人で戦い抜く熾烈なスーパーハイクラス。その初回報酬がクローナシンボル人数分とあって今後の戦いに活路を見出したばかりか、副賞として贈られる『死と破壊の天使スピリチュアが振るったとされる鎌』に釣られ息巻いたリフィルに引かれるがままコレット、しいな、プレセアの女性陣四人は狂乱の宴に身を投じていたのだった。

「みんな、大丈夫!? すぐに回復するから、それまでの辛抱よ――!」
「はい。ありがとうございます、リフィル先生」
「合わせとくれ、プレセア。前衛が一人減ったから一気に挟み撃ちにするよ!」
「分かりました」

 互いに声を掛け合い、慣れた連携で戦場を駆け回る紅四点。勝ち抜き方式であるスーパーハイクラスを制し、続けて開催された異世界英雄との四対四エキシビションマッチも今の所彼女らが優位に立つ。巧みに剣と弓とを使い分け前線を翻弄していたウッドロウは倒れ、相手は後衛偏重の編成。リフィルの詠唱が響く中三人は再び駆け出し、しいながファラと名乗ったオレンジ色のエプロンドレスを着こなす少女へ肉薄する。

「ふっ! ふっ! はっ! ――蛇拘符!」
「いっけえぇっ! 三散華! 飛燕連きゃ――わっと!」
「崩襲撃!」

 しいなが繰り出す護符による打撃を、神速の回し蹴りで蹴散らすファラ。続けざまに蛇の如く纏わりつく闇を飛び越え、空中から激しい蹴り技を見舞うも背後より叩き付けられたプレセアの攻撃によって後退せざるを得ない。

「光よ! 邪悪を滅ぼす――

  「レイトラスト!」

 ――バイバ!?」


「裁きの時来たれり。帰れ! 虚無のかな――

  「ブラン…ヒィック!…っス!」

 ――って、わぁ!?」

 前衛三人が激しい肉弾戦を繰り広げる一方、コレットが戦場を掻き乱す。続けて詠唱に入っていたメルディへチャクラムを投げつけ妨害すると、そのまま目一杯腕を広げて大回転。己が名を冠する天才杖を手に術を唱えていた寝癖頭、ハロルドはあと一歩完成に至らずその食虫植物が如き空洞を有したスカートの一端を引き裂かれる。

「ちょっとコレット! あんた、大丈夫かい?」

 技の連携はちゃんと行えていたものの、不可思議な声を上げた彼女の下へしいなが堪らず駆け寄ってくる。

「えへへ、ごねんね。実はさっきから、しゃっくりが止まんなくて……」
「戦闘中にしゃっくりって、また随分と呑気なもんだねぇ〜」
「ごめんね。でもだいじょ…ぶィック!…だよ。ほら、ちゃんとチャクラム持ててるし」
「はぁ……。まぁ、ならいいけどサ。ほら、行くよっ!」
「うん! …ヒィック!」

 そんな会話をしている内にリフィルの『ナース』が発動し、場はマナの癒しに包まれる。これで戦況は整い邁進する遺跡マニア御一行様が優位に進めていくかに思われたが……。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.41 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:27:24
名前: 牙蓮


「はあぁっ! 殺劇舞荒拳!」
「くっ!? まだ、ですっ……!」

 その手刀、足刀を用いた怒涛のラッシュ攻撃がプレセアを襲う。たとえ劣勢となっても一歩も引かず、ファラの闘志はむしろメラメラと燃え上がっていた。

「クイッキィィィーーっ!!」

 そしてメルディの足元より駆け出してくる、大型のリスのような水色不思議生物。一見すると可愛らしい外見だが、しっかりとした意思を持って主であるメルディの詠唱をサポートしている。コレットは躊躇いながらも向かってくる小動物をチャクラムで追い払い、飼い主の頭上へピコハンの束を雨霰と降らせその意識をしばらくの間闇の彼方へ誘(いざな)う。
 ――しかしその拭い切れなかった一瞬の迷いが、決定的なタイムラグを生じさせる。

「よっと!」

 コレットが見せたその僅かな隙に乗じ、ハロルドは詠唱をやめクレーターばかりの大地を駆けていく。慌てて後を追ったコレットのチャクラムも軍人ならではの身のこなしで躱していき、遂にリフィルの眼前へ到達する。

「華連撃! 鏡影槍! ――更に! ネガティブゲイト!」
「ふ、不覚だわ……」

 華麗なる連続攻撃に、暗器を投げつけながらのバックステップ。そして繰り出された闇の昌術に囚われリフィルは呆気なく戦闘不能となる。

「はあぁっ! 連牙爆散じ――」
「――そこっ! 飛葉翻歩!」

 対して前線の方でも大地を叩き潰してマナを籠め、プレセアが無数の岩片をけしかけるも研ぎ澄まされた回避技によってファラはその背後へと回り込む。

「とどめっ! ――獅吼、爆砕陣!」
「きゃあぁぁぁーーっ!?」

 奥義を放つ最中がら空きになったプレセアの背中へ、ファラ渾身の闘気が叩き込まれる。獅子の姿を象った爆発的な気功、それを三度も立て続けに浴びせられた小柄な体は戦斧もろとも闘技場の壁面まで叩き飛ばされる。

「プレセア!? ちょっと、マズいよこりゃ……」

 戦況を分析するしいなの口から絶望的な呟きが漏れる。いつの間にか形勢は逆転し、三対二。未だメルディは気絶しているとはいえ、癒し手を失ったこちらがそう長く保つとは思えない。

「しいな! …ヒィック!」

 コレットも飛び寄り声を発すが、その瞳はまだ挫けていない。

「少しだけ時間をちょうだい。私ぃ…イィック!…がっ、何とかするから……!」
「コレット、あんたまさか……!?
 ――いや、今はそれしかないね。頼んだよ!」

 彼女がやろうとしている事、それは決して軽くはない代償を払うものだとしいなも分かっている。しかしながら彼女とて、忍の端くれ。決死の覚悟を見せた仲間の決意を受け入れ、冷徹に戦線の維持に努める。

「――風刃縛封!」
「はうぅ……っ!?」


「――破魔濤符!」
「うぎゃっ!?」

 意識を取り戻しクレーメルケイジを握り直すメルディを風属性の符で拘束し、念を籠め投げつけた符の爆発によってハロルドの体を吹き飛ばす。そして入れ替わりに駆け込んできたファラに立ち向かおうと身を翻すも一歩及ばず、足元を払われた上鳩尾へキツい掌底を叩き込まれてしまう。

「かはっ……!?」

 肺の空気が一気に絞り出され視界がぼやけるも、何とか足止めの役割は果たせた。これで十分、詠唱の時間は稼げただろう……。

「――そのち…イィック!…から、穢ぁ…ゥれッ!…なく澄み渡ぁ…ゥりィッ!…、流るる。
 たまぁ…アィグッ!?…しいの輪廻にぃ…イィック!…、踏み入…ッる!…ことを、赦した…まアァッ!?…、え――」

 竪琴の如き清純な調べの中、時折耳障りなしゃっくりが興を削ぐもののコレットの詠唱は阻害される事なく続いていく。辺りは一変して静謐な緊張感に包まれ、彼女を囲むようにその背に生えている物と同じ桃色の羽が舞い上がる。無機生命体へと進化したこの世界特有の戦闘種族である天使、その最終奥義とも言うべき天使術が今まさに発動される。



「――みんなを助けて! リヴァ…ハイィッ!?…っ、ヴっ…グゥレィ!…サー!!」


  パアァァァ――!


 肝心要の術名までもが、もうしゃっくりに遮られグチャグチャ。しかしながらとりあえず、一発逆転へ向けた切り札は無事発動させる事に成功する。
 コレットの足元へ桃色のカーネーションを模した魔法陣が展開し、辺り一面虹色の光が包み込んでいく。友には癒しを、仇成す者には戒めを……。その祈りは己が命を糧とし燃え盛り、戦場に立つ者達全てに制裁と安らぎを加えていった。





    …………
    ……
    …




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.42 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:31:01
名前: 牙蓮


「……んっ」

 暗闇を漂う朧気な意識の中、リフィルは一条の光を目にする。遥か彼方より舞い降りてくる光、その周囲は天使の羽根で彩られていた。

「こ、コレット……」

 言葉にならない声で必死に、教え子の名を唱える。この光景は今回の旅を通して幾度か目にしており、今更確認するまでもない。清流が奔流となり押し寄せてくるライフボトルの蘇生法や、ユニコーンの力をマナに変えて注入する治癒術『レイズデット』の術体系とも全く違う天使術。彼女の命そのものを分け与える恵みの光を迷う事なく受け入れ、リフィルの意識は急速に闇の中から浮き上がっていく。

    …
    ……
    …………


  『ワアァァァーーっ!!』

 踏みしめる大地は褐色、周りを取り囲むのは大勢の歓声。その圧にやや気圧されながらも再び立ち上がり、リフィルは闘技場という名の舞台の上に舞い戻ってきた。
 まだ体力の回復は十分とは言えないものの、これまでの戦歴から当面は大丈夫だと判断できる。そんな自信に裏打ちされ、勇み戦線復帰へと向けて駆け出そうとするも――。


  「――ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」


 踏み出した足はパックリ開き、体は意に反して前傾姿勢へ……。そして腕は独りでに動き出し、体の前面を掻くように何度も上下運動を繰り返し始めたのだった。

「なっ……!? 何なの、これっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 口を開こうにも気を抜いてしまえばたちまち「ハイグレ」という意味不明な掛け声に取って代わられる。腕の動きも幾らやめようと思った所で全く止められず、それどころか次第にキレを増していくばかり。
 体の自由が効かない、そんな初めての経験にさしものリフィルも大いに焦る。そしてそればかりか空を切る二の腕や肘の辺りが、心なしか冷たいような……。


『おぉーーっと! これはどういう事だぁ〜〜っ!?
 眩い光に包まれ目が眩んだかと思いきやぁっ! 闘技大会が水着のファッションショーに様変わりだぁーーっ!!!』


 そう、司会兼実況者が言うように……。リフィルは今、水着姿に様変わりしていた。それも迷子探しのお礼でもらったシックなパレオ水着などとは似ても似つかない、オレンジ色の大胆ハイレグ水着に、である。
 見下ろせばプルンプルンと震える双丘に、テカテカ輝くナイロン生地。このフィット感ではボディラインを隠す事はおろか、ともすれば乳首さえ透けてしまっているかもしれない。

  『ワアァァァーーっ!!』

 そして聞こえてくる、この歓声。それらと自らの感覚とを併せて考えれば、この体位からでは直接見られない股の食い込みも相当なものなのだろう。

「ハイグレっ! ハイグレっ!
 ――ちょ、ちょっと、しいな! これは一体…ハイグレっ!…、どういう事、なのっ! ――ハイグレっ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ!
 ――し、知らないよ! あたしだってさっきまで…ハイグレっ!…、気絶、してたんだからっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 動揺から来るイライラを多少ぶつける形になりながらも、眼前に立つ仲間へ事の次第を確認していく。ほんの2m程離れた位置で、同じ方向へ視線を向けている彼女。頭の上で『まげ』と呼ばれる彼女らの文化圏特有のポニーテールを揺らしながら、パックリがに股姿勢を維持して答えてくる。
 背面ともなるとまた一段と水着の面積が少なくて、露出が激しい。特にお尻の部分などえげつない薄紫色のTバックが割れ目に食い込むばかりでほぼ丸出しであり、自分もその様な格好をしているのかと思うと顔が火照ってくる。

「ハイグレっ! ――あんたがやられた後、コレットが一人でリヴァ…ハイグレっ!…、リヴァヴィウサーを唱えようとしたんだ。
 ハイグレっ! ハイグレっ! ――だからあたしはそれに合わせて敵を足止め…ハイグレっ!…、してたんだけど!
 ハイグレっ! ハイグレっ! ――あの子、その前からずっとしゃっくり…ハイグレっ!…してたからねぇ。
 ハイグレっ! ハイグレっ! ――もしかすると、それが原因かもしれな…ハイグレっ!…ってわけサ」
「な、何てこと……! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 その言葉でリフィルは全てを悟ってしまった。しゃっくりによる詠唱ミス……。これまでも殊コレットに関しては前科が多数あるだけに、もはや予想外などという驚きはない。
 元をただせば天使術とは、ハイエクスフィアが開発された四千年前に共に生み出された古代魔法。今となっては使い手が少なくなったが、当時は様々な術体系が編み出され研究も盛んだった事だろう。たとえ術自体が行使されなくなったとしても、その記憶は大地に、そしてマナの中に理として残っている。そんな埋蔵品にひょんな事から――持ち前の神懸かり的なドジを活かして――偶発的に触れてしまったのだろうという仮説が瞬時に組み上がる。

「ちょっと、リフィル! ――ハイグレっ! ハイグレっ!
 あんた、得意の治癒術で何とか…ハイグレっ!…できないのかいっ!? ――ハイグレっ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ――やってるわよ、さっきからっ!
 ハイグレっ! ――でも何故だか蓋をされたみたいに、マナの流れが…ハイグレっ!…感じられなく…ハイグレっ!…なってるの! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「じゃあ何かい? ――ハイグレっ!
 あたしらはこのまま…ハイグレっ!…、このみっともないポーズを…ハイグレっ!…、続けるしかないってのかい!? ――ハイグレっ!」
「多分、そうでしょうね。 ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 互いに憎まれ口を叩き合いながらも、内心は大いに焦っている。辺りを見渡しても突破口が見つかるどころか、深刻な状況が浮き彫りになっていくだけなのだから……。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 フィールドの中央付近に立って全方位へ痴態を見せつけているリフィル達から離れる事幾ばくか、プレセアも壁際で同じポーズを繰り返していた。ギリギリ背にしている壁面の上からでも後姿が見えるだろうかという位置に立ち尽くし、幼さの残る肢体へ黒のハイレグ水着を張り付けている。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ――は、恥ずかしい、です……。 ――ハイグレっ!」

 頬を赤らめ股を開くその姿は、教育上とてもよろしくない。たとえ彼女の実年齢が28歳だったとしても、その肉体はまごう事なき12歳の少女のもの。年不相応な色合いの水着はアンバランスな色気を醸し出しており、プニプニとした未発達の股間がビシっ、ビシっと絶え間ない腕の動きによって衆目の下へ指し示されていく。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.43 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:34:52
名前: 牙蓮


「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 そしてこの珍妙な古代魔法の魔の手は味方側に限らず、対戦相手である者達にまで……。
 リヴァヴィウサーという術は本来、自らの命と引き換えに味方の蘇生をも含めた体力とあらゆる状態異常を回復させ、同時に立ちはだかる敵へ絶大なるダメージを与えるという複合的な構造を持つ。その効果範囲だけは今も生きているようで、既に倒れ伏したウッドロウだけはそのままに激戦を繰り広げていた彼女達もリフィルらと同じくダメージの代わりにハイレグ水着の餌食となっていた。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ――ふぁ、ファラ……」
「頑張って、メルデ…あぁんっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 お互い見せつけ合うような立ち位置でビシっ、ビシっと股間を指し示しているファラとメルディ。
 しいなと同じ薄紫色のハイレグ水着は褐色の肌をしたメルディの体によく映えており、可憐な儚さを感じさせる。平坦な体の中で僅かに膨らんだ胸、そしてその頂きでピンと尖った一対の乳首。さすがに客席からは見えないだろうけれども、布地と擦れる感覚に本人の羞恥心は否応なく高められていく。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 その向かい側でどっしり腰を落とし、格闘術で鍛えた両腕を振り抜くファラを包み込んでいるのはオレンジ色のハイレグ水着。自分と同じ色の水着という事で、どうしてもリフィル自身意識してしまう。激しいポーズで上下する胸元、切れ味鋭い食い込みはそのラインを描く腕の動きによって殊更に強調されている。細長い布地の左右へ薄っすらと緑色の房が見えたような気がして、思わず昨日手入れを怠った自分自身を振り返り激しく呪いたくなってくる。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 そして彼女達とは反対側に当たる、向かって左手の壁際付近でハロルドが……。この中ではしいなとツートップと言えるグラマラスな肉体を惜しみなく晒し、ドきつい水色のハイレグ水着姿でもじゃもじゃのくせ毛はみ毛を指し示していた。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ――ちょっと、何なのよ、これっ!
 ハイグレっ! ハイグレっ! ――神経伝達機能の障害? それとも昌術的エネルギ…ハイグレっ!…っ作用による、催眠洗脳?
 ハイグレっ! ハイグレっ! ――いずれにしても、面白いじゃない!
 ハイグレっ! ――解剖は後にするとして、まずは私自身で…ハイグレっ!…サンプル取って、データ採取開始よ! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 裸足で砂地を踏みしめ、体の隅々まで衆目に晒されようとも彼女には関係ないらしい。戦闘前の口上で「天才科学者」だと名乗っていただけあって、その並々ならぬ好奇心は常人の及ぶものではないらしい。(と、リフィルは思っていたのだが、その傍らで「あんたの遺跡モードだって同じだよっ!」と内心ツッコミを入れるしいなであった。)

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ――」

 総勢六人の水着美女、倒れ伏した空気王、そして視界に捉えられないものの恐らく背後で独り天に召されている再生の神子コレット。彼女がウッドロウと同じく普段の法衣姿のまま倒れているのか、それとも極細Tバックで生尻を晒しているのか確認しようがない。しかしながら身動きが取れなくなった六人に戦闘不能者二人といった有様では、戦局は完全に膠着してしまった。


『こ、これはどうした事かぁ〜〜っ!? 我々にとっては目の保よ――ゲフン、ゲフン。いや、中々見れない展開とあって胸を熱くさせられるがぁーーっ!!
 試合上の展開としては全くの予想外! 取り急ぎ運営本部にて協議を行い、本試合の裁定を取り決めたいと思います!』


  ――ブチンっ!

 それだけ言い残すとマイクのスイッチを切った動作音が会場に響き、司会者は実況席を後にする。
 残された観客達は眼下の光景を見つめるしかなく、喧々囂々(けんけんごうごう)といった有様。試合の行方を気にする者、勝敗に賭けた財産の行方にハラハラ落ち着かない者、女の柔肌に鼻の下を伸ばす者……。そして何より、彼女らの顔見知りである旅の仲間達が最も動揺していた。

「プ、プレっ……。プレセアの、みず――ブフォっ!?」
「お、おい! 大丈夫か、ジーニアス!? まずはこのハンカチで鼻血を拭いて……」

 余りの刺激の強さにジーニアスは鼻血を吹いて倒れてしまう。そんな親友を介抱するロイドの真っ赤な衣服は、より真っ赤に染まっていた。

「うひょー、選り取り見取りだぜぇ! リフィル先生セクスィ〜、しいなとハロルドちゃんのボインボインは堪んねぇなぁ! ファラちゃんの美脚も美しぃ〜し、プレセアちゃんやメルディちゃんの将来性を見越して発育を想像するってのも、中々夢が膨ら――」
「……神子よ。程々にしておかぬと後が祟るぞ」
「だぁ〜、もぅ! 固い事言うなよ、リーガルの旦那。
 どうせ見てるだけなんだから別にいいじゃねぇか。あんたもプレセアちゃんのセクシーポーズに思うとこ、あるんじゃねぇの?」
「い、いや。私は……」

 思わぬ切り返しにタジタジとなり言い淀むリーガル。そんな年長者の様子におどけて肘鉄を喰らわせるゼロスだったが、時折観客席を見渡す蒼瞳は浮ついた様子など微塵も感じさせない鋭さを保っていた。

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!
 ――な、なぁ! もうこのまま棄権って事じゃあダメ…ハイグレっ!…ないのかい!? ――ハイグレっ!」
「そ、そうね! ――ハイグレっ!
 私ももう、そんな気がして…ハイグレっ!…るのだけどっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ!
 でもここからじゃあいくら叫…ハイグレっ!…んでも、声が届きそうにないし。 ――ハイグレっ!
 意思の示し様がないといった所…ハイグレっ!…かしらっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 そんな種々雑多な思いが交錯する客席とは裏腹に、美女達は淡々とポーズを繰り返す。センターに陣取っている分リフィルとしいなには客席全体の様子が見て取れ、加えてハーフエルフや少数民族の里出身といった生い立ちから自分達へ注がれる奇異な物を見る視線が機敏に感じ取れてしまう。衆人環視の下水着姿を晒すはしたなさ、そして自ら恥部を指し示す行為によって掻き立てられた劣情……。
 そしてより一段と心へ負担を重ねてくるのが、早くも噂になっているのか出入り口を登ってくる客の姿が多数見受けられ、最上段へ立ち見客の列がちらほらと散見されるようになっていた事だった。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.44 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:37:22
名前: 牙蓮


  ――ボォンっ!


『え〜っ、お待たせ致しました。つい先程、裁定が下りました』


 僅かなハウリング音と共にマイクの電源が入り、司会者の声が全員の注目を集める。


『結論から申しますと……、試合続行! 
 レフェリーによると本事案は暴発とはいえ、コレット選手の魔術による効果範囲内だとみなす事ができるそうです。ウッドロウ選手とコレット選手が既に戦闘不能であるのは明らかとして、他六人に関しては一種のステータス付与が行われた。敵味方問わず巻き込んでいるものの、直接ダメージを与えず行動を一部阻害している。これは戦闘不能とまでは言えないステータス異常、一種の状態異常として判定する事ができます。
 本大会において状態異常は進行の妨げにならない! むしろ勝ち抜き戦の醍醐味として、そのステータスが次の試合にまで継続されるくらいですからっ!!
 よって本部としては特段の介入は行わず、このまま推移を見守りたいと思います!』


  『ワアァァァーーっ!!』


『果たしてどちらの陣営が先に立て直すのかっ!? 制限時間なしの大エキシビションマッチ、第二幕の開幕だあぁぁーーっ!!』


「う、嘘でしょ!? ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「なんてこったい。 ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「まだ、続くんですか……? ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「バイバっ!? ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「えーっ、うそぉー!? ――ハイグレっ! ハイグレっ!」
「グフフ、データ採取ぞっこ〜う♪ ――ハイグレっ! ハイグレっ!」

 沸き立つ観客席、反対に絶望感に包まれる戦乙女達(一部例外アリ)。合法的に水着美女が凝視できる。卑猥な欲望渦巻くコロシアムは熱狂の坩堝と化していた。

「こうなったら、もうっ……! ――ハイグレっ! ハイグレっ!
 術者の解除を待つだけ、ねっ! ――ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
「コレットぉ〜〜! ――ハイグレっ! ハイグレっ!
 早く起きとくれ〜〜! ――ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」

 切実な叫びが立ち昇る中、乙女達は胸を震わし最も恥ずかしい部分へ水着を食い込ませていく。散見されるばかりだった立ち見客はもはやぐるりと外周を囲み、尚も続々と階段状の出入り口から湧き出てくる。
 股間へ刺さる視線。それを一振り毎に感じながら、リフィル達六人の食い込み博覧会は続いていった……。





   …………
   ……
   …




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.45 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:39:47
名前: 牙蓮


  ――二年後。

 メルトキオの街は再び天変地異に見舞われていた。



 再生の神子による世界再生の成就、二つの世界シルヴァラントとテセアラの統合。世界の中心には新たな世界樹も誕生し、ここから新時代の幕が開けていくかに思われた。

 だが……。

 灼熱の砂漠に舞う白い雪、枯れ果てた死の湖。溶け始める氷河、焼け落ちる森林といった様々な異変が世界へ暗雲をもたらし、ここメルトキオでは頻発する地震によって建物が損傷を受け、住む場所を追われた人々が街に溢れるという社会問題にまで発展しつつあった。



「――ここがメルトキオ!? 大きな街だね……!」

 しかし、いつの世にも救いを求め奔走する者達がいる。ルインの少年エミル・キャスタニエに、パルマコスタの生き残りマルタ・ルアルディ。この天変地異の原因がかつて大樹カーラーンを守護していた精霊ラタトスクが眠りに就いているためだと知った二人は、各地を巡りラタトスクの力を取り戻すためその眷属であるセンチュリオンを目覚めさせるべく動いていた。

「何だい。メルトキオは初めてなのかい?」

 そして世界を救いたいと行動を起こせば必然的に、かつての再生の勇者達とも道を交える事に……。旅の功績から隠れ里ミズホの統領となったしいな、恩赦を受け大企業レザレノ・カンパニーの会長職に復帰したリーガルが今は彼らの同行役を買って出ていた。

「うん。こんなに大きな街だったら、迷子になっちゃいそう」
「心配いらないよ。この街はあたしもリーガルも詳しいからねぇ。
 さ、まずは一通り街を見て回ろう」

 やや圧倒され気味のマルタに相槌を打ち、しいなは率先して街を取り囲む城壁の大門をくぐり抜けていった。途中「社の業務連絡を確認してくる」とレザレノ・カンパニー、メルトキオ支社の社屋へ向かったリーガルと別れ、三人は市街地を練り歩く。

「うわぁ。通りを眺めているだけでも、見た事ないものが一杯あるよ」
「くっそー。これじゃ、テセアラ人が私達シルヴァラント人をバカにする訳だよね」

 完全に『お上りさん』状態である、エミルとマルタ。しかし衰退世界と繁栄世界、その間に生じた差別格差を示すその言葉に、しいなは――。

「あぁ……。そう言われちまうと、返す言葉もないねぇ」
「あっ、ごめんごめん。別にしいなを責めたわけじゃなくて――」
「いいサ、ちゃんと分かってるよ。
 それじゃ、センチュリオンの卵だっていう、センチュリオンコアって奴を探すんだろう? そのついでって言っちゃ何だけど、どこか行ってみたい所はあるかい?」
「それでしたら――」

 そうしいなが問い掛けると、虚空より純然たる闇が滲み出てくる。闇は次第にその輪郭をはっきりさせ、燕尾服を纏った黒豹のような姿に……。エミルとマルタへこの世界の真実を告げ助力を求めたセンチュリオンが一人、闇の属性を司るセンチュリオン・テネブラエはここぞとばかりにこう提案する。

「それでしたら、闘技場なんていかがですか?」
「闘技場?」
「闘技場?」
「と、闘技場っ……!?」

 仲良く首を傾げるエミルとマルタに対し、しいなはあからさまに顔を引きつらせる。

「先程、道行く者達がその名を口にしているのを耳にしました。その様な名前の施設、これまで訪れた街の中にはどこにもありませんでした。ここメルトキオへコアが持ち込まれているのだとしたら、特有の施設を当たってみても悪くないのでは?」
「でも、闘技場って……。ただ暑苦しい奴らが暴れ回ってるだけの場所じゃないか。そこに何だってセンチュリオンコアが持ち込まれるのサ」
「コアによっては持ち主へ悪影響を及ぼします。場合によっては好戦的になる事も……」
「じゃあ、コアを持ってる人が戦いの気配に吸い寄せられてるかもしれないって事?」

 もっともらしいテネブラエの推測に、マルタも同調するような意見を発す。

「ねぇ。ちょっとでいいから、覗くだけ覗いてみようよ」
「う、うん。ちょっと怖い気もするけど、コアがあったら大変だもんね」
「うっ……」

 マルタだけでなく、弱気な性格からこの中では最も闘技場と縁遠そうなエミルまでもがそう提案し始める。もはや四面楚歌とでも言うべきこの状況にしいなは我を張っても仕方ないと諦め、盛大な溜息と共に両手を上げた。

「はぁ……。全く気乗りしないけど、仕方ないねぇ。
 じゃあ、ちょっとだけだよ? 長居はごめんだからね」

 何故ここまで頑なに闘技場を嫌がっているのか、二年前の旅路を知らない三人は首を傾げるばかりだが案内するしいなの後へ無言で従う。ブリッジ状の通路を渡って、街の西区画へ……。正面にそびえ立つ曲面状の建物こそが、件の闘技場であった。

「いいかい。何があっても、驚くんじゃないよ?」
「……?」
「……?」
「……?」

 そう謎めいた宣言を残し、しいなは中へ入っていく。少年少女達も後に続き、シルヴァラントでは土足などもっての外であろう、出入口に敷かれた上質な赤絨毯の踏み心地に何とも言えない居心地の悪さを感じながらも薄暗い廊下を抜け視界が開ける。すると――。


  「――え、えぇっ!?」
  「――うそぉっ!?」
  「――これはこれは……」

* Re: テイルズ短編集(2) ( No.46 )
 
日時: 2020/04/26(日) 17:44:32
名前: 牙蓮


 三者三様に、最上級の驚きを表現する。しいなが案内した先、そこは主に試合のエントリーを取り仕切る参加希望者のための受付案内所。闘技場という言葉がもたらす陰気なイメージとは裏腹に、適度な照明が備えられ床には絨毯が敷かれているばかりか、程よく据えられた調度品が空間に華を添えている。四隅に置かれた花瓶に、洒落た形のシャンデリア。そして案内所の丁度背面に当たる壁には、縦横それぞれ数mはあろうかという長大な絵画が掛けられていた。

「この絵のモデルってひょっとして、しいなとリフィルさん? でも――」
「……何で水着姿? しかも股布エッグいくらい食い込んでるし」
「何々。『本闘技場最長記録を更新する熱戦の記憶を記して』とありますね」

 興味深げに説明書きを読むテネブラエの横で、二人はあんぐり口を開けたまま絵を見上げている。
 闘技場の大地と壁面とを表現した褐色のキャンバスの中で、二人の姿が躍動的に描かれている。瑞々しい素肌を惜しげもなく晒し、体のラインがピッチリと浮き出たハイレグ水着姿。それだけでも描き残されるには十分恥ずかしい姿なのだか、あろう事か絵の中の彼女達は荒い息遣いが聞こえてきそうな赤ら顔で自らの股間を指し示していたのだった。

「はぁ……。だから来たくなかってのに。
 テネブラエ、あんたこの事知ってて言い出したんだろう?」
「いえいえ、滅相もない! 私だってこの街を訪れたのは初めてなんですから。
 ただ道行く者達の会話が聞こえてきまして。『あの絵は一度見たら絶対忘れられねぇ。だから死んでも見に行け』ってそれはもう、熱っぽく語ってたものですから。くっふっふっふ」
「うわ、サイテー……」

 ツッコミを入れるマルタの声も、もはや何の救いにもならない。見られてしまった以上隠し立てもできず、しいな渋々自らの水着姿を解説していく。

「これは……、二年前の再生の旅で闘技場に参加した時の物サ。優勝してエキシビションマッチって奴を戦ったんだけど、それが思わぬ長期戦になっちまってねぇ……。何とか態勢を立て直して勝てたんだけど、熱戦に感動した大会本部や観客の連中が『記憶にも記録にも残したい』とか言い始めて、仕舞いにはこんな大事になっちまったって訳サ」
「それで最長記録なんだね。でも、こんな大掛かりな絵画にまでして残したい記録って……」
「――ねぇ、何分戦ってたの?」

 無邪気に聞いてくるマルタに他意はない。それは分かっていながらも、しいなは口にするのがどうしても憚られた。

「ご……、五時間」
「えぇーーっ!? 五時間もーーっ!!」
「す、凄い……! 僕なんてきっと、五分も保たずにやられちゃうよ」

 興奮する二人はきっと五時間丸々、敵と斬り結んでいる画を想像しているのだろう。しかし蓋を開けてみれば九割以上が例のハイグレ変態ポーズに占められているという、滑稽としか言い様がない珍記録。
 四時間以上も、あの痴態を大観衆の前で晒していた……! その事実を改めて突き付けられ、しいなはあの時同様股間をキュンと締め付けられる思いがして顔が真っ赤に火照っていく。

「ま、まぁそんな訳で! あたしらはエキシビションマッチも勝ち抜いて、称号と景品をもらったんだよ。
 クローナシンボルに鎌と、ゼロスの奴がいち早くこの絵の画家を押さえてくれたお陰でモデル料もバッチリ頂けたんだけど……。こんな恥ずかしい思いはごめんだよ。とっとと剥がしてくれやしないかねぇ!」
「そ、そうだね。こんなダサ――、えっと、アンティークなハイレグ水着姿がずっと張り出されてるって考えたら恥ずかしいし」
「えっ? でも最長記録だよ? こんな事滅多に達成できないし、折角だからもう少し――」
「もうっ! エミルのバカ!」

 パシン、とその肩口へ可愛らしい平手が叩き付けられる。

「全っ然、乙女心が分かってない! こんなダサ水着だよ!? どっこも可愛くないし、体スケスケなだけで恥ずかしいだけじゃんか!」
「そ、そうだね。ごめん……」
「そりゃあ、エミルが私のハイレグ姿見たいって言うなら、着てあげない事もないけど……」
「えっ……、えぇ!? ま、マルタっ!?」
「やーん。エミルぅ〜〜」

 しいなが項垂れている事もそっちのけで、公然といちゃつき始めたバカップル。若々しい二人の様子に道行く人達も思わず目を止め、そして隣に立ち尽くすしいなと絵画との間で目まぐるしく視線が行き来する。

(はぁ……。何だったってこんな、生き恥を晒さなきゃいけないんだい……)

 ひそひそと噂話する群衆にしいなは辟易する。五時間などといいう長大な記録は、そうそう破られはしないだろう。二年前に観衆に晒され、そして年を経た今絵画と見比べる事によって不特定多数の目に自分の変態ポーズと水着姿が晒されるとあっては敵わない。
 そして二十代となった今、絵画に描かれた十代当時の自分がやや恥ずかしくもある。そんな思いを三十代、四十代とこれからも末永く背負い続けねばならぬ事実に気が遠くなるしいなであった……。




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