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* テイルズ短編集

日時: 2018/09/16(日) 17:18:48 メンテ
名前: 牙蓮

自称「ハイグレ×テイルズSS作家」の牙蓮でございます。
あまりスレを乱立させるのも好ましくないので、短編はここへまとめています。
基本は一回の更新で完結させていく予定ですが、ネタが浮かんだりしたら続編に発展、果ては独立してがっつり続けることもあるかも……。


  新着

先日即興で投稿しました「『恥ずかしがり屋』ばかりのハイグレ人間がいる世界」で奮闘するシェリアの物語、続編となります。
ハイグレ人間として『軽布』を纏い生きていくしかなくなったシェリアがどのような『未来』を手に入れるのか、続きも鋭意執筆中ですのでもうしばらくお待ちください。
そして、「また即興の枠を外れたら長くなりそうだし、もう打ち切りでいいかなぁ……」と惰性に入りかけていた私の意欲を素敵なイラストで掻き立ててくださった某氏に改めて感謝申し上げます。

 ※ 本作には引き続き、男性ハイグレ人間が登場しますので苦手な方はお気をつけください。

  目録

・TOG   救星システム“ハイグレ” 〜未来への軽布編〜(New)
・TOG   救星システム“ハイグレ”
・TORays  妙技! ハイグレダンス
・TOG   もう一つのサンタロード 〜母娘で挑む“セイ”なる夜〜
・色々   ハイグレテイルズ村“脱衣双六”の刑
・TOB   幻想遊戯! ハイグレ☆ベルセリア
・TORays  結束と粒子の世界
・TOS-R  マルタちゃんがペット♡
・TOB   エレノアの淫夢
・TOZ   Normin GO
・TOA   ハイグレ発声練習
 
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* Re: テイルズ短編集 ( No.55 )
日時: 2017/12/24(日) 22:28:41 メンテ
名前: 牙蓮


  そして迎える、クリスマス当日……



 煌びやかな装飾に彩られた街中は多くの人々で溢れ返っており、とある一角では少女達の笑い声が弾んでいた。

「サラ、カナ。メリークリスマス」
「わー、ソフィだ〜! サンタ衣装、すっごい似合ってるよ!」
「本当ね! とっても素敵だわ!」

 雪山での厳しい修行の日々を乗り越え、サンタ協会から特製衣装とサンタ免許皆伝の称号を授かったソフィは相棒のトナカイ(鳴き声:つおぉぉぉぉんっ!)と共にクリスマスの使者としての使命を果たしていく。

「今日の私はソフィじゃなくて、ソフィサンタちゃんだよ。はい、二人にクリスマスプレゼント」
「わぁー、ありがとう!」

 可愛らしい少女サンタは彼女達に限らず、道行く人々へ手当たり次第にプレゼントを配っていく。そんな彼女の噂は瞬く間に街中を駆け巡っていき、一国の主までもがお忍びで訪れし聖夜は賑やかに更けていったのだった……。

 その一方で……。




 …
 ……
 …………

「いらっしゃ〜い! 今日はクリスマスセールだよ〜!」
「ほらほら、サンタコス一時間無料なんだから、ちょっと寄っていってよぉ〜」

 所変わってここは、街の中心部から少し離れた区画に広がる裏通りの歓楽街。夢や希望、果ては信仰心などとはおよそ縁遠いこの地においてもクリスマスの魔力は絶大な勢力を誇っており、店先を飾る電飾や客引きの声もこの日にあやからんばかりに同じ台詞を繰り返す。そんな人肌を求めし人々の行き交うディープな通りの一角に、彼女の姿はあった。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ――ハァ〜イ、そこの彼♪」

 辺りを物色する男の視線を目敏く感じ取り、シェリアは彼の進路に無理矢理割って入る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ――今夜は折角のグレスマスなんですもの。そんな寂しそうにしてないで私、シェリアサンタちゃんと一緒にプレゼント交換し・ま・しょ♪ グレスマス☆ミッドナイト!」

 積極的な誘いに男は思わず生唾を飲み込む。発言は多少不可解な点が多いものの、目の前に立つのは真っ赤な布地にまるでニプレスのような純白のクリスマスベルがあしらわれた扇情的なレオタード姿の少女。その彼女が頭の上へサンタ帽の代わりに星柄の真っ赤なプレゼントボックスを載せて、何度も自らの股間をがに股になって指し示しているのだから何を迷う必要があるだろうか!

「あんっ、もぅ……。せっかちさんなんだから♪」

 背後から抱きつく男をそのままに、シェリアは自らに充てがわれたストリート娼婦の一区画へ戻っていく。そして再び通りへ向けてがに股を披露すると自ら股布をずらし、キラッとピースサインを目元へ添えて合図を送る。

「ほら、たっぷり楽しみましょ♪ プレゼントはまだまだ配らないといけないんだから、みんなに見てもらわないと」

 赤みがかったシェリアの笑顔に、男の理性が焼き切られる。男は荒々しくズボンを脱ぎ捨てるとシェリアの体に食らいつき、激しく腰を打ち付けていく。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ――そう、もっとよっ、ハイグレッ! ハイグレッェ!!」

 年若い乙女が道端で男に覆いかぶさられながらも、負けじとがに股で接合部を指し示していく。その淫らな姿に道行く人々の視線は自然と引き寄せられていき、彼女を囲む半円状の舞台が瞬く間に形成される。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレェッ!!」
 (あぁ、温かい……。子爵、スリープサックの修行の意味、ようやく分かりました……)

 表通りの柔らかな灯りの下で養子ソフィが七六五個のプレゼントを人々へ配っている中、同じ街の裏通りで養母シェリアは名も知れぬ男達の熱気に中てられプレゼントを交換していく。尊敬する師匠より託された八一八個の完売を目指して、シェリアのグレスマス・イヴはまだ始まったばかりである……。





「――えっ、数が中途半端ですって? もちろん、もう一つ用意してあるわよ♪ 八一九個目のプレゼントを渡す相手、それはね……、フフフッ♪」




* Re: テイルズ短編集 ( No.56 )
日時: 2018/05/06(日) 23:02:11 メンテ
名前: 牙蓮






     妙技! ハイグレダンス




* Re: テイルズ短編集 ( No.57 )
日時: 2018/05/06(日) 23:04:33 メンテ
名前: 牙蓮


「ぶっ、ぶわーっくしょいっ!!」

 まるで鉛を溶かして流し込んだかのようなどんよりと広がる曇り空へ、大きなくしゃみが木霊する。ここ、鏡士と結晶の世界ティル・ナ・ノーグでは既に心躍るホワイトデーの期間も過ぎ去り、季節はまさに春爛漫。それにも関わらず、眼前で咲き誇っている桜の樹の上にはまだ降り積もって間もない白銀の結晶が燦然と輝いていた。

「うぅ、こうも寒いと熱燗で一杯やりたくなってくるな……。だが、彼らが帰ってくるまで、もう少し辛抱しているか」

 陽気なレジャーシートの上で独り毛布片手に計器を弄り、彼、クラース・F・レスターはぽつりと独りごちる。今に始まった事ではないとはいえ、戦う力がないというのはどうにももどかしくて仕方がない。この異世界に具現化されたと同時に元の世界で紡いだ精霊達との絆が破談となってしまった今、彼にできる事はそう多くはない。日々精霊達の変化を目敏く観測し続け、今回のようにエネルギーの高まりを感知したらすぐさま仲間達に護衛されこうしてフィールドワークに出掛ける毎日であった。

「――おっ、帰ってきたな。おーーいっ!」

 前方で揺れる人影に気付き、クラースは立ち上がって大きく手を振るう。今回の調査は久方ぶりの成果を挙げ、見事目覚めた氷の精霊セルシウスと巡り会ってこの世界での契約を交わす事ができた。そして晴れて仲間となったセルシウス自身の手も借りながら彼女の目覚めで引き起こされた周囲の環境変化を鎮めるべく、バランスの崩れたこの地域の精霊エネルギー――、アニマの調整に奔走していたのだった。


  「――いっ、クラース様〜っ!」


 そんなエレメント回収という名の魔物退治に出掛けていた一行から先走って、眼帯の少年が独り駆け寄ってくる。彼の名は、コーキス。クラース達異世界の英雄達を召喚した鏡士の少年イクス・ネーヴェの分身である鏡精として、どんな役割でも率先して買って出る好青年である。

「どうした、アニマの影響を受けた魔物の討伐は終わったのか?」
「いや、それがまだなんですけど……。それより、セルシウス様の様子がおかしいんです!」
「何だって!?」

 その言葉にクラースは包まっていた毛布を振り払い、全速力で駆け出した。精霊の不調、それは元の世界でも何度か経験のある事象だ。そして不調に陥った精霊がどんなに厄介な存在であるかも身を以て知っているため、嫌な想像が頭の中を駆け巡る。

「ハァ、ハァ……。ミリーナ! アーチェ! 一体、何があったんだ?」

 ゆっくりと支え合いながら歩く女性陣に近寄るなり、クラースは息も整えず問い詰める。青白い肌に少女のような外見をした氷の精霊セルシウスは今、黒衣の鏡士ことミリーナ・ヴァイスとクラースの護衛としてついて来たハーフエルフの魔法使い、アーチェ・クラインの両肩に腕を回し、何とか立っている有様であった。
 ちなみに、共にこの場を訪れていたリッド・ハーシェル達対面世界から具現化された四人組は、手慣れた連携とこの地のアニマとの好相性を活かして彼女達とは別行動で奥地の魔物を率先して討伐している。

「それがさぁ、あたしにも何が何だか……」
「――もう大丈夫よ、助かったわ。ここからは、私自身が説明する」

 困惑顔で首を傾げるアーチェに代わり、セルシウスは自らの足でそっと歩み出る。例え弱っていたとしても、精霊は精霊。その刺すような瞳に見据えられ、クラースは思わず猫背気味の背筋をピンと正した。


  「クラース……。あなた、私との契約で不正を働いていないかしら?」

* Re: テイルズ短編集 ( No.58 )
日時: 2018/05/06(日) 23:06:53 メンテ
名前: 牙蓮


「…………は?」

 一体、何を言っているんだ……? それは告げられた当人に限らず、この場にいた四人全員の心に浮かんだ率直な感想であった。

「どうにもあなたと契約してから、マナの流れがおかしいのよ。さっきから術技でマナを消費する度、私の中へマナとは違う邪な力が絶えず流れ込んでくるの。そう、例えるならまるで……、魔界の門から流れ出る瘴気に侵されているような感じかしら?」
「瘴気だって!? だが、この世界にそんなものは……」

 同意を求めるようにミリーナへ目配せしたクラースに対し、彼女も確信を持った瞳で頷き返す。

「えぇ。元々存在していないし、具現化もされていないはずよ。第一、たとえ具現化されてしまったとしても、エンコード、――この世界の理に合わせて自動的に害のない形へ再構成されているはずなんだけど……」
「だから、あくまで瘴気は一つの例えなのよ。こんな感覚私も初めての事で、これ以上上手く言葉にできそうもないわ」
「…………」
「――それで、他に思い当たる点はないかしら? 例えば、あなたの世界では私と契約を交わしていなかったように、逆にキール達とは異なった精霊と契約していたとか」
「うーん、そう言われてもなぁ……」
「じゃあ、契約の指輪の所在は? あれはどうやって手に入れていたの?」
「それは行く先々で譲ってもらったり、ダンジョンの中で拾ったり……」


  「――――ああぁぁぁっ!!」


 真剣な表情でクラースが思案する最中、突如、アーチェが素っ頓狂な悲鳴を上げ飛び上がった。

「な、何事だ、アーチェ! びっくりするじゃないか、まったく……」
「そんな事よりもさ、クラース! あんた、あの時サファイアの指輪使ってグレムリンレアーと契約してなかったっけ?」
「グレムリンレアー? ――ああぁっ!!」

 彼女の言葉に釣られ、クラース自身も奇声を発し埋もれた記憶を呼び覚ます。

「そうだ! この余っていた指輪を使って、グレムリンレアーと契約したんだった」

 荷物の底から引っ張り出された指輪を掌に乗せ、先程ミリーナの魔鏡術で生成した物と見比べる。蒼海の輝きを放つ大粒のサファイアが埋め込まれたそれらは、傍目には区別がつかない程同じ姿形をしていた。

「折角だからって契約したはいいけど、滅多に呼んでなかったからあたしもクラースもすっかり忘れてたね……」
「そうだな。それに、まさか奴との契約事実まで具現化に反映されているとは思いもしなかったぞ」
「……それで、その『グレムリンレアー』というのは一体、何なのかしら?」

 嘆息するアセリア人二人に、セルシウスは静謐を伴って問う。

「……魔界に住まう獣だ。我々が立ち向かっていた相手は闇の住民達とも関係を持っていてな。その影響で我々も彼らと関わる機会が度々あったというわけだ」

 絞り出すように真実を彼女へ告げると、クラースは三角帽を手に取り深々と頭を下げた。

「すまん! 気付かなかったとはいえ、あなたに無用な負担を強いてしまった。私の行いが重大な違反に当たると言うのなら、契約解除も致し方なく――」
「いえ、その必要はないわ。あなた達に協力するのはあくまでも私自身の意志、時が来れば召喚の求めにも約束通り応じてあげるわ」

 真摯に謝る召喚士へ向けられた僅かな微笑み、その雪の中に咲いた椿のような温かさに場の空気もゆっくりと解れていく。

「あなたの話が本当なのだとしたら、具現化の際にエンコードされたと思われる魔族との契約を破棄してしまえばいいだけの事よ。そして、後は二つになってしまった契約の指輪を鏡士に協力してもらって――」
「――レイヤード処理してしまえばいいのね!」

 セルシウスの発案を、ミリーナが先回りして締めくくる。レイヤード処理、それは異世界の具現化によって生じたバグを取り除く、謂わばメンテナンスやアフターケアに等しい技術であった。

「その通りよ。本来、精霊との契約は唯一無二のものでなくてはならない。だから、私のアニマに合わせて作ったこの指輪と、クラースの世界から具現化された指輪を一つに『融合』させて頂戴」
「分かったわ。でも……」

 と、そこまでハキハキとしていたミリーナの表情が一転してどんより曇っていく。

「レイヤード処理なんて精密さが求められる具現化を、カレイドスコープのような魔鏡具なしで私にできるかしら? 特に『融合』の魔鏡術は、私の家系と相性が悪い術だし……」
「そう……。なら、これを使いましょう」

 そんなミリーナに対し、セルシウスは淡々と懐から古びた鏡を取り出した。

「この魔鏡は?」
「詳しい事は言えないけれど、大昔に具現化されたとある異星人に由来する魔鏡よ。彼の得意としていた全ての理を順応させる圧倒的な魔力を呼び覚ます事ができれば、契約の指輪も難なく『融合』させられると思うわ」

 セルシウスの講釈を聞き終え、ミリーナは慎重にその構造を調べていく。縁を叩いてみたり、魔力を流し込んでみたり、自らの魔鏡で照らしてみたり……。その様子を仲間達は静かに見守ったものの、彼女の表情は一向に晴れなかった。

「……ダメだわ。私じゃこの魔鏡の力を引き出せそうにない」
「そういえば、言い忘れていたけど……。この魔鏡の使い方はちょっと特殊で、古の巫女達が行っていた『儀式』に則って用いないと効力を発揮しないの。私が彼女達の作法を教えるから、一緒に儀式を行ってくれないかしら?」
「私で役に立てるなら、喜んで……!」

 強い決意を秘めた瞳で見つめるミリーナに、セルシウスも満足気に頷く。

「そして、アーチェ。あなたにもお願いしたいのだけど?」
「あ、あたしも!?」

 そんな二人のやり取りを、どこか他人事として傍観していたアーチェは間抜けな声を上げてしまう。

「えぇ、本来はもっと大人数で行っていた儀式だから、少しでも人手は欲しい所だし。それに、今回の魔鏡術は私とあなたの世界のアニマを融合させるための術。鏡士であるミリーナを主体に、指輪と同質のアニマを宿す私達が参加する事でより術の作用が安定すると思うの。どうかし、らっ……、あなたの力、貸してもらえない?」

 幾分か持ち直しているようには見えるものの、不意に言葉を途切らせて顔を歪めるセルシウス。そんな彼女の様子に無関心でいられる程、アーチェは冷淡でいられなかった。

「あぁー、もぅ! 分かったわよぉ。騙されて連れて来られたって言っても、乗り掛かった舟じゃん。儀式でも何でも、やってやろうじゃないのっ!」
「ありがとう、契約したのがあなた達で本当によかったわ……。――それじゃあ、色々と準備があるから、あなた達二人にも協力してもらうわよ」
「あ、あぁ……」
「分かりました!」

 クラースとコーキス、男性陣もセルシウスの求めるまま快く頷く。未だ寒風が吹き抜ける厳冬の様相を呈した山頂の広場に、セルシウスの呟きが朗々と響き渡った。


  「――さぁ、始めましょう。異次元の覇王に捧げる舞、ハイグレダンスを……!」




* Re: テイルズ短編集 ( No.59 )
日時: 2018/05/06(日) 23:10:49 メンテ
名前: 牙蓮


  「――はあぁぁっ! 光よ集え! ――洸牙衝!」

 闘気を帯びた拳が凍てつく大地を捉えると同時に溢れんばかりの光が弾け、氷雪が桜吹雪のような気安さで舞い散っていく。ミリーナ達女性陣が『着替え』と『練習』のためと称して席を外してから早数十分、コーキスとクラースによる会場設営は大詰めを迎えていた。

「なぁ、クラース様。セルシウス様が俺達の荷物を見るなり『これは使えそうね』ってジェイド様に騙されて持ってきちゃったパーティグッズを持って行ったんだけれども、あんなの何に使うつもりなんだ?」
「分からん。そもそも精霊が自ら事を起こそうだなんて、普通は有り得ない事なんだ。それはきっとどの世界でも同じ法則なんだろうから、我々の常識で推し量れる物ではないと思うぞ」
「はぁ、そんなもんなのかなぁ……?」

 そういう物だよ、と相槌を打つクラースはフーッと息を吐き、腰を伸ばしつつ立ち上がった。セルシウスの指示に則って、コーキスが除雪した地面の上に描いた儀式用の魔方陣。その独特の様式に書き間違いはないか、グルグルと辺りを巡りながら慎重に確認していると、鈴の音のような澄んだ響きが風に乗って届けられる。


  「――待たせたわね」


「セッ、セルシウス様!? どうしたんですか、その格好……」

 声に釣られ登山道へ目を向けたコーキスは彼女の姿を見るなり、赤面して声を荒げてしまう。出立する前の彼女はコルセットと見紛う太目の腰帯を巻いて、ロングスカートの如き優美なパレオで淑やかに着飾っていたはず。しかしそれらが今や尽く脱ぎ払われてしまっており、大人の姿になってから日の浅いコーキスにとっては幾分刺激の強過ぎる、扇情的なハイレグレオタード姿へ変わっていたのだった。

「何って、これが今回の儀式に臨む者達の正装なのよ。だから、あの二人だって――」
「ぶっ……!」

 続けて広場を目指し登ってきた姿に、クラースも思わず吹き出す。セルシウスと共に『着替え』のため手近な木立の中へ消えていったミリーナとアーチェ。そんな彼女達もセルシウスとお揃いの青白いハイレグレオタード一枚のみというあられもない姿へ着替え、曇天の広がる雪道を闊歩していたのだった。

「ミリーナ様まで、何て格好を……!? まだ雪だって溶けてないんですから、風邪ひきますよ!」
「だっ、大丈夫よ、コーキス」

 慌てて毛布を手に駆け出そうとするコーキスを、ミリーナは静かに押し留める。

「確かにまだ天気は悪いし、セルシウスさんの力で編んだこの氷糸の生地も冷たいけれど……。でも、儀式の間だけだから、私は大丈夫よ……」

 心配してくれてありがとう、と微笑むミリーナに、コーキスは何も言えなかった。よく見れば彼女の言葉通り、血色のいい唇は冷えてやや紫色に変わりつつあるし、足下の黒衣の鏡士と呼ばれる所以である黒いロングブーツが余りにも白のレオタードとアンバランスで痛々しい。そんな状況においても決して自分を曲げようとはしない、彼女の頑固さと覚悟に割って入る隙間など微塵もなかった。

「話はまとまったかしら? ――では、これより『ハイグレダンス』の儀式を執り行うわ。まずはクラース、二つの指輪を陣の中心へ……」
「あぁ、分かった」

 進行役を務めるセルシウスの声色に導かれ、クラースは自らが描き上げた魔方陣の中へと歩み出る。まるでヴァージンロードの如く陣を真っ二つに分断する縦線に、周囲を彩るように配置された三日月型の紋様はさながら悪趣味な仮面を思わせる。そんな陣の中心部に据えられた石の台座へ契約の指輪が二つ並べて安置されると、替わって三人のレオタード美女達がそれぞれの持ち場へ向けて足を踏み入れていった。

「私がここに立つから、ミリーナはそっちの星に乗って……。アーチェは、そう。そこよ……」

 セルシウスの指示に従い、三人は三角形を模(かたど)るようにして等間隔で向かい合う。先程の仮面の例に則っれば、鼻の如く突き出た台座を中央に挟んでセルシウスがおでこに相当する位置へ、そしてミリーナとアーチェがそれぞれ右頬、左頬に当たる位置へ陣取っていたのだった。

「よし、これで準備は整ったわ……! それじゃあいよいよ始めるけど、あなた達は儀式の邪魔が入らないよう、そこで見張っていて頂戴」
「わ、分かりました!」

 精霊に指示されるがまま、男二人はレジャーシートの所まで下がり趨勢を見守ってゆく。彼らの眼前にはレオタード姿で向かい合うミリーナとアーチェが、そしてほとんど剥き出しに近いセルシウスの青白いお尻が間近に広がっており何とも目のやり場に困る。
 そして――、

「二人共、覚悟はいいわね?」
「えぇ!」
「お、おっけぇ……」

 多少頼りない声も混ざりながらも、少女達はピリッとした表情で互いに頷き合う。一転して決戦の前のような緊張感に包まれる、山頂の広場。そしてミリーナとアーチェがいよいよ行動を起こしたかと思えば、あのパーティグッズの中にあったタンバリンとクラッカーを取り出して各々装着していく――。


  「――ハイグレダンス、スタート!」


 セルシウスが下したその宣言を皮切りに、古の儀式が遂に開始される――!




* Re: テイルズ短編集 ( No.60 )
日時: 2018/05/06(日) 23:13:30 メンテ
名前: 牙蓮


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ


 淀みない灰色の空に、少女達の掛け声が木霊する。
 まず初めに躍り出たミリーナは、軽快な発声と共にブーツで黒光りする右脚を勢いよく振り上げ圧巻のハイキックを決めてみせた。天を突き刺さんばかりに繰り返されるその動きはとても付け焼き刃とは思えない滑らかさを誇っており、最高点に達する度手元で打ち鳴らされるタンバリンの調べが華やかさを一層演出していく。
 そんなチアリーディングにも似たミリーナの開脚ダンスが連続して披露されると、今度はアーチェが前屈みとなって腰をくねらせる。傾けられた平坦な胸元の先端、――詰まる所乳首にはギュッと細糸が結わえ付けられており、その先には胡桃大のクラッカーがぶら下がる。かつて『うっふん娘』の称号を手にした実績のある彼女、その名に恥じない挑発的なしなを作って左右の飾りを揺らすと、ぶつかった一対のクラッカーが小気味のいい音を辺りへ響かせていった。

「――ぶふぉおっ!!」

 一切の妥協なく演じられる、乙女達のハイグレダンス。しかしそのあられもない姿はレジャーシートへ座す男達に多大な衝撃を与えていく。

「う、うわぁっ! みっ、見えっ……!? ミリーナ様、水着がっ……、水着が、食い込んでます!」

 ゆっくりと焼酎を楽しんでいたクラースは今度こそ文字通り噴き出してしまい、しどろもどろに喚き散らすコーキスは靴を履き損ねレジャーシートの上をのたうち回る始末。そんな彼らの惨状にさしものミリーナ達も儀式を中断せざるを得なかった。

「ちょっとぉー、あんた達! こっちは真剣にやってるのに、失礼しちゃうわねぇ!」
「そうよ、コーキス! 落ち着いて……!」

 切実な訴えを孕んだミリーナの響きに、場は一時の静寂を取り戻す。

「これは、私がやらなくちゃいけない事なの。元はと言えば、私がよく確認しないで契約の指輪を創っちゃった事が原因なんだし……。だからどんなに醜くて恥知らずな姿をみんなの前へ晒そうとも、私が……! 私が償わないといけない事なの!!」
「…………!」

 あぁ、またその顔をさせてしまった……。過去の自分が犯した罪、そして自分の身代わりとなったイクスへの想いに押し潰されそうになると見せる、あの表情……。顔を真っ赤にして震えながらもレオタード姿で立ち続けるミリーナの覚悟の一端に触れた事で、コーキスはもうそれ以上何も言えなかった。

「なぁ、ミリーナ。少なくとも私にも責任はある事だし、コーキスが言うようにそんな一人で思い詰めない方がいいぞ」
「はい、ありがとうございます……。でも……!」

 年長者であるクラースの助言に一応の理解は示すものの、ミリーナは決して陣から降りようとはしない。

「はぁ。誰かさんに似て、こうと決めたらとことん頑固だなぁ……。
 ――さて、それはそれとして、だ。アーチェ、いくら揺らせるのが羨ましいからって、さすがにクラッカーをぶら下げるのはどうかと思うぞ?」
「ちょっ!? 何なのよこの、ミリーナとの扱いの差は!? そんなんだからいっつも尻に敷かれてるのよ、この『しりにしかれマン』!」
「なっ、それは関係ないだろ!?」

 続く軽妙なやり取りのお陰で、暗くなりかけた空気は幾分か元の明るさを取り戻しつつある。しかし脱線し始めた場の流れを再び呼び戻すべく、寒風の如きセルシウスの咳払いが鋭く吹き抜けた。

「それで、どうするの? やっぱり気が引けるようなら、一度契約解除も考えてみるけど……」
「いいえ、大丈夫よ! 私にやらせて」
「はぁ……。ミリーナがそう言うんなら、あたしも腹くくるしかないっしょ」

 再び真剣な表情を形作り、ミリーナ、アーチェ共に力強い返事をセルシウスへ向けて返す。

「分かったわ。――それとクラース、コーキス。これ以上中断すると儀式の失敗に繋がりかねないから、邪魔しないよう気を付けなさい」
「あぁ、分かった」
「りょ、了解しました……」

 次はないわよ、という一睨みに、男達は震え上がりながら席に着く。そして――、


  「――改めて、ハイグレダンス、スタート!」


 全体を統括するセルシウスの合図に乗せて、乙女達の舞が再び始まった……。




* Re: テイルズ短編集 ( No.61 )
日時: 2018/05/06(日) 23:18:03 メンテ
名前: 牙蓮


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ 

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 洗練された動きで先程と同じく、一定のテンポを刻むミリーナのタンバリンにアーチェのクラッカーが続く。そして再びミリーナが振り上げダンスを四拍行うと息を合わせて、三人揃って屈み込むとレオタードラインを両手で擦り上げたのだった。
 その姿勢は敢えて食い込む股元を見せつけるかの如く、凡そ女の子には似つかわしくない大股に開かれた『がに股』。しかもコーキス達にお尻を向けているセルシウスにおいては、もはや青白い肌を隠している布地を視認する方が困難である程の際どさを放っていた。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 そして再びミリーナが音頭を取って、ここまでのフレーズがもう一度繰り返される。まさに彼女達が言った『儀式』の言葉通り、その後も単調な動きが連綿と続いていく。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 …………
 ……
 …



「クラース様……。何て言うか、綺麗だな」
「あぁ、そうだな。短時間の練習だろうに、よく揃っている」

 最初は鼻血を垂らしながら見つめていたコーキスとクラースだったが、彼女達のひたむきな姿に徐々に引き込まれつつある。凛とした表情でキレのある動きを披露するセルシウスに対し、激しい運動で気色ばんた二人の肌が青白いレオタードによく映える。特に、笑顔で玉粒のような汗を散らすミリーナの姿からは、一種神々しさのような魅力さえ感じられた。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「――いい、感じねっ! 魔力の高まりが感じられるわ」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「そなの? あたしにはなんも感じらんないけど……?」
    カチッカチッ   カチッカチッ


 満足げに微笑むセルシウスの言葉に、首を傾げるアーチェ。ハーフエルフである彼女に感知できない魔力があるだなんて、普通ならば大いに訝しむべき発言である。しかし今回ばかりは、それこそが儀式の成功を如実に物語っていたのだった。


* Re: テイルズ短編集 ( No.62 )
日時: 2018/05/06(日) 23:20:10 メンテ
名前: 牙蓮


「何だ……!? 急に地面が光り始めたぞ!」
  ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!


 乙女達の奇声に混じり、クラースが驚きの声を上げる。


「何かが私の中に、流れ込んできて……。 ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ     シャンッ      シャンッ シャンッ

 「大丈夫よミリーナ、このまま舞を絶やさないで……」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「分かったわ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ   シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 会話を挟む間にも魔方陣から溢れてくる光はどんどん激しさを増していくが、皆セルシウスの言葉を信じて持ち場を離れようとはしない。ミリーナの立つ半面を蒼海の輝きが覆い、その反面では神々しい純白の光が爆ぜる。そして仮面のような三日月型の紋様がギラリと深紅に染まったかと思うと、中央へ配された台座から桃色の光柱が立ち昇った。


『――オホホホホッ。中々面白い物を見せてもらったわ♪』
  シャンッ シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「あれっ……? 何か、声が……」
    カチッカチッ カチッカチッ

「静かにっ! ようやく眠りし『王』がお目覚めたみたいねっ――」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 一息に股間を反り上げるとフーッと呼吸を整え、セルシウスは未知の存在へ気さくに語りかけた。


「久しぶりね、ハイグレ魔王。元気そうで安心したわ」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 『オホホッ、そういうアンタこそ♪』
    カチッカチッ   カチッカチッ

「早速で悪いんだけど、あなたの力貸してもらえないかしら?」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「こうして出てきたって事は、ずっと見ていたんでしょう?」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「この娘達のお股に免じて、協力してもらうわよ」
      カチッカチッ   カチッカチッ

『……………………』
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ


 ミリーナ達が絶えず舞う間、暫しの沈黙が流れる。まるで彼女達を値踏みしているかのような、緊迫の時間。その緊張感を存分に堪能するかの如く、異界の主はゆっくりとした言葉で精霊の求めに応じていった。

「ホホホッ、まぁいいでしょう。この娘達のハイグレダンスもそれなりに楽しませてもらった事だし、アタシがレイヤード処理してアゲルわ。でも、もう少しだけ……、アタシに付き合ってもらうわよぉ〜♪」
「それで構わないわ。じゃあ――」

 契約が成立した途端、セルシウスの言葉さえ待たずに天へ駆け登っていた光柱がぷっつりと途絶えてしまう。その代わりに、指輪を起点としたドーム状の光源が現れどんどんと膨れ上がっていって、そして――。

「くっ……。ミリーナ様っ!?」

 慌てて立ち上がった時には時既に遅く、ぐにゃりとその曲面が歪んだかと思うと、辺りに眩い光を放ち勢いよく破裂したのだった。

「うわあぁぁぁっ!!?」

 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集 ( No.63 )
日時: 2018/05/06(日) 23:22:09 メンテ
名前: 牙蓮


「――くっ……。一体、どうなったんだ?」

 咄嗟に顔を庇ってその場に伏せたコーキスは、恐る恐る周囲の状態を確認していく。先程の桃色光線はもうすっかり収まっており、すぐ隣ではクラースも同じように地面へ伏せている。対してミリーナ達女性陣は何事もなかったかのように儀式を続けており、あれは夢だったのではないかとさえ思えてしまう。

「大丈夫か、コーキス?」
「あ、あぁ……」

 一拍遅れてクラースも立ち上がると、魔方陣の傍まで歩んでいく。召喚の為だという刺青が施された顔に広がる困惑の色を見ると、猫だましを喰らったのは何もコーキスだけではなさそうだった。

「うーむ、魔方陣にはもう何の力も残っていない、か……」
「クラース様? 一体、何がどうなってんだ?」
「分からん。あの力はマナともこの世界の魔鏡術とも違っていたようだし、何とも不思議な経験だったなぁ」

 しかし、あれを見てみろと指差すクラースの顔は存外に明るかった。

「セルシウスの言っていた『儀式』とやらは無事成功したようだ。これでもう、彼女が苦しむ事もないだろう」

 ツカツカと陣の縦線を踏み分けていった彼は丁重に供物を拾い上げる。その手に握られた指輪はただ一つ、大粒の蒼玉を嵌めた唯一無二の契約の証、サファイアリングであった。

「よし、上手くいったようだな。セルシウス、それに……、ミリーナとアーチェにも手間をかけたな」


  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 片手を上げて労をねぎらうクラース。しかし、三方から彼に返された言葉は女の秘部を見せつける魔性の呪文だけであった。


「ど、どうしたと言うのだ。もう指輪は完成したのだぞ?」
    シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「そっ、そんな事っ、言ったって……」
      カチッカチッ   カチッカチッ

「体が、止まらないのよっ! ハイッ! ハイッ!」
  シャンッ   シャンッ   シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 先程までとは明らかに違う、悲鳴に近い少女達の狼狽えた声。しかしただ一人、精霊として想像を絶する経験を積んできたセルシウスだけは冷静に状況を分析していた。


「彼の言葉を忘れたの? きっとこれが、私達に求められた契約の『対価』なのよ」
   シャンッ   シャンッ  シャンッ   シャンッ

 「そんなぁ〜〜、う、嘘でしょ!?」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「じゃあ一体、私達はいつまでこうしてればいいのっ!?」
   シャンッ  シャンッ  シャンッ  シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「――私も、マナの流れを封じられたようだし、なるようになってみないと分からないわ」
     シャンッ   シャンッ   シャンッ   シャンッ

 「もぉ〜〜〜〜っ! 信じらんないぃ〜〜〜〜っ!!」
     カチッカチッ    カチッカチッ

「いやぁ、コーキスッ! み、見ないでぇ……。ハイッ!」
   シャンッ   シャンッ   シャンッ   シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集 ( No.64 )
日時: 2018/05/06(日) 23:25:41 メンテ
名前: 牙蓮


 こうして、異界の魔王と交わした契約に縛られし乙女達はいつ終わるとも分からない恥辱のハイグレダンスを強要される事となった。
 次第に曇天は茜色の夕焼け空へと変わっていき、アニマのバランスもすっかり整ってきた頃、リッド達エターニアパーティも山頂のピクニック会場へ戻ってきたのだった。

「――バイバ! メルディもミリーナ達と一緒に、セルシウスがダンスやってみたかったよぅ〜」

 コーキスとクラースから事の次第を聞き終え、そんな感想を抱いたのはメルディただ一人だけ。他の三人からは同情やら哀れみやら好奇心やら、様々な視線を向けられながらも股を開き続けるしかない。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」



「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


「なぁ、クラース様……」
「見るな。それがせめてもの、彼女達への情けだ」

 このまま放ってアジトへ帰る訳にもいかず、六人は交代で守護役を続ける事にした。夕焼け空は満天の星空へと変わり、レジャーシート改め野営用のテントの前では焚火の炎がパチパチと乾いた音を立てている。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 魔王の支配下に置かれた事によって、食事や睡眠で補うべきエネルギーが供給されるようになった代わりに、その他一切の干渉を跳ね除けてしまう三人の体。セルシウスはともかくとして、自らの体温で彼女が編み出した氷糸のレオタードがすっかり溶け落ちてしまったミリーナとアーチェは全裸にブーツというあられもない姿でハイグレダンスを続けていく。


「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「グレェ〜〜〜〜! グレェ〜〜〜〜!」
     カチッカチッ   カチッカチッ

「ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」
   シャンッ シャンッ シャンッ シャンッ

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


 深夜の暗闇の中、振り上げた脚の狭間で覗くのは昼間の白いタテスジではなく、ぷっくりと膨れた剥き出しのアワビ。パチパチと爆ぜる焚火の向こう側に絶えず人の気配を感じながら、彼女達のハイグレダンスは夜明けまで続いていった……。




* Re: テイルズ短編集 ( No.65 )
日時: 2018/06/11(月) 21:43:05 メンテ
名前: 牙蓮






     救星システム“ハイグレ”




* Re: テイルズ短編集 ( No.66 )
日時: 2018/06/11(月) 21:45:24 メンテ
名前: 牙蓮


  「――これからは、お前と我と、二人だけの戦いになるという事か……」

 何もない、ただ水平線だけが広がる青と紫の世界に深みのある声が響き渡る。この世界には大地や空もなければ、生きていく上で必要となる火も水も、そして風も一切存在しない。そんなお互いの自我をぶつけ合う精神構造を具現化しただけの世界において、一人の青年と一体の原始生物は向かい合っていたのだった。

「ああ、そういうことだな。俺としてはむしろ、望む所だ……!」

 自身が背負う領域と同じく、まるで青空を閉じ込めたかのような澄んだ瞳で相手を真っ直ぐに捉え、青年アスベル・ラントははっきりとした口調でそう言い切った。故郷を追われ戦火を、砂漠を、雪山を……、そして星をも巡り渡った末に辿り着いた文字通り世界の果て。そんな様々な情景が走馬灯の如く駆け巡る中、彼はこれまでの旅路で出会ってきた人々の想いを乗せて赤とも黒ともつかない独特のエネルギー波を渦巻かせる原始生物、ラムダへと手を差し出した。
 だが……、

「――だが、アスベル……。我とお前がこうして語らうには、少しばかり遅すぎたようだ……」

 ハァ……。そんな溜息が聞こえてきそうな諦念と後悔がたっぷり詰まった呟きを漏らし、ラムダはゆっくりと語り始める。

「お前は我が抱いていた望みの意味を、真に理解できてなどいない。我が世界と融合してまで成し遂げたかった理想……、それは破壊などではなく、再生だ」
「再生……? それは一体、どういう意味だ?」
「かつて我がこの星……、エフィネアへ渡って来た時よりも遥かなる刻を遡った創世の時代に、一つの救済システムが星の核(ラスタリア)へ組み込まれた。それは遠い将来起こるであろう星の危機的状況を予見したものであり、星の意志によってのみ起動される救難信号。それを知った我は、醜い争いばかりを繰り返す愚かな人間という存在を粛正するため、この星と融合し彼の者に成り代わって救済を受け入れる下準備を行っていたのだ……」
「粛清、だって……!? そんなものがエフィネアの中心部に、眠っていたのかっ! それはもちろん……、今は、止まってるんだよな?」

 並々ならぬ言葉にアスベルは居ても立っても居られず、存在し得ない地面を蹴りラムダの下へ駆け寄る。しかし、そんな彼へラムダは二度ばかり強く発光して聞きたくない答えを返す。

「無駄だ。救難信号自体は我が星の核(ラスタリア)へ辿り着いた直後に……、お前達がこの地へ辿り着くよりも遥か以前に送信し終えている。今となってはもはや、誰にも止める事はできぬ……」
「そんなっ!」

 衝撃的なその発言に、アスベルはただ目を見開き驚く事しかできない。しかしそれも束の間、実体のないラムダの体を両脇から抱え込み必死に訴えかける。

「ラムダ、諦めるなっ! きっと何か、方法はあるはずだ。今だって俺とお前はこうして、分かり合えたじゃないか! だから、きっと……!」
「愚かな……。仮に停止信号を送れたとしても、これだけの時間差を経て起動するシステムが簡単に止められると思うか?」
「くっ……」
「案ずるな……。如何なる形にせよ、もたらされるのは、救済。我はお前の中からじっくりと、新たな世界を見せて、もらう、ぞ……」
「ラムダッ!?」

  ゴゴゴゴゴッ――!

 不意に言葉尻が途絶え始めたかと思うと、禍々しい波導を湛えていたラムダの体が急速に崩壊を始める。

「な、何だ……!? まさか、このまま消えるつもりじゃないだろうなっ!?」
「どこまでも、騒がしい、奴だ……。我は少し……、眠らせてもらうぞ……」
「ラムダッ!?」

 赤黒いエネルギー体は彼の精神世界へ溶け込むように霧散し、そこにはかつて仮初の姿として用いていたヒューマノイドを思わせる光の赤子が残されていた。そして、眩い輝きを放つ小さな掌はアスベル自身がそうしたように、弱々しくではあるが差し出された手を自らの意志で握り返したのだった。

「……ああ! お前の望みに応えられるよう、俺も全力で生き残ってみせるさ……!」

 彼からの信頼と決意の証を示す手段として、アスベルも掴まれた手を力強く握り返す。こうして、アスベルとラムダが共有する虚空の精神世界は、彼方より飛来した桃色の光線によって塗り潰されていった……。



 …………
 ……
 …




* Re: テイルズ短編集 ( No.67 )
日時: 2018/06/11(月) 21:47:27 メンテ
名前: 牙蓮


  ――数か月後……


  ガチャッ――

 緑豊かな風の王国ウィンドルの片田舎に広がる国境都市、ラント。ラムダを巡る三国を巻き込んだ騒乱が落着して久方ぶりの平穏を取り戻したこの土地の一角に、一人の少女の姿があった。

「んんーっ。今日もいい天気みたいねぇ」

 玄関の扉をそっと押し開け、雲一つない青空を見上げる少女の名はシェリア・バーンズ。その吸い込まれそうな青色にある人物の姿を重ね合わせながらふぅっと深呼吸すると、意を決して家の周囲へ視線を走らせていく。

「誰もいない、わよね……?」

 目を向けた先では、旅の途中に一時帰郷した際、ソフィに貸し与えた庭の花壇で今日も世界各地の草花が多少首(こうべ)を垂れさせながらも見事に咲き誇っている。そしてその反対側では彼女が生まれるよりも前からこの家を見守る古木が葉を茂らせているためあまり見通せないものの、通りを行き交う人々の気配は感じられなかった。

「うぅ、やっぱりやめておいた方がいいかしら? でも、お買い物に行かないと後で困るのは私自身、よね……。『女は度胸』、しっかりしなさい、シェリア!」

 母親の影に隠れる幼子のように玄関扉の内側でモジモジとしていたシェリアは一念発起、己に喝を入れると外の世界へ飛び出していった。

「――あ、あはは……。あはははははっ……」

 しっかりと扉に鍵をかけ、慎重に階段を下りる事数段。庭へ通ずる踊り場で立ち止まったシェリアの口からは乾いた笑いが自然と零れ落ちていく。

「私ったら、またこんな格好で外に出ちゃった……」

 誰の視線がある訳でもないのに、シェリアの体は内股になって縮こまっていく。足下には長い旅路を共にしたお気に入り靴に、黒のニーハイ。癖のあるふんわりとした赤髪はいつものようにシンプルなリボンで結わえられていてバッチリ決まっており、どこから見ても可愛らしい普通の女の子であった。



 ただ、ひとつだけ違っていたのは……。そんな彼女の体を包み込む衣服は、薄手の生地で仕立てられたハイレグ水着一枚のみであったのだ。



 薄手とはいえ内側が透けて見える程ではないけれども、流通している水着やレオタードのような当て布や二重構造等は一切なく、他に類を見ないフィット感で体に密着してくる。色は旅の骨休めに訪れたスパで着た水着とよく似た水色なのにも関わらず、胸の形はよりくっきりと白日の下へ晒され、おへそやウエストラインはもちろんの事、大胆に切れ上がった足刳の裏側では桃尻をほぼ生まれたままの姿で曝け出している恥ずかしさといったらもう、外出を躊躇うには十分過ぎるものであった。

「お願い……、誰にも出会わないで……!」

 そんな神にも縋る思いを口の中で弾けさせると、シェリアは軒先を一気に駆け下りる。派手な靴音を立てて大通りへ踏み出したものの、そこには人目どころか戦火の後以上の静寂さが広がっていた。
 何も、この様な破廉恥な格好をしているのはシェリア自身の意志ではない。彼女に限らず『あの日』以来、世界は一瞬にして変わり果ててしまったのだった……。



 ラムダの信号によってもたらされた一筋の光線、それはエフィネアを守護する空の海を突き抜けて全世界の人類へ影響を及ぼした。光線を浴びた人類は皆なす術なく、遥か彼方に存在するハイグレ星の属衆である『ハイグレ人間』へと生まれ変わり、単一価値観による協力体制で星の危機を乗り越えるというのが救済システムの手筈であった。
 しかしラムダ自身が語ったように、エフィネアの意志に反する形でもたらされたこの救済は深刻なバグを生じさせる事となる。本来『ハイグレ人間』とは、敬愛するハイグレ魔王様を始めとしたハイグレ魔王軍、並びにハイグレ星人等々に関する知識を本能的に受け入れ、自らもハイグレを身に纏った上でハイグレ魔王様による身体改造を完了し、身も心もハイグレ魔王様へ捧げる新人類を指す。ところがラムダの意志を受け入れなかったエフィネアは、この『ハイグレ人間化』という救済を拒否。その結果救済システムは不完全な形で実行され、人類は生涯ハイレグ水着を着用し続ける事を義務付けられ、ハイグレ人間としての知識を刷り込まれただけのただの『人間』という歪な生を運命付けられたのだった……。



「――ひゃうんっ!?」

 閑散とした、という表現では控え目な惨状の大通りを進むシェリアを追い抜き、ウィンドル特有の突風が吹き抜けていく。元々ミニスカート姿だったとはいえ、現在は恥骨や肩甲骨が剥き出しになっている超薄着の半裸状態。そんな慣れない格好に突き刺さる寒風が少女の歩みをじわじわと押し留めていった。

「ダメッ……! ここで立ち止まったら、誰か来ちゃう……!」

 それは決して、恥ずかしい水着姿を見られたくないという理由からだけではない。ハイグレ人間と出会ってしまえば最後、本能に訴えかけてくる強迫観念に抗う事など誰もできないのだった。

「――あっ!?」

 刹那、シェリアは風をものともせず低く身を屈めると、即座に道端へ向け動き出す。彼女の家から続く通りを抜けた先、街の中心部を流れる川へ架けられた橋に向かって下りていく階段。その途上に見知った赤頭巾を捉えた彼女は積まれた木箱の裏へと咄嗟に身を隠したのだった。

「何で、水着なんか……」

 泣きじゃくる声と共に、階段を上る足音が迫ってくる。チラッと物陰から覗くと、物心ついた頃から一緒に育ってきた幼馴染の少女がシェリアの瞳に映る。いつもワンピース姿だった彼女が黄色いハイレグ水着姿で街を歩く様を見ていると、世界を救いに旅立ったはずの自分の無力さが重くのしかかってくる。
 しかし……、

「――ッ!!」
「えっ……」
「お、おばさん……」

 更なる悲劇が今、目の前で起ころうとしている。シェリアがまさに先程歩いて来た道の向こう側、そこに立つ中年のご近所さんと幼馴染の少女が対面してしまったのだ。

「だからっ……、おばさんじゃなくてお姉さんだって言ってるでしょ! ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 それは年増呼ばわりされたからなのか、それとも自らの痴態故なのか……。紫色のハイレグ水着を与えられたおば――、お姉さんはシェリア同様の内股から一転してガバッと股を開き、少女に向けて鋭角な足刳を三度両腕で擦り上げたのだった。

「――ッ!?」

 見せつけられた少女の方も、言葉を失いただ目を見開くばかり。それは同じ女性として、最も隠さなければならない大事な場所を敢えて誘惑するかの如く強調しているのだから当然の反応であった。にも拘らず、少女は目に更なる涙を浮かべながらもゆっくりがに股のポーズを形成していく。
 そして……。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ――ご、ごめんなさい! ごめんなさい……!」

  ダッ――

 同じく食い込む股布を指し示しながら奇声を発するや否や、彼女は全てから目を背け駆け出してしまった。残されたお姉さんもそれ以上追う事はせず、ばつの悪い表情を浮かべたまま先を急いでいった。
 ハイグレ人間が挨拶として交わすべきポーズ、ハイグレポーズ。ハイグレ人間となってしまえば極当たり前に行わなければならない空気みたいな存在であると頭では誰もが理解していながらも、人間のまま際どい水着姿の局部を強調しなければならないこのポーズを拒んでいる人は大多数を占めていた。
* Re: テイルズ短編集 ( No.68 )
日時: 2018/06/11(月) 21:51:02 メンテ
名前: 牙蓮


「二人共……。一体いつまで、こんな事続けなくちゃいけないの?」

 物陰から出てきたシェリアは、一段と打ちのめされていた。ハイグレ人間同士が出会った場合には必ず、ハイグレポーズで応対しなければならない。この本能に刻まれてしまったハイグレ人間としての第一条件が人々の交流を途絶えさせ、街を廃墟の如き静寂さへ変貌させている最大の要因なのであった。

「でも、ううん! まずは私がしっかり、お買い物しなくちゃね……!」

 気を取り直して、シェリアは雑貨屋への行程を再開する。ラント最大の雑貨屋は武器屋と並んで、最も流通の便がいい王都へ通じる街道付近に店を構えている。普段は人通りの激しい街を二分する橋を慎重に渡り終えて、遂にシェリアは人目につく事なく目的地まで辿り着いたのだった。

「えっと、じゃあいつものようにここへ伝票を入れて……」

 まだ昼前だというのに、雑貨屋は愚か武器屋の店頭に売り子の姿はなく、戸も閉じられたまま。その代わりにシェリアは取って付けた簡易ポストの中へ紙切れを投函すると、迷いなく一路元来た道を引き返していった。



  ―――――――――――――――――――――

   伝票(明日の正午、品物を取りに来ます)

   ・野菜セット 3個
   ・ミルク   3個
   ・チキン   5個
   ・ライス   6個

            シェリア・バーンズ

  ―――――――――――――――――――――



 注文を受け店主が品物を用意し、後日重ならないように準備された商品を受け取って帰る。このように互いの醜態を晒してより尊厳を傷つけないために、民達が編み出した生活の知恵であった……。





「――うん。今は誰も渡りそうにないわね」

 再び最大の難所、橋へ差し掛かったシェリアは欄干よりも低く身を屈めて家路へと急いでいく。ここまで来たらもう、誰にも会わずに帰りたい……! その一心で無理な体勢にも挫けずに、彼女は向こう岸へと渡りきった。

「えっと、右見て、左見て、もう一度右……。そして最後に街の中心部へ続く左を確認、っと。よし、これで大丈夫みたいね」

 いつも通りの確認を終えて、シェリアは立ち上がり様に橋の影から飛び出した。すると――。

「うわっ!?」
「きゃっ! ――えぇっ!?」

 不意に誰かとぶつかり、確認したはずの右側へ目を向けると最も会いたくなかった人物と視線がはたと重なってしまう。

「や、やぁ。シェリア。――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 橋の右側へ続く道の先にあるのは、ラント領を治める領主の館。そして彼女の眼前には、しなやかな筋肉の映える体へ白のハイレグ水着を張り付かせた若き領主、アスベル・ラントのハイグレポーズが広がっていた。

「ア、アスベル……!? いやあぁぁぁぁぁっ!!?」

  バチィィィィンッ!

 二度と見たくなかった想い人の女性水着姿に、股間を強調する変態ポーズ。すっかりパニックに陥り本能すらも忘れてしまったシェリアの強烈なビンタが、乾いた空に木霊していった……。





「マ……、マモレナカッタ……」

  ガクッ……





* Re: テイルズ短編集 ( No.69 )
日時: 2018/08/04(土) 16:31:30 メンテ
名前: 牙蓮






     救星システム“ハイグレ” 〜未来への軽布編〜




* Re: テイルズ短編集 ( No.70 )
日時: 2018/08/04(土) 16:33:34 メンテ
名前: 牙蓮


「ごっ、ごめんなさい、アスベル! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

  ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!
   ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!
    ――――

 静謐な執務室に少女のハイグレコールが幾度となく響き渡る。部屋に入ってまず来訪者の目を引いてやまない上質な青絨毯がこの場に相応しい厳粛な雰囲気を生み出し、居並ぶ姿はとんと見た事がないものの左右の壁際には領内の施政を支える重臣達が一堂に会せるよう背もたれの高い椅子が一列に並べられ用意されている。
 そして陽光を招き入れる最奥の大窓を背に鎮座するのは、堅牢な執務机。多数の書類が所狭しと積まれたその向こう側へ座す青年、アスベル・ラントは若くしてラント領主の地位を継いだにも関わらず、持ち前の実直さと粘り強さの甲斐あって就任後僅か数ヶ月にしてその肩書きに相応しい風格を漂わせつつあった。

「あ、あぁ……。こっちこそ悪かったな。まさかあんなにハイグレを嫌ってたお前が外を出歩いてるなんて、思わなくてさ……」

 そんな領主然とした表情から一転して相好を崩し、ポリポリと後頭部を掻く年相応の彼の頬に先程までの傷はない。不覚にも目の前でハイグレポーズを続ける少女、シェリア・バーンズのビンタを喰らい気絶してしまった後、彼女に介抱されて自らの屋敷の執務室まで一旦立ち返ったのだった。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ――そりゃあ、私だって毎日お掃除したりお洗濯したり、それに、お買い物に行ったり……。最低限やらなきゃいけない事はちゃんと、自分でしてるわよっ」

  ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!

「そう、だよな。悪い……。――ところで、シェリア。一体いつまで、ハイグレポーズ続けるつもりなんだ?」

  ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!

「しっ、しんっじられないっ! 私だって、好きでハイグレしてるわけじゃないわよっ!!」

  ――ハイグレェッ! ハイグレェッ! ハイグレェッ!

 痛い所を突かれ、シェリアは思わず声を荒げてしまう。それもそのはず、街中で他人と鉢合わせないようひたすら物陰に隠れてやり過ごしていたにも関わらず、何の因果で数十人分への挨拶をも上回るハイグレポーズを、よりにもよってアスベルの前で披露しなければならないのか……。

「でもっ! 私ってばさっき、恥ずかしいからって挨拶しなかったばかりか、アスベルの事思いっきりひっぱたいちゃったし……。だからそれで、申し訳ないというか、謝らなくちゃって思えば思う程、ハイグレがやめられないのよっ!」

  ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!

 彼女とて例外なく、この世界(エフィネア)へもたらされた救済(ハイグレ光線)によって転向したハイグレ人間のうちの一人。たとえ不完全な形で残された人間としての自我がハイグレポーズを拒もうとも、潜在的に刷り込まれた社会通念や倫理観といった常識が抗い難い本能となってシェリアの体を突き動かしていたのだった。
 それ故、謝罪を終えるためにも納得のいく手順を踏む必要があって――。

「そ、そうだったな、すまない。――えーっと、ハイグレ人間シェリア。俺はもうこの通り元気だから、気にする必要はないぞ。ハイグレポーズ、やめっ!」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハィ――。はぁ……」

 アスベルからの許しを聞き終えるや否や、キビキビと足刳のVラインを刻んでいた両腕から力が抜け、へなへなと走り終えたランナーのようにだらんと垂れ下がる。ハイグレ人間となったシェリア達において、今や互いの関係性を明確に示す『言葉』というツールが必要不可欠な物となっていた。
 このエフィネアという星には実際にその姿を拝んだ者はいないものの、彼らは等しくハイグレ星人達によって生存権を認められた卑しいハイグレ人間に過ぎない。その前では身分の違いも立場的な上下関係も取るに足らない副次的な要素にしか過ぎず、悪い事は悪いと感じるハイグレ人間的罪悪感が彼らの行動を自ずと制限する。ハイグレ人間として生を受けたその瞬間から一律の常識に支配され、統制の行き届いた世界はまさに大小様々な争い事が円満に解決できるシステムを有す理想の救済世界なのだが、ちょっとした行き違いでも畏まった段取りを踏まなければならない煩わしさにまだぎこちないコミュニケーションを行う者も各所で見受けられた。

「大丈夫か? 何ならここへ椅子を持って来て、向かい側へ腰掛けても――」
「い、いいえ、大丈夫よ。こんなに続けてハイグレしたのは初めてだったから、ちょっと疲れただけよ」
「そ、そうか……」

 気を利かせて腰を浮かせかけたアスベルを、シェリアは慌てて押し留める。立っていられない程疲れていないのは事実だったし、何より彼が席を立ったら必然的に、シェリアのハイグレポーズを凝視した直後の彼の股間がどうなっているのかまざまざと見せつけられる事になってしまう……。
 今も執務机で体を大部分を隠している傍ら、自分だけが終始水着姿を晒しているという現状に若干の不満を覚えつつもシェリアは気まずい沈黙を自ら破る。


* Re: テイルズ短編集 ( No.71 )
日時: 2018/08/04(土) 16:36:42 メンテ
名前: 牙蓮


「ところでアスベルの方は最近どう、なの?」
「あぁ、そうだな……。とりあえず、領主としての仕事には大分慣れてきたよ。ただ、この資料にもあるようにみんなシェリアと似たような状態だから、領内の生活にも影響が出始めてるんだ」
「これって……!?」

 差し出されたファイルを開けてみると、その歴然たる傾向に唖然とさせられる。街を守る壁門に詰める兵士から提出された報告書によると、王都バロニアへと続く東ラント街道を出入りした通行人は救済前の二割にまで激減し、人間とは異なる不思議生物『かめにん』が運行している亀車の運行税徴収記録に至ってはたった一つだけ、アスベルがバロニア城で開かれたウィンドル領主会議へ出向いた時の記録のみが記載されていた。

「みんながみんな、こんなに外出を控えてるなんて……! 東門だけじゃなくて、西門も北門も同じ感じみたいなんだけど、ひょっとしてソフィは、まだ……?」
「あぁ……」

 ソフィ……。その名前が出た途端、二人の表情はより一層深刻なものとなる。
 クロソフィという薄紫色の可憐な花の名を冠すこの少女は、シェリア達がまだ少年少女だった時分に出会った不思議な幼馴染み。その正体がたとえ異星からやってきたヒューマノイドだったと分かったところで、彼女達は何ら変わらず家族同然の存在としてソフィを愛でていたのだった。

「星の核(ラスタリア)からラントへ帰ってきたあの日以来、客間の一室にプランターを運び入れたままずっと閉じ籠もってるんだ」
「やっぱり……。私が『裏山の花畑へ行きたい』っていうソフィのお願いをすぐに、『そんなはしたない格好で出歩いちゃいけません!』って頭ごなしに叱っちゃったからだわ。きっと何で怒られたのか分からなくて、ショックを受けているのよね……」
「シェリア……」
「フフッ。これじゃあ、アスベルの事笑えないわ。だって、ラムダと対消滅するって言い出したあの子を怒った時と、何も変わらないもの」

 乾いた笑いが執務室の中を漂い、重たい空気が場を支配する。今にして思えばずっと記憶を失っていたソフィにとって、こういったデリケートな問題がイマイチ自分の問題として感じられないからだけでなく、元々ピッタリとしたボディースーツに近い衣装を二千年もの間身に着けていたのだから、同じような生地感のハイレグ水着姿に抵抗がなかったのかもしれない。

「でも……」

 しかし、そんな後ろ向きな思考の渦に呑まれていくシェリアを、他ならぬアスベルが掬い上げる。

「でも、シェリアが先に言ってくれなかったら、もっと大変な事になってたかもしれない。正直、ラントの人達は俺達の事を信用してくれているから今の所こうして落ち着いてられるけど、みんな俺達が失敗したからハイグレ人間になったんだって薄々感付いている。そんな中でソフィが頻繁に花畑へ出掛けててみろ? 心ない誰かの言葉で傷付けられるかもしれないし、最悪、不満が爆発するきっかけになって暴動に発展するかもしれない」
「そんなっ……!」

 ウィンドル国内ではつい先日クーデターに端を発した内乱が終結したばかりであり、シェリアの脳裏にもあの血生臭い戦場の記憶がまざまざと思い起こされる。そして何より、大切なソフィが傷付き下を向き、泣いている姿なんて想像すらしたくない。

「何か、私達にできる事はないのかしら?」
「その事なんだが……。俺は、この状況を何とかしたい! このまま何もしないでいるとみんなソフィのように家へ閉じ籠もってしまって、傷付け合うどころか人付き合いそのものがなくなってしまう。そうなればいずれ人々から生きる気力が失われていって、エフィネアは文化的にフォドラのような死の星となる運命から避けられないだろう。これじゃあ、何のために俺達はラムダを止めようと戦ってきたのか、分からないじゃないか!」

 ダンッと勢いよく天板へ拳を打ち付け、力強い双眸がシェリアを見据える。一つは彼本来の青々と澄んだ瞳が、そして黒目の外側にもう一つの円環を宿した紫色の左眼は文字通り彼が身を挺してラムダの凶行を止め、そして大切なものを守り通した何よりの証。

「そう、よね……。アスベルの言いたい事は分かるわ。でも、一体どうすれば……?」
「考えはある。この書類にまとめた作戦を決行すれば、みんなが一歩踏み出す後押しになると思うんだが、協力してくれないか?」
「…………ッ!?」

 いつの間にやらアスベルの手にはラント家の家紋が入った格調高いファイルが握られていて、渡されたシェリアはそこへ記された内容に思わず目を見開く。

「簡単な事じゃないってのは、もちろん分かってる。でも、こんな事頼めるのはシェリアしか……、俺の隣を任せられるのはシェリアしかいないんだ!」
「私、だけ……」
「あぁ! ソフィのため、そしてラントのみんなのため、俺に力を貸してくれ!」
「…………」

 全幅の信頼を寄せる情熱的な言葉に、シェリアの胸は高鳴る。あぁ、これがこんな作戦のための言葉じゃなくて、二人の将来へ向けた言葉だったらどんなによかったか……。ともあれ彼女自身も命を賭けて守ったこの世界を生きる人達のために、そして何より折角使命から解放され自由に生きられるようになったソフィが楽しく暮らせる未来を守るために、なけなしの勇気を振り絞る。

「……分かったわ。私も、ソフィがまた大好きなお花の世話をいつでもできるように、できる事は協力するわ!」
「ありがとう、シェリア! じゃあ、俺は具体的な準備を始めていくから、シェリアもそのつもりでいてくれ。決行は多分、三日後。正式に決まったらまた、家まで伝えに行くよ」
「ハッ……、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 顔を跳ねっ返りの髪の毛に負けず真っ赤に火照らせながらも、ハイグレ人間流の了承が朗々と響き渡る。こうして、エフィネアの運命を切り拓くため挑む二人だけの戦いが、ひっそりと始まった……。




* Re: テイルズ短編集 ( No.72 )
日時: 2018/09/16(日) 17:31:57 メンテ
名前: 牙蓮

  ――数日後……


  ――ガチャッ
     ギイィィィ……

 今日もラントの上空には澄み切った青空が広がり、絶好のお出掛け日和と言うより他はない。しかしながらそんな心地よい陽気にも関わらず、多くの家々が玄関の扉はおろか窓辺のカーテンすら閉ざし続ける渦中にあって、バーンズ家の玄関だけはすんなりと開け放たれた。

「いよいよ、なのね。うぅ〜……。やっぱりすごく恥ずかしいけど、女は度胸……! 頑張ってやりきるのよ、私っ!」

 そう戸口で独りごちるシェリアの後ろ姿を見送る者は、誰もいない。この家で彼女と二人で暮らす祖父フレデリック・バーンズは既に朝早く、執事として仕えるラント領主邸へ向けて出勤した後なのだった。

「それじゃあ……、行ってきます! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 それ故誰に気兼ねする事もなく、もぬけの殻となった我が家へ決意のハイグレポーズを送るシェリア。しっかりと戸締りを確認しもう一度だけ股布の食い込みを整え直すと、迷いは全て拭い去ったとばかりに確かな足取りで階段を駆け下りていく。

  カツッ カツッ カツッ カツッ――

 庭先を軽やかに過ぎ去り、ウィンドルの強風にも負けず大通りを軽快に闊歩する。その堂々たる振る舞いもさることながら、先日の人目を憚っていた様がまるで夢であったかの如く一新された風体は方々へ異彩を放っていた。
 普段履きの靴下よりも更に丈の長い、太腿の中程までピッタリと覆うナイロン仕立てのテカテカニーハイソックスに、常に爪先立ちを強要される急角度なハイヒール。そしてそれらや大切なハイレグ水着と同じく、水色一色で統一された両腕のロンググローブが腕の振りに合わせて艶めかしい光沢を哀れな通行人へと送っていく――。

「――うわぁっ!?」

 そんな初めてハイレグ水着を食い込ませたあの日と全く同じ、ハイグレ人間として最大級の正装を取り揃えたシェリアの下へ素っ頓狂な悲鳴が届けられる。ただでさえ外出を控える者が多いのだから、人通りの少ない朝方という事で油断していたのだろう。近頃のラントでは階段という見通しの悪い構造上、『危険スポット』として恐れられ始めたあの風車塔の麓で今まさに、一人の青年が運悪くシェリアと鉢合わせてしまったのだった。

「えっ? あっ、ちょっと……!?」

 話しかける間もあればこそ、幼少の頃からアスベルを『兄貴』と慕ってやまない彼はかつてシェリア自身がそうしたように手近な木箱目掛け一目散に駆け出していった。

(確かに一瞬目は合ったけど、ハイグレの色も何も見えなかったわ。今のはハイグレしなくて大丈夫、よね……?)

 逃げ出した彼が恐らくそうであるように、シェリアの耳元でも自らの鼓動がけたたましく鳴り響いている。大丈夫……、今のは、ノーカウント……。そう形が浮き上がった柔らかい胸元へ手を当て自らの心をゆっくり落ち着かせていくと、木箱へ背を向け再び歩き始める。しかし……、


  ――力を貸してくれ、シェリア!


 他ならぬアスベルの決意がシェリアの言い訳を押し退け、あの日の約束を再び思い起こさせる。


  ――俺はみんなの居場所を、もう一度作りたいんだ!
    故郷を追われた俺にリチャードがそうしてくれたように、
    そして、ラムダが俺の手を自分で握ってくれたように……。
    だからたとえ、それがハイグレ人間としてでも、俺はっ――


(…………そうよね。アスベルの言う通りだわ。今日はこれまで私達が紡いできた想いを未来へ繋げる、そのための日なんだから! だったら今、私がしなきゃいけない事は――)

 最上段のステップで立ち止まり、瞑想する事暫し。この作戦の意義を改めて確認したシェリアは一つ深呼吸すると今し方歩いて来た方向へくるりと反転、青年が息を潜め身を隠すリンゴ箱へ向けツカツカと歩んでいって、そして――。

(フフッ、こんな事で迷ってるんじゃあ、アスベルの隣になんて立てないわよね。しっかりやりきって、アスベルのパッ、パートナーになるのよ、シェリア……!)


  「――は、ハァ〜イ、そこの彼♪ そんな所に隠れてないで、私とハ・イ・グ・レ・しましょ? ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ♪」


 軽やかな身のこなしで木箱へ飛び乗るや否や、『私の食い込みを見て!』とばかりに股間を突き出し朗々とハイグレ三唱で挨拶する。そしてパッと股を閉じるや相手の反応を見る事もなく、妖艶な笑い声だけを残して颯爽と走り去っていったのだった。

(な、何よもうっ! ちょっと自然に話そうとしただけなのに、あんなはしたない『しな』まで作っちゃって……。ほんっとにもうっ、しんっじられないっ!!)

 煮えたぎる頭でしゃにむに走る彼女には後ろを振り返る余裕どころか、朝っぱらから騒音レベルハイヒールの靴音を掻き鳴らしている事実すら入って来ない。そんなハイグレの毒牙が振り撒かれた街の一角に取り残された男はただ一人、イカ臭いハイレグ水着をピッタリ張り付かせ恍惚の表情を浮かべていたのだった……。





* Re: テイルズ短編集 ( No.73 )
日時: 2018/09/16(日) 17:22:48 メンテ
名前: 牙蓮


  ――カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!

「あぁ〜、もういやっ!」

 脇目も振らず駆け抜け、シェリアは目的地である橋の欄干から身を乗り出し思いの丈をぶつける。遥か下方を流れるキラキラとした水面では、火照った赤ら顔で眉をひそめる自分の困惑顔が見つめ返す。幸か不幸かまだ人通りもまばらな静寂の中において、ひんやりとした石材の感触がシェリアのハイレグ水着から熱を奪い去ってくれると大きな溜息が独りでに零れ落ちていく。

「はぁ……、やっぱりダメね、私。とっくに覚悟を決めていたはずなのに、どうしても上手く割り切れないわ。何でアスベルは最初からあんなに堂々としてられるのよ、まったく……」

 堰を切ったように溢れ出る愚痴は自らの至らなさから始まり、未だ現れぬ待ち人への文句へ移っていく。幼い頃から見ているシェリアにとって、アスベルという人物は今まさに約束の時間に遅れているようにどこか要領の悪い面があって、その上他人の感情の機微にも鈍感とくればどうしても頼りなく思えてしまう。しかしそれでも幼い頃からの「騎士になりたい」という夢を叶え、ラムダの脅威からソフィを、そして世界を守ってみせた姿は言葉にしないまでも素直に尊敬に値する。

(とはいえ、どっちも後一歩の所で失敗しちゃったのよねぇ……。でも私だったら絶対、男物の水着を無理矢理着せられたらあんな風に領主の仕事をこなしたり、躊躇いなく外を出歩いたりなんかできないと思うわ。やっぱりアスベルは今でも、私達の事『守ろうと』してくれてるのよね……)

 その胸中を推し量ろうとすると否応なく浮かんでくる、ある少女の姿。彼にとってはきっと、守りたい『私達』の中で常に一番初めに思い浮かぶであろうかけがえのない存在。その場所へ映る人物が自分自身でない事を思うと胸が締め付けられるものの、彼の温かく真っ直ぐな想いに触れた事でシェリアの中でも強く、優しい気持ちが溢れてくる――。

(――よし! ちょっとだけ、リフレッシュできた気がするわ。やっぱりまだ恥ずかしいって気持ちもあるけど、もう一度頑張ってみるのよ、シェリア!)

 冷静さを取り戻し、今度は腰を欄干に預けてグーッと背伸びをしてみせるシェリア。きちんと処理された腋を惜しげもなく白日の下へ晒し、朝日を浴びた水色の布地は街を二分する流れと競うように燦燦と輝きを放つ。
 しかし、そんな爽やかな心持ちとは裏腹に、改めてアスベルを探そうと見渡した所様々な感情を孕んだ視線がシェリアの下へ殺到する。

(――い、今更だけど、やっぱり……。みんなの視線が痛いわ……)

 先程のハイヒール音もさることながら、待ち合わせ場所として指定されたこの橋は街の居住区と商業区とを繋ぐ大切な大動脈。何事かと戸口やカーテンの隙間から注ぐ住民達の好奇の視線に加え、少ないながらも建物の影や箱の裏側へ身を潜める通行人達の「早くそこをどきやがれ!」という恨みがましい視線が右からも左からもシェリアを取り囲む。

(もうっ! これじゃあ、私がただのハイグレ見せたがりの変態みたいじゃないっ! 早く来なさいよ、アスベル〜〜〜〜ッ!!!)

 とは言うものの、ここで待ち合わせ場所を離れてしまえば危うい均衡を保っている誰かとうっかり鉢合わせてしまう可能性もあるし、そもそも「ハイグレ姿は隠して然るべき」という歪んだ民意を認めてしまう事になる。
 現状は若いシェリアの肢体を舐め回すような熱い視線に、はしたない水着姿を晒す同姓からの侮蔑と嫌悪の刃、そして隠れて様子を伺う気配などが感じられるばかりで、直接自らのハイグレ姿を晒してまでシェリアに歩み寄ろうとする猛者が現れる兆しはない。ここは黙って待ち続けるのが得策と心に決め、シェリアはピクピクと小刻みに体を震わしながらも懸命に瑞々しい肢体を数多の視線に晒し、巷で『天使』と評判の笑顔を浮かべ無人の中心街を彩り続けたのだった。

 そして、遂に――。




* Re: テイルズ短編集 ( No.74 )
日時: 2018/09/16(日) 17:24:54 メンテ
名前: 牙蓮


  「おーいっ、シェリアー!」

    ペタッ ペタッ ペタッ ペタッ……

 居住区から離れていく川沿いの細道で白い影が揺らぎ、シェリアの硬質なヒール音とは明らかに違う足音がカチャカチャと煩い金属音に紛れ聞こえてくる。ボサボサの寝癖頭のまま駆ける姿はどこか困っているような、焦っているような……。
 そんな見るからに頼りない出で立ちのアスベルが纏っている衣装は、腰に差す得物と純白のハイレグ水着のみ。まるで夜の店で働く女性と見紛うべき挑発的な衣装を与えられたシェリアとは対照的に、アスベルは手袋や靴下もなければ裸足で大地を駆け回る事を運命付けられた、まさに使いっ走りの如き最下層の軽装をハイグレ人間の正装として与えられたのだった。

「はぁ、はぁ……。ハイグレッ! ハイグレッ!」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

  ビシッ ビシッ ビシッ――

 昨日示し合わせたように、二人はハイグレ人間としての本能に従って新たな世界の挨拶を第一声として交わす。そう……、これがハイグレ人間として当たり前の行為であり、何ら恥ずかしがる事ではない。その原則を頭の中で何度も言い聞かせ、シェリアは前回のように逃げ出す事なく丁度アスベルの目線へ自らの食い込みを差し出してしまう橋上から下りずにキレのあるハイグレポーズを三度刻み切った。

「ふぅ……。やっぱり、朝一番のハイグレ挨拶は気持ちいいな、ハイグレ人間シェリア!」
「え、えぇ。そうね……」

 必要な事だとはもちろん分かっている。しかし他ならぬアスベルから面と向かって『ハイグレ人間』と呼ばれるのはこれまで人間として生きてきた自分が否定されたみたいで、やっぱり辛い。でも……、

「あ、あなたも素晴らしい挨拶だったわ、ハイグレ人間アスベル……」

 アスベルの求めに応じてシェリアもハイグレ人間としての返答を送り、頬を赤らめ見つめ合う二人。だが、そんな初々しくも甘酸っぱい時間はほんの一瞬の事に過ぎない。

「――って、そうじゃないでしょ! 約束の時間はもうとっくに過ぎてるのよ、分かってる!?」
「わ、悪い……。今までの服とどうも勝手が違って、ベルトを合わせるのに時間掛かったんだよ……」
「もうっ! 髪の毛もこんな、ほったらかしのまま出てきちゃって……。ほら、整えてあげるから、ちょっとこっちに来なさい」
「えっ? あ、あぁ」

 我に返れば、何ら変わらぬ幼馴染。シェリアの板についた口調でそう問い詰められたアスベルが反射的に橋の麓に歩み寄ると同時に、シェリアも橋板へ登るステップの一段高い所から赤茶色の頭へ手際よく手櫛を通していく。
 根っからのくせっ毛であるシェリアからすれば、こんな簡単な手入れですぐに整っていく髪質がとても羨ましい。その櫛通りのよさはついつい世話好きなシェリアをして夢中にさせる魔力を孕んでおり、前髪から左右へかけてバランスを整え、そして後ろ髪を仕上げてしまおうと一歩踏み出した所――。

「……えっ?」

 踏み出した右足を支えるはずの足場は既にそこにはなく、慣れないハイヒールでバランスを崩した体は目の前の厚い胸板へ否応なく倒れ込んでいく。

  ――ムニュッ

「なぁっ!!?」

 素っ頓狂な悲鳴を上げたアスベル以上に、柔らかな緩衝材の感触がシェリアの脳内を目まぐるしく駆け巡る。ギュッと押し潰された圧倒的な肉厚に加え、その先でピンと自己主張を続けてやまない、先の視線から高揚しっ放しの恥ずかしい二つの先っぽ。すぐに離れようとさっきから体を動かそうとはしているものの、僅かな身動ぎだけでもお互いのハイレグ水着がツルツルと擦れ合ってしまって、ズンと頭の奥に響く未知の感覚がシェリアの思考をより一層麻痺させ再び身を寄せ合ってしまう始末。
 対してたちまち冷静さを取り戻したアスベルがそっとシェリアの体を抱き起してくれたからよかったものの、永遠とも思えるこの一時はシェリアの心に大きな傷跡を残していった。

「な、なっ、なっ……。私ってばアスベルと、水着姿で抱き合って……」
「おいおい、別にそんなんじゃないだろ。それより、階段から落ちた右足は大丈夫か?」
「アスベルと水着で……。勃ちっ放しの乳首で……」
「――って、やれやれ」

 すっかり自分の世界に入り込んだシェリアの傍らで、アスベルは肩をすくめるしかない。とはいえ彼も、彼女の扱い方は長い旅路を経て十分に心得ている。ブツブツと毒を吐き出す側で辛抱強く待つより他はなく、ガックリと肩を落とした所で再び刺激しないよう慎重を期して声を掛けていく。

「そ、そんなに気にするなよ。昔、お前が無理だって言うのに木に登って下りられなくなった時、下でよく抱き止めてたじゃないか」
「はぁ……。まぁ、そうよね。アスベルなんかに触られたのを気にしても今更、仕方ないわね」
「な、なんだよ、その言い方」

 言葉には若干の棘が見え隠れする応酬であったものの、二人共満更でもない晴れやかな表情を浮かべている。仕切り直しと言わんばかりに今度はアスベルが先行して橋へ上り、その逞しいイチモツを階下のシェリアへ曝け出した。

「じゃあ、改めて……。準備はいいか、シェリア?」
「え? えぇ」

 差し出された褐色の左手をシェリアはテカテカの右手でギュッと掴み、並んで見晴らしのいい橋上へと上っていく。もはやシェリアの足取りに迷いは見られず、体を支える太腿はその心境に反応して心なしか外側へと開いているようにさえ見える。

  ペタッ ペタッ ペタッ ペタッ ……
   カツッ カツッ カツッ カツッ ……

 特徴的な足音のデュオを奏でながら、シェリアはアスベルと共に未来へ踏み出していく。そんなハイグレ姿を隠そうともしない変態二人が繰り広げる『ハイグレ人間として過ごす一日』はまだ、始まったばかりなのであった……。




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