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* テイルズ短編集(2)

日時: 2019/01/01(火) 01:26:29 メンテ
名前: 牙蓮

自称「ハイグレ×テイルズSS作家」牙蓮が綴っていく短編集、第二段になります。
まだ前スレに余裕はあるのですが、完結前の作品の合間にごちゃごちゃ差し込みたくなかったのでこちらを立てさせてもらいました。(決して、打ち切り前提の措置ではありませぬのでご容赦を……)
扱いとしては前集同様短編での投稿を基本とし、皆様に楽しんで頂ける作品をお送りしていきます♪


  新着

新年明けましておめでとうございます。2019年最初は前作執筆後に唐突に浮かんだ一発ネタで書かせていただきました。
前々から分かっている事ですが、ハイレグ姿ってどんなポーズでもメッチャ映えるんですよね……。
という事で、今年も牙蓮の「ハイグレ×テイルズ」をどうぞよろしくお願い致します。


  目録

・TORays  新年ハイグレのご挨拶(New)
・TOAsteria ホントノワタシ


 
Page: [1]
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.1 )
日時: 2018/12/07(金) 23:12:49 メンテ
名前: 牙蓮






     ホントノワタシ




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.2 )
日時: 2018/12/07(金) 23:16:27 メンテ
名前: 牙蓮


  ――絶対的な安寧が約束されし世界、『エンテレスティア』

 そこは国という隔たりのない、いや、そもそも国という概念が存在しない安定した世界。『天帝』と呼ばれる唯一無二の救世主を神の如き存在として仰ぎ奉るその世界において、人々は災害や戦乱の恐怖から切り離され平和な暮らしを送っていた。

  ――全ては、天帝の祈りのままに……

 何の疑いを挟む余地もない日常を、かけがえのない家族や友人達に囲まれ暮らしていく。エンテレスティアの人々にとって、天帝の意志こそが幸福への絶対で最短の導きであり、また、この世界を成り立たせしむる唯一の希望でもあった。

  ――故に、人々は天帝のみを崇拝し、その祈りを否定する者など存在しうるはずがない……

 しかし、世界はゆっくりと、だが確実に綻びを見せ始めていく。最初はほんの僅かな変化、それこそ大海に真水が一雫零れ落ちた程度の取るに足らない小さ諍いであったものの、その流れはやがて世界へ遍く行き渡る大きなうねりとなって全てを飲み尽くさんと猛威を振るっていく。

  ――そう、ある男の勇気と、二人の少女の目覚めによって……



 …………
 ……
 …




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.3 )
日時: 2018/12/07(金) 23:19:00 メンテ
名前: 牙蓮


「――無事に着いたね、市都ファルカーム!」

 澄み渡った青空、それこそ雲一つとして存在しない完全な快晴が見下ろすその先で、少女の朗らかな声が鳴り響く。
 ここは、エンテレスティア有数の地方都市、市都ファルカーム。天帝ラザリスの住まう帝都シャングレイスを北東に望み、大陸南西部に生きる人達の生活を支える商店が軒を連ねる上、施政を司る貴族達が居を構える華やかな中心都市。
 そんなファルカームの街門から買い物に、出稼ぎに、旅の骨休めに訪れる民達の姿が絶える日など一日としてない。そして今日も遠路はるばる、西端のオルシャ村からやって来た少女が二人、都会の石畳へ歩を進めていたのだった。

「えぇ、そうね。今日はコレットが転んで怪我をしたりしなくて、本当によかったわ」
「もうっ、シェリアったら」

 癖のある赤毛の向こうで心から安堵している幼馴染の言葉に少女、コレット・ブルーネルは可愛らしい抗議の声を上げる。女だけの二人旅とはいえ、普段から買い出しに通い慣れているこの道のりは彼女達にとって、字面程の苦難を孕む行程でなかったのは間違いない。

「それにしても、オルシャ村に比べて大きな街なのは確かなんだけど……。ファルカームっていつも、こんなに人が多かったかしら?」
「ホントだね〜。私もお祭りの日に来た事もあったけど、こんなの初めて見たよ」

 シェリア・バーンズの疑問にのほほんと答えている間にも、幾人もの旅人がコレットの脇を通り抜け雑踏の中へ消えて行く。人々の顔は皆一様に気色ばんで高揚しており、旅の終点というよりはまるでここからが本番と言わんばかりの勢いを感じさせる。

「そっか……! これみんな、ラザリス様の事を聞きつけて来たんだわ……!」

 誰にともなく一人ポンと掌を合わせ、シェリアは事の子細に思い至る。元はと言えば彼女達がファルカームを訪れたのも、シェリアが天帝ラザリスのファルカーム視察の噂をコレットに話し聞かせたため。この世界の人々にとって天帝のお姿を直接拝見するという事は、何にも代え難い至上の幸福を意味する。先日も帝都シャングレイスで行われた生誕祭というまたとない機会があったものの、余りの人出で出向けなかった人達も多数いるだけに地方中の信奉者がここファルカームへ結集していたのだった。

「みんな私達とおんなじだね。それで、ラザリス様は街のどこにいるのかな……?」
「ええと……」

  『――ちょっと聞いた? ラザリス様、今日はすぐそこの広場にいらっしゃるそうよ』
   『本当かい? いつも通りかかる広場にラザリス様がいらっしゃるなんて、ありがたいったらないねぇ――』

 二人してキョロキョロと見回しているとたちまち、そんなファルカーム市民の井戸端会議が耳に入る。

「……聞くまでもなかったわね」
「うん! ラザリス様は広場だね、早く行こ!」
「あっ! ちょっと、コレット!?」

 シェリアの制止を振り切り、コレットは独りでに駆け出していた。
 みんなが仲良く暮らせるのは全部、ラザリス様が私達を見守ってくださるお陰……。人一倍敬虔なコレットはそのような祈りを十六年という歳月をかけて育んできて、ラザリスへ寄せる思いは誰にも負けないものがある。
 勝手知ったる通りをひと思いに駆け抜け、その想いを持参したブランの花束に乗せて届けるべく、ラザリスの下へ続くメインストリートへ勢いそのままに右折していくと――、

「――えっ、わわっ!?」

 道端へ街の人々が育てた花壇が並ぶ、いつもは洒落っ気溢れる大通りが見通す限りの人、人、人! 終わりが見えない群衆の荒波に圧倒され、急ブレーキをかけたコレットはバランスを崩し反対に仰け反っていく。

「っと。もうっ!」

 そんな彼女の体を、間一髪の所で伸びてきたシェリアの腕が受け止め支えてくれる。後を追い息を切らせたままのシェリアに向き直り、コレットは申し訳なさそうに眉をひそめた。

「ごめんね、シェリア」
「もうっ、だからいつも言ってるじゃない。急に走り出したらあなたの場合、危ないって」
「えへへ、ごめんね」
「まったくもう……。ところで、広場ってまだ先よね……?」

 気を取り直してとばかりにシェリアも目の前の人海へ視線を移し、げんなりと溜息を零す。

「既にこんなに混んでるなんて……」
「うん、すごい人だかりだよね。通れるかな?」
「分からないわ。とにかく、少しでも前に行ける事を期待して、まずは並びましょ――
「きゃっ!?」

 呑気に言葉を交わしているその場所も、一瞬経てば既に波の中。我先にと掻き分け進もうとする猛者達が調和を乱すその中で、押し退けられたコレットは今度こそ本当に転んでしまったのだった。

「コレット!?」
「おっと、ごめんよ。怪我はないか、お嬢ちゃん」

 不可抗力とはいえコレットを押し倒してしまった男性は申し訳なさそうにスッと手を伸ばし、コレットの華奢な体を助け起こす。

「ありがとうございます。こっちこそ、ごめんなさい」
「いや、無事なら何より。何せこの人だかりだからな……。お嬢ちゃんも、危ないから気を付けなよ!」
「はい。ありがとうございます」

 それだけの短い会話を交わすと再び列が流動的に動き始め、おじさんは旅装の中へ消えて行く。

「大丈夫、コレット?」
「うん。ありがと、シェリア。おじさんが助けてくれたから」
「そう、よかった……。それにしても、さっきのおじさんが言ってたように、このまま先に進むには確かにそれなりの覚悟がいりそうね」
「シェリア、私……」
「えぇ、分かっているわ。ここまで来て諦められるもんですか! 行きましょう、コレット!」

 お花、潰さないように気を付けてね、と言い残し、シェリアはコレットの手を取り先導していく。ラザリス様にお会いする時は二人一緒で! そんな決意を籠めていた右手もすぐさま人混みに押し流されて離してしまい、山吹色のコートを着た大男をやり過ごしているうちにコレットはシェリアの姿を完全に見失ってしまった。

「えっ……? シェリアー、どこー?」

 背伸びして辺りを必死に探してみるも、そう背丈が高いわけではないコレットの視点からでは誰が誰だかさっぱり見分けられない。

「――きゃあっ!?」

 そして無理な体勢を取っていた事も災いし、誰かから肘鉄を喰らって再び倒れ込んでしまうコレット。その拍子にブランの花束も何処かへ投げ出してしまい、雑踏に踏みつけられないよう身を屈めて独り途方に暮れていると、ごついグローブが目の前に差し出された。

「だ、誰……?」
「――お前はここで、何をしている?」
「えっ……?」

 空耳かと思いきや、黙っていると再び同じ問いが繰り返される。

「お前はこの場所で一体、何をしているのだ?」
「えっと、あの……?」
「お前の本当の居場所は、こんな所ではないはずだ。我が声を耳にした今も尚、本来の姿が思い出されないのであれば、精々道化を演じ続けるがよい……」
「…………」

 低い男の声と共にグッと伸びてきたその手は、気の抜けたコレットの体を軽々と引き起こししっかりと直立させる。そしてそのまま躊躇いなく握手を解き腕を引き入れてしまうと、一切姿を見せる事無く群衆の中へと溶け込んでいってしまった。

「…………」

 彼の言葉が何を意味していたのか、コレットの中ではさっぱり纏まらず要領を得ない。でも、何でだろう……? どこかで、聞いたことあるような……? それが彼の声色を指しているのか、それとも文言の一部分を指しているのかさえ分からぬ僅かな感覚に後ろ髪を引かれ、コレットは怒号も飛び交う荒々しい人混みの中で独り立ち尽くしていた……。



 …………
 ……
 …




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.4 )
日時: 2018/12/07(金) 23:21:08 メンテ
名前: 牙蓮


 そして時は移ろい、夜の帳が街を覆っていった頃……。天帝が帰還し、集まっていた人々も堰を切ったかのように離散していく大混乱の中で、何とか安宿の一室を借り受ける事ができたシェリアとコレットはようやく一息ついていたのだった。

「はぁ……。それにしても、すごい人の数だったわね。結局私も、ラザリス様が見える所まで進む事はできなかったんだけど、日が落ちきっちゃう前にコレットと合流できて本当によかったわ」
「……あ、うん。そだね」
「コレット……?」
「…………」

 ベッドに腰掛け気のない返事をするコレットに、シェリアは疑問を募らせる。思い返せば街中で再会した時もシェリアを探しているという風でもなくボーっと道端へ立ち尽くしていたし、食事の際も普段より口数が少なかったように思える。

「どうしたの? さっきから心ここにあらずって感じだけど……」
「え……? そ、そかな?」

 少し強めに問いかけてみるとハッとした顔でシェリアを見つめ、無理に笑顔を張り付かせる。間違いない、コレットは何かを隠している……! 心配事や悩み事があるといつも決まって無理に作り笑いを浮かべる、幼い頃から変わらないコレットの癖であった。

「えぇ。大通りであなたを見つけた時からずっと、そんな感じだわ」
「あっ……」
「ラザリス様にお会いできなかったのが、やっぱり残念だったの? 確かにブランの花束も落としちゃったままだし、災難続きではあったけれども……」
「えと……、そうじゃないの。私がずっと考えてたのは、ラザリス様にお会いできなかった事じゃなくて、その……」
「コレット……? 何か、心配事でもあるの? よかったら私に聞かせてくれないかしら?」
「うん……」

 あれだけラザリス様Loveなコレットに限って、それにも増して大切な悩み事があるだなんて……。その驚きはそっと胸の内にしまい込んで、シェリアは優しく幼馴染の肩を撫でる。

「えとね……。シェリアとはぐれた後、私、また転んじゃったんだけど、そこで不思議な声かけられたんだ」
「不思議な、声?」
「うん。上手くは言えないんだけど、『お前はここで何してるの?』とか、『本当の居場所はここじゃないはずだ』とか。転んだ私を助けてくれた人なんだけど、それだけ言ったらすぐにいなくなっちゃったの……」
「うーん。よく分からないわね。『お前はここで何してる』だなんて、見ればわかるはずなのに……」
「ねぇ、シェリア……」
「うーん……。私にもさっぱり訳が分からないけど、その人はひょっとしたら『咎人』かもしれないわ。だから、もう関わっちゃ――」
「違うのっ!」

 咎人、その言葉が出た瞬間、コレットにしては珍しく立ち上がって声を荒げていた。咎人と呼ばれる人種は、ありもしない世迷言を触れ回って人心を惑わす存在であり、決してその言葉に耳を傾けてはいけない。天帝が直接発布したお触れとして広く伝えられているその言葉を、コレットが知らないはずがないのに……。なのに、何で……。

「一体、どうしちゃったのよ?」
「あのね。何でか分からないけど、私、あの人とどこかで会った事がある気がするの。それがいつ、どこでだったのか分かんないし、言ってる事も分からなかったんだけれど……。でも、あの人の言葉を忘れちゃいけない、そんな気がするのっ!」
「コレット……」

  ――それって思いっきり、咎人の言葉に惑わされてるじゃない……

 すんでの所で吐き出してしまいそうだったその言葉をシェリアは何とか飲み下し、コレットを再びベッドへ腰掛けさせる。咎人はその巧みな話術で人々の心を惹き付け、それと気付かぬ内に魅了してしまうと聞く。コレットにはそんな風になって惑わされてほしくなんてないし、できる事ならそんな危ない人達と関わってほしくないとシェリアは思うものの……。でも、悲しそうな瞳でプラチナブロンドの長髪を垂らすその姿を見ていたら、とてもそんな言葉は告げられずに、そして……。

「――はぁ、分かったわ。じゃあ、そのコレットに話しかけてきた人っていうのがまだファルカームにいないか、明日探してみましょう?」
「えっ……?」
「確かにコレットの話を聞いて咎人かもって思ったけど、本当は何かイベントとかの勧誘だったかもしれないじゃない。それに、ラザリス様からのお触れだと『咎人を見つけたらその言葉に耳を貸さず、誰にも接触しないように閉じ込めなさい』って言われてるわ。本当に咎人だったら私達の手で、早く閉じ込めなくちゃ!」
「うん……」
「そしたら、えーっと……。そう! リッカ村の『ロランドファミリー』の人達みたいに、『白き獅子』の方々とお近付きになれるかもしれないわね♪」
「うん……。――えっ、えぇっ!?」

 それまでシェリアの話を俯いたまま聞いていたコレットもさすがに聞き流せず、金色のカーテンをバサリと開け放った。

「ふふっ、やっと笑顔になったわね。じゃあ、明日は白き獅子になったつもりで、咎人探しに行ってみましょうか?」
「うんっ!」

 ようやくコレットにいつもの明るさが戻った所で話はそれまでとなり、二人は荷物を解いて寝支度を整えていった。安宿故にシングルベッドが一つしかないので、二人抱き合う形で寝転がっているとすぐさま隣から安らかな寝息が聞こえてくる。

(コレット……。あなたの事は、ちゃんと私が守ってあげるからね……)

 相手がもし、本物の咎人だったとしたら……。正体を突き止めた瞬間に、逆上して襲い掛かられでもしたら……。考えれば考えるだけその様な不安が胸の中を去来してゆく中、シェリアの意識は次第に湧き上がった眠気に押され闇の中へ溶け落ちていった……。



 …………
 ……
 …





* Re: テイルズ短編集(2) ( No.5 )
日時: 2018/12/07(金) 23:24:16 メンテ
名前: 牙蓮


 翌朝、早々に宿部屋を引き払ったコレット達は市都ファルカームの大通りへと繰り出していた。街の雰囲気は昨日と一転して本来の落ち着きを取り戻して……、いや、まだ幾分か騒ぎ疲れた後特有の気だるい空気感を漂わせている。まだそう人通りの多くない目抜き通りでは等間隔に据えられた市営の鉢植えが道行く人々の目を楽しませ、丁寧に敷設された石畳と相まって都会の洗練された華やかさをいつも通り演出している。
 しかし改めてじっくりと見渡してみれば鉢植えを引き摺ったような痕跡や撒き散らした土汚れが随所に見られ、人家の庭先に植えられた生け垣にさえもゴミが引っ掛かっている。近所のお年寄り集団や玄関先を掃除している主婦の方々の疲れた表情を見ていると、何だかラザリス様ご訪問に沸き立ってしまった自分達を振り替えってちょっと申し訳なくなってくる。

「さて……、と。もうすっかりお祭りムードは終わっちゃったみたいね。何だか片付けるの大変そうだし、私達も咎人探しが終わったら、広場のお掃除を手伝ってから帰りましょう?」
「うん、そだね。街を汚しちゃったのはラザリス様に会いに来た私達なんだから、最後までしっかりお片付けしなくちゃ! ……私、ラザリス様が来てくださるのって、いいことばかりだって思ってたけど、こういう大変な所もあるんだね」
「えぇ、そうね……。でも、コレットみたいに後の事まで考える人なんてそう多くないでしょうから、とても立派な事よ」
「うん……」
「――さて! それじゃあ改めて、咎人探し、始めましょうか! まずはその人と会った場所まで大体でいいから、案内してくれないかしら?」
「う、うん。えっとねぇ……」

 曖昧な記憶を辿りながら、コレットは覚束ない足取りで歩き出す。何しろ昨日は街始まって以来ではないかと思われる程の大入りだったのだから、どこに立っていたのかさえまるで見当がつかない。このブッシュベイビー像の所は確か通り過ぎた覚えがあるし、多分あの交差路までは進んでなかった気がする……。そんな自問自答を頭の中で繰り返しながら、二人は仕事場へ出向く人々に混じって通りを進んでいく。

「ところで、なんだけど……。その、話しかけた人の特徴って、声以外にも何か覚えてないの? ほら、顔立ちとか、どんな服を着ていたかとか?」
「うーん……、人混みの中からニュッと手が伸びてきただけだったから、お顔は分からないよ。――あっ! でも、分厚い手袋をしてたのは覚えてるよ!」
「分厚い手袋……? じゃあ、何か手を怪我しないようにしているお仕事の方なのかしら? パン屋さんとかピザ屋さんとか、えっと、包丁を磨いでくれる鍛冶屋さんとか……」

 いかにもシェリアらしい生活に身近な職業が列挙されていく中、コレットは漠然とした違和感を覚える。あの手袋はそんな見慣れた感じじゃなくて、もっと初めて見た感じだったような……? そうこうしながら歩いているうちに、いつの間にか昨日ラザリスが訪れたという広場にまで辿り着いてしまった。

「シェリア、広場に着いちゃったよ!」
「ホントだわ……。ねぇ、ここまでの間にそれらしい人って、いた?」
「ううん……」

 しょんぼりしながら見渡す広場に居並ぶのは、噴水の周りを駆け回る子供やベンチでくつろぐお年寄り達ばかり。

「やっぱり、それだけの情報から見つけ出そうだなんて、難しい話だったのよ。じゃあ今回はここで諦めて、このまま花壇のお手入れを手伝ってから帰りましょう? ここも結構踏み荒らされてるみたいだし……」
「シェリア……。でも、私っ――!」

  ――何でか知らないけど、諦められないのっ!

 そう続けようしたその時、コレットの瞳にある男の姿が映り込んだ。

「ね、ねぇ、あの人……」

 それは、こことは別の入り口付近に植えられた一本の楠にもたれ掛かっている、フード姿の男性であった。背中に羽織っている大きなマントで体の大部分は覆われてしまっているけれども、その隙間から見えるのは革張りなのか、いかにも丈夫そうな鮮やかな褐色のつなぎ。足元でつなぎを留める履物も山道へ行っても通用しそうな程頑丈なベージュ色のブーツであり、何より胸元で腕組みしている隙間から覗く手の甲は、ブーツとお揃いのゴツいグローブを嵌めていたのだった。

「あんな格好で、暑くないのかな……?」
「そうね。確かに旅をしているにしても、随分な重装備よね。それに、何だか誰かを待っているみたいだし……。
 ――ん? 分厚い服装に人を待ってるって、コレット、まさか……!」
「うん。ひょっとしたら、あの人かもしれない。私、声掛けてみる――っ!?」

 意を決してコレットが近付こうとまさに一歩踏み出した刹那、これまで微動だにしなかったフード頭がむくりと起き上がる。驚いたコレットが足を止めたと同時に、影に隠れた視線がぐるりと巡ってこちらを向き、互いに動きを止める。

  ――お顔は見えないけど、間違いない! 私の事を見てる……!

 そんな確信めいた感覚を秘めつつ見つめ合うこと数秒の後に、男性はマントを翻して街の北側へ繋がる出口を目指しすたすたと歩いていってしまった。

「な、何だったの、今の……? あの人、私達の事見てたわよね、きっと」
「うん……」
「そしてそのまま歩いて行っちゃって……。何がしたいのよ、もうっ! しんっじられないっ!」
「きっと、『ついてこい』って事なんじゃないかな? シェリア、行こっ!」
「えっ? あっ、ちょっと、待って!?」

 普段はおっとりしているからと、決して油断していたわけではないがシェリアはコレットに引き摺られる形で広場を小走りで横切っていく。そして北面の出入口に辿り着くとコレットの読み通りに、フードの男が一区画向こうの交差点でこちらを振り返りじっと待っていたのだった。

「うそ……。本当にコレットの言った通りなの……?」
「この先へ、行くの……? あっ、待って、くださいっ」
「ちょっ、コレットっ!?」

 二人の姿を見据え一つ頷いたかと思いきや、再び歩き始めたフード男に導かれるようにしてコレットは独りでに歩を進めていく。この先に一体、何が待っているのか? そもそもあの人は一体、何者なんだろうか……?
 こうして、謎めいた疑問の渦巻くシェリアの最後尾に連ねて、奇妙な三人組は街の出口へ向かって一心に突き進んでいった……。



 …………
 ……
 …





* Re: テイルズ短編集(2) ( No.6 )
日時: 2018/12/07(金) 23:27:22 メンテ
名前: 牙蓮


  ――一体、どれくらい歩き続けたのかしら……?

 シェリアは普段からちょっと引っ込み思案だと思っていた幼馴染みに引かれるまま、怪しげな男の後を追っていた。大きなマントで身を隠し、危険な仕事を日常的にこなしていそうな雰囲気を漂わせる、いかにもファルカームの住民とは思えない怪しい男。まるでこちらの事を嘲笑っているかのような動きで翻弄し、少し離れると目印になりそうな所で立ち止まってみたり、近付いてくると今度は右へ左へ蛇行して惑わしてみたり、常にその距離を一定に保とうとしている。
 しかもその間合いといったら、シェリアやコレットの歩幅を完全に把握しているかの如き正確さで計り、調整しているのだから無性に気味が悪い。できる事なら関わり合いを避けたいと思いつつも、いつの間にか市都ファルカームを出て街道を進み、こんな街外れの小さな森にまで踏み込んでしまったのだから退くに退けない状況になっている。

「ねぇ、コレット……。森の中は魔物も出るし、もうやめておきましょう?」
「大丈夫……。きっと後、もう少しだから……」

  ――何で、そんな確信が持てるの……? 

 シェリアの言葉に耳を貸す事無く、男が辿っていった藪道を迷いない足取りで進んでいくコレットを追いかけ、彼女も道なき道を進んでいく。例えどんなに危なかろうと、親友を独り残して帰る訳にはいかない! その一心でありったけの勇気を振り絞り、右に左にくねくね進路を切り替えながら奥地へ分け入っていくと、不意に差し込んだ木漏れ日に目元を庇いシェリアは瞬いたのだった。

「あっ……」

 そこは、小さな森の広場だった。大地は背丈の低い草花でさながら緑の絨毯と言わんばかりにびっしりと埋め尽くされており、辺りはシェリアが出てきた獣道同様ぐるりと鬱蒼とした木々に取り囲まれている。
 そして、木漏れ日のスポットライトが照らす壇上には、男の姿が一つ。ファルカームの広場からずっと追いかけてきたフード姿の男が、この天然の空き地の最奥へ佇みじっとこちらを見据え続けていたのだった。

「ねぇっ! あなた一体、誰なのっ!?」
「…………」
「コレットが話していたように、本当に私達を惑わそうとする咎人なのっ!? 私達をこんな所へ誘い出して、一体何のつもりっ!?」

 シェリアがいくら言葉を投げ掛けようとも、フード男は何も答えない。その暗闇に包まれた瞳はただ一心に少女だけを……、コレットだけを見つめ続けていた。

「何でだろう……? シェリアが言ってたように、ついてきちゃダメだって気持ちも確かにあるんだけれど、あなたを無視しちゃうのはもっと、ダメな気がするの……!
 それに足音や、匂い……? 初めて会ったはずなのに、私、あなたの痕跡を嗅ぎ分けられて、ここまで追って来られた……?」
「………………ほぅ」

 支離滅裂なコレットの独白を受けてようやく、件のフード男が声を発す。確かに聞いていた通り、低くて落ち着いた声色だとシェリアは思う。例えるならオルシャ村の近所に住んでいるアーストおじさんのような渋い声色だけれども、初めて聞く全然知らない人の声。
 コレットにシェリアも知らない独自の知り合いが、それもこんな年の離れた男性の知り合いがいるとはとても思えないものの、当のコレット自身も自らの感覚に戸惑っているかのような発言を繰り返しているのだからシェリアの混乱は益々深まっていく。

「さすがは、俺一番のお気に入りだっただけの事はあるな。ここまで来る途中、色んな奴にアプローチをかけて試してはみたんだが、俺の匂いにまで反応する奴なんて他にいなかったぞ」
「えっ? 『お気に入り』って、あなた……。コレットの事、前から知っていたの? そのフードを取って、正体を見せなさい!」

 男の発言から危ない空気を機敏に感じ取ると、シェリアはコレットを庇うようにして一歩前へ進み出る。いざとなったら、コレットだけでも……! その使命感を胸に護身用の投擲ナイフをギュッと握り締める傍ら、男は緊張感もなく淡々と答えた。

「まぁ、こういう反応が大多数なんだよなぁ……。いいぜ、これで目覚めるきっかけになるってんなら、お望み通り剥ぎ取ってやるよっ――!」

  ――バサッ

 分厚い手袋を嵌めた右手がマントの留め具へ添えられるや否や、質素なレザーマントが呆気なく脱ぎ捨てられる。その下から現れたのは下半身同様首元まで褐色のつなぎに覆われた小太りの上半身に、そしてブーツや手袋と同じ色合いの奇妙な頭巾を被った男の姿であった。
 視界を保つために開けられた目元の穴は脱ぐ前と同じく漆黒に包まれており、その表情を窺い知る事はできない。シェリアとコレットの間で視線を巡らせる度に頭のてっぺんから伸びる特徴的な触角がパタパタとはためき、フード男改め、頭巾男の異様さを一層際立たせていた。

「どうだ、この栄えある真の姿は! 俺達『パンスト兵』の装束を前にして、ぐうの音も出ないってか?」
「パンスト、兵……?」
「って事は、まさかあの頭でヒラヒラしてるのって……!? へ、変態よっ、コレット!!」

 まさか履く物であるパンストを、頭に被ろうだなんて考える人がいるなんて……。カルチャーショックを受けたシェリアは、――いや、エンテレスティアの民ならば皆同じ反応を示すだろうが――これまで感じていた危険な香りがいよいよ本物であると確信し、コレットの手を取りすぐさま踵を返そうとするが……。

「コレット……?」
「…………」

 懸命にその手を引いてはいるものの、コレットの足はまるで地面に根を張ったかの如く微動だにせず、パンスト兵と名乗った男の方を向く頭も頑として動かない。

「コレット、どうしちゃったの? コレットッ!?」

 焦るシェリアが回り込んで両肩を揺さぶり遮ろうとも、その瞳に幼馴染の姿は映らない。見つめる先は友の向こう側におわす、ただお一人のみ……。言い知れぬ恐怖がシェリアの心を蝕み始めたその時、コレットの唇がゆっくりと動き出し言葉を紡いでいく。

「……知ってる。世界にはずっと、私達を見守っていてくださる、パンスト兵様がいてくださって――??
 ――違うっ! ずっといてくださったのは他の誰でもない、ラザリス様だよっ! でも、私はっ……!?」
「こ、コレット……? 何、言ってるの……?」
「でもっ、この溢れてく思いは何っ……? うっ、あぁぁっ……!?」
「コレット? コレットッ!?」
「――クククッ」

 突然、叫んでいたかと思うと、頭を抱えて呻き始めたコレット。その様子をただ狼狽え見つめる事しかできないでいるシェリアとは対照的に、パンスト兵は謎は解けたと言わんばかりの笑みを投げ掛け彼女の不安を一層煽っていく。

「やはりそうか、この姿を見せる事が最後の鍵になったか。そうだ、その湧き立つ感覚こそが、本当のお前を形作るものだ! さぁ、俺の声に耳を傾け、本当の姿を取り戻すがよいっ――!」
「うぅぅっ……!」
「コレット! しっかりして、コレッ――!?」

 パンスト兵の言葉に乗せられ、コレットの悲鳴は益々大きくなる一方だったが、更に呼応するかの如く眩い光がコレットの胸元から溢れ始め、駆け寄ろうとするシェリアを物理的に拒絶していった。

「な、何っ!? 何なの、このひか――きぁあっ!?」

 あまりの輝きにシェリアは目を開けている事も叶わず、親友を残して後退せざるを得ない。そんなたたらを踏んで惑う彼女を嘲笑うかのように、謎の光はコレットを飲み込み拡散し、広場は白に染められていった……。



 …………
 ……
 …





* Re: テイルズ短編集(2) ( No.7 )
日時: 2018/12/07(金) 23:31:42 メンテ
名前: 牙蓮


「――う、うぅ……。一体、どうなってるの……?」

 感覚的には十数秒程の瞬くような時間が過ぎ去った後、謎の輝きは姿を消して何事もなかったかのような静寂が広がっている。まだ目の端がチカチカと明滅する中、いつの間にか尻餅をついていたシェリアはゆっくりと立ち上がって、目の前に屹立する変態を問い詰めた。

「――あなたねぇ! コレットに一体、何をしたのっ!? さっきの光もどうせ、あなたの仕業なんでしょうっ!?」
「クククッ……」

 シェリアと違い覆面のお陰もあったのか、全身衣に覆われたパンスト兵は苦もなく堂々と前を見据え続けており、朗々とした口調で質問に答えていく。

「勘違いするな。俺は別に、何もしちゃあいない。第一、お前は俺のせいだなんて言っているけどだな、こんなややこしい事態に巻き込まれた俺だって立派な被害者なんだよ……。
 ――ほら、そんな事より。折角お前のお友達が目覚めたんだから、祝福してやるといい」
「えっ……? 一体、何を言って――っ!!?」

 パンスト兵に言われるまま、シェリアは何の迷いもなく振り返る。その心に浮かぶ情景はただ一つ、何事もなかったコレットがいつもみたいにニッコリ微笑みかけてくれる、そんな一幕のみ。しかし徐々に正常を取り戻してきた視界に飛び込んできたものは、余りにかけ離れた光景だった。

「あ、あなた……。コレット、なの……?」
「…………」

 衝撃的な現実に、やっとの思いでその言葉を絞り出す。シェリアの目の前に立っていた『それ』は彼女の幼馴染には似ても似つかない、ただの変態であった。
 いつも着ている可愛らしい修道衣の純白などもはや見る影もなく、テカテカと妖しい輝きが全身を覆う。足下ではコレットが好む黒タイツよりもっと薄くて扇情的なストッキングがいやらしく脚線を締め上げ、彼女の趣味にはとても合いそうにない革製のロングブーツが色っぽい背伸びを強要する。
 そして、そんな破廉恥極まりない太腿以上に一段と辱められているのが、股間部の強烈な食い込み! 彼女の上半身は肩回りから指先まで全て一体となったハイレグレオタードにピッチリ覆われており、腰のくびれから胸元の膨らみまで余す事無く白日の下に晒されている。エナメルのような強いテカリを見せながらも、各所には伸縮性のあるナイロン特有の皺が細く刻まれており、衣類の仕立てや繕いもこなすシェリアから見ればいかに「有り得ない」事が起きているか、より強く思い知らされるのだった。

「コレット……? ねぇっ、コレット!?」
「…………」

 居ても立っても居られず、シェリアは駆け出していた。本当にこんなレオタード女が、大切な幼馴染なのっ……!? レオタードと同じ真っ黒な全頭型マスクに隠れた顔を覗き込みつつしゃにむに肩を揺さぶってみるも、首元の拘束具からぶら下がる銀板だけが虚しく鳴り響く。

「コレット、私が分からないの!? ねぇ、何とか言って!」
「クククククッ……」

 絶叫に近い悲鳴と、低い含み笑いが木立の中で交錯する。
 改めて間近で見てみるも、頭蓋骨に張り付く不気味なマスクへ開けられた穴は分厚いレンズ越しの目元と鼻孔に、チューブのような口元のたった五つのみ。その目元の奥で揺れる瞳もコレットの見慣れた空色とは程遠く、まるで細工師の業物であるかの如き赤い眼球が無感情に虚空を見るばかり。唯一面影があるとすれば、頭頂部から引っ張り出たプラチナブロンドのポニーテールが僅かにコレットを偲ばせるものの、黒装束の中で白々しく輝く機械仕掛けの首輪が放つ「もう二度と脱げない」と言わんばかりの存在感が僅かな希望をも打ち砕いてしまう。

「コレット……」
「まぁ、そうがっかりするな。本当のお楽しみは、これからなんだからよ……!」

 そう言って進み出たパンスト兵はコレットに縋るシェリアを苦も無く引き剥がし、代わって自らが真正面から彼女と対面する。

「じゃあ、最後の確認だ。――俺の声が聞こえているか、『S-819005010号』? 聞こえているのならお前の主人に向かって、敬愛の『ハイグレポーズ』を捧げろ!」

  「――ッ! ――ッ! ――ッ!」
     ビシッ  ビシッ  ビシッ

「ちょっ!? こ、コレット!?」

 これまでシェリアのアクションには何の反応も示さなかったコレットが、間髪入れずにパンスト兵の指示に応える。パンスト兵が望むまま大きくレオタードの食い込み激しい股間でがに股を形作り、際どい黒の濃淡がエロティックな足刳ラインを二度、三度と擦り上げたのだった。

「やめなさい、コレット! そ、そんなはしたない事……」
「ようやくだ、ようやく成功したぞっ……! 遂に封印された『ハイグレドール』を解き放ち、この手で復活させる事に成功したぞっ!」

 狼狽え何も手につかないでいる人間シェリア・バーンズに、「ハイグレポーズ」と呼ばれたがに股プラス腕を真横へ掲げ食い込みお股を指し示す、あられもない姿を保ち続けるレオタード痴女コレット・ブルーネル。そんな二人の様子さえも目に入らない程に、パンスト兵は一人盛り上がっていた。

「長かったがこれでようやく、俺達『パンスト兵の楽園』を取り戻す道筋が見えてきたってもんだ! よし、S-819005010号! 勝ち鬨の証に、そこへ転がっているお前の『核』を踏み壊してしまえ!」
「――ッ! ――ッ! ――ッ!」

  ――グッ……、ガシャッ!

 パンスト兵の言葉でシェリアは初めて気が付いたのだったが、コレットの目の前にはいつの間にか拳大程のオパールみたいな宝石が無造作に転がっており、手を伸ばす間もなくコレットのブーツを起点に細かい筋が幾重にも表面を駆け巡り、粉々に砕け散ってしまったのだった。

(さっき、コレットの『核』って言ってたけど……。それって絶対壊しちゃマズいもの、よね……? でもコレットの『核』って一体、どういう事なのかしら……?)

「よし、これでお前は再洗脳される危険もなくなって、晴れて俺の下へ戻って来られたってわけだ。どうだ、嬉しいだろう?」
「――ッ! ――ッ! ――ッ!」

 上機嫌なパンスト兵を更に盛り立てていくかのように、コレットは嬉々とした様子で何度も、何度もハイグレポーズを捧げる。

  ――お願いっ! これが悪い夢なら、早く覚めてっ!

 思わずそう祈りたくなってしまう程の、凄惨な光景。シェリアはこの到底理解が及ばない狂気の舞台から早く降板すべく、ジリッ、ジリッと後退っていくが……。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.8 )
日時: 2018/12/07(金) 23:34:30 メンテ
名前: 牙蓮


「ククッ、これだけ良い反応を示すのだから、もうS-819005010号は問題ないだろう。さて、次は――」

 そんな見え透いた行動など通用するはずがなく、パンスト兵の双眸はシェリアへと移されていく。

「お前の事も支配者として、この俺が目覚めさせてやろう。――さぁS-819005010号! いつものまぐわいでG-190426071号を解し、その心を解き放ってやれ!」
「えっ? きゃあぁっ!?」

  ドサッ……

 もはや逃げ場はないと察するよりも数段早く革のブーツがシェリアの足を絡め取り、足元を払われたその上へレオタード姿のコレットが馬乗りになる。

  ――カチッ カチッ カチッ

(あなた……。本当にコレットなの……!?)

 彼女の知っているコレットはお世辞にも運動神経がいいとは言い難く、その心根も加味して人の足下を払って転ばせるなんてできっこないのに……。不気味なダイヤル音と共に開いていく口元のチューブを見ながら、シェリアはどこか達観した思いでコレットの変化を見つめていた。

「はぁ……、はぁ……」
「っ……! ん、んんっ!?」

 完全に開ききった口穴から漏れる吐息混じりのソプラノは、間違いなくコレットその人のもの。その衝撃に一瞬硬直してしまったシェリアの隙を逃さず、無理矢理チューブの一端を口の中へ捩じ込まれコレットと間接的に接続させられてしまった。

「んっ、んぐっ……。んんっ……!」
 (いやっ、コレット……。やめっ……!)

 心で幾ら拒絶しようと、チューブを噛まされ抵抗できないシェリアの口腔をコレットは我が物顔で蹂躙していく。ねっとりと味わうように進入してきた舌がまず一周舐め回し、続いてシェリアの舌へ這うように絡み付き……。
 右から、左から、そして表面を撫でるようにべろり。一体どこでそんなテクニックを覚えたのか、シェリアの細かな動きにも機敏に先回りして頑なな警戒心を一舐め毎に削ぎ落していく。

「ちゅぱっ、じゅるっ、ぴちゃっ……」
「んっ、はぁっ……。ぐっ……、んぅ、はぅっ……、はぁん、はっ……」
 (コレッ、トォ……。でも、あなたの唾が、こんなに……、甘く感じられるのは、どうして……?)

 この場に鏡がなかった事は、本当に幸いであったと言うより他はない。それ程までにコレットの巧みな舌使いに攻略されたシェリアの顔はとろんと溶け切っており、垂れ下がった目尻は未知の快楽に萌え上がりつつあった。

「クククッ、後一押しって所だな。よし、S-819005010号はそろそろキス責めをやめにして、今度は下の口を解きほぐしてやるといい!」
「じゅるっ、ごくっ……。――ぷはぁっ」

 命令し終えるや否や、コレットは呆気なくシェリアの口へ突っ込んでいたチューブを舌諸共引き抜いてしまい、またがっていた胴体からも立ち退いていく。
 しかし、シェリアへの責めはまだ終わったわけではない。今度は立ち代わるやパンスト兵がシェリアの胸元へ差し迫り、股間部のチャックを徐に摺り下げていくと……。

「クククッ、俺のこいつで、しっかり可愛がってやるぞっ!」
「んっ、んん――っ!?」

 暗闇の中から取り出された「ソレ」はたちまちシェリアの呆けた口元へ埋まるように消えていき、がっちりホールドされた頭へ向けて贅肉の目立つ腰が打ち付けられたのだった。

 (く、臭いっ!? これってまさか、男の人の……!? い、いやぁぁーーっ!!?)
「さぁどんどんいくぜ! そらぁっ!」
「ぐっ、う゛ぇ! がぁっ……!」

 体格に似合わぬ逞しい掛け声と共に、ガンガンとシェリアの喉奥へパンスト兵の肉棒が押し込まれていく。その荒々しさたるや、まるでシェリアの事を消耗品か何かとしか思っていないかの如き気安さであり、あっという間に彼女の美しい顔立ちは汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった。

「お前も手を抜くんじゃないぞっ、S-819005010号!」
「ちゅぱっ、ちゅぱっ、ズズッ……。っん、くちゅっ……」

 パンスト兵が確認するまでもなくコレットは忠実にシェリアのスカートの中へと潜り込み命令を実行しており、上から下からの蹂躙でシェリアを板挟みにしていた。

「うっ、がっ、……おぼっ!? げぇっ……」
 (うぅ……。何で、どうして私がこんな目にっ……!? 男の人のアレを、こんな乱暴に咥えさせられてっ! コレットにパ、パンツを……、舐められなくちゃいけないのっ……!?)

「ズズッ……、んぶぅっ!?」
 (でも……、どうして……)

  ――どうしてこんなに甘く、感じちゃうの……?

 上層の地獄で目を白黒させながらも、下層の愛撫という甘美な蜜によって引き留められる、終わりなき責め苦。その中でシェリアの心はぐちゃぐちゃに壊されていき、そして確かに変わりつつあった。

  ――今まで「経験」がないどころか、男の人とお付き合いもした事ないのに何で……?

 口の中に突っ込まれている物は大きくて、臭くて、苦しくて……、汚らわしいとしか感じない異物でしかないはずなのに、さっきから肉汁のような甘さを同時に感じてしまう……。まるでパンスト兵がさっき言っていたように、もう一人の自分が本当にどこか別の場所で眠っているかのような、不思議な感覚。もしここで選択を間違えでもしたら何もかも、取り返しのつかない所へ消えていってしまいそ――。

「クククッ。いい顔になってきてるぞ、G-190426071号? さぁ、己の感覚に素直になって、俺の下へ戻って、来やがれっ……!」
「がっ、が……、がぁ……。があぁぁぁっ――!?」
 (あっ、あ……、あぁ……。ああぁぁぁっ――!?)

  パアァァァ――

 悪魔の囁きに導かれるまま、シェリアの体から虹色の光が溢れ出す。その輝きは瞬く間に彼女を呑み込んで膨れ上がり、そして……。
 丸太の如きパンスト兵の主砲がその強烈な一撃を喉奥へ叩き込むと同時に、シェリアはエンテレスティアの民としての最期の慟哭を木立の中へ響かせていった……。



…………
……





* Re: テイルズ短編集(2) ( No.9 )
日時: 2018/12/07(金) 23:36:48 メンテ
名前: 牙蓮


 ――人里離れた森の中、人知れず幕を開けた木立の劇場で淫らな水音が響き渡る。それは迷い込んだエンテレスティアの民達によるものなのか、はたまた天帝の定めに背きし不埒な犯罪者によるものなのか……? そのどちらかであればどれだけよかったと胸を撫で下ろす事ができただろう、それ程までに凶悪な存在がこの地でひっそりと目覚めの刻を迎えていた。

「クハハハハッ! どうだ、これでもう覚醒させる要領まで、一気に掴めたぞ! やはり認知の大部分を占める視覚情報は特大のインパクトを放つ切り札として使うに限るようだ。後はその衝撃冷めやらぬ内に、一気に体へ染み付いた快楽を刺激してやればこの通り……。俺様に忠実な『ハイグレドール』の出来上がりってもんだ」
「ちゅぱっ、じゅるっ……、ズズッ……」

 高笑うパンスト兵が仁王立つその目の前で、いやらしい菱形を組んだ変態蹲踞を決める一人の少女の姿があった。つなぎから放り出されたままのペニスをダイヤルで不可分に咥え込んだ上で舐め回し、テカテカの黒レオタードに包まれた両腕は恥骨の前で遠慮がちに上下する。生前は癖毛に悩み、気合いを入れて手入れしていたウェーブヘアーを縮れたポニーテールへと変貌させた彼女の首元ではシェリア・バーンズではなく、「G-190426071号」と書かれたプレートが不規則に揺れ動いていた。

「くっ……、また昇り詰めてきやがった……! おい、G-190426071号。全部受け止めやがれよっ!」
「――ッ!!」

  ――ドピュッ、ドボボボッ!

 言い終わる間もなくパンスト兵のイチモツがみるみる膨れ上がり、シェリアの口内で大爆発を起こす。以前の押さえ付けはパンスト兵の両腕による有機的なものに過ぎなかったのだが、今度は無機質なダイヤルに拘束されており文字通り逃げ道はない。その圧倒的な噴射圧に下品な音を立てながら鼻の穴からは空気が漏れ出し、女の子が凡そ見せてはいけない白目の無様顔でゴクゴクと白濁液を飲み下していった。

「クククッ、久々だがやっぱりお前は最高の便女だな、G-190426071号。よし、S-819005010号は奉仕をやめにして、こっちへ来て整列だ!」

 まるで人を人とも思わない悪魔の所業を、平然とやってのけるパンスト兵の横暴は止まらない。
 先程シェリアを覚醒させるためにスカートの中へ潜り込んだコレットは、未だ忠実に命令を遂行していた。謎の光に包まれ変貌したシェリアの体位が変わったとしてもコレットは執拗に彼女の股間を追い回し、蹲踞の麓でまるで犬が伏せるような情けない姿勢でピッチリハイレグが食い込む極上の黒アワビを堪能し続けていた。
 そんな彼女の努力に報いる素振りさえも見せずに、ただ自分の都合にだけ則った命令を下していくパンスト兵。しかし当のコレットもそんな主人に不満らしい不満を見せる事なく、だらだらと愛液混じりの涎を垂らしたままチンチンの犬芸姿で奉仕するシェリアの隣へ並び直立不動に立ち尽くすのだった。

「しばらくマスクはそのまま開けておけ。久しぶりにお前の声も楽しみたい」
「了解しました、パンスト兵様」

 ゾッとするような抑揚のない調子でコレットは答えるものの、パンスト兵はまさにこれだとばかりにうんうんと頷く。

「上出来だ。ではそこへ転がっているG-190426071号の核をどこかその辺にでも適当に、捨てておいてくれ」
「ハイグレッ、ハイグレッ」

  ――ぶんっ

 敬礼代わりのハイグレポーズを捧げるや否や、シェリアの背後に落ちていた虹色の石を拾うと力一杯握り締め、森の奥地目掛けて投げ捨ててしまった。以前のコレットを知る者が見れば思わず目を見張るような、弩の如きブレのない弾道。その衝撃には何とか耐えまだ原形を留めていたシェリアの核もこの先何かにぶつかって壊れてしまうのか、はたまた水辺に落ちて泥のベッドへ沈み込んでしまうのか……。いずれにしても、石とシェリアが再び巡り会う機会は二度と訪れそうにもない、今生の別れであった。

「クククッ、これでG-190426071号も俺の軍門から逃れる術はなくなったわけだ」
「――ッ!!」

  ――ぶびゅぅぅっ!

 ブルッと自らの言葉に酔いしれたパンスト兵が腰を振るわし浮かせた直後、シェリアの鼻から情けない音と共に白い鼻水が噴き出してハリのある胸元の膨らみを汚していく。

「さぁ、これでいよいよ始められるぞ、S-819005010号に、G-190426071号! 封印されし我らの同志を助け起こし、祖国を取り戻すための戦いが! 俺達でこの造られた世界を秘密を暴き出し、パンスト兵の楽園を取り戻すための戦団、『ハイグレの園解放戦線』の旗揚げだぁっ!」
「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」
「――ッ! ――ッ! ――ッ!」

 高らかに拳を突き上げて吼える支配者・パンスト兵に、無感情な瞳でがに股を擦り上げるハイグレドール・コレット。そして男根に生温かい呼気をぶつけながらヘコヘコと腰を前後させているのはハイグレドール、又の名をハイグレ便女・シェリア。そのハイグレという名の狂気で結ばれた一人と二体が心を一つに合わせ、世界を揺るがす波乱の幕を切って落とした瞬間であった……。



…………
……





* Re: テイルズ短編集(2) ( No.10 )
日時: 2018/12/07(金) 23:42:23 メンテ
名前: 牙蓮

  そして、数ヶ月の月日が過ぎ……



「――はあぁっ!」

 エンテレスティアの帝都、シャングレイスから見て南方に広がる平原地帯のど真ん中では、未曽有の会戦が巻き起こっていた。普段は荷馬車や名も無き旅人達が行き交う和やか極まりないこの地は今、何万、何十万といった黒装束の戦闘員達による人海の黒絨毯で埋め尽くされている。ぴったりとしたレオタードにフルフェイスマスクというその独特な出で立ち、その様はまるで見る者に世界の終焉を告げし死神の武者葬列を思い起こさせる。
 そんな異形の軍団が帝都へ向け粛々と行軍していく中で、この世界を守る天帝直属の騎士団「白き獅子」達も一糸乱れぬ陣形で必死に奮闘していたのだった。しかし所詮は十万の大軍勢を前に多勢に無勢、絨毯に細糸の如き戦力差で徐々に押し戻され始めている。白と黒、二つの軍勢がぶつかり合う最前列から剣戟と怒号が鳴りやむ事はない。そんな騎士達の戦列に混じり、豊かな黒髪を無造作に纏めなびかせ中古のコートでその豊満な肉体を惜しげもなく披露する、一人の女剣士が駆け巡っていた。

「――裂甲刃ッ!」
「ッ……!」

 容赦なく振り抜かれた斬撃が戦闘員の胸元を捉え、敵は音もなく崩れ落ちる。彼女の名は、ベルベット・クラウ。紅と黒で彩られしその出で立ちは白を基調とした騎士達の中で一際異彩を放っており、その荒々しい戦い方は一線を画していた。

「次っ……!」

 息つく間もなく一人倒せばまた一人、後続に終わりはない。同性のベルベットから見ても恥ずかしい限りのレオタード姿で堂々と前へ進み出て、つるりとしたガスマスク越しの頭では表情もまるで読み取れない。ハイレグの食い込みを厭わず腰を落として漸進し、両腕をただ突き出しただけのファイティングポーズは百戦錬磨のベルベットをして初めてお目にかかる。

「――ッ!」
「甘いっ!」

 しかしその何を考えているのか読みにくい外見とは相反して、彼女らの動きはまるで素人レベル。「D-190561563」と書かれた首の銀板を揺らしながら繰り出す攻撃はまるで止まっているかのようで何とも手応えがなく、難なく回避した後反撃に出る。

「喰らいなさいっ! ――一撃じゃ生温い! 絶破、滅衝撃!」
「――ッ!?」

 右手甲に内臓された刺突刃を渾身の勢いで突き出し、そして間髪入れずに左腕の一撃を――、覆われていた包帯を引き裂き現れ出た、血を滴らせる黒曜石の如き禍々しさを放つ異形の鬼手から繰り出される一撃を――、レオタード痴女の胸元に叩き込む。
 緑のポニーテールを揺らすD-190561563はその撃ち込まれた闘気に抗えずに真後ろ目掛けて飛んでいき、周囲の仲間を巻き込んで倒れる。受け身も何もなく、バタバタとドミノのように崩れ落ちていく後列の戦闘員達。これでは秘奥義を放つまでもなくただ単に蹴り飛ばしてしまえば良かったのではないかと、つい気が抜けそうになってしまうが……。

「なにっ!?」
「――ッ! ――ッ! ――ッ!!」

 気絶した仲間を超え迫る新手は一発、二発とキレのある蹴りでベルベットの急所を的確に狙ってくる。彼女らの履物は凡そ戦場には似つかわしくないハイヒールブーツではあるとはいえ、レオタードやマスク共々いかなる刃、魔法、そして左腕の攻撃でも傷付けられない未知の素材で構成されているので、ひとたび捉えられてしまえば文字通り命取りとなりかねない。
 ベルベットは気合いを入れ直し捨て身で特攻してくるH‐819058982の動きに合わせ、間合いを保ちつつ隙を伺っていく。

「――そこだ! 円抉!――真月!」

 真後ろへ蹴り飛ばすかの如き大振りの一撃が繰り出された直後に狙いを定め、側転からのトリッキーな斬撃で相手の不意を突いて、続けざまにブーツの仕込み刃付きのサマーソルトキックで自慢のマスクを叩き斬る。丈夫なマスクを本当に断つまでには至らなかったものの、顎を捉えられたH‐819058982は動きを止めてひっくり返り、ベルベットは次の敵へと向かっていく。


  「――さすがだな、咎人!」


「!」

 そんな彼女の下へ威勢のいい呼び声が轟き、一人の女騎士が駆け寄ってくる。清廉潔白を地で行く白き装束に身を包みながらも抜群のプロポーションを見せつける腹周り、そして目深に被ったフードに隠れたその素顔……。凛とした佇まいを常に崩さない「白き獅子」の隊長格、ロアーは不適な笑みを浮かべつつベルベットの隣に並び立つ。

「それだけの技量があるのならば、今からでも遅くはない。悔い改めラザリス様の御為に尽くしてはみないか?」
「冗談! 今はただ、あんた達と利害が一致しているから同じ側に立っているだけの事よ。私は、私の世界を取り戻す……。それだけよっ!」

 刹那、それだけを言い残してベルベットが再び斬り込むと、ロアーは独り詠唱に入る。彼女は何も、ベルベットと談笑するためだけに側へ寄ってきたわけではない。戦局を見極め、この手に勝利を掴み取るために……。後列に陣取る術士隊から離れて独り前線で詠唱する訳、それは――。

「! 開けたっ!」
「ゆくぞ! ――虚空より出でし霊光、万物を打ち払わん! ディバインストリーク!」

 ベルベットが飛び退くと同時に手隙な左手を突き出した瞬間、巨大な魔方陣が形成され光の奔流が撃ち出される。極太のレーザーの如き一撃はレオタード戦闘員達を薙ぎ倒し、ロアーの狙い通り突き進む。彼女らの立つ最前線からでも目視できる程の位置にも関わらず、輿に乗って優雅にお気に入りの戦闘員を侍らせた彼女達の総大将、パンスト兵の首を狙ってひた走っていく。

「――クククッ」

  ――バチンッ!

 しかし余裕の笑みを崩さないパンスト兵の思惑通り、後一歩の所で魔術は不可視のバリアによって弾かれてしまい彼に傷一つ負わす事さえできない。

「くっ、この距離からでも破れないかっ……」
「クククッ、まぁ見立ては悪くないがな。でもその程度の火力じゃ俺様の担ぎ手共、『G-190426071号』に『S‐719610481号』、そして『G-10615684号』と『RM‐81901810号』が織り成す多元防御陣を突破なんて、できっこねぇんだよ」

 彼の言う通り、戦場の中において非常に目立っている玉座付きの特製神輿は四人の担ぎ手によって守られている。片や赤毛のポニーテール少女に大人の色香が漂うフルフェイスのハーフエルフ美女、ちょっと臭うもののナイスバディなトロピカルフルーツを揺らす変態に胸も頭もまっ平らな幼児体型と、バリエーションに富んだ顔ぶれがそれぞれの得意術式でパンスト兵を守るべく貢献している。その人選に絶対の自信を持っているのか腰掛けるパンスト兵は場違いにも股間からイチモツを曝け出す始末であり、命ぜられるまま彼の眼前でM字開脚を続けるS-819005010の長髪を巻き付け自慰に耽っているのであった。

「ったく。なんなのよ、こいつら……」
「咎人、来るぞっ!」

 そんな愚痴を零す暇すら与えられず、主人を狙った不届き者を排除すべく女戦闘員達が次々と二人の下へ殺到してくる。大部分は魔物にも劣る戦闘力なれど、時々現れる難敵に注意しながらの攻防では数の不利を覆せず再びパンスト兵の輿から遠ざけられてしまう。

「やはり、我らだけで突破するのは難しいか……!」
「こんな時こそあんたのお得意の術とやらで、何とかできないのっ!?」

 そのベルベットの要望は、ロアーに向けられた物ではない。彼女達が押し戻された戦線から更に下がる事幾ばくか。杖を掲げ援護に走っている後陣の術者達の中で独り佇む、銀髪の少女に向けられたものだった。

「全く、君は本当に愚かだね。君達がそうやって満足に戦えているのも、僕が力場を形成しているお陰だっていうのに」
「ちっ……」

 口答えしつつもベルベットは戦闘をやめ、レオタード痴女達に押し倒された騎士達の下へ走っていく。意識を手放し、奴らに体中をまさぐられた暁にはどうなってしまうのか……。そんな光景をこれまで幾度となく目にしてきただけに、たとえ今だけの味方であろうと簡単には見捨てられない。そんな思考の下、ロアーと別れ再び喰い散らすように敵を蹴散らす傍ら、積もり積もった鬱憤を背後の少女に――、天帝ラザリスに吐き捨て続ける。

「じゃあ、この変態達はあんたの仕業じゃないって言うのっ!? あたし達咎人への見せしめかもって、最初は思ってたんだけど……」
「まさか。こんな木偶人形を、僕が望んで作り出すとでも思っているのかい? あれはかつてこの星を蝕んでいた、『死した人類』のなれの果てだよ」
「なにっ……!?」

 短髪故に一切の個性を失くしたL-90960803が繰り出す手刀と壮絶な鍔迫り合いを演じている最中、ベルベットの首が不覚にも背後へと捩れる。

「君も『ハイグレドール』になりたいのかい? ほら、手元がお留守だよ?」
「ちっ、言われなくてもっ!」

 惚れ惚れする程レオタードを着こなしたL-90960803の剛力に打ち勝つべく、ブーの仕込み刃ツをその脛へ突き立てバランスを崩すと乱雑に左腕の一撃「ヘヴンズクロー」で投げ飛ばす。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.11 )
日時: 2018/12/07(金) 23:43:08 メンテ
名前: 牙蓮


「で、何の事よ。その、星を蝕む『死した人類』の話って……?」
「まぁ、君達人類が知らなくて当然の話だよ。だって、君達は死んでいたんだから……。
 ――はじまりは、ある異物が混入した事からだった。僕も彼らがどこから来て、何者なのかとか詳細までは知らないんだけど、この星に異界の艦船が不時着したんだ。元々そのつもりでやって来たのか、それともやむにやまれず始めたのか……。とにかく、奴らはたった十数人の少数だったにも関わらず、降り立ったその日からこの星を次々と侵略していったんだ」
「侵略? ――せいっ!」
「侵略と言っても、君が思い浮かべているような生易しい物なんかじゃないよ。奴らはこの星にはない洗脳技術で人々を魅了していったかと思えば、決して逆らわない奴隷へと作り変えていったんだ」
「奴隷って、まさかっ……!?」
「そう。この星のエルフよりも更に長命な奴らの手で品種改良されていった結果、君達人類は意志も感情も持たないただの『ハイグレドール』へと貶められたのさ。本来こんな危機に瀕した時、立ち向かうべき世界の意志の代弁者『ディセンダー』も奴らの技術の前には無力で、君達と同じハイグレドールとしての生を強制されてしまった。こうして世界は抗う術を失って、ただ『パンスト兵の楽園』として器を提供するだけの『死んだ星』に成り果てたのさ」
「…………」

 決して手は止めずに戦い続けてはいるものの、ベルベットは言葉を失う。予想だにしなかった、世界の本当の姿。では自分が今抱えている感情は一体何なのか、全く頭の整理がつかないままラザリスの話が淡々と続いていく。

「だから僕が、この世界を代わりにもらってやった。元々世界を生み出す力すら持たない非力な存在だったけれども、死んだ意志を乗っ取るには何とか事足りたんだ。永年の治世に堕落しきっていた奴らパンスト兵に気付かれないよう世界の主導権を奪い取ると、奴らも含め全ての生き物を僕好みに変えるため『心の核(スピルーン)』を世界中の生物へ植え付け改変してやったのさ!」
「魔王炎撃波っ! ――じゃあ、私が今抱えている、この感情って……!?」
「そう。一新した僕の世界、その住民として相応しいように僕が与えた代用品に過ぎない。君達は僕の期待通りに、その英知で再び文明を生み出して世界を育んでくれたんだから、感謝しているよ」
「…………」
「でも、それなのにっ……!!」
「――ッ!?」

 自分の信じてきた物が、偽物でしかなかった。そんな事実にショックを受けていられたのも束の間、今度はラザリスがその幼い容姿に違わぬ不安定さで感情を爆発させる。

「それなのに君達ときたらっ! 生活が上向くといつも争いばかり!! 僕がいつも宥めすかそうとしても、光の神殿やリプリカームを与えたとしても、結局はいつも同じ事の繰り返し! だからもう君達に任せようとはしないで、僕が直接、世界を導くことにしたんだっ!!」
「なるほど……。それが今の『作られた世界』ってわけなのね」
「――だが、それが俺達にもいいように働いてくれたんだよなぁ〜」

 喚き散らして話にならなくなった、幼い天帝ラザリス。その合間を縫って、これまで静観していたパンスト兵がS-819005010の髪を汚しつつほくそ笑む。

「今にして思えば、俺達にもその『心の核(スピルーン)』とやらを植え付けられて、あいつの世界の住人として振る舞わされてたんだなぁ〜。でも、お陰で助かったぜ。あいつが感情のままに大した準備もせず二回目の改変をしてくれたんだから、俺達もこのパンストを取り戻せたってもんだ」

 咎人は元の世界の記憶を持つ者を呼び覚ますばかりか、元の元の世界の記憶を持つ者達さえ呼び覚ましてしまったのだった。その原因を作ったのもまた、相容れぬ存在と争っていた「人」なのだから何と皮肉な事だろう。

「さて、このまま俺達の南西軍と男爵旗下だった同胞達の率いる北西軍、二ヶ所から一気に帝都まで押し切ってみんなハイグレドールに戻してやろうぜっ!」

  『――ッ! ――ッ! ――ッ!』

 パンスト兵の閧の声に呼応して、数多の元人類がレオタードの食い込みラインをビシッ、ビシッと勢いよく擦り上げる。この戦いに負けたら自分達も、侵略者の奴隷となってあんな恥ずかしいポーズを取らなくてはいけないのか……? 圧倒的とも言える敵の一体感と言い知れぬ恐怖心によってすっかり気圧されてしまい、白き獅子の陣形に震えが生じ始める。

「い、嫌よ私っ。あんなハイレグ着る事になるなんて……」
「こんな事ならいっそ、下の毛ちゃんと手入れしとくんだったわ……」

  「――狼狽えるなっ! 我らは白き獅子! ラザリス様をお守りする、誇り高き騎士なん――っ!?」

 瓦解する味方を必死に鼓舞して回るロアーだったが、突如感じた息苦しさに思わず足を止めてしまう。

「何だ、この……。言い知れぬ圧迫感はっ……?」
「あいつのせい、ねっ……」

 次々と騎士達が跪いていく傍ら、ベルベットは這うようにしてラザリスの下へ向けて歩み寄っていく。

「しっかりしなさいっ! あんたはこの世界を守っていくんでしょう!?」
「――ッ!」

 肩を揺さぶり罵るかの如き気迫で浴びせかけた叱責は見事に功を奏し、仮初めの心を守っていた守護領域が再び勢いを盛り返す。

「ふ、ふふっ。君は、本当に愚かだね。僕の事が憎くて仕方ないんだろう?」
「言ってくれるじゃない。確かにあんたの事は殺しても殺し足りないくらいに憎んでいるけれど、今はこの消したくても消せない炎(想い)をくれた事に感謝してあげるわ」

 世界を創造せし者と、世界を破壊せし者。互いに相容れぬ存在ではあるものの、その目は共に侵略という呪縛を越えた先を見据えていた。

「あんたには悪いけど、これ以上戦っても無駄よ。犠牲を増やす前に、さっさと撤退する事をお勧めするわ」
「奇遇だね、僕もそうしようと思っていた所だよ。一応守護領域を形成する護符は持たせておいたとは言っても、北のクロー、ファング隊も苦戦しているだろうからね。
 ――白き獅子! 戦果は充分に挙げたんだから、これより帝都に帰還する! 動ける者はロアーの指示に従って、順次離脱しろ! 戦列は僕が維持する!」
「はっ! 了解しました、ラザリス様。――よし、まずは魔術師の支援の下に陣形を畳み、負傷者から優先的に撤退するぞ!」

 絶大なカリスマ性を誇るラザリスの一声によって、白き獅子達はロアーを筆頭にたちまち交戦から撤退へと変遷していく。

「クククッ。尻尾を巻いて逃げるのはそっちの勝手なんだが、こんな美味しい獲物をみすみす逃すと思ってるのかっ?」
「そうね、私でも逃さす喰らい尽くそうと真っ先に考えるでしょうね。何か策でもあるのかしら?」

 パンスト兵とベルベット、双方から問われラザリスは不敵な笑みを浮かべ答える。

「これまでは獅子達の守りを優先して行ってきたからね。でも――」

  ――ピキッ、ピキピキッ

 騎士達が持ち場を離れた端から、新緑の絨毯に覆われていた大地が結晶に包まれていく。

「げっ、マジかよっ!?」
「これは、『晶化現象』!?」

 かつての世界を知る者にとっては悪夢のような超常現象、結晶がありとあらゆるものを呑み込んで凍らせる「晶化現象」のうねりが巻き起こり、ハイグレドール達が次々と囚われていく。

「待て、止まれっ! 止まれぇっ!? ハイグレドール、停止っ!」

 前線に転がる結晶はさながら、ハイグレドールの青き琥珀群。ここまで折角増やしてきた手駒が再び洗脳されてしまう恐怖に、パンスト兵の言葉にも震えが見え隠れする。

「なるほど、これでまた戦力を取り戻そうってわけね」
「そう簡単にはいかないよ。だって、その為にはまたここまで進軍してこなくちゃいけないからね」
「確かに、それもそうね」
「じゃあ、僕達もそろそろ下がるよ。行くよ、……ベルベット」

 全軍の撤退を見届け、更に戦闘で倒れた戦闘員に加えざっと数千ものハイグレドールを晶化させるという大偉業を終えた後、白と黒、ラザリスとベルベットは帝都目指して勇ましく駆けていった。

 ……洗脳した者を目覚めさせ、また捕えて洗脳していく。支配者達によって繰り広げられる、人類全ての尊厳を賭けた駒取りゲームはまだ、始まったばかりだった。









* Re: テイルズ短編集(2) ( No.12 )
日時: 2019/01/01(火) 01:27:15 メンテ
名前: 牙蓮






     新年ハイグレのご挨拶




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.13 )
日時: 2019/01/01(火) 01:29:54 メンテ
名前: 牙蓮


「――と、言うわけなんだけど……。ミリーナの鏡占術で占ってもらった結果、来年、僕達が元いた世界はちょうどビフレストの暦で一回りした所に当たる、おめでたい年なんだって」
「へぇ〜」
「だ、だから新年はちゃんと厳かな気持ちで迎えて、五穀豊穣のお祈りをしなくちゃいけないんだ……。ここに、そのお祈りの手順や作法をま、まとめてある、から……。しっかり読んで、準備しておいてね」
「はぁ〜、何であたしがわざわざこんなもん読んでまで準備しなくちゃいけないってのよっ!? あんたが今ここで、さっさと教えなさいよねっ!」
「えぇっ!? だ、だって、その、当日までまだ日があるから忘れちゃうかもしれないし……。――それにそんな事、口に出して言えるわけが……、じゃなくてっ! 色々細かい決まりなんかもあったりするから、確認できるようにまとめておいたんだよ」
「あぁ、なるほどね。あんたにしちゃ随分気が利いてんじゃないの」
「あ、ありがとう……」
「まっ、どうせ大晦日は馬鹿騒ぎせずさっさと寝ようって考えてたとこだから、あんたの案に乗ってあげるのも悪くないわ」
「本当!? ありがとう!」
「となれば早速部屋に戻って、一回練習しといてあげようじゃないのっ。あたしが『最高のお祈り』ってやつを折角見せてあげるんだから、覚悟してなさいよ〜」
「う、うん、楽しみにしてるよ……。――あっ、これは僕らの世界にだけ関係する話だって聞いてるから、他の人達には言わないでおいてね」
「分かってるわよ、そんな事! じゃあ、期待して待ってなさいよー!」



 …………
 ……
 …





 そして時は移ろい、鏡士と結晶の世界ティル・ナ・ノーグにも無事、新年最初の夜明けが訪れる……。


 この世の物理空間から切り離されし一種の亜空間である、想像の魔鏡術を極めし者のみが行使できる奥義『仮想鏡界』。その中に佇むミリーナ特製のアジトでは今年も新年を祝う挨拶が至る所で元気に、そして陽気に交わされ賑やかな年越しの刻を迎えていたのだった。

「やれやれ。おめでたいのはいいけど、こうも会う人会う人に続けて挨拶を求められてたんじゃ、折角の有り難みも形無しだね」

 異世界において無事仲間と再会できた喜びにハイタッチを繰り広げる少年少女達に、運命的な出会いに祝杯を上げ羽目を外し気味の紳士淑女達。総勢九十人を越す大所帯となった黒衣の鏡士様ご一同が集うアジトのホールは既に満員御礼を通り越して足の踏み場もない程に溢れ返っており、密かに好評だったバーの如き落ち着いた雰囲気はもはや見る影もない。
 そんな人混みを嫌って彼、コンウェイ・タウは独り新年会の会場を抜け出し、仲間達へあてがわれた個室の連なる長い長い廊下へと避難してきたのだった。

「それにしても、スパーダ君もまた妙な事を頼んでくるね。『まだ起きてこないイリアさんを起こしてきてくれ』、だなんて」

 光度の抑えられた明かりが白壁を哀愁漂う柿色へと仄かに照らし出し、靴音を消すには十分過ぎる上質な赤絨毯。そんな高級ホテルと見紛うような通路を悠然と進みながらもつい、誰にともなくそう独りごちてしまう。
 と言うのも喧騒を避けるべくホールの戸口へ差し掛かった刹那、雑踏の中から歩み寄ってきた旧知の友人達がどうしても思い出されてならない。この宴会に血が騒ぐのか顔を赤くし腕まくりまでしている双剣の騎士スパーダ・ベルフォルマに、彼の後ろでいつにも増してうじうじと目を合わせようとしない覇者の系譜ルカ・ミルダ。彼らは半ば押し付けるようにしてそんな事を言ってきたかと思うと、去り際のコンウェイだけを残して瞬く間に人混みの中へ消えて行ってしまったのだった。

「はぁ……。こういうのはいつもルカ君の役割じゃないか、まったく……」

 とは言っても、あの様子では到底役目を果たせなかっただろうと嘆息するしかない。あのまま部屋へ向かっても「新年早々何うじうじしてんのよ、このおたんこルカ!」と叱り飛ばされるがオチだろう。
 彼は一体何にそんなにも怯えていたのだろうか、一抹の不安を抱えつつも目的の場所まで淡々と進み出ていって、双銃の地母神イリア・アニーミの部屋まで辿り着く。

  ――コン、コン

「イリアさん、もう起きているのかい? ルカ君がきみの到着を待ちわびているよ」

 多少の皮肉を込めながら、コンウェイは重厚なオーク材の扉へ向けて語り出す。すると予想外もいい所、まるで寝惚けた様子を感じさせないイリアのしっかりとした返答がたちまち返されてくる。

「コンウェイ……? あんたなら丁度いいわ、新年の挨拶してあげるからさっさと入ってらっしゃい」
「新年の挨拶……?」

 ホールではあんな気安く投げ売りされているというのに、何をそんなに畏まっているんだ……? ふとしたその疑問は突然湧いてきたかと思えば、瞬く間に泡となって掻き消えて……。ドアノブを回すその手は一切留まる所を知らず、焦げ茶色の扉は内側へ向けてそっと押し開けられていく。

「――ッ!?」

 ギィーっという耳障りな音と共に開けた視界は、概ね予想通り。自分の部屋と大差ない机とベッドにクローゼットといった家具類が並び、そして女性用の化粧台が鎮座するシンプルな個室に出迎えられる。
 しかし問題なのが、その机。何の意図があるのか、本来壁際に沿わせてあったはずそれが今は部屋の真ん中にまで移動してきていて、その上には何と家主のイリアが無作法にも腰掛けていて、こちらへ背を向ける形で土下座していたのだった。

「イリアさん、一体何を……!?」
「コンウェイ、すぅ……。――あけまして、おハイグレッ!」

 呆けた挨拶と共に披露されし姿はまるで、悪趣味な『鏡餅』の如し。テカテカとした赤い靴下に包まれ、左右一対に揃えられた足裏がザクロのように輝く、一段目の『紅足餅』。申し訳程度に走る赤い筋に穴を隠すばかりで、ほぼ剥き出しとなった白いお尻がプリンと弾ける、二段目の『白尻餅』。そして最後に尻の割れ目の先へちょこんと乗せられた『青レモンの実』は一体、何の意味があるのだろうか……?

  ――コトッ
    ――ペタ、ペタ

 彼にしては珍しく、あんぐり口を開けたまま瞬き一つできないでいる状態なれど、それに構わずイリアの暴挙は続いていく。
 腰をクイッと浮かせた直後に跳ね飛ぶ『セキレイの羽』印のレモンの奥で、真っ赤なニーハイソックスに包まれた美脚が開かれていく。動く度にきめ細やかな光沢が次々と表情を変える中、ひっそりと影を落とす膝裏の窪みがちょっと色っぽい。
 颯爽と飛び下り否応なく視認してしまうのは馬術で鍛えられた剥き出しの太腿に、綺麗に処理された食い込み激しい股周り。そして腰下へキュートな小皺を細かく刻みながら振り返ると、決して大きくはないが女らしさを詰め込んだ胸元がグイグイと主張してやまない。
 そんな季節外れも甚だしい、しかし見事に着こなされた紅いハイレグ水着姿でイリアはコンウェイを真っ直ぐに見つめ返してくる。

「――今年もよろしくっ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

    ――ビシッ ビシッ ビシッ

 水辺でなくなった途端に、いかがわしいブロマイドのワンシーンにしか見えない破廉恥極まりない格好にも一切臆する事無く、彼女は大股を開いてより食い込んだVラインをビシッ、ビシッと両腕で刻みつけ見る者の脳裏へこれでもかとばかりに焼き付けていく。
 衝撃を通り越して、目の前の異様な光景にもはや笑う事しかできないでいるコンウェイ。ようやくその波が収まった所で一つ深呼吸をして呼吸を整え、今尚変態ポーズを決めたままワクワク顔で見つめてくるイリアへ言葉を選びながら語り掛ける。

「イリアさん、ふふっ。それは一体、何なんだい……?」
「何って、あたし達転生者組が今年やるべき新年の挨拶よ。あんた、聞いてなかったの?」
「新年の挨拶? 今のがそうだったのかい?」
「そうよ。何でも、今年のあたし達はこの世界でいう『おめでたい年』に当たるんだって。だから新年に合わせて赤、白、緑の『三色餅』になって身をしっかり清めた後、神様に感謝して『おハイグレッ!』ってポーズで五穀豊穣をお祈りするって、ルカのやつ、が……!?」
「くくっ、『身を清める』だって? 確かに、真冬にハイレグ姿とは随分『おめでたい』風習だと思うけど、ふふっ……」

 それまでは堂々と説明に合わせて五穀豊穣ポーズを披露していたイリアだったが、コンウェイの態度にわなわなと吊り上げた両腕を震わしていく。

「なるほど……、大体見えてきたよ。大方、いつもの意趣返しとばかりにあの二人にからかわれたんだろう。そう言われてみれば確かにこの所、ルカ君が頻繁に図書室へ通って書き物をしていたり、スパーダ君がこの世界の風習について誰彼構わず質問し続けていたりする姿を見かけたけどね」
「あ、あいつら……!」

 …
 ……
 …………

* Re: テイルズ短編集(2) ( No.14 )
日時: 2019/01/01(火) 01:33:14 メンテ
名前: 牙蓮


『おい、ルカ! たまには俺も協力してやっから、イリアにぎゃふんと言わせてやろうぜ!』
『えぇっ!? でも、そんなの絶対上手くいきっこないし、バレたら一体何をされるか……』
『バーカ。最初から失敗する事なんか考えてんじゃ、何やって上手くいきやしないって。心配すんな、お前にはこの百戦錬磨のイタズラ王、スパーダ様がついてるんだ。新年くらい景気よく、一発かましてやれ!』
『し、新年って……? まさか、お正月の一日目からやるつもりなの!? やるならせめて、エイプリルフールとか嘘ついてもいい日にしとこうよ……』
『エイ、なんだって……? まぁとにかく、そんな見え見えの日にやったんじゃ相手も警戒してて上手く引っ掛かってくれねぇ。浮き足立ってる元旦こそ、いい狙い時なんだよ』
『そうかなぁ……?』
『そんなもんだって! ――で、どうだ? ちっとはやる気になってきたか?』
『う、うん……。折角スパーダが応援してくれてるんだし、僕、頑張ってみるよ!』
『おうよ、それでこそ俺の親友だぜ! ――そんで計画してるイタズラってのがよぉ、こういうでっち上げの挨拶を吹き込んでだなぁ……』
『うーん、それじゃあ突拍子もなさすぎるよ。せめて話に具体性を持たせるため、ミリーナから占ってもらった結果って事にするのはどうかな?』
『さすが頭いいなぁ〜、俺ならコロッとやられちまいそうだ。じゃあいっその事格好もハイレグ水着なんかにしてやって――』

 …………
 ……
 …

 スパーダの悪知恵とルカの細かすぎる計画性、その二つが折り重なって生まれた悪魔の如きやりとりがイリアとコンウェイの脳内にまざまざと思い起こされる。事の子細を思い知った今、イリアの肌はみるみるうちに赤く染まっていき、ハイレグ水着と競うようにメラメラと燃え上がっていく。

「それにしてもスパーダ君、いや、ルカ君の方かな? アスベル君やヒューバート君がよく読んでいる漫画のギャグを挨拶に絡めてくるとはまったく、見事なセンスだね」
「むきーーっ! 覚悟しなさい、おたんこルカァァァァァッ!!」

 その一言で遂にイリアの堪忍袋の緒は導火線へと変じ、大爆発を巻き起こす。出入り口を塞ぐようにして立っていたコンウェイを体当たりで突き飛ばし、無人の廊下をけたたましく駆け抜けていく。

「うっ……!? って、イリアさん!? まさかハイレグ姿のまま行くつもり、って――。はぁ……」

 コンウェイの呼び声も虚しく、弾丸娘はもう既に曲がり角の向こうへと消えて行ってしまった。もちろん何一つ整える事無く、ハイレグ水着姿のままで……。

「やれやれ、人の話を聞かないなぁ……。まぁ、でもこれはこれで一つ見物かな。彼らといると本当に退屈しないよ、ふふっ」

 開けっ放された扉を来た時同様丁重に閉め直してやり、コンウェイは打ち付けた背を二回、三回と擦ると独り波乱のパーティー会場へ優雅に舞い戻っていった。



  ――こうして、羞恥と激動に満ちた「ハイグレ×テイルズ」の紡ぎ出す物語達が今年も幕を開けていく――




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