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* テイルズ短編集(2)

日時: 2019/07/13(土) 16:43:05 メンテ
名前: 牙蓮

自称「ハイグレ×テイルズSS作家」牙蓮が綴っていく短編集、第二段になります。
まだ前スレに余裕はあるのですが、完結前の作品の合間にごちゃごちゃ差し込みたくなかったのでこちらを立てさせてもらいました。(決して、打ち切り前提の措置ではありませぬのでご容赦を……)
扱いとしては前集同様短編での投稿を基本とし、皆様に楽しんで頂ける作品をお送りしていきます♪


  新着

こないだ満員電車絵をスレへ投稿された折、akarikuさんから「密集状態で洗脳されるとか好き」とお聞きしたのでそれをテーマに一作仕上げてみました。
密集状態という属性は私の中で余り重視してなかったので驚きましたが、いざ意識して考えてみるとテイルズでもいい場面が思い浮かび……。
舞台はここ最近続いている、侵略中の一幕を切り取り密集させてみました。
何気に私の小説では初登場のキャラ達も複数出てきますので、どうぞお楽しみください。(ナっちゃんごめん……)

 (注)本作には男性ハイグレ人間が登場します。苦手な方はご注意ください。


  目録

・TOA    鮨詰めハイグレ(New)
・TOZ    変態ハイグレ人間アリーシャの公開脱毛ショー(下)
・TOZ    変態ハイグレ人間アリーシャの公開脱毛ショー(上)
・TORays   新年ハイグレのご挨拶
・TOAsteria ホントノワタシ


 
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* Re: テイルズ短編集(2) ( No.16 )
日時: 2019/05/19(日) 22:43:29 メンテ
名前: 牙蓮


「ふぅ……。『つまらぬ物を斬ってしまった』、なんてな」

 穏やかな陽光降り注ぐ山間いを縫うようにして広がる大地に、どこからか遠く瀑布の水音が猛々しく聞こえてくる。そんな風光明媚な事この上ないレイクピロー高地の一角において、不釣り合いな程無粋な決め台詞が響き渡っていく。この世界は今、そんな暴言が目の前の絶景を台無しにせざるを得ない程の状況に追い込まれているのだった。
 勝ち鬨を上げる彼ら、ハイグレ魔王軍がこの自然豊かな大地グリンウッド大陸へ降り立ってから早半月余りが経つ。かつて大陸の覇権を争っていたハイランド、ローランスという二つの超大国は彼らの圧倒的な技術力の前に早々に首都を明け渡してしまい、主だった街村も次々と彼らの拠点へと作り変えられていく。防衛線を張るような拠点はもうどこにも存在せず、難を逃れた市民達ももはや残り僅か。そんな最終段階を迎えた戦局において魔王軍は機械仕掛けの空飛ぶ白鳥、通称『おまる号』を用いた大規模な残党狩りを仕掛けている最中であり、今し方勝利の快楽に酔いしれているパンスト分隊長率いる一隊もまさにその任を全うしようとしていた。

「まさか、肉弾戦ですら適わないとはっ!」
「やめろ、アリーシャ! ……民達が見ている」

 まるで刀を鞘に納めるかのような動きで腰に手を当て立ちはだかるパンスト分隊長を前に、跪く女騎士二人は唇を噛み締め互いに諫め合う。軽装の鎧を身に纏いハイランド王国の紋章をはためかす彼女らの名はアリーシャ・ディフダに、『蒼き戦乙女(ヴァルキリー)』ことマルトラン。湖上の王都、レディレイクから辛くも落ち延びたこの主従二人は残された民達を護衛しつつ逃亡を図っていたのだが、彼らの一隊に見つかってしまい今に至る。せめて自らが囮となり民達が逃れる間を稼ごうとパンスト分隊長へ挑みかかったのも束の間、彼の手刀によって長槍を真っ二つに断ち切られた今、囮にすらなれなかった未熟さを悔やむ他ない。

「さぁ、これで王手(チェック)だ。騒ぎに乗じて幾人か群れを離れ森に逃げ込んだようだが、我らが『おまる号』から逃げおおせる事など万に一つも不可能! ――さて、麗しき女性騎士達よ。人間としての生に、未練はないかな?」

  チャキッ

 眼前のパンスト分隊長が、そして逃亡者の一団を取り囲む憎きパンスト兵達が素早く得物を引き抜いて虜囚達へ突き付ける。『ハイグレ銃』と彼らが呼ぶ、あの見慣れない武器で攻撃されたらどうなってしまうのか……。この逃走劇の最中にそれを嫌という程見せつけられてきたアリーシャは愛する国民を守るがため一世一代、なけなしの行動に打って出る。

「た、頼むっ……!」
「お、おいっ!」
「あっ、アリーシャ様!?」

 槍を折られた衝撃に未だ痺れる体を必死に折り曲げ、仇敵に首を垂れて懇願する。

「私はどうなっても構わない! だから、彼らだけはっ……! 民だけはどうか、見逃してやってくれないかっ!?」

 ディフダ家に伝わる業物の膝当てがその体重に押され地中へめり込み、美術品としての価値をどんどん損なっていく。我が身を省みないアリーシャの行動に感涙する者もいれば、目を見開き言葉を失う者達もいる。そして一部にはマルトランを始め、王族としてのプライドを捨てた言動に顔をしかめる者達も……。
 しかし彼女の試みはある意味では功を奏し、敵味方の別なく一同押し黙ってしまう。あるのはただ風音と瀑布、そして時折鳴り響く小鳥のさえずりのみ……。永遠にも思えるこの長い長い沈黙の中、自らの鼓動さえもがプレッシャーとなりアリーシャの心に重くのしかかっていく。そんな気まずい空気を破り行動を起こしたのは他ならぬパンスト分隊長であり、ゆっくり歩み寄ると重々しく口を開いていく。

「おぉ……、何という覚悟かっ! 立場は違えど同じ武人として、そなたの心意気に敬意を評しよう!」

 その意外にも人情味溢れる言葉にアリーシャは恐る恐る顔を上げてみると、まるで舞台俳優の如く両腕を天へ広げたパンスト分隊長と視線が重なる。間近で見てもまるで兵装とは思えない褐色のつなぎに身を包み、彼らが『パンスト』と呼ぶ被り物は視界を遮るばかりでまるで実用性が感じられない。
 そんな出で立ちに一瞬惚けてしまったかと思えば、スッと差し出された右手に引かれアリーシャは否応なく立ち上がる。そして向かい合う、顔と顔。表情が全く読めないのっぺりとした顔面に神経を張り詰めていると、予想だにしない提案が飛び出してきた。

「では、我に与えられし権限も併せて、『ハイグレ魔王軍法第八一条九〇項』に則り、貴殿にチャンスを与えよう!」
「ほっ、本当かっ!?」
「あぁ、本当だとも! 男に二言などない。
 これより我が示す求めに応じ、見事我が親愛なる部下達から承認を得る事ができたのであれば、その願い聞き入れ洗脳の猶予を与えようではないか!」
「…………全く以て、胡散臭い話だな。アリーシャ、ここは慎重に検討を――」
「あぁ、分かった! 応じよう!」

 三流貴族を思わせる回りくどい言い回しからは表面上の意味だけでなく、言外の解釈を忍ばせているように感じられて仕方ない。そんな危うさにマルトランはすかさず助言しようとしたが、主は二つ返事で契約を交わしてしまった。

  ――まぁどの道、我らに残された道は二つしかないか……

 ここですぐに洗脳されるか、彼らの道化となって洗脳されるか……。不安は拭い去れないとはいえ、本来この取引自体が存在し得なかったというのもまだ事実。マルトランはそう自らを無理矢理納得させると、その熱意を以て道を切り拓いてみせた愛弟子の判断に全てを賭ける決意を固める。

「ならば、この私もどうか、その『求め』とやらの頭数に入れて頂けないだろうか?」
「せ、師匠(せんせい)!?」
「案ずるな。民達を守りたいという想いは、お前と同じだ。――どうだ、人数が多いに越した事はあるまい。お前達にとっても都合のいい提案だと思うが?」
「うぅむ、何とも美しき師弟愛である事よ……。なぁ、お前達もそう思うだろう?」

 パンスト分隊長の求めに応じ、部下達もハイグレ銃を肩に担いだままパタパタとパンストの脚部分に当たる触角を上下に振り乱す。

「――よし、貴殿の参加を快く認めようではないか!」

 そして大仰に頷きグローブに包まれた右手を差し出す、パンスト分隊長。アリーシャがその手に倣い固い握手を交わした今、契約は確かに成立する。

「聞いての通りだ、我が同胞(はらから)たるパンスト兵らよ! 本日の『狩り』はここまでとし、恒例の『宴』の準備に取り掛かるのだ! 第一班は会場の設営を吟味の上速やかに行い、第二班は迷える未洗脳者共の監視を続けろ! 第三班は先んじて発った第四班と合流し、迷える子羊共を連れ戻せ! その際くれぐれも、『未洗脳のまま捕らえよ』の厳命を忘れるでないぞっ!」

  『ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!』

 パンスト分隊長の号令に対して部下達は彼らの流儀で言う所の最敬礼、――『ハイグレポーズ』で応えるとたちまち行動に移っていく。ある班は班長の指示の下再びおまる号で空を駆けていき、またある班は何やら周囲を見渡しては同僚とひそひそ言葉を交わしていき……。
 そして引き続き包囲網を敷く第二班に見張られる中、パンスト分隊長は仰々しい足取りで再度アリーシャ達へ向き直る。

「――では忠義に篤い亡国の騎士諸君! そなたらにはこれから、我の『求め』に応じてもらうための入念な準備を施さねば、な……」

 そう囁きかける彼の口調はどこか楽しそうでもあり、口元はグイっと歪に捻れる。その様に今更ながらも後悔の念を掻き立てられながら、彼女達は選択権のないまま手を取られ近くの木立へと誘(いざな)われていく。



 こうしてアリーシャ達は、仇敵ハイグレ魔王軍の手に落ちながらも何とか彼らの慈悲に縋る事に成功する。しかしこの時、彼女達はまだ知らない。未洗脳者を虫けらとしか思っていないハイグレ魔王軍と交渉するという事が一体どういう事なのか、そしてその結果、どのような結末がもたらされるのかという事を……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.17 )
日時: 2019/05/19(日) 22:48:19 メンテ
名前: 牙蓮


  ピィィィィ――

 天高く権勢を誇っていた太陽も時の移ろいには逆らえず、家路へと急ぐイズチヒバリの鳴き声と共に山の向こう側へ消えていく。そんな山岳地帯特有の早い宵が迫りつつあるレイクピロー高地の一角において、かつてない宿営地が異様な装いを以て展開されていた。
 原始的に薪を組んで作られた焚き火を半円状に囲むテント群は、色こそ彼らの本拠と同じけばけばしいピンク色をしているもののグリンウッドで使われている代物と大差ないのだから、まだいい。しかしながらそれら一般の軍用備品をまるで付属品だと言わんばかりに脇へ押しやる大仕掛けが、――パンスト分隊長が「我が私財によって生み出されし、唯一無二の特設野外ステージだ!」と自慢してやまない巨大建造物が、おまる号同様異世界の風格を漂わせ鎮座している。
 この世界の人々にとって、そもそもこれだけの施設が組み立て式で設置された事自体、驚きであった。見慣れない金属部品を結合して造られた箱型の外観に、劇場を思わせる高床式の舞台。そして両サイドに舞台袖を伴ったその奥へ張られた真っ黒な一枚板は初めて目にする捕虜達に言い知れぬ不安を抱かせたが、設置した当の本人である部下達パンスト兵は勝手知ったる様子で持参した敷物を広げて腰掛け、束の間の休息を満喫していた。

「いやぁ〜。結局今回もやるんだな、分隊長の小芝居ステージ」
 「正直、さっさと洗脳しちまえばいいのにって思う時もあるけど……」
「でもよ、俺はこの舞台、結構好きだぜ? 酒飲みながら見られないってのが、ちっと残念だけどよ」
 「何言ってるんですか、先輩っ! いくらハイグレ魔王様のお許しを得ているからって、侵略先の現場でこんな悠長な事を――」
「まぁまぁ。固い事言うなよ、新入り。パンスト兵に求められる能力っていうのは何も、ハイグレ銃に頼った洗脳だけじゃないんだぜ?」
 「そうそう。分隊長ってばもうとっくに士官になっててもおかしくないくらいの功績を挙げてるってのに、最前線でこの『宴』をやりたいがために昇進を断り続けてるって話だ。そんなお方の妙技をこんな間近で見られる機会なんてそうあるもんじゃないんだから、楽しんでおかないと後悔するぞ?」
「は、はぁ……」

 許されでもしたらそのまま宴会が始まってしまいそうな団欒具合で、パンスト兵達は談笑を交わしていく。しかしその一方で彼らの喧騒を縫うようにして会場には絶えず、すすり泣く声が響き渡っていた。
 パンスト兵達が腰を下ろす茣蓙と舞台までの間には、一種の空白地帯がある。そこには不可視の魔力結界が展開されており、アリーシャが助命を願い出たハイランドの民達が一人残らず囚われていた。周囲をパンスト兵に囲まれ抵抗する事はおろか、舞台上から目を逸らす事さえ許されない極上の特等席。自分達はこれからどうなってしまうのか? 彼らに連れていかれたアリーシャ様は一体何をやらされるのか? そんなやるせない思いで壇上を見つめる彼らの苦悩を余所に、『交渉』の幕は無情にも切って落とされた……。


  「――待たせたな、諸君! では今日も思いっきり、楽しんでいってくれたまえ!」


 『オオオォォーーーッ!!』
 『うぅっ……』

 舞台袖から颯爽と飛び出し、中央へ躍り出たパンスト分隊長の熱い言葉に対し好対照な声援が一斉に送られる。格好や言動が幾らふざけていようとも、さすがは軍人の集団。その一言が響き渡った瞬間に腰掛ける彼らの私語はぴたりと鳴りやんでしまい、あるのはただ草地に跪かされ視線を固定された囚人達の嗚咽のみとなった。

「うぅむ、やはりこの瞬間に得られる高揚感こそ、何物にも代え難き至福の代物よ……。将官への道を擲(なげう)ち、私財を叩(はた)いてまで特注した唯一無二の舞台において繰り広げられる演目はそう、我にとって――っと。
 いかん、いかん! 前置きが長くなってはまた、舞台袖で転向が完了してしまう」

 わざとらしい咳払いと共にパンスト分隊長がそう呟くと、会場はどっと笑いに包まれる。

「では改めて、不肖このパンスト分隊長が主催の挨拶を簡単に執り行わせてもらおう! 皆知っての通り、この舞台の名は『征野慰問の宴』。命乞いをしてきた未洗脳者共に最後のチャンスを与えてやり、我らが同胞として受け入れるだけの価値があるかどうか……。この命題を己が身を以て証明させる、慈悲深き決戦の交渉台なのだ!
 とはいえ諸君らパンスト兵が、魔王様の訓示を拝聴する時のように肩肘張って見る必要などどこにもない! 命運賭け死力尽くすのは奴ら未洗脳者共の役割であり、我らパンスト分隊は舞台名が示す通り支配者としての威厳を胸に秘め、余興として楽しめばよいのだからな……。今回も趣向を凝らした演目を教え込みここでしかない演出に拘っている故、未洗脳者が足掻き奮闘する様をとくと味わい尽くしてくれ!」

  パチパチパチパチ――

 朗々たる演説が終わり統制の取れた拍手が送られると、場の空気は俄かに熱気を帯びてくる。

(果たしてアリーシャ様に、勝算はあるのだろうか……?)

 その一方で捕虜達の心にはそんな疑問がふつふつと湧き上がり、思い悩ませていた。先程のパンスト分隊長の前置きは試される側の彼らから見ればとても言葉通り『同胞として受け入れよう』という腹積もりがあるようには聞こえてこない。元々問答無用に自分達を洗脳しようとしていた相手なのだから、その疑念は尚更……。

(――でも、アリーシャ様なら……!)

 しかし賭けの対象が彼女となれば、期待せずにはいられない。彼女は常に自分達へ寄り添いささやかな陳情まで丁寧に取り上げてくれるばかりか、先日は開催の見込みがないとまで言われた聖剣祭を奇跡的に復活してみせたのだから……!

「――それでは早速、本日の主役にご登壇して頂こう! 本日の主演はな、何とっ!? 愚かにも逃げ回る避難民の護衛任務に勤しむしがない女騎士かと思いきや、先日我らに快く拠点を提供下さったハイランド王家に名を連ねる、まごう事なき王女様! 『姫騎士』との通り名で知られているという、未洗脳者アリーシャ嬢に、その槍の師匠でありながら我の一刀の下に惨敗を喫したハイランド王国軍顧問、未洗脳者のマルトラン嬢だぁーっ!!」
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.18 )
日時: 2019/05/19(日) 22:50:58 メンテ
名前: 牙蓮


  『ウオォォォーーッ!!』

 分隊長の煽るようなプロフィール紹介に、パンスト兵達は最高潮の盛り上がりを見せる。そして悦に浸った笑顔で一歩身を引くパンスト分隊長と入れ替わる形で、二つの人影が夕日に照らされる舞台へと歩み出てきた。

  コツッ コツッ コツッ コツッ……

 歓声の中響き渡る、固い床板を打つ規則的な足音。その姿がシルエットから色を帯びた演者へと移り変わっていくにつれて、会場からは数多の囁きがとめどなく発せられる。

「おっ! 今日は俺の好きなワインレッド色のコーデじゃないかっ!」
 「二の腕までピッタリと手袋で包み込んでくるなんて、分隊長も攻めるねぇ〜♪」
「今回はどんな演目なのか、いよいよ楽しみになってきやがったぜ……!」

「あ、あぁ……」
 「アリーシャ様……、グスッ」
「俺達なんかのために、すみません……」

 色めき立つ階下に怯む事なく先頭を闊歩していくのは、ボディラインを煽情的に曝け出すハイレグ水着を身に纏い、ピチピチの手袋とニーハイソックス、そして妖艶なハイヒールで着飾った赤紫色の少女。その後ろに連なるマルトランが凛とした騎士装束のまま胸を張って歩いているのだから、より一層ハイグレ魔王軍の玩具として貶められている印象を強く刻み込んでいた。

「ククッ、これは甘美な歓迎の嵐であるなぁ……。――それでは勇気ある更衣を敢行してくれたアリーシャ殿下に、登壇のご挨拶をして頂こう!」

  『ワアァァァーーッ!!』

「くっ……」

 ふざけた口上の勧めに流されるまま、アリーシャは檀下の観衆達に正面から向かい合う。自らが蒔いた種とはいえ、人前へ水着姿を――、それも今のグリンウッド大陸においては隷属の証であるハイレグ水着姿を晒す事になって、平静でいられるはずがない。体はガタガタと震え出し今すぐにでも泣き叫びたい一心であったが、木立での打ち合わせで何度も釘を刺されたペナルティを思い出しぎこちない笑顔を顔面に貼り付けていく。

「しっ、親愛なるパンスト兵の皆様っ! 本日は私達のために、このような舞台を整えて下さりありがとうござい、ます……。まだまだ不慣れな不束者ではございますが、精一杯ハイグレ魔王国民としての有用性をお示し致しますので……。最後までどうぞ、お楽しみください! ッ……、はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれ!」

  ――クイッ クイッ クイッ

 何度も練習してきた台本の台詞を一字一句違わぬよう反芻しながら発音し、最後にあの人間としての尊厳を打ち砕く屈辱的な洗脳ポーズを、未洗脳者でありながら自らの意思で以て執り行う。彼らの光線によって民が、仲間達が撃ち抜かれる度に騎士としての未熟さを痛感し、為政者としての無力感に苛まれる元凶であったあのハイグレポーズを、こんな大勢の前で披露する事になるなんて……。
 不手際があればたちまち人質達を洗脳されてしまうという、極限状態。そんな中彼女は恥じらいの気持ちを心の奥底に押し込め、大股を開いて見事なまでに両腕を恥骨の上へと一閃してみせた。

「おぉっ、中々上手いじゃないかっ!」
 「俺もこの舞台で何人もの未洗脳者ハイグレってのを見てきたもんだが、最初からこのレベルの奴って今までにいたか?」
「あんた、きっといいハイグレ人間になれるぜ……!」

「あぁ……。姫様がっ、姫様がぁ……!」
 「畜生……! ちくしょう……!!」
「私達もあんな風な変態に、ならなきゃいけないの……?」

 あからさまなまでに明暗の分かれる、前列と後列における反応。しかしそのどちらもを肘を折り曲げたままの姿勢で受け止め、アリーシャの挨拶はまだまだ続いていく。

「そしてこの度はっ! 我々が山中への逃亡を企ててしまったが為に、いらぬ手間を取らせてしまった。だから今日はその労いも兼ねて、慰問団としての役割を懸命に務めさせてもらおうと思うので……。明日からまた侵略活動に勤しんでもらえるよう、しっかり英気を養ってくれ!」

 『プッ、ククククッ……』

 挨拶の最後は、小噴火を伴った含み笑いに出迎えられる。たとえ台本に用意された台詞を反復しているだけだろうが関係なく、侵略される側の未洗脳者から「侵略のために英気を養え」だなんて言われたら滑稽で仕方ない。
 そんな羞恥刑に耐えるアリーシャを横目にパンスト分隊長が舞台の左端最前列へ悠然と躍り出て、進行の役目を再び担っていく。

「うーむ……。途中から素の口調に戻ってしまった感が見受けられはしたが、概ね魔王軍への敬意に満ちた演説であったと評価できる。勇敢なる貴官らパンスト兵の目には如何映り込んだものか? 彼女の演説に共存の未来への道筋を見出した者は拍手にて応えてもらいたい!」

  ――パチパチパチパチ

 これは……、まずは第一関門クリアと考えていいものか……? 後方から響くくぐもった拍手の破裂音に、捕虜達は束の間の安堵感を覚える。

「それでは満を持して、本日のメインイベントに移ろうと思う! アリーシャ姫、準備はよろしいかな……?」

  ――ピッ

  『――!!?』

 大仰に頷きアリーシャへそう語り掛けたパンスト分隊長が手元の装置へ視線を落とし、何やら操作して起動音のような高音が耳に届くと、背後の黒い一枚板の様相が一変した。突然眩いばかりの光を湛え輝き出したかと思うと、特徴的な縦ロールのサイドテール、そして胸元へ皺を寄せハイレグ水着のテカリを纏った双丘の乳房が浮き出てくる。胸元から頭までの上半身限定ではあるものの、壇上にて前を向き続けているアリーシャと瓜二つな肖像画が瞬間的に掲示されたのだった。
 この光景にレディレイクの民達は驚きを隠せない。そもそもこのような大規模な絵画など街一番の大聖堂ですら見る事さえ叶わず、彼女とつい先程会ったばかりのパンスト分隊がどうやって製作したのか想像だに及ばない。
 そして時を寸刻ばかり置いて、更なる驚愕が彼らを襲う。当初光り輝いてはいるが巨大な絵画だと思われていたアリーシャ像が、まばたきをしてみせたのだ。それも一度とならず何度も、眼前に立つハイグレ人間姿のアリーシャと寸分違わぬタイミングで……。あの像はアリーシャ姫自身なのか? 彼らは人間を複製して、あんな所に閉じ込める事までできてしまうのか……!? 様々な憶測が彼らの頭の中を飛び交い、皆言葉を失ってしまう。

「なんと……! 文明レベルの低い土地だとは思っていたが、どうやら映写や撮影といった概念さえ存在してないと見る」

 囚人達の様子に幾分か人間臭いリアクションを見せたパンスト分隊長が、簡単に装置の説明を行う。

「詳しく説明した所で文明の劣るお前達に理解などできはしないから、現実を直視するがよい! 見ての通り、この舞台に背景として映し出しているのは、ここにいるアリーシャ姫本人を拡大投影した中継映像だ。これで前列の未洗脳者共に限らず、後列のパンスト兵諸君まではっきり見えよう。折角の『征野慰問の宴』だからな、細部に至るまで余す所なく味わい尽くしてくれ給え!」

 彼の説明によって、混乱した場は幾分か落ち着きを取り戻していく。仕組みは分からないものの、彼らにとって当たり前の技術だという発言は未知への恐怖を幾分か和らげてくれる。それに、いくら騒いだ所でアリーシャの処遇が変わるわけではない。そんな諦念の情もあって、民達は動かない頭を並べて二人のアリーシャを見比べていく。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.19 )
日時: 2019/05/19(日) 22:54:02 メンテ
名前: 牙蓮


「それでは改めて……。ご自身の口で、本日の演目を紹介して頂けるかな?」
「あ、あぁ。任せてくれ……」

 パンスト分隊長の求めに応じて硬質なハイヒールが一歩前へ進み出ると、可愛らしい咳払いが一つ会場に響く。

「――皆何となく察しているとは思うが、今の私はまだハイグレ洗脳されていない、ただの未洗脳者のままだ。しかしだからといって、ハイグレ魔王国との友好関係を望む以上彼らの流儀を拒む事はできないし、それを受け入れる覚悟も必要となる。
 だ、だから私は、自らの意思で……。人間としての誇りと尊厳を胸に抱いたまま、彼らと同じ目線に立つため……。食い込みとピッチリを享受するハイグレ人間に、なりきってみせようと思う! ――はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」

 支離滅裂な理論を大真面目な顔で論じ、見よう見まねのハイグレポーズを晒す。

「しかし! ただこうしてハイグレポーズを刻んで『ハイグレ人間になりきった』と宣言するだけなら、愚かな潜入スパイにもできてしまう。そんな浅はかなその場凌ぎでは到底、友誼を交わす事などできないという有難い助言も頂いた。
 よって私はっ……! っ……。パンスト分隊長様の教えに、従…って……! 自らの忠誠心をより分かり易い形で示すためっ、魔王国領内でさえ奇異な目で見られる『変態ハイグレ人間』に、なりきってみせようと思う!」

  『ウオォォォーーッ!!』

 アリーシャの変態宣言に、沸きに沸き立つパンスト兵達。その熱気を背に感じるハイランドの民達の瞳からは自然と、涙が零れ落ちていた。

「不肖この私は、ここ数週間ハイグレ魔王軍の追跡を掻い潜り野山を駆け巡っていたため、身嗜みを整える間さえなかった。そこでパンスト分隊長様が今の私にピッタリな変態嗜好を考案してくださったので、今からそれを実践してみようと思う」

  ――スッ

 ここで一旦言葉を切り、アリーシャは徐に左腕を持ち上げていく。すらりと伸びた肘をテカテカ手袋と共に折り曲げ、頭の後ろに回していって、そして――。

「この通り、腋毛の処理さえも疎かにしたままとなっている。そんな私に相応しい『変態ハイグレ人間』の姿とは、腋毛を処理する度に喜んでしまい、思わずハイグレポーズを刻み続ける『変態性感帯女』なんだっ……!」

 そう言い切ったアリーシャの背後では、はしたなく広げられた左腋がこれでもかとばかりに映し出されていた。一人乗りの飛空艇まで擁する彼らの技術力はここでも遺憾なく発揮されており、可愛らしく落ち窪んだ谷底に生える黄金色の麦畑が遠目にも見て取れる。自らの発した言葉の卑猥さに打ちひしがれ燃え上がっている頬もさることながら、腋毛一本一本まで逃さず映し出した映像そのものが一種の羞恥プレイとなっていた。

「――と、いう事で! 本日の宴は師匠マルトラン卿に脱毛の施術を担当して頂き、変態ハイグレ人間アリーシャの『公開腋毛脱毛ショー』を執り行いたいと思う!」

  『ワアァァァーーーッ!!』
   『分隊長、あなたは神かぁーーっ!?』

 爆発的な熱狂がパンスト分隊長の総括によって巻き起こされ、会場はいよいよ変態ハイグレ人間の痴態を心待ちにする。
 対して静まり返っているのは、前列の未洗脳者捕虜席。虚ろな目をしてその精神が危ぶまれる者も少なからず見受けられるが、前を見据える彼らの目にはきっと見えている……。ハイレグ水着を着るアリーシャの股は、はみ毛などなくちゃんと処理されているという事実が。そして、縦ロールのサイドテールが整えられているにも関わらず腋毛はほったらかしだったという、その矛盾点が……。
 そんな自らの見え透いた道化ぶりも頭の片隅で理解していながら、アリーシャは尚もがに股姿勢を保ち前を向き続ける。その姿は不器用であり、そして危うげなまでに真っ直ぐ……。そんな全てを背負い道を切り拓こうとする愛弟子の姿に、マルトランは声を掛けずにはいられなかった。

「アリーシャ……。本当に、やるつもりなのか?」
「はい……。私もたとえ、このまま彼らの言いなりになった所で洗脳の運命から逃れる事なんてきっとできないんだろうって、薄々感付いてはいます。
 ですが、たとえそれでも……! 『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ』……。私は、そんな追い続けてきた理想を、最期まで民達の前で示したいんです」
「……分かった。もう何も言うまい」
「師匠(せんせい)……。ありがとうございます!」

「クククッ、そなた達は本当に仲良き事だなぁ〜。
 ――さぁそれでは! そろそろ変態ハイグレプレイに移って頂こうかっ!!」

 師弟共に最後の決心が固まったと見るや、パンスト分隊長は二人を後に退けない状況に追い込んでいく。内側に虚無を抱えた瞳が不自然なまでに列を成して見据え、その背後では好色の下卑た視線が引き金を手にせせら笑っている以上、やるしかない。
 マルトランは囃し立てる観客に対し一礼して応えると懐からピンセットを取り出し、ハイグレ姿で腋見せポーズを続けるアリーシャの左脇へ屈み込んで膝立ちで構える。

「では、いくぞ……!」
「は、はいっ。お願いしますっ!」

 互いにこれからやろうとしている事がいかに異常であるか分かっているだけに顔は熱を帯び、視線を合わせる事ができない。

(私は忠孝のために鍛え上げてきたこの手で、愛弟子を辱め散らなければならないのか……!)

 声にならないそんな想いが胸中を傍若無人に暴れ回っていく最中、マルトランは平静を装いゆっくりと震える手で細棒を金糸生い茂る肌へ押し付けていった。そして――。


  グッ……

「んっ、あぁっ……」

  ――プチッ

「はっ、はいぐれっ!」


 敏感な箇所へ異物を当てられた不快感に吐息を漏らしたのも束の間、アリーシャは鈍く広がるつねられた感覚の後に走った痛みに合わせ右腕を鋭く引き上げた。左手は処置の痛みに堪えがっちり首元をキープしたままである一方、スルスルと足刳に沿って下りていく利き手が何とも艶めかしい。そのまるでしゃっくりでもするかのような、思わず嬉しくて痙攣してしまったかのような自然さに会場は大喝采を送る。

  『いいぞ〜、変態ハイグレ人間〜!』
   『ちっちゃなハイグレポーズがとってもキュートだなぁー!』
  『もしかしてお前、本当に感じてるんじゃねぇの〜?』
   『だとしたら俺達ハイグレ魔王国民にも手に負えない、真正の変態だなっ!!』

「クククッ、さぁ稀に見る盛り上がりを見せてくれておるなぁ! マルトラン嬢よ、この狂おしき炎を絶やしてはならぬぞ?」
「あ、あぁ……。了解した」

 予想以上の熱狂ぶりにただただ同情の念を禁じ得ないが、パンスト分隊長の求めには逆らえない。瞳を潤ませ唇を噛み締めているアリーシャの方をなるべく見ないようにしながら、マルトランはステンレス片を無情にも再び走らせる。


  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はぃぐれっ!」

  ――プチッ

「いっ、はいぐれっ!」


 右腕の二の腕は胸の高さで固定して、肘を折り曲げるだけの形で赤紫色の手刀がVラインを刻むという控え目なハイグレポーズなれど、指し示された食い込みは壇下から丸見え。食い込んではみ出しそうなアソコを生で見られ、そして腋毛を抜かれるというプライベートな瞬間を大画面で放映されながら、アリーシャの脱毛ショーは続いていく。


  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はいぐれ!」

  ――プチッ

「はいぐれぇっ!」

  ――ムギュッ

「いぃっ!?
 ――せ、師匠(せんせい)! 今抓んでるのは、そのっ……。お肉、なんですが……」
「すっ、すまんっ! 手元が狂ってしまった!
 ……まさか、こんな経験をする事になるとは思ってもみなかったぞ。他人の腋毛を抜くという行為は存外、難しいものだな」

 先程まで凛と澄ましていた女騎士の慌てぶりに、侵略者達はご満悦そうに笑い声を上げる。「師匠頑張れー」とか「今度あんたの腋も抜いてやるよー」など、マルトランへ向けられた声援が大半を占めるものの、一際大きな声でこの舞台の真価を示す野次が飛んだ。


  『おいおい、変態ハイグレ人間! 腋のお肉自体は性感帯じゃないのかよ!?』


「……っ!? はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!! ――や、やっぱり直接抓まれるのは、格別だな!」

 交渉を打ち切りにし兼ねない一言に危機感を抱いたアリーシャは即座に反応し、心にもない言葉を口走る。その俊敏さたるや目の前に人質を並べられている現状があってこそのものではあるが、傍から見れば考えて演技している自分を作り上げている間さえないように思える。本当に姫様の腋は性感帯に変えられてしまったのか……? 余りにも自然な変態王女の姿を目の当たりにし、一人、またひとりと民達の心は挫けていく。


  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はぃぐれっ!」

  ――ムギュッ

「ひぃっ……。は、はいぐれぇっ!」


 拙い失敗も時折挟みながら、もはや呼吸するかのような気安さで脱毛ハイグレポーズが続けられていく……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.20 )
日時: 2019/05/25(土) 22:54:52 メンテ
名前: 牙蓮






     変態ハイグレ人間アリーシャの公開脱毛ショー(下)




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.21 )
日時: 2019/05/25(土) 22:57:18 メンテ
名前: 牙蓮


  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はいぐれっ!」


 淡々と繰り返される嬌声がやまぬ、山麓に訪れし宵のはじめ。数多の視線に見守られながら、アリーシャの左腋はもはやすっかり丸裸となっていた。


  ――プチッ

「はいぐれっ!」

  ――プチッ

「はいぐれっ!」

「後は……、これか!」

  ――プチッ

「いっ……、はいぐれぇっ!!」


 何度かまさぐるようにしてピンセットが落ち窪んだ平原の中を行き来し、そして一際大きなハイグレポーズと共に最後の獲物を釣り上げるとパンスト兵達から拍手が送られた。高性能な投影技術を通す事で、肌の色と同化しやすいアリーシャの毛色に苦戦していたマルトランの気持ちは皆が共有する所となっていた。一息ついて最後の確認を終えた彼女は立ち上がるなり眉をひそめながらも終わらぬ喝采に片手を挙げて応え、冷ややかな視線を階下へ飛ばしつつ宣言する。

「お前達の要望通りこの教導騎士マルトラン、変態ハイグレ人間の左腋を確かに処理致した。我らが姫君アリーシャ殿下は、この逃走劇の間に七八本もの腋毛を蓄えておられ、合計九六回もの生理的ハイグレポーズを刻まれる事となった。
 どうだ、見てみるがいい。この極上の快楽によって蕩けきった、情けないのぼせ顔を! ツルツルになったであろう性感帯共々、存分に確かめてやってほしい」

  『オオオォォーーーッ!』

 抜ききれずに何度も同じ場所をほじくられたり、大物と言える長大な腋毛を大型ビジョンで拡大して鑑賞する時間を設けられたりと散々な辱めを受けたアリーシャの何とか踏み留まって絶え凌いでいる面構えをマルトランは非情なまでにこき下ろす。最初から台本の読み合わせで分かっていた言い回しではあるものの、やはり極限まで追い込まれている状況下で聞くには唯一の拠り所を奪われたようで心が砕け散りそうになる。
 それでも眼前の人民を見やりなけなしの気力を振り絞って、瞳を潤ませながらも笑顔で演目続行の意思を示し続けるアリーシャ。そんな健気な主従の様子に満足気な笑みを浮かべるパンスト分隊長は粛々と、台本に記された司会者の役を演じていく。

「おぉっ! そなたにもこの変態の良さが理解できるのかね、マルトラン卿! ハイグレ魔王国民となれるだけの感性を、そなたも十分に備えていると見るぞ」
「くっ……!
 ――お褒めに与り光栄だ、パンスト分隊長殿……。私としても貴殿らとの友誼、楽しみにしているぞ」
「そうであろうな! 我としても期待しているぞ、教導騎士殿。
 それはそうと、マルトラン卿よ? 友誼を望むのであれば、そなたにもそれなりの誠意を見せてもらおうか」
「……っ!? 何を、言っている……?」

 首を傾け、憎たらしく覆面を歪ませながら投げかけてくるパンスト分隊長の言葉にマルトランは驚き目を見開く。この後は惜しまれつつも左腋を閉じて右腋の処理へ移っていく手筈であり、こんなやり取りなど台本の中になかったはずだ。その静謐な水鏡を掻き乱したかのような狼狽えぶりは支配者を満足させるには申し分のない破壊力を誇り、尚も饒舌に語り掛けてくる。

「なに。そう慌てずとも、ちょっとした憂い事を解消して頂きたいだけだ。我ら全宇宙の覇権を目指すハイグレ魔王国にとって、曖昧な存在はあまり快い物ではなくてな。貴女が先程申した『ツルツルになったであろう』という発言、あれの真偽をはっきりさせてもらいたい」
「真偽だと? そんなもの、どうやって……」
「洗浄して残っていないか、確かめればよかろう? それとも、我々はもう一人腋毛を抜かれて喜ぶ『変態ハイグレ人間』の姿が拝めるのかな……?」
「なっ、それはっ……!?」

 明確な脅しに、マルトランは返す言葉を持ち合わせていない。舞台袖に下がる事すら許されていない現状において、洗浄に使える液体などもはや限られている。
 その意味する所を察してしまったのか、振り返った先のアリーシャまでもが不安げに表情を曇らせている。言葉に詰まりそれぞれが次への行動を起こせないでいる最中、パンスト分隊長はその一瞬の迷いさえ見逃してはくれない。

「ならば……。お前達との交渉は、ここまでのようだな。おい、第二班長!」
「ハイグレッ! ハイグレッ!」

 壇上から呼ばれた彼、左腕の所にクリーム色のラインが一本あしらわれたつなぎを着るパンスト兵がくつろいだ一隊から抜け出し、捕虜達の下へ歩み寄る。

  ――チャキッ

「ひ、ひぃっ!?」

 素早くホルスターから抜き取られ、淡い光を湛え始めるハイグレ銃。そんな死刑宣告に等しい凶器をこめかみへ突き付けられた無辜なる小市民の男性は、唯一動かせる瞳で置かれた状況を確認しては滝のような汗を溢れさせる。

「まっ……、待てっ!!」

 まさに一触即発。全てが崩れ落ちようとするその瞬間、アリーシャは考えるまでもなく声を上げていた。

「師匠(せんせい)! 私は大丈夫ですから、奴らの言う通りやってください。そうしないと、彼が……」
「くっ……」

 一転して小声で囁いている今も、パンスト第二班長の人差し指はまだ引き金に掛かったまま。ここで彼が洗脳されてしまえば民衆はパニックに陥って、舞台続行の見込みなど完全に断たれてしまう。
 できる事ならアリーシャに、こんな事はしたくない。しかし彼女と民と、どちらもを救う夢みたいな方法などこの短期間に思い付くはずもなく、マルトランは再び凛とした騎士の出で立ちを作り声を張る。

「――なるほど、洗浄かっ! 貴殿も上手い事考えるものだなっ。
 では私も、ハイグレ魔王国民としての有用性を示すために、この舌と唾液を以て変態ハイグレ人間の腋を洗浄してみせよう! 生憎と私はまだ、こんな女としてのエチケットまで捨てた変態にはなりたくないのでな」

  『ガハハハハッ!!』

 もはや引き返せぬかに思えた不穏な空気は、マルトランの放った下劣なジョークによって吹き飛ばされた。パンスト兵達は声を出して笑い、あまつさえ腹を抱えて転げ回る者まで出る始末の中、第二班長も銃口を下げて元の場所まで戻っていく。

(すまん、アリーシャ……)

 対してマルトランは沈鬱な面持ちで、要求された芸を行うべく愛弟子と真正面から向かい合っていた。いくらこの場を切り抜けるためだったとはいえ、肉親にも近しい情を持って接してきた彼女を蔑んだ罪悪感は簡単には拭い去れない。そしてその思いは、言われた当の本人こそ……。
 しかしながら、それでも彼女は翡翠のように輝くその瞳でマルトランの事を見返していた。何があっても、信じています。ですから気になさらないでください、とでも言わんばかりに……。
 これぞまさに、積み重ねてきた年月こそが織り成せる業。決して言葉がなくとも互いを思いやる気持ちは確かに届き、戦乙女は静かに跪く。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.22 )
日時: 2019/05/25(土) 23:01:41 メンテ
名前: 牙蓮


「では……、いくぞっ!」
「お、お願いします……」

 二人の騎士が織り成す濃密プレイの気配に背後の哄笑は一転して鳴りを潜め、ヒリヒリとした空気が会場を包み込む。今度はピンセットを懐に仕舞ったまま、端正な顔を左腋へ近付け、そして――。


「ん……、レロッ」
「あっ……」


 脱毛直後で過敏になったアリーシャの腋を、唾液で湿ったマルトランの舌がちょんと小突くように一舐めする。


「レロッ、レロッ、チュパッ……。んぐっ、じゅるっ……、……ピチョッ」
「あんっ、あぁ……。ひぃっ!」


 そこからはもう、決壊したダムから溢れ出る奔流の如き荒々しさで蹂躙されていく。折角掴んだパンスト兵からの好評を手放さないためにマルトランは念入りに舌を這わせていき、上下に、左右に、そして隠れた毛根を掘り起こすようにして柔肌をこねくり回し続ける。その様は文字通り、甲板を掃除するデッキブラシ。抜け毛一本たりとも取り残さないようしきりに喉を鳴らしながら、念入りに少女の腋を味わい尽くしていく。

(せっ、師匠(せんせい)っ!? そっ、そんなに……、舐めないでくださいっ! いくら腋毛は『ハイグレ印の養毛剤』で無理矢理生やされた物でも、清めてない汗や臭いは本物なんですからっ!)

 対するアリーシャもくすぐったさと気恥ずかしさからクネクネと腰を捩らせ、場末のダンサーのように体を激しく振り乱す。しかし、


  『おい、変態っ! お前のアイデンティティはどうしたっ!?』

「あぁんっ。ひゃいっ……! ――はいぐれぇ! はいぐれぇ! はいぐれぇ〜んっ!」


 たちまちパンスト兵からの怒声が飛び、変態ハイグレ人間としての立場を思い起こさせられる。その声に反応し、アリーシャは狙いの定まらない右手を振り上げ闇雲に空を切り裂き、呂律の回らない「ハイグレ」の一語を懸命に唱え続ける。
 その原型を留めないハイグレポーズは決して褒められたものではなかったけれども、この『征野慰問の宴』には相応しい余興であった。Vラインに腕を沿える余裕さえない程に乱れ狂う、真正の変態。腋にむしゃぶりつく師匠の必死さも相まって、彼女達の名演はパンスト兵達の心を掴み大いに盛り上げる事となった。
 そして――。

「んふっ、ズズッ……。――ぷはぁ!」

 最後にねっとりと塗り付けた唾液を吸い上げて、臭いのすり替わった腋からマルトランの頭がようやく離れていく。再び画面に映り出されたアリーシャの左腋はハイレグ水着とはまた違った質感でテカテカと輝いており、生まれたばかりのフォルクエンリスの如きツルツルに仕上がっていた。
 激しい舞を終え項垂れるアリーシャとは対照的に、汚れた口元をハンカチで拭うマルトランの顔はどこか誇らしそう。本当に彼女は、信頼を勝ち取るためだけに腋を舐めたのだろうか……? 一抹の不安を残り少なくなってきた正気を保ちし人民に抱かせながらも、その聞き馴染みのある凛とした声色が恥辱の舞台を艶(あで)やかに彩っていく。

「甘酸っぱい青き理想の日々の味、存分に堪能させて頂いた。
 さて……、どうだろうか、パンスト分隊長殿? アリーシャの左腋にはもう、一本の腋毛さえも残っていないと見受けられるが」
「ふむ、確かにな……。貴殿らも確認してくれ給え」

 促すまま大画面の映像は多種多様なアングルへと次々に切り替わっていき、アリーシャのプライベートゾーンをこれ以上ない程に晒し上げていく。光の加減も加味して全方位からの撮影においても、キラリと光る金糸はもうどこにもない。それは会場のパンスト兵達も確認する所となり、「異議なし」の声が至る所から乱れ飛ぶ。

「――うむ! これにて左腋の脱毛処理は完了したと見なそう! もう一度、人前で晒すには余りに恥ずかし過ぎる変態嗜好を見せつけてくれたアリーシャ嬢に、そしてそんな彼女に劣らず弟子の腋にむしゃぶりついてくれた変態、マルトラン嬢の二人に惜しみない拍手をっ!!」

  『オオオォォーーーッ!!』

 まさにこれぞ娯楽の殿堂と言わんばかりに、割れんばかりの大声援が二人を包み込む。その間に泣き崩れる国民達には申し訳ないと思いながらも、マルトランは光栄だとばかりに結わえた髪を掻き上げ、アリーシャは本物のハイグレ人間であるかのように両腕を足刳に沿えた定型のハイグレポーズを何度も示してみせた。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.23 )
日時: 2019/05/25(土) 23:04:28 メンテ
名前: 牙蓮


「よし! それでは引き続き、右腋の処理に取り掛かっていこうと思う。準備はよろしいかな?」
「はいぐれっ! はいぐれっ!」
「あぁ、任せてくれ」

 もはや二つ返事で了承する、変態主従。冷酷な注文にも動じる事なくアリーシャは股を開いて応え、マルトランもピンセットを取り出して構える。しかし、

「だが、その前にっ! 諸君らに一つ、相談があるのだ!」
「えっ……?」
「なにっ!?」

 突然挟み込まれたアドリブとも言うべきパンスト分隊長の台詞に、彼女達はつい本音を漏らしてしまう。

「確かにこのアリーシャ嬢は、変態ハイグレ人間として左腋の処理だけによって、我らを大いに沸かせてくれた。だが、しかしっ! 果たしてこれまで通りの演目でいいのだろうかっ!?
 このまま同じ事を右腋でも繰り返していたのでは、新鮮味もなく面白味に欠けてしまうのではないかと我は危惧する! 何でもいい! 諸君らもパンスト兵として魔王様よりパンストを授かりし魔王軍の一員であるならば、何か未洗脳者を辱め盛り上がる演出を一つ、提案してみせよっ!」

  『なっ…………!?』

 その言に驚いたのは何もアリーシャ達壇上の演者だけに限らず、のほほんとくつろいでいたパンスト兵一人ひとりであった。一応未洗脳者が逃げ出さないよう見張りの任に就いている状態とはいえ、彼らは上官のお許しに胡坐をかき気を緩めまくっていた。今日の侵略活動はこれでもう終わり。明日からまた頑張ればいいから、束の間のオフを満喫しよう、と……。
 そんな浮ついた心持ちを粉砕するかの如く突如として湧き上がった、資質と能力を問われる査定に関わってきそうな質問。各々が泡を食ったと言わんばかりに居住まいを正し、懐の手帳へ目をやったり隣近所の同輩と言葉を交わしたりと真剣な表情で検討に入る。

「うーん……。舞台上だから定番の『鏡で自分の痴態を拝ませる』ってやり方じゃイマイチ映えないし……」
 「なぁ。この大型ビジョンで投影されてる映像、どうせ後で配信するんだからその時の視聴者プレゼントにするってのはどうだ?」
「バカっ! それじゃあ今ここにいる俺達は何にも楽しくないだろうがっ!」
 「あー、もうさぱらんわい。適当にフルコースの覆面でも追加でお見舞いすればよかろうて」
「あんたなぁ……。よくそんなのでパンスト兵になれたな」

 各所で声は上がるものの、どうしても分隊長に進言するまでの確信を持つ事ができない。そんな中、一人のパンスト兵が勇気を持ってグローブに包まれた右手を高々と掲げてみせた。

「――はいっ!」
「おぉ! そなたは先日配属された、我が隊期待のホープではないか! 何かいい案があるのかね、言ってみよ」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ――では、僭越ながら、提案させて頂きます。先程、その変態未洗脳者は脱毛の結果を『七八本』だったと宣言していましたが、僕にはイマイチ信憑性の高い情報とは思えません。ですから今度は抜いている最中に大声で、変態ハイグレ人間自身に自らの腋毛をカウントさせてみてはいかがでしょうか?」
「なっ……!」

 提案されるまで多少の間があったからこそ、このまま現状維持で済むのではと淡い妄想を抱いてしまった。そんな期待を打ち砕くパンスト兵の次なる凌辱手に、アリーシャはただただ言葉を失い立ち尽くす。

「ふむ……。いささかインパクトに欠ける感は否めないが、中々良きアレンジだと我は思うぞ。元を正せばこうして、人前で行うものではない腋毛脱毛という行為を、自ら数をカウントして観衆に知らせるとは、ククッ……。
 さてこの提案、受け入れて我らに真の慰問とやらを見せてはくれぬかね? アリーシャ姫よ?」
「あ……、あぁ……」

 さしものアリーシャも度重なる罵声と変態行動によって、心の炎は既に風前の灯火となっていた。
 しかし眼前の光景が、楽になるためのたった一言を許してはくれない。上官に真剣な問いをぶつけられ目覚めたパンスト兵達は機敏に場の空気を感じ取り、一斉にハイグレ銃を取り出してその時を待っている。背後の茣蓙から一列に並んで構えられている、死の大波。その様は決して囚われたハイランドの民達からは見えないはずなのに、先程銃口を突き付けられた男性を筆頭に顔を強張らせ大粒の汗を浮かべている姿が見受けられた。

(私でも奴らと対峙した時、あんなに怖かったのに……。戦闘の経験など一切なく、ただ目に見えない気配だけで脅されている彼らの苦しみとは一体、どれ程のものだろうか……?)

 それを察してしまえば、「私を洗脳してくれ」だなんてとてもではないが言えない。アリーシャは弱気になった己に活を入れ、カラカラになった唇を潤しゆっくり口を開いていく。

「――あぁ。私のためにわざわざアレンジして頂き、かたじけない。はいぐれっ。はいぐれっ……。
 では、これよりっ……! 私、変態ハイグレ人間アリーシャの『公開腋毛脱毛ショー』、第二幕を開演したいと思う!」

  ――くぱぁ

 再び張りのある声が会場を鼓舞するように響き渡り、未処理の右腕が指示されるまでもなく持ち上がっていく。

(私は騎士だ……。その剣で市民を護る、騎士なんだ……)

 安請け合いの結果、どうにも引っ込みがつかなくなったしまった心を慰めるように、胸中ではいつか読んだ小説の一節が何度も繰り返されいく。しかしながらその程度で、抱える重荷が和らぐ事など決してない。それでもアリーシャは愛する民達のために、自ら変態となる道を選び続けていく。

「それではアリーシャ殿下の一本一本を、じっくり楽しもうではないかっ! マルトラン嬢よ、位置に着けっ!」
「くっ……。アリーシャ……」

 こうなった以上、パンスト分隊長の号令にマルトランも抗えない。再び膝を折り愛弟子の脇に屈み込みながら、ピンセットを素振りとばかりに二度、三度と開閉させる。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.24 )
日時: 2019/05/25(土) 23:07:31 メンテ
名前: 牙蓮


「本当にいいんだな? では……、いくぞっ!」
「はいっ!」


  ――プチッ

「いっ、いちっ!」


 最初の一本が素早く引き抜かれると同時にピンと伸ばされた左腕が水着のライン際を勢いよく駆け抜け、凛とした声が山々に木霊していく。辺りに陽光がなくなり、鳥や虫達の声までもが鳴りやんできたからこそ、その音は澄んだ響きを保って遠くレディレイクの方まで綺麗に突き抜けた。

(この発言を以て、自分の腋毛は世界中に遍く伝わってしまうんじゃないか……?)

 そんな錯覚を思い起こさせるまでに、アリーシャは孤独であった。故郷を失い自らは何も守る事のできないちっぽけな存在だと痛感させられた直後だったからこそ、その思いは余計に重く感じられた。


  ――プチッ

「にぃっ!!」


 しかしアリーシャは、カウントをやめない。ここでやめてしまえば、本当に何も守れなくなってしまう……! 残された一縷の望みを全力で引き寄せるべく、彼女は理想の騎士としてカウントハイグレポーズを続けていく。


  ――プチッ

「さんっ!!」


  ――プチッ

「よんっ!!」


  ――プチッ

「ごぉっ!!」


 揺らぐ胸の内とは裏腹に、人前で腋毛を抜かれながらもこれは立派な騎士の任務ですよと言わんばかりにキリっとした固い表情でハイグレポーズを刻みカウントしていく、ハイランドの姫騎士。その慇懃なまでの態度と屈服の証であるハイグレ姿、そして腋毛を抜くという行為のバカバカしさがパンスト兵達の琴線に触れていった。

「やべぇな、あの娘。何でまだあんな顔できるんだよ……」
 「全くだな。これぞ騎士の鏡って感じだ」
「でもだからこそ、こっちはグッと来るんだよな……!」
 「あいつがどう堕ちるのか? その過程でどんなおかずを提供してくれるのか……!?」
「それが楽しみ過ぎて、おっ勃っちまうんだよな!」


  ――プチッ

「きゅうっ!!」


  ――プチッ

「じゅうっ!!」


  ――プチッ

「じゅうっ!! いちっ!!」


 ギャラリーが次々と脚の付け根を開放していく最中、アリーシャのカウントハイグレは更なる段階を迎える。語呂を補うため、ポーズの回数を倍にして更に多くのハイグレポーズを刻んでいく。
 息つく間もなく連発されるハイグレポーズに、何かに耐えかねるかの如く罅(ひび)が入っていく騎士の尊顔。顔を赤らめ仰け反るようにしてハイグレポーズを刻むその姿は演技ではない快感を窺わせるには十分の代物であり、奮闘を見守り続けていた人々の心を遂に決壊させる。

「な、なぁあんた達! もう俺をハイグレ人間にしてくれよ!」
 「そうよ! こんな、もうっ……。姫様のこんな姿、見てられないわ!」


  ――プチッ

「にじゅぅっ!! さんっ!!」


  ――プチッ

「にじゅぅっ!! しぃっ!! ――ひっ」


  ――プチッ

「にじゅぅっ!! ごぉっ!! ――はぃっ」

 しかしそんな決死の懇願も、銃を手放した彼らには取り合ってもらえない。パンスト兵達が手にしているのは今や洗脳銃などではなく、反り返った自らのイチモツ……。代わりに返された物は、野獣の如き異界人の咆哮であった。


「この僕が、こんな未洗脳者ハイグレなんかでぇっ……!」

  ドピュッ……


「あの食い込みにっ! お股に直接ぶっ刺してやりてぇ〜!」

  ドピュゥッ……


「ちくしょう、俺は腋だ! あのツルツル性感帯腋マ〇コを犯し尽くして、天国に送ってやるぜぇ〜〜!!」

  ドッピュウゥゥ……


  ――プチッ

「さんじゅぅっ!! はちっ!! ――うぅっ!」


  ――プチッ

「さんじゅぅっ!! くっ!! ――はいっ!」


  ――プチッ

「よっ、よんじゅぅっ!! ――はいぐれっ!」


  ――プチッ

「よんじゅぅっ!! いちっ!! ――はいぐれぇっ!」

  ――プチッ


 爽やかな緑の香りを覆い隠す生臭い臭いが野営地を包み込んで、遂にアリーシャも欲求に呑み込まれしまう。マルトランが次の腋毛に狙いを定める間も、意味もなく繰り返されるハイグレポーズ。これは誰のための劇場だったのか? 何のためのハイグレポーズだったのか? その全てが訪れる闇に吸い込まれていきながら、恥辱の慰安劇場は佳境を迎えていく……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.25 )
日時: 2019/05/25(土) 23:12:18 メンテ
名前: 牙蓮


  ――プチッ

「ひゃくっ!! にじゅぅっ!! さんっ!!」


  ――プチッ

「ひゃくっ!! にじゅぅっ!! しぃっ!!」


  ――プチッ

「ひゃくっ!! にじゅぅっ!! ごぉっ!!」


 もう十数分は続いているだろうか? 途切れる事のないカウンターボイスが淫猥な舞と共に繰り返され、喜色満面の姫君は今や何者であるのか定かではない。


  ――プチッ

「ひゃくっ!! にじゅぅっ!! はちぃっ!!」


  ――プチッ

「ひゃくっ!! にじゅぅっ!! くぅっ!!」


  ――プチッ

「ひゃくっ!! さんじゅぅっ!! はいぐれっ!!」

 一方で祭りの後を思わせる静けさを保つ闇夜の野営地では、パンスト兵がちゃんと股元を閉め兵装を整えた状態で居並んでおり、未洗脳者はもはや喚き疲れて生気のない瞳で壇上の変態を眺めるのみとなってしまった。


  ――プチッ

「ひゃくっ!! さんじゅぅっ!! ごぉっ!!」


「ひゃくっ!! ――」
「ちょ、ちょっと待て……」

 まだ腋へ痛みが走るより前に刻まれようとしたハイグレポーズに対し、マルトランが掠れた声で呼び掛ける。ここまで要領を掴んでノーミスと言っていい精度を誇ってきた彼女から静止を求められたという事はいよいよ、その時が近付いていると思われる。
 気まずい沈黙の間が訪れる中、アリーシャは久方ぶりに手を止める事となった。しかし、これは一体どういう事だろう? 小休止できて気が休まるどころか、足刳を掻き上げたくて無性にムズムズしてくる。

(もっとハイグレしたいっ……! みんなにもっと、私の食い込みを見てもらいたい……!)

 そんな突き上げてくる欲求に腰は自然と前後にスイングし、左手は股元へとにじり寄り手袋とハイレグ水着を擦り合わせるその生地感を楽しんでいた。

「これは……、抜けているな。では、これかっ!」

  ――プチッ

「ひゃいっ!? ――ひゃくっ!! さんじゅぅっ!! ろくっ!! ハイグレッ!!」

 不規則な衝撃が断りも入れずに駆け抜けた今、少女の鍛え上げた体は水を得た魚のようにピクンと跳ね上がる。人工の明かりに頭上から照らし出され、汗の沁み込んだワインレッド色のハイレグ水着が大人っぽい色香を伴い輝く。

「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!」

 渾身のハイグレポーズを繰り出した事で、タガが外れてしまったのか……? そこからはいくらマルトランが静止を呼び掛けようとも、左手だけのハイグレポーズを狂ったように繰り返していた。

「くっ……。待ってろ、アリーシャ。これで、終わらせてやるっ!」

  ――プチッ

「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ――ひゃくっ!! さんじゅぅっ!! ななっ!! ハイグレェ〜〜〜ッ!!!」

 最後の刺激が柔肌へ走った瞬間、右腿を突き刺すかの如きダイナミックなハイグレポーズが絶叫と共に発せられる。その後も立て続けにハイグレを刻もうとするアリーシャへに対しマルトランは飛びつくようにして抱き塞がり、カランと落ちるピンセットの音だけを残して二人は舞台の上へ倒れ込んだ。

「アリーシャ……」
「ハ……、ハイ……」

  『――う、ウオォォォォッ!!!』

 二人の靴底のみが見渡せる状況に観衆は一瞬呆気に取られたものの、すぐさま万雷の拍手が送られる。アリーシャの堂に入った迫真の演技に、マルトランの正確無比なピンセット捌き。そして二人が見せた互いを思いやる師弟愛といった、演目の全てに惜しみない賛辞が送られた。

「いいぞー! アリーシャちゃーーんっ!!」
 「お前こそ正真正銘の、変態ハイグレ人間だぁーーっ!!」
「お前の発案したカウントハイグレ、中々よかったぞ!」
 「あ、ありがとうございます! 僕もお役に立てて嬉しいですっ」

「うむ、うむ! 最後まで鬼気迫る名演であったなぁ〜。それでは脱毛完了の挨拶まで終えて、この場を締めて頂けるかな?」
「は……、ハイグレ!」

 ポンポンとこの分隊長が初めて見せた称賛の拍手に合わせて、アリーシャは高揚した面持ちで答える。抱き起こし剥き出しの肩を支えてくれていたマルトランの手をそっと振り解いて、彼女は独り壇上の最前列へと歩み出ていく。コツ、コツと響くヒールの音に、皆静まり返る。そして二度ばかり挨拶代わりのハイグレポーズを捧げると、両手を頭の後ろで組んで見世物となった両腋を惜しげもなく披露してみせた。

「変態ハイグレ人間アリーシャ、パンスト分隊長様の命により『征野慰問の宴』における演目、『公開腋毛脱毛ショー』を無事演じ切りました。ご覧の通り、皆様の声援のお陰で私の腋マ〇コはツルツルの準備万端に整える事ができております! 左腋七八本、右腋一三七本の脱毛もさることながら、合計四八七回もの変態ハイグレポーズを刻む事ができた私は幸せ者でございます。こんな至福のひと時を与えてくださり、そして最後まで辱め楽しんでくださった皆様に、精一杯の感謝を申し上げます! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!
 ――ふふっ。これで、四九〇回になりましたね……」

 大股を開いて股間を指し示したアリーシャは、妖艶な笑みを湛え会場に語り掛ける。その余裕たっぷりな立ち居振る舞いは恥じらいを押し隠して喋っていた先程までとはどこか様子が異なっており、迷いなど最初からなかったかの如く吹っ切れている。

  ――これは、何かがおかしいっ!?

 誰も指示などしていないにも関わらず、再び両腋を晒し歓声に微笑み返す彼女の仕草を見て直感したマルトランは居ても立っても居られず、愛弟子の下へ駆け出そうとした。だがそれよりも早く、壇下から思いもよらない声援が届けられる。

「アリーシャ様、頑張れっ!」
 「あなたは変態ハイグレ人間なんかじゃない、私達の姫様よっ!」
「あたしにまたもう一度、あの時の笑顔を見せておくれ……」

 死んだ魚のような目をしていた、囚われの民達。しかし彼らの心はまだ、死んでいなかった。自分達を助けるために、敬愛するハイランドの姫騎士があのような辱めを受けたのだと皆分かっている。そしてその彼女がこうして快楽の魔の手に呑み込まれそうになっている今こそ、恩を返す時なのだ……!

「クククッ、無駄な事よ。一度ハイグレに屈した未洗脳者に、そのような呼び掛けを送った所で万に一つの可能性さえない!
 さぁ変態ハイグレ人間アリーシャよっ! この演目を通して、そなたは我らに何を訴えかけたかったのかな?」
「私の、訴え? それは――」

 パンスト分隊長が促すままに口を開くアリーシャの体は、独りでに前屈みになっていった。ピタッと脇に沿わせていた両腕は合わせ鏡のように体の前面で合わさり、そして……。

  ――そして、そこからぴくりとも動かなくなってしまった……

 囃し立てるパンスト兵の声、激励するハイランド民の声が入り乱れる会場は次の行動を心待ちにするばかりでアリーシャの変化に気付く暇(いとま)もない。背後に控えるマルトランは覚悟を決めて目を瞑り、パンスト分隊長は勝利を確信して階下の未洗脳者を哄笑するばかり。
 これで邪魔はなくなった……。喧騒の中独り取り残されたアリーシャの口からは、うわごとのような呟きが次々と漏れ出してきた。

「私は、変態ハイグレ人間……? いや、違う……。
 私は、アリーシャ・ディフダ……。変態ハイグレ人間は虚構の産物であり……、私の成すべき事はもっと、他にある……。
 そう、私は……。民のために、強くあろうと決めた……。そして彼らの刃となり、降りかかる災厄を振り払う――、ハイランドの騎士なんだっ!!」
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.26 )
日時: 2019/05/25(土) 23:16:34 メンテ
名前: 牙蓮

 今まさに振り上げられようとしていた両手は闇を斬り払う刃のように押し広げられ、がに股は直立に変じ背筋を伸ばす。瞳を穢す狂気の色はもうどこにもなく、再び意思の力が宿ったその姿に侵略者達は目を見開いて驚き、捕虜達は歓喜の声を上げる。

「私の訴えは、最初から変わらない。それは逃げ惑う民達の安全を確保し、今後一切の手出しをしないという不可侵協定を締結させる事……! 人の意思を踏みにじり、絶対服従を強要するハイグレ洗脳など、私は認めない。お前達の好きなようには、決してさせないっ!!」
「む、むぅ……。よもや、あの状態からまだ未洗脳者の人格が息を吹き返すとは……!」

 一人ひとりの心を抉るようにして響くアリーシャの演説に対し、パンスト分隊長も驚きを隠せない。しかし、その仕草にはまだ余裕が感じられる。芝居がかった動きで一礼し、迷いない足取りで進み出るとアリーシャと立ち並ぶような形で壇上のセンターへと躍り出てきた。

「この展開は少々意外ではあったが、まだ打つ手はある……。ここは予定通り当初の流れに立ち戻って、最終審判の判定に移ろうではないかっ!
 ――見ての通りだ、親愛なるパンスト兵諸君! アリーシャ嬢の要求は何も変わらず、我らと対等に渡り合うための不可侵協定を結ぶとの事! この主張と先程示してくれた我らの流儀に従いし演目、そして我らに対して向けられた言葉一つひとつを総合して、同胞として迎え入れるに足る価値があるかどうか厳正に判断してほしいっ!」

 会場を抱きかかえんばかりに両腕を開いて語る、パンスト分隊長。その熱量と発言の意味する所から、ここが当初の約束にあった『洗脳の猶予』を得るための大一番であるのだと嫌でも分かる。全ては、この決断次第……。緊張の面持ちで仇敵を見下ろすアリーシャだったが、そんな彼女を出迎えたのは――。

  『……………………』

 ――あれほど熱心に自らを慰み物にしていた一団とは思えない程の、白け切った空白の瞬間だった。

「そんなっ、なぜっ……!?」

 まるで時が止まってしまったかの如く微動だにしない一個分隊に対し、アリーシャは問わずにはいられなかった。沈黙が意味する物は詰まる所、交渉決裂……。何がいけなかったのか? どうすれば友誼が結べたのかっ……? 取り返しのつかない失敗を前に、ハイレグ水着に包まれた体がギュッと締め付けられる。

「クククッ、そう慌てふためくでない。そなたが今妄想しているであろう『結果ありきの不正』など、我らは毛頭働いてはおらぬぞ?
 確かにそなたの演目は素晴らしかった、アリーシャ姫! 我らハイグレ魔王国民から見ても、見事という他ない変態ぶりで熱演であったぞ。そう、我をして召し抱えたいと思わせる程にな……。
 だがな、そなたはどうしても外せない、ある一条件を満たしきれていなかったのだ。それは――、

  『ハイグレ人間である』事……。

 我らは全宇宙の覇権を狙いし、ハイグレ魔王軍。先程もマルトラン嬢に言っていたであろう、我らにとって『曖昧な存在は快く思えない』ものなのだと……。それ故、我らと友誼を結び共に覇道を歩む事ができる種族はたった一つに限られる! それこそがまさに、ハイグレ人間っ!! 洗脳される事を拒みながらも、ハイグレ人間として我らと同じ目線で存在し得る……。それがそなたの望む未来を掴み取る、唯一無二の絶対条件だったのだよ」
「あ……、あぁ……」

 洗脳されながらにして、未洗脳者としての活路を見出すべく戦い続ける。これ程の矛盾が世の中に、存在し得るのだろうかっ!?
 自らの努力で掴み取ったと思われた道筋は、八方塞がりの迷い路へ続いていた。騎士として矢面に立っているのだと信じていた演技も、言葉通り『慰問』のためだけの徒労に過ぎない。追い詰められ肌を晒し、罵られ変態を演じ切る。その全ての心労が今になって襲い掛かり、アリーシャの双眸からは大粒の涙が零れ落ちていく。

「うーむ、うむ! ここに至ってもまだ未洗脳者としての涙を生み落とし、ハイグレ粒子に屈せぬか。そなたの心意気には心底、感服致した! 後で最上級のもてなしを以て出迎えてやる事を約束する故、もうしばしその場にて待たれよ」

  ――スチャッ

 ハイグレ人間姿で首を垂れるアリーシャを労いつつ腰に手をやり、パンスト分隊長は徐にハイグレ銃を抜き放つ。それに合わせ部下達も武装が完了したと見るや、声高らかに非情な命令を口にする。

「これにて、本日の『征野慰問の宴』は交渉決裂と相成った! よって今この瞬間を以て『ハイグレ魔王軍法第八一条九〇項』の効力は消滅し、虜囚はハイグレ人間への転向が義務付けられる。
 我が親愛なるハイグレの勇者達よ、その手に銃を取れっ! 今こそ戦いの刻だぁっ!!」

  『オオォォォーーッ!!』

「そしてまずは、そなた! 本日の宴を盛り上げし壇上の騎士殿に、先陣を栄誉を与えよう!」
「!? ぬあぁぁぁーーーーっ!!」

 ハイグレ銃を一斉に天へ突き刺さんがばかりに掲げ、鬨の声を上げるパンスト兵達。その雄叫びに混じって轟く、マルトランの苦悶に満ちた声がアリーシャの耳に届けられる。

「せっ、師匠(せんせい)っ!?」

 顔を上げ振り返った先では、赤青に点滅する光の中で敬愛すべき師匠が両手両足を広げ苦しんでいる。助けなければと思っても、もはやどうする事もできない。ただその最期を見届ける事しかできないでいるアリーシャの目の前で、彼女が纏っていた衣服は跡形もなく消えていき、そして――。

「ぁぁぁーーー。――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 その時間はほんの数秒程であっただろうか? 光線から解放されたマルトランは颯爽と壇上へ降り立ち、アリーシャに変わり果てた姿を見せつける。物心ついた頃から見慣れている綺麗な縦ロールの長髪を振り乱し、大股を開いて掻き上げる。ロング手袋にニーハイソックス、ハイヒール、そして豊満なボディをはしたなく晒し上げるハイレグ水着と、コバルトブルーの色合いだけが唯一異なっている哀れな出で立ちで彼女は一介のハイグレ人間へと貶められていた。

「さすがに支給品のハイグレ銃で変態ハイグレ人間には転向させてやれなかったが、これで『ハイグレ人間マルトラン』の誕生であるなっ! さぁ、勇敢なるパンスト兵諸君よっ! これより『征野慰問の宴』、第二部の開演であるぞっ!!」

  『ハイグレッ! ハイグレッ!』

 上官からの号令を瞬時に受け取り、パンスト兵達は一斉に引き金を引いていく。

「いやぁっ! やめてぇーっ!!」
 「頼むっ、ハイグレ人間になんてなりたくねぇよ!」

 背後から迫る恐怖に恐慌をきたすハイランドの民を、無慈悲な光線が次々と呑み込んでいく。元々異界の技術によって行動を制限されているのだから、これ程楽な狩りはない。絶望するアリーシャの目の前で愛すべき国民達は続々と、老若男女の別なくハイグレ人間へ転向していく。

「うわぁぁぁっーー、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「いやぁぁぁっーー、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「ちくしょおぉぉぉっーー、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

「あ、あぁ……」

 体中からするすると、力が抜けていく……。このまま砂粒にでもなって消え入りそうな感覚に囚われながら、アリーシャの体は静かに崩れ落ちていく。

  ――ギュッ

「……っ!?」

 しかし、それさえも簡単には許してくれない。振り返り見れば、パンスト分隊長が彼女の腰へ手を回し無理矢理抱き寄せていた。
* Re: テイルズ短編集(2) ( No.27 )
日時: 2019/07/13(土) 16:14:17 メンテ
名前: 牙蓮

「クククッ、まだ転向せぬのだな?」
「…………」
「もう気付いているとは思うが、そなたの体は既にハイグレに蝕まれておる。そなた達が『ハイレグ水着』と呼ぶこのハイグレを始め、手袋、靴下、そしてハイヒールに至るまで、全てハイグレ星域内で作られたハイグレ粒子を宿し一品なのだ。もちろん我らハイグレ粒子を体内に有するハイグレ人間にとっては体機能を促進させる秘薬にも等しい存在なのだが、そなたのような未洗脳者が着用すれば段階的に体内へハイグレ粒子を受け入れざるを得ない秘毒となり得る。
 その毒性はハイグレ単体から手袋、チョーカー、マスクといった装身具を纏う毎に増していき、先日そなたと同じだけの装備品を整えてやった演者は壇上へ上がる事なく転向してしまった。そして我らがハイグレ粒子を生み出し快感に浸る、ハイグレポーズ。その因子に呼び覚まされたハイグレ粒子は活動を活発にさせるのだが、そなたはリハーサルを含め五〇〇を超える数のハイグレを刻みながらも、未だ未洗脳者として抗い続けているのだから実に興味深い!」

 覆面に小皺を寄せ破顔するパンスト分隊長は上機嫌に空いた右手を、アリーシャの右腋へ潜り込ませる。

「――あひぃっ!?」
「だが、既に体の方は抗いきれないようだな。そなたは常時演技のつもりだったのであろうが、ハイグレ粒子は着実に学習を続けている。ハイグレ人間が第一次欲求としてインプットしている、ハイグレポーズ。それと腋毛脱毛という刺激との関連付けを、これだけの多数回、しかも衆人環視の緊張の下で敢行してきたのだから、そなたの腋は既に真の性感帯となっているのだよ」
「そ、そんなっ……!?」
「安心するがよい。そなたの精神力を以てすれば、まだ時間はあるようだ。これから我自らが綿密な調教を手掛け、従来の性感帯はおろか、脱毛を伴った変態ハイグレポーズでしか満足できない真正の『変態ハイグレ人間』に仕立ててやるからなぁ!」
「や、やめっ――ひぃぃっ!? ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 全力でその腕を振り払おうにも、右腋をちょっと抓まれただけで勝手にハイグレポーズを刻んでしまう哀れな体。階下の喧騒は怒号と悲鳴から一定の落ち着きを取り戻し、不揃いなハイグレコールのみが暗がりに木霊する。壇上のスポットライトに照らされ、ハイレグ水着という色とりどりの花を咲かせた野営地で今、アリーシャの新たな苦難の歴史が幕を開ける……。









* Re: テイルズ短編集(2) ( No.28 )
日時: 2019/07/13(土) 16:15:02 メンテ
名前: 牙蓮






     鮨詰めハイグレ




* Re: テイルズ短編集(2) ( No.29 )
日時: 2019/07/13(土) 16:18:45 メンテ
名前: 牙蓮


 自由と解放の証である大空には薄暗い雪雲がどんよりと垂れ込めており、世界は繭の中でじっと目覚めの刻を待つ蚕のようにその試練を耐え凌いでいる。見渡す限り延々と白銀の大地が連なる北限、シルバーナ大陸。この終わりなき雪化粧は険しい山脈の麓へ位置する街に貴族の保養地として発展するための多大な恩恵をもたらしてきたのだが、地元民にとっては同時に悩ましい存在である事は言うまでもない。
 この土地には歓楽地の解放感と共に、曇天特有の息苦しさが同居している。しかしながらそんな彼らの苦悩を尻目に、降りしきる猛吹雪さえも些事に過ぎないとばかりに白翼を輝かせた一機の飛行艇が中空を滑走していく。

「ティアさん、アニスさん! ケテルブルクの様子はどうですか!?」
「――ダメね。カジノやホテル、知事邸の辺りまでくまなく確認してみたけど、どこもハイグレ人間で一杯だわ」
「ふみゅぅ〜。これでマルクトの街や村も全滅って事!? 本当にまだ侵略されてない場所なんて、残ってるのかなぁ……?」

 そう少女が吐き出した絶望的な問い掛けによって、コックピット内は一気に重苦しい空気に包まれる。皆の気持ちを代弁しこの沈黙を作り出した少女――、殆ど黒と言っていい栗毛を耳の上で可愛らしくツインテールに纏め、前掛のついたピンクのワンピースがよく似合うしっかり者の彼女、アニス・タトリンはその腕に抱きかかえたぬいぐるみ、トクナガへ顔を埋(うず)めるようにして溢れ出る気持ちを抑え込む。
 ゴォォーっと鳴り響く低い稼働音は、まるで死神の笑い声のよう。そんな中でもただ一人、最前席で操縦桿を握る褐色の防寒着に身を包んだ少女ノエルは即座に舵を切り、飛空艇アルビオールの機体をケテルブルクの街並みから引き離していく。

(はぁ……。ダメね、私……)

 眼下で輝くリゾート街はみるみるうちに雪雲のベールの中へ溶け込んでいき、世界は灰色一色で埋め尽くされる。もはや不要となった双眼鏡を目元から払い除けるようにして外し、彼女、ティア・グランツは内心でそう呟いた。

(あれくらいの惨状を目にしただけで、こんなに動揺してしまうなんて……。感情を律する事もできなければ、兵士として失格だわ)

 凝り固まった目頭をゆっくり揉み解し、垂れてきた前髪を脇へ流そうとも気分は一向に晴れてこない。普段は睨んでいるようだとも言われる鋭い眼差しも、規律を示す軍服の凛々しさも今はやや鳴りを潜める。
 幾ばくもせぬ内に機体は駆動音をより一段と高鳴らせ、壁を引き裂くかの如き強引さで雪雲の層を突破する。その瞬間視界がホワイトアウトしたかと思えば、一転して広がる眩いばかりの景色。彼女の生まれ故郷では一度も目にする機会などなかった、青空や大海。その何物にも代え難い「生の世界」を実感させる絶景を前に、初めて目にした時の感動が呼び覚まされ幾分か気が楽になる。しかしそれと同時に、どこまでも透き通る「青」という色は彼女の記憶をズキズキと刺激し、胸中で燻る不安を再び燃え上がらせるのであった。

(くっ……! さっきから色鮮やかな物を目にした途端に、あのけばけばしい水着が思い出されて仕方ないわ。
 それに、何故だか分からないけど……。さっきから、ハイレグ水着姿の人々を見る度、ずっと。半年前の旅で出会ったあの、レムの塔に集う無気力なレプリカ達と重なって見えて悪寒が……)

「――ねぇ、二人共」

 そんな思考の渦に囚われそうになっていた矢先、不意に声を掛けられ視線をコックピット内へと戻す。

「これから、どうすればいいのかな……?」

 振り向くと、自分とは反対側の席へ座るアニスが不安そうな面持ちで言葉を発している。

「いきなり『ハイグレ魔王軍』なんて言う奴らが現れたかと思ったら、街のみんなを次々に撃ち抜いていって……。私やティア、それに荷物室へ避難してきた人達は偶然、ダアトまで試験飛行に来てたノエルのお陰で助かったんだけどぉ……。地上に取り残された人達はみんな、あいつらに洗脳されちゃったんだよ!?」
「そう、ですね……。シェリダン、ベルケンドに、バチカル……。ケセドニアやカイツールを経由してマルクトの街も全部見て回りましたけど、どこもハイグレ人間で一杯でした」

 操舵桿を握ったまま口だけで答えるノエルの声は僅かに震えていた。今挙げた街の中には当然、彼女の故郷も含まれている。家族はどうなったのか、同僚達は洗脳されてしまったのか……? かつて起こった惨劇の中でも気丈に振る舞っていた彼女とはいえ、今回は事態の全容が見えないだけに空恐ろしさを感じているのかもしれない。

「もう、生存者は残されていないのかしら? 誰でもいいから、まずは一人でも見つかれば希望が持てるのだけど……」

 そう呟いたティアの頭の中には自然と、六人の姿が思い起こされる。半年前に巻き起こった予言(スコア)とレプリカ、そして大地の在り方について問われた激動の旅路を共にした六人の仲間達。既にその内の三人は故人であるから見つける術はないとして、あの激戦の中を生き抜いた仲間達ならばと儚い期待を抱かざるを得ない。

「ってゆーか! ガイやナタリアならともかく、あの大佐があっさり洗脳されてるなんて思えないんだけど?」
「た、確かにそうね。私も丁度、大佐なら一番可能性があるんじゃないかって考えてた所よ。と言うより、大佐がハイレグ水着着てる姿なんて想像したくないというか……」
「あぁ〜、確かにぃ……」
「ですが、ジェイドさんのいるグランコクマは、さっき訪れた時――」

 盛り上がる二人とは対照的に冷静な声で指摘するノエルに、ティアも表情を引き締め答える。

「えぇ。さっき遠目に見た限りでは、防衛線が引かれていなかった。元々グランコクマという都市は、戦時下になれば要塞と化す城郭都市よ。それがこうもあっさり厳戒態勢を解いていたという事は、既に敵の手に落ちたと考えるべきね」
「でもでも、ピオニー陛下の事もあるし、どこかに隠れてるだけかもよ?」
「だとしても、あの広い帝都を闇雲に探し回るのは危険よ。今はハイグレポーズを繰り返しているだけのハイグレ人間達だって、私達が近寄れば襲い掛かってくるのかもしれないし」
「う〜ん……」
「こんな時こそ焦らず、確実な方法を探しましょう。今の所生き残りは私達だけなんだし、唯一の戦力である私やアニスが倒れたら誰がノエル達を守っていけばいいの――」


  ――ドンッ! ドンッ!


 打開策が打ち出せず議論が熱を帯びていく中、不意にくぐもった衝撃音がコックピット内へ響き渡る。

「なっ、何っ!?」

 敵襲かっ……!? 緊迫した空気が一気に三人の闘争心を駆り立て、少女達は本能のままに戦杖を手に通路へと転がり出る。しかし――、


  ――ドンッ! ドンッ!


 唯一の出入り口であるハッチには何の変化も見られず、再び鈍い衝撃音だけがどこからともなく鳴り響く。まるで地の底から轟いてくる銅鑼の音の如きその咆哮は不可視であるが故の不安を掻き立て、ティアとアニスは険しい表情のまま顔を見合わせる。

「……何の音?」
「さ、さぁ……?」
「――多分、この真下から聞こえてきている感じがしますので、荷物室で何かあったんだと思います」

 首を傾げる少女達とは裏腹に、この船の整備までやってのけるノエルはそう推測した。

「……もしかしたら、さすがに詰め込み過ぎたのかもしれないわね。朝のラッシュ時に乗ったバチカルの天空客車に匹敵する、いや、もしかしたらそれ以上かもしれないくらい、積載制限ギリギリまで乗ってもらったから……」
「あぁ〜、最後はトクナガで『こんにゃろ〜!』って押し込みたい感じだったもんねぇ〜。まぁ巨大化させると天井に引っ掻かっちゃうから実行できなかったんだけど……」

 アニスはそう言って背中に負ったぬいぐるみ、トクナガの頭を掴んでブンブン振り回す。人形士(パペッター)である彼女は自身の音素(フォニム)振動数を暗号キーとして、トクナガを巨大化させ操る事ができる。2mを超す巨躯を以て豪快な肉弾戦を繰り広げるその戦闘スタイルは圧巻の一言に尽きるものの、このような狭い空間においては身動きすら取れなくなるのが玉に瑕である。

「そ、それはともかくとして……。じゃあ私達で下の様子を見てくればいいかしら?」

 彼女の撒き散らした毒には極力触れないようにして、ティアは声を励まし二人にそう提案する。

「そうだね。何かしてあげれる事があるとは思わないけど、喧嘩とかが酷くなったら大変だしぃ〜」
「そうですね。では、よろしくお願いします。その間私は機体の安定に努めますが、次の目的地はどうしましょうか?」
「そうね……。今すぐには決められそうにないわ。だから、なるべく人目につかないよう、中央大海上空辺りを旋回してもらえるかしら?」
「了解しました!」

 ショートカットの金髪を僅かに揺らし、ノエルは歯切れのいい返事で答える。こんな時でもまだ、大空を駆け回る喜びが失われてはいないのは数少ない救いだ。そんな彼女に安心してコックピットを任せ、ティアとアニスは一つ頷き合うと床に取り付けられた金属製の扉を引き開け、そそり立つハッチの中へと身を投じていった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.30 )
日時: 2019/07/13(土) 16:24:38 メンテ
名前: 牙蓮


  ――カンッ カンッ カンッ

 薄暗いアルビオール内部の廊下へ、不規則な金属音が二つ鳴り響いていた。この艦は先行して造られた一号機と共に、創世歴時代の遺産の復元という考古学的知見、音機関研究を目的として製造された試作機であり、乗り心地や快適性にまで配慮された旅客船とは言い難い。鉄板がそのまま壁材となった狭い通路は建設現場を思わせる武骨さを誇っており、赤色の照明灯も何とか歩く事ができるほどの光度しか保っていない。
 そんな中をティアとアニスは軍靴を掻き鳴らし慣れた足取りで進んでいくと、格納されたタラップのすぐ側に控える荷物室の両扉に相対する。


  ――ドンッ! ドンッ!


 駆動音のハーモニーを乱す金属音の二つ目、穿つような打撃音はコックピットでの予想通り眼前の大部屋から聞こえてくる。

「やっぱり、この中からみたいね」
「うーん……。最悪、廊下やハッチにぶら下がってもらうしかないかもだけど、音機関が剥き出しになってる所も多いからあんまり歩き回ってほしくないってノエルが言ってたしねぇ〜」

 ブツブツ文句を言いつつも、アニスは向かって右側のドアノブへ手を沿える。ティアも辺りの安全を確認して反対側の取っ手を掴むと、振り向いて相棒と顔を見合わせた。

「じゃあ、いくわよ」
「りょ〜かいっ! せーっの!」

  ――バタンッ

 閂を外して一斉に扉を開け、鮨詰めになった荷物室を開放する。同時に巨人の息吹よろしく吐き出された、もわっと籠った不愉快な熱気に顔をしかめつつも、二人は外開きの扉の陰から飛び出し口々に声を張り上げる。

「みなさん、お静かにっ!」
「くぉ〜らぁ〜! 暴れても部屋は広がんないんだから、もうちょっと大人しく待っとけこのボ――はぅあ!?」

 開け放した途端、雪崩れるようにしてこちらへ向かってくる人々のうねりに思わず息を呑む。しかし彼女らを真に驚かせたのは、そんな彼らの予想だにしない姿形であった。

「なんで、ハイグレ人間っ!?」

 倒れ込んでくる人々は皆、赤、青、緑……。色鮮やかなハイレグ水着を身に着けている。ここへ逃げ込んだ時には確かにローレライ教団のローブを着込んだ信者ばかりだったはず。それが一人残らずハイグレ人間に転向してしまったという信じ難い光景に、アニスはただただ迫り来る肉壁に対し見呆けていた。
 そこへ――、

「――くっ!」

  〜〜クロア リュォ ズェ トゥエ リュォ レィ

 即座に反応したティアの澄んだ歌声が響き渡る。音律士(クルーナー)である彼女の旋律は譜となって音素(フォニム)を紡ぎ、術の体系を構成していく。そして――、

  ――ガィンッ!

 ユリアの第二譜歌の恩恵である譜術、フォースフィールドが発動し半透明の障壁が生成される。内側から押され伸び切った膜のように、戸口から外側へ膨れるようにして展開したシールドは押し出されるハイグレ人間の波を狙い通り受け止め、アニスを圧殺の危機から救う。

「ティア! ありがとう……」
「えぇっ。でも、まだ押してくるというのっ……!?」

 苦悶の表情を浮かべ術を維持するティアに対し、手助けしようにも通常の譜術士(フォニマー)に過ぎず譜歌を扱えないアニスにはどうする事もできない。

「ってか、そもそも何でこの中の人達が洗脳されちゃってんの!?」
「多分っ……! ここへ逃げ込んできた人達の中に、スパイが紛れ込んでたんじゃないかしら? 混乱に乗じて群衆に紛れ込む、私達神託の盾(オラクル)騎士団情報部でも用いられていた潜入任務の基本よっ……!」
「えぇ〜〜〜!? じゃあ私達って、上手く立ち回って逃げられたっていうよりか、まんまとあいつらの思惑通りに乗せられて――」
「アニス! 詮索も後悔も後よっ! すぐにこの事をノエルに知らせて、着陸を指示してきて頂戴! ハイグレ人間が同乗している以上、アルビオールの中も安全とは言い切れないわ」
「う、うん。分かった!」

 幼いながらも導師守護役(フォンマスターガーディアン)として数々の修羅場をくぐり抜けてきた神託の盾(オラクル)の騎士、アニス。ティアの要請にすぐさま冷静さを取り戻し、今来た廊下を一目散に駆け戻っていく。

「これで何とか、最悪の事態は回避できるといいのだけれど……。後は私が、ここを死守して――うぅっ!?」

 そう呟き己に活を入れようとしたのも束の間、再び押し寄せる人海の荒波にティアは呻き声を抑えられない。いくら半年前の動乱によって大気中の音素(フォニム)が減少傾向にあるからといって、人々を押し留める障壁を張り続ける事くらい造作もないはず。しかしその浅はかな目論見は、ハイグレ人間の非常識さによって脆くも崩れ去っていく。

「何なの、この重圧っ!? まるでグランドダッシャーをひっきりなしに打ち付けられているみたいだわ……!」

 アニスが戻るまでの数分程の間に、中の様子を窺って状況判断の材料にしようとしていたけれども、正直それどころではない。彼らは今も尚、無理矢理術を破らんが如く強引に責め立ててくる。現代の術体系において上級術へ区分される程の強い衝撃、もはや一分たりとて持ち堪えられそうになかった。

「このままじゃ、アルビオールにハイグレ人間がっ……! ――やるしか、ないわね」

 想像される事態は自身の根負けによってハイグレ人間がアルビオール全体へ解き放たれた末、スパイの手によって船内は全滅……。最悪の場合墜落という危険性すら孕む未来を回避すべく、ティアは研ぎ澄まされた碧眼をキッと釣り上げ覚悟を決める。
 腹を括ってからの彼女の行動は非常に早かった。まずは術を維持する手法を変え、第二譜歌に相当するフレーズを幾度となくリピート歌唱し掲げていた戦杖を手放す。その間に素早く左扉を引き寄せ障壁ギリギリまで接近させると、ガーターベルトに仕込んであった投擲ナイフを床へ打ち込み離れていかないよう楔として仮止めする。そしてもう片方の扉も同じように手繰り寄せると、取っ手にもう一本抜き放ったナイフを軽く突き刺し、準備万端。

「――いくわっ!」

 譜歌の合間に一つ息を整え、前だけをひたと見据える。仲間を守るため、そして未来への可能性を繋げるため……。彼女は全神経を最大限まで研ぎ澄ませ、一世一代の大勝負に打って出る。

「はあぁぁぁっ!!」

  ――ブォッ!!

 裂帛の気合と共に全身のフォンスロットを開放し、譜術を極限まで強化する。ティアの体内に宿りし潤沢な音素(フォニム)を受け取った障壁は狂おしいまでの輝きを放ちその勢いを増すと、迫り来るハイグレ人間達を逆に荷物室の中へと押し返し始めた。そして――、

  ギイィィィ――

 当のティア本人は大量の音素(フォニム)を放出し強烈な脱力感に襲われているにも関わらず、後ろ手に扉を掴んで突進する。余りの負担に歌を紡ぐ口端からは泡が零れ落ち、ハイヒールで踏みしめる足取りもどこか覚束ない。しかしそれでも彼女は歩みを止めず、気迫の籠った一歩一歩は次第に確かな成果を顕在化させる。
 張り出していた障壁は今やすっかり真っ平に、いや、逆に荷物室の中へ落ち窪んでいくかの如くハイグレ人間に抗っている。これだけの成果を上げる高出力譜術は強力な武器なれど、術者との距離が少し離れただけでも威力が激減してしまう諸刃の剣。自らと違ってセオリーを超越したジェイドという類稀な才能ならば扉の外から押し返す事もできたであろうが、生憎ティアにはそこまでの才覚はない。その事を重々承知しているからこそ、最後の一瞬まで術を維持するべく……。彼女は迷う事なく、フォースフィールドの張り巡らされた僅かな隙間へと華奢な体を投げ出した。

  ィィィ――、バタンッ!

 直後、確かな手応えと共に頑丈な両扉がピタッと合わさり、放たれた魔の巣窟は再び閉ざされた。その衝撃を以てあらかじめドアノブ付近へ刺されていたナイフがからりと音を立てて抜け落ち、仕込まれていた譜術が発動する。後学のためにとジェイドと共に解析していた、創世歴時代よりいかなる者の侵入をも阻んできた防衛術式、封咒(ふうじゅ)。大地を支えるセフィロトの各所へ施されていた術のように強力な代物ではないけど、これで内側のハイグレ人間達からは決してアプローチできない強力な封印が完成した。

(アニス、ノエル……。後は、頼んだわよっ……!)

 一心不乱に歌い続けた喉には痰が絡まり、思うように音を発せない。三人全員が犠牲になる危険があるのならいっそ、確実に扉を閉ざして残り二人に希望を託した方がより戦略的である。そんな兵士としてどこまでも冷徹な判断を下したティアは、自らを捨て石としてハイグレ人間ひしめく荷物室の中へ障壁諸共消えていったのだった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.31 )
日時: 2019/07/13(土) 16:28:03 メンテ
名前: 牙蓮


「きゃあっ!?」

  ――ドンッ!

 扉が閉ざされると同時に解放していたフォンスロットは遂に限界を迎え、フォースフィールドがバラバラに砕け散る。淡い光を放ちながら雪解けのように消え行く亀甲状の欠片、そしてそれらを乗り越え迫り来る色とりどりの水着に彩られし波濤。態勢を整える間もなくティアは弾け飛ぶゴムのように詰め寄るハイグレ人間達に押され、自らが閉ざしたばかりの金戸へ背中から叩き付けられた。

「うぅっ……。ちょっと、押さないでっ……!」

 唇を湿らせやっとの思いでその一言を吐き出すものの、それ以上の抵抗などできやしない。限界以上の力を振り絞った体はまだガクガクと震えており、両足で立っているのがやっとといった有様。覆い被さるようにして倒れ込んできた男の下で顔を背け、突き刺さる肩甲骨の痛みやムワッと湧き上がる蒸したこの部屋の中で熟成された濃密な臭気に耐えるしかない。

「くっ、このっ……!」

 相手が民間人だと思えば躊躇われるものの、ハイグレ人間ならば容赦しない。少しでも自分から離れる気を起こさせ、防波堤になってくれればとの思いで三度ガーターベルトから隠しナイフを取り出し、毛むくじゃらの太腿に突き立てようとするが――。

「――っ!? きゃあぁっ!?」

 幸か不幸かその瞬間、機体がまるで旋回でもするかの如く急速に右舷方向へ傾いていき荷物室の中を掻き乱す。苦しめられていた圧力が和らぎホッと一息つけたのも束の間、今度は左から流れてくるハイグレ人間達が次々とその体を打ち付けていき否応なく押し流される。
 手にした投擲ナイフはどこへやらスルスルと床を滑っていき、眼前の大扉ももはや波の中……。隅っこの方でなるべく縮こまっていようと安易に目論んでいた思惑は露と消え、気付けば四方をハイグレ人間に囲まれる大海の中へ投げ出されていた。


 「ハイグレッ、ハイグッ……。――あー、もうっ! ハイグレできないったらありゃしないよっ!」

 「うわーん! うわーん!」
  「誰かっ、お願いします! この子にハイグレさせてあげてくださいっ!!」

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
  「ちょっと、旦那ぁっ! あっしらにも少しぐらい、ハイグレさせてほしいでゲスよぉっ!?」
 「うるせぇっ! 俺だって転向後以来、初めてのハイグレなんだっ! 誰にも邪魔はさせねぇっ!!」


 汗ばんだ素肌に絶えず揉まれ人混みを移動していく不快感の中聞こえてくるのは、どれも切羽詰まった怒号ばかり。ハイグレ人間の存在意義たるハイグレポーズ、そのためだったら何だってやる……。そんな歪んだ本性をまざまざと見せつけられ、蒸し暑い部屋の中だというのにどこか寒気がした。

「ハイグレッ、ハイッ……。ハイグッ! チッ……」
「あ、あのっ……!」

 中央部の喧騒から外れ、ようやくぎゅうぎゅう詰めなれど立ち止まる事ができたかと思えば……。今度は隣のハイグレ人間が密集状況も弁えず無理矢理ハイグレポーズを試みるものだから、気が休まらない。
 がに股になれないまでも体の前で交差させた両腕を勢いよく振り上げるものだから、突き出された肘がプルンッ、プルンッと豊満な果実を下から打つ。一定のリズムで繰り返されるそれはいやらしい愛撫のようでもあり、ティアは堪らず声を掛けてしまった。

「こんな狭い場所でそんなに腕を振り上げたら、私や他の人に当たって、その……。胸に刺さって、痛いのだけど?」
「……お言葉ですがね、姐さん。胸の痛みなんかよりも大事な物が、俺達にはあるんじゃないですかい? あんたもハイグレ人間だったら、それくらい分か――」
「わ、私は……!」

 荒々しいポーズとは一転して、諭すように語り掛けてくる男の渋い声にティアは動揺を隠せない。くるりと振り向く長身痩躯の体、軍服に包まれた肢体を見て驚きに見開かれる隻眼の左目。
 このような反応を見せたハイグレ人間が次に何を成そうとするのかは、逃走中嫌と言う程目にしてきた。ティアは咄嗟に両腕を振り上げると緑色のハイレグ水着が張り付く男の体を押し倒し、その反動も利用して行き場のない室内を彷徨う群衆の中へと自ら飛び込んでいった。


 「きゃあっ!?」
  「何しやがる、この屑がぁっ!?」

「ごめんなさいっ。通、してっ……!」

 体をぶつけられ押し退けられたハイグレ人間達から罵声を浴びせられるものの、ティアは一歩でも遠く自身に興味を示した隻眼の男から距離を取っていく。元はと言えばハイグレポーズをする広さを確保できないこの混雑状況が騒動の原因。ティア達二人が立ち退いた事で生じたちょっとしたスペースには今や数多のがに股が突き出されており、追跡を躱すという当面の目的は難なく達せられた。
 しかしふらつく体で駆け出した代償は、早々に訪れる。素足やヒール、それに靴下だけといった部屋履きの人までもが存在する悪い足場において呆気なく踵を取られてしまい、ティアは右足を蹴り上げるようにして背中から無様に転んだのだった。

  ――ドンッ!

「す、すみません! 大丈夫ですか?」

 壁のように頑丈な、それでいて生温かい異性特有の逞しい胸板に受け止められ、思わず謝罪を口にする。

「大丈夫ぅ〜。俺ぇ、ハイグレ擦れるのぉ、大好きぃ〜」

 鬱憤の溜まったこの空間においては余りに不釣り合いな、気の抜けた返事。しかしそんな感想を抱く余裕もあればこそ、次なる非常識がティアの下に襲い来る。

「すりぃ、すりすりぃ〜。すりすりすりぃ〜」
「えっ!? あのっ、ちょっ……」

 突然力強い両腕によって胴回りを掴まれ抱き上げられたかと思うと、右に左に激しく揺さぶられる。それも背後の男性と体を密着させたまま、互いの衣服が擦れ合うその感触を楽しむかのように……。

(ひ、ひぃぃ〜〜〜!? お尻の辺りに何か、固い物が当たって……。これってまさか、男の人の……!?)

 痴漢など可愛い物だと言わんばかりの公然セクハラに断固として対処したいものの、男の手は簡単に振り解けそうもない。両腕も気を付けの姿勢のままがっちりホールドされているので、力を籠めるどころかガーターベルトへ手を伸ばし強硬手段に訴え出る術さえ失われてしまう。
 よく見ればチラホラと、周囲でも抱き合って互いの体を擦り合わせている二人組が見受けられる。ハイグレ人間としての常識においてこれが責められるべき行為でないのだとすれば、助けなど望むべくもない。このままハイグレポーズの代わりとして慰み物にされ続けるのだと絶望しかけたその瞬間、不意に開けていた景色が遮られる。


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.32 )
日時: 2019/07/13(土) 16:31:34 メンテ
名前: 牙蓮


「――っ!?」

 グッと臍(へそ)の辺りを押さえつけられ、嫌な汗が頬を伝う。背後の肉棒とは違った、無機物特有の冷たい感触に戦慄しないはずがない。この肉塊とハイレグ水着だけの世界において、一体何が……!? 恐る恐る自身の腹部へと視線を移してみれば、マジックミストを思わせる灰色の球体が腹にめり込み存在を主張していた。
 ツルツルに磨き上げられたそれは暗がりの中鈍い輝きを湛え、台座に捧げられた宝物を支えるかの如く伸びる円筒状の金属体が殊更異彩を放っている。まるで今は亡き恩師の譜業銃を思い起こさせる、特殊な形状の武器。そんな得物を突き付けひたと見据えてくる男の視線に対し、ティアはゆっくり口を開いていく。

「まさか、あなたが……!?」

 その顔は決して、見慣れたと言える程のものではない。しかしながら共に訓練に励んだ日々、騎士の叙勲を授かりし日の事は鮮明に覚えている。あの頃と変わらない逞しい体に派手な黄緑色の水着を張り付けて、神託の盾(オラクル)騎士団の同輩は饒舌に語り掛けてくる。

「ったくよ。折角任務達成できそうだったんだから、もう一回閉めるんじゃねぇよ」
「ラリー・ヒューズ……。あなたが、紛れ込んだスパイだったのね」
「あぁ、そうさ。ハラマキレディース様から命令されたもんでね。俺達ダアト守備隊は哨戒任務中、パンスト兵様から一足先に洗脳して頂けたんだ。そしてこれから決行する全世界一斉蜂起に向けて好都合な素材だという事で、内側から未洗脳者共を瓦解させるための潜入スパイとして一人ひとり仕立て上げられていったってわけさ」
「くっ……」
「で、その時だ! 処置完了を祝して、有難い訓示を頂いたもんだからよ……。『どこの世界にも最後まで未練ったらしく、魔王軍から逃げ回る生意気なやつがいるもんだからねぇ。だからそういう奴らが面倒な所へ逃げ込まないよう、特に空へ飛んでっちまわないよう十分注意しておきな!』ってな。
 俺はそれを聞いて、すぐにお前達の事が思い浮かんだ。だからこうしてマークしてやってりゃ見事に逃げ込んでくれたもんで、避難民は全滅! あれだけ情報部への配属を願ってたお前がこうして、諜報戦で後れを取るだなんて傑作だなっ!!」
「うっ……。わ、私はっ……!」

 やはり思っていた通り、最初から完全に仕組まれていた。彼の言葉を借りるなら、その道の専門家でありながら見抜けず窮地に追い込まれた自分の不甲斐なさが情けなくて悔しくて堪らない。

「まぁ待て。泣くのは後に取っときな。ハイグレ洗脳して頂けた嬉し涙、って奴にさぁ……!」

 そう芝居がかった台詞でティアを挑発すると、ラリーは凄惨な笑みを浮かべグリップを握る手に力を籠める。

  ――ボゥッ

 引き金に手を触れるや、淡い輝きを放ち始める先端の球体。この輝きに触れてしまったら最後だと分かっているからこそ、死に物狂いで体を振り乱すもののハイグレ人間の拘束はそう簡単には解けない。

「このっ。放しな、さいっ……!」
「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「ハハハッ。特に命じた覚えもないが、まるで未洗脳者の磔だなぁ! まぁこれだけのハイグレ人間を阿鼻叫喚に陥れたんだ。お前には似合いの最期だと思うぜ」
「黙りなさい! 私は、まだ……」
「楽しかったぜ、未洗脳者。お前のハイグレはどんな色になるのか、なぁっ!!」
「きゃあぁぁぁーーーっ!?」

  パアァァァ――

 そして必死の抗言虚しく、薄暗い船倉の最奥にて桃色の大輪が花開く。腹部より迫り来るその衝撃は瞬く間に体全体へと押し広がっていき、ティアはあらん限りの声量で叫び続けた。まるで体の内側へ溶岩を流し込まれたかのよう、とても耐えられない! ほんの数秒に過ぎないであろう時間が数分、いや、数時間にさえも思え、このまま溶け落ちてなくなってしまうのではないかという恐慌に駆られる。しかし、

(――オホホホホッ!)

 どこからともなく、甲高い笑い声が聞こえてきた。これが謂う所の走馬灯、死の世界へ繋がる呼び鈴なのかと思いきや、何かが違う。それは死に行く人間が思い描く妄想などではなく、音律士(クルーナー)としての感覚に訴えかけてくる確かに実在する音。にも関わらずこの絶叫と力の奔流とが交錯する混沌とした世界の中にあっても尚、澄んだ輝きを失わない不思議な調べは一体……?

(――アタシを受け入れなさい。ハイグレにおなりなさい……)

 虚空より届くその呼び掛けは、更に声を大にしてティアの下へと迫ってくる。まるで肉親の慈愛であるかのように、まるで生来の友が送る親愛であるかのように……。

「……あぁ。あなたが、始祖……。ハイグレ魔王、様……」

 無意識のうちに湧き上がるその感情は思考という名のフィルターを簡単にすり抜け、知り得ないはずの言葉を、さも慣れ親しんだ教義の如く滑らかに口走っていた。
 その瞬間、あれ程の苦痛をもたらしていた濁流が一転して緩やかな清流へと変わった。紅蓮の暴風雨は一瞬にして桃色の揺り籠へと転じ、その中をたゆたいし幼子へ新たなる道標が授けられる。それはまさに、迷える子羊達を幾年(いくとせ)もかけて諭し、万物の理の中で共に奏でてきた在りし日の予言(スコア)の如く……。虚無の中投げ入れられた一筋の光に導かれ、ティア・グランツという人物を象る全ての構成要素が一つひとつ丁寧に再構成されていく……。



 ………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.33 )
日時: 2019/07/13(土) 16:33:57 メンテ
名前: 牙蓮


「……ほぅ、ライトパープルのハイグレか。あんま派手なイメージってなかったけど、結構似合ってるぜ」

 眼前の輝きに目を細めながら、ラリーは光線銃を引いていく。これだけの密集状況、腕を動かすだけでも一苦労であり、何とか押し退けた得物は所定の胸元へ戻す余裕もなくそのまま足刳の中へ……。
 そんなせせこましさと格闘する事十数秒、すっかり光度の下がった同輩の体はピチピチの極薄レオタードに包まれていた。

「――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレ人間ティア、洗脳完了しました」

 抱き上げられたまま両脚を無様に折り曲げ、彼女はそう宣言した。未だ自由の利かない体故、正式なポーズは取れないものの硬質な踵が交わるスケルトン仕様のハイヒールに、手袋を奪われた素の指先はまさに生まれ変わった証。先程まで動揺の色を隠せないでいた面差しもすっかり元のキリっとした鋭さを取り戻しており、内面的にもハイグレへの拒否反応はなさそうだ。

「おめでとう、ティア。これでお前も俺達の仲間だな」
「えぇ、あなたのお陰よ。ハイグレッ! ハイグレッ! 私もあなた達と一緒に、早くハイグレポーズしてみたいのだけ――あんっ! ひぃっ!?」

 その自然な語り口は以前、教会内でふとすれ違った時に交わした世間話と何ら変わりない。しかしながらそんな口上の最中、彼女は唐突に首を仰け反らせ艶のある矮声を吐き出したのだった。

「すりすりぃ〜」

 単に洗脳の光で目が眩み呆けていただけなのか、はたまた光線の余波を浴びて滾る体に歓喜していたのか……? いずれにせよ、先程まで動きを止めていた羽交い締め男は再びティアを慰み物に『触れ合い』を再開していく。

「あんっ! なにっ、これっ……!
 ひぃんっ!?
 ――さっきまでと全然、違……!」

 喧騒の中、ラリーの下までキュッ、キュッと擦れ合う音が聞こえてきそうな程、激しい揺さぶり。パンスト兵とはまた違った形の大きな被り物をしたハイグレ男は念願のハイグレ美女を手に入れ気を良くしたのか、更にペースを上げていく。

「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「うあっ、おぉっ! んひぃっ!?
 あっ、いやっ! 感、じっ、てぇ……!
 んっ、んひぃ、んいぃぃっ!! おっ、おふぅっ! うげぇっ……」

 未知の感覚に顔を振り乱して戸惑う、新米ハイグレ人間。普段の彼女からは考えられないくらいに乱れ、舌を突き出し激しくむせ返っていながらもその股布はじんわりと湿っていた。

「すりすりぃ、すりすりぃ〜」
「っ! ぶっ、ぐぅっ! あっ、あぐっ、ひぃぃっ……!」

 だらんと弛緩し人形の如く脚を躍らせる姿を見れば、彼女が水着の触感だけで達してしまった真正の変態である事は一目瞭然。しかし……、

「すりすりぃ、すりすりすりぃ〜」
「あっ、あっ、くっ! こっ、このっ……!」

 ラリー達一般兵からは想像もつかないような修羅場をくぐり抜けてきた、歴戦の勇者である彼女。男も同様にスパンを緩め余韻に浸っていると見るや、その一瞬の隙を逃さず反転攻勢に打って出る。
 その方法は先程までと何ら変わらず、両腕を外側へ押し広げて無理矢理拘束を打ち破ろうとする力業なれど、変化はすぐに訪れる。洗脳前はどこ吹く風とばかりに鉄壁の守りを誇っていた男の両手が俄かに震え始め、傍目にも拮抗しているのだと分かる。そして僅か数秒後、ティアは洗脳の磔を自力で振り解き、尾っぽのように伸びる白濁液を引き連れながらラリーの懐へと飛び込んできたのだった。

「きゃっ!? ごめんなさい、ラリー」
「なに、気にすんな。俺もお前の身体能力がハイグレ人間並みに強化されてるって確認できて、安心したよ」

 とは言うものの、そんな返答も耳に入っているのやら……。彼女は挨拶もそこそこに向き直ったかと思うと、共に果てた男に詰め寄り啖呵を切る。

「いい加減にしなさい! ハイグレ人間の嗜みというものは、それだけじゃないでしょ!?」
「あ〜?」

 対して手隙になった両手をぶらぶらと、体の左右でゆったり揺らしている砂色ハイグレ男から真剣さは感じられない。それでも尚、生真面目なティアは自らのハイグレ観について熱く語っていく。

「確かにあなたのハイグレを擦り合わせたい気持ちも分かるし、実際にやってみて私も気持ち良かったわ。それについては感謝しているし、お尻に刺さってたあなたのオチ〇ポもとても熱くて立派で……。今度は是非、プリップリのザーメンをお口でちゃんと頂きたいなって思ったくらいよ」

 キッと眉を吊り上げハイグレ人間としての務めを果たしているつもりなのだろうけど、可笑しくて仕方ない。先程まであんなに嫌がっていたティアが、ハイグレを擦り合わせてイッていた! その上、訓練兵時代は打ち上げで下ネタを言ってきた相手を完膚なきまでに叩きのめしたという伝説を持つあいつが、ザーメンをごっくんしたいだなんて……!
 スパイとして行動する必要上、未洗脳者の思考パターンが分からなければならない。そのために敢えて洗脳を不完全にし、双方の感性で物事を客観視できる絶妙なバランスを生み出して下さったハラマキレディース様に感謝する他ない。

「でもやっぱり、ハイグレ人間といったらまずはハイグレポーズでしょう!? 少なくとも私はそう考えるわ。己のリビドーに従い理性を律する事ができなければ、ハイグレ人間として失格――きゃあっ!?」
「うおっ!?」

 ドヤ顔で言い放たれる、未洗脳者側から見れば支離滅裂極まりない決め台詞。そんなハイグレの伝道師としての醜態を悪い笑みを湛えて見守っていた最中、不意に世界が反転した。再び封印されてから二度目、今度のは大きい! 一般の客船どころか軍用艦ですらあり得ない空独特の急転舵に、ラリー含め全てのハイグレ人間達が押し流されていく。
 いくら未洗脳者以上の屈強な肉体を持っているとはいえ、不測の事態には弱い。即座に状況を読み解き背後の柔らかい肢体を支えに何とか態勢を立て直そうとするラリーだったが、地に着いたと思った両脚は虚しく空を掻き肉団子の一部と化してしまう。

  ――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!

 そして照明灯が再び天空に瞬いたかと思えば響き始める、歓喜の矮声。淘汰され僅かに生み出された隙間をこれ幸いに、比較的表層にて難を逃れたハイグレ人間達が束の間の楽園を謳歌していた。

「――っ!?」

 スパイとしてたとえ本能が抑制されていようと、やはりハイグレポーズはできるものならしたい。そんなラリーも反射的にハイグレスポットを探していたのだが、潮流に取り残された潮溜まりの如くぽっかり空いた空白地帯を見つけ左足を突き出していた。

「ここだっ! ハッ――」
「ハイグレッ! ハイグッ!? おい、押すなよっ!」

 しかしながら、周りは皆ハイグレ人間。突き出すような距離にいて、間に合うはずがない。誰よりも早くこのチャンスに乗じた一人、人波を押し留めた張本人である恰幅のいい男性のみがたった一回刻めたばかりであり、ラリーやティアを始めがに股を振り上げた群衆は互いの脚を絡ませ合っただけだった。

 「うっ、ニーハイの感覚がっ……」
  「ちょっと、暑苦しい脛毛を引っ付けないでっ!」

「…………」
「まぁ、なんだ、ティア。そんな物欲しそうな顔してても、もう無理だって。またチャンスは巡ってくるだろうから、その時に初ハイグレを――」
「『押すな』、ですって……!?」

 意気消沈するティアを見かねて掛けたラリーの宥めももはや耳に入っておらず、自制心を失った彼女は幸運を手にした男の胸元を掴んでいきり立っていた。

「あなた、まだ貪る気だったの!? こっちはどんな思いで突き出して……!」
「んな事言われたってなぁ、嬢ちゃん。俺だって欲求不満なんだよ」
「あなたに何が分かるの!? こっちは初ハイグレなのよっ! お願い、もう気が狂いそうで我慢できないわ!!」

 髪を振り乱し喚き散らすその姿は常軌を逸しているようにも思うが、それは一方でハイグレ人間としてあるべき姿を示している。ハイグレのために理性を律する、ハイグレポーズのためだったら全てを投げ打つ……。その覚悟は人間としての生を捨て、ハイグレ洗脳の完成を意味していた。

「これで、当面の任務は完了だな。後はできるだけ扉の近くで待ち構えて……」

 もはや自分のテコ入れは必要ないと確信したハイグレスパイは群衆の一人と化したモブハイグレ人間から視線を切り、そっと言い争いの場から距離を取っていく。胸を押し付けられ、イチモツを引っ掛けながら進んでいく人垣の中は決して快適とは言えない。そんな彼を見送るように、背後から「ハイグレポーズ、やらせてぇ〜〜〜っ!!」というソプラノの絶叫が届けられたのだった……。



 …………
 ……
 …


* Re: テイルズ短編集(2) ( No.34 )
日時: 2019/07/13(土) 16:37:31 メンテ
名前: 牙蓮



  数時間後……


「ま、頑張った方でしょう」

 波の音や鳥のさえずり、果ては空を切る風さえも感じられない静寂の地において男の呟きがぽつりと漂う。大きく抉られた僅かばかりの大地を覆うように広がる紅い結晶群が超常の景色を織り成すここは北極点、アブソーブゲート。かつてはエネルギー革命を巻き起こし文明の根幹を支えたプラネットストームの収束点、そしてかつて変革を求めし男が一度は因果の終結点として定めた決戦の地……。そんな彼ら、彼女らにとって因縁深きこの原野へ、自由を求め逃走を続けていたアルビオールは着陸し翼を休めていたのだった。

「大佐、お見事です! まさか、こうも思惑通りに事が運ぶとは!」

 大佐と呼ばれた男の脇に控えるハイレグ姿の水着男が――、疾走感のある水色の布地に軍靴、鼻先までを覆う一枚板のプレートヘルムというあべこべな格好をした元マルクト兵のハイグレ人間が興奮気味にまくし立てる。しかし当の大佐、軍服時代と変わらぬ色合いのハイレグ水着を引き締まった肉体に張り付け、悠然と微笑むハイグレ人間ジェイド・カーティスはどこ吹く風とばかりにさらりと受け流した。

「まぁあなたはこの艦に搭乗した経験がありませんからねぇ。驚くのも無理はないでしょう」
「と、言いますと?」
「アルビオールは一見、燃料の続く限り飛行を継続できるように思われがちですが、適宜休息が必要なんです。通常の飛行譜石ならともかく、改良を重ねた錬成飛譜石による負荷はそう軽くない。ですからいずれクールダウンのための着陸に迫られると予測できたので、そこを狙ったまでの事です」
「はぁ、なるほど……。
 ですが、その着陸地点がここ、アブソーブゲートになると看破できたのはやはり、この操縦士と顔見知りだった大佐の功績です!」

 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 尚も食い下がり、そう力説して見せたハイグレ兵が指し示す先には二人のハイグレ人間の姿が。アルビオールを取り囲むようにして展開した旧マルクト帝国軍第三師団の面々に見守られ、順化のためのハイグレポーズを繰り返しているのはサンバイザーを額に上げ、防寒着と変わらぬ茶色のハイレグ水着が眩しいハイグレ人間ノエル。そしてその隣で彼女の内面を如実に表現した漆黒のハイレグ水着を着て幼児体型を精一杯誇張しているハイグレ人間アニスの計二人は、警戒こそしながらタラップを降りてきたものの万全の布陣で待ち構えていたジェイド隊の奇襲によって敢え無く洗脳されてしまったのだった。

「いえいえ、そんな。大した根拠なんてありませんでしたよー。もはや彼女らが寄港できる拠点など、キムラスカにもマルクトにもありませんから必然的に無人地帯へ向かうしかない。となれば最も人気のないアブソーブゲートかラジエイトゲートの二極、そのどちらかを目指すと考えるのが自然です。
 まぁ正直、ラジエイトゲートとの五分五分の賭けではありましたけど、何とか、ね……」
「…………」
「南極点であるラジエイトゲートはキムラスカ側の管轄ですし、彼らを信じる他ありません。あなたもこれくらい先を見通せないと、いつまでも私の補佐官で終わってしまいますよ〜、レ〜ントッ♪」
「うっ……。ぜ、善処します……」

 ハイグレ人間となった今でも他者の傷口を抉る辛辣な話術は健在であり、元マルクト兵レントは顔を引きつらせる。この人ならば今後もハイグレ魔王軍の方々さえも丸め込んで、辣腕を振るい続けるに違いない……。そんな確信めいた予感に恐れをなし、水飲み鳥の如く何度も首を縦に振って見せた。

「ほらほら、遊んでないで。早く行きますよ?」
「はっ、ハイグレッ!」

 しかしそんな部下の内面を知ってか知らずか、上官はさも愉快そうに檄を飛ばす。片手を挙げ地上の部隊へ引き続き包囲網の堅持を指示し、自らレント以下数人の部下を率いてアルビオール内部へと突入する。

  カッ カッ カッ カッ――

「さぁ洗脳の時間です。操縦士はもはやこちらの手の内ですから、無駄な抵抗は諦めて――おや?」

 足音高らかにタラップを駆け上がり、先頭を行くその姿が艦底に消えていったかと思えばそんな呟きが聞こえてくる。何事かとレント達後続にも緊張が走り、新たな得物である光線銃を握り直す。慎重に進んでいく中外部からの光は徐々に遮られ、代わりに艦艇特有のツンとした機械油の臭いに出迎えられた。
 突入した艦内は薄暗く、タラップを収納するためのレールが床を這い壁面には計器類と思われる装置が随所に配され狭苦しい印象を受ける。しかしそれは軍人である彼らにとって、ここまで乗ってきた軍艦も同じなのだから特段珍しいものではない。そんな中でジェイドの興味を引いた物とは一体……? 問い掛けるまでもなくハイグレ人間達の目はコックピットへ続くと思われる廊下の隣でぼんやりと輝く、不自然な両扉の表面へと吸い寄せられていた。

「大佐、この譜陣は一体?」
「…………」

 レントが近寄り尋ねようとも、ジェイドは答えない。譜術士(フォニマー)の素養を持つレントがいくら観察しようと全く理解できない特殊な紋様を、血に濡れたかのような紅い双眸でじっと見据えるばかり。そんな時間が数秒続いたかと思えば、不意に何かに気付いたかの如く声を上げる。

「アニマート! すぐに引き返して、難民保護の態勢を整えさせてください」
「ハイグレッ! ハイグレッ!」
「そして、マエストーゾ。あなたはこのまま私に代わって隊を率い、コックピット制圧をお願いします」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ――ですが、師団長よ。ワシら雑兵だけでの突入は、些か荷が勝ちすぎてはおりませぬか?」
「問題ありません。どうせ巡回するだけになりますから……」
「は……? ――いえっ、ハイグレッ! ハイグレッ!」

 真意を明かさぬ隊長の言葉に一瞬虚を突かれたものの、壮年の軍曹はすぐさま新世界の敬礼にて応え若人達と共に廊下の奥深くへと消えていく。
 緊急事態を伺わせる騒がしさの後、艦底に残されたのはジェイドとレントの二人のみ。取り立てた根拠はないが、敬愛する上司が一歩進み出たのに合わせてレントも後退るとその唇に皮肉な笑みが浮かぶ。

「そう。ここは下がっていた方が、身のためですよ……」

 フッと掌をかざし紋章を下から上へ撫で上げると、あれだけ揺らぎのなかった譜陣が跡形もなく消えてしまう。途端に轟く、龍の咆哮の如き金属音。本能的に危ないと感じたレントがたじろぎ剥き出しの尻で鉄板とキスしたと同時に、堅牢な両扉が外側へ向け弾け飛んだ。

* Re: テイルズ短編集(2) ( No.35 )
日時: 2019/07/13(土) 16:41:49 メンテ
名前: 牙蓮



  『ハイグレエェェ〜〜〜〜ッ!!!』


 鼻の曲がりそうな臭気が吐き出されたのが早いか、荷物室の中から色とりどりのハイグレ人間達が我先に飛び出してくる。

 「ふぅ〜〜。やっと出られたでゲス!」
  「あ〜んっ、ハイグレよ! 早くハイグレさせなっ!!」
 「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグ――いてっ!?」
  「この屑がっ! そんなにハイグレしたいなら、とっとと進みやがれっ!」

「た、大佐っ。これはっ!?」

 予想だにしなかった猛る奔流を前に、レントはただ目を見張るばかり。眼前を駆けていくハイグレ人間達は皆一様に汗ばんで顔を気色ばませており、苦難の跡を伺わせる。この中で一体何があったのか、そもそも彼らは何に駆り立てられて走るのか? 訳も分からず視線を彷徨わせていると、対岸で傍流が廊下へ流れ込まないよう涼し気に交通整理するジェイドと目線が重なった。

「恐らく彼らは、パンスト兵様から逃れようとした元避難民です。それがどういう訳か船内でパンデミックを起こし、譜術士(フォニマー)に封印されてしまったといった所でしょう。洗脳直後からこの鮨詰め状態で囚われていたのだとしたら、彼らの鬼気迫る表情にも納得がいくというものです」
「な、なるほど……」

 自分は軍本部で交戦中に洗脳して頂けたから思う存分ハイグレポーズに浸れたけれども、人混みに揉まれ満足に股も開けない状況で新たな人生をスタートさせたとなると同情を禁じ得ない。
 その後も自由を求めた大進撃は勢い衰えずに続き、ようやくまばらになってきた頃には祭りを終えた後のような疲労感がずっしりのしかかってくる。

 「はいぐれ、はいぐれ……。はいぐれ……」
  「頑張ってね、ローコちゃん。もうすぐお外だからね……」

「さて、今の母娘で脱出を優先したハイグレ人間は最後のようです。では、行きますよ」
「はっ、ハイグレッ!」

 行くと言われてもその意図を図りかねるが、まだ部屋の中からはハイグレコールが聞こえてくる。いずれにせよ苦境に喘ぐ同胞が残されているのならば、放ってはおけない。そんな軍人としての使命感、いや、ハイグレ魔王様の尖兵としての義務感を胸に、二人は混沌の坩堝と化していた荷物室の内部へ突入する。

  『ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!』

「うっ……」

 そんな二人を出迎えたのは、想像を超える劣悪な環境だった。薄暗い船倉は汗や涎、その他体液による湿気で蒸しっと湿っており、鉄板に染み付いてしまったのではないかと錯覚するすえた臭いも相当なもの。そして各所に零れる白濁液や粘性の水溜まりによって、たがが緩んだハイグレ人間としてのリヒドーが掻き立てられていく。人々の不満と欲望とが咲き乱れる場末の盛り場のような惨状を前に、レントは股布から手を離せないでいた。

「出したいのなら構いませんよ。このようなハイグレポーズを見せつけられた以上、ハイグレ人間としては当然の反応です」
「……はい」

 実に彼らしい自由裁量だと感謝しつつも、今は任務中であるからと必死に言い聞かせて既(すんで)の所で我慢する。ジェイドが指摘するように、部屋に残る事を選択した数十人のハイグレ人間達は皆思い思いのペースでハイグレポーズに耽っていた。薄闇の中でも分かるくらいに顔を赤らめ、上擦った吐息と共に引き上げていく腕は刃のように鋭い。その身体症状は単に密集の圧力に苦しめられた所以に過ぎないはずなのに、どこか色っぽく見え……。
 そんな発情ハイグレポーズに悶々としているレントを尻目に、ジェイドは男性用ハイヒールを持ち上げ部屋の奥へと歩を進めていく。

「た、大佐……?」
「…………」

 水溜まりに足を取られないようレントも懸命について行くが、やはり答えはない。何故この人はこうも平気なのか、そもそもこの部屋に何があると言うのか……? 湧き上がる疑問は何一つとして解決しないまま、部屋の奥壁が段々と近付いてきて、そして――。


  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」


「――やはりあなたでしたか、ティア」

 辿り着いた最奥。そこにはかつて予言(スコア)を巡る動乱にて名を馳せた英雄、ティア・グランツの変わり果てた姿があった……。



「うぅっ!? くっ、もうっ……」

  ――ドピュッ

 その姿を目にした途端、レントの股間が爆発した。単に目の前の人物が旧知の間柄、一年分に渡る大量の報告書においてよくその名を目にしていたからだとか、そんな生易しい理由じゃない。確かに他のハイグレ人間同様、大量の汗をかき上気したその表情は色っぽくてすぐに魅入られてしまう。しかしそれ以上に、その身なりの破壊力が半端ではなかった。
 光線銃より彼女が与えられた極薄のハイレグ水着は今や汗に浸されスケスケになっており、内側の恥ずかしい部分までもが外から透けて見える。薄闇の室内とライトパープルといった布色も相まって、その透過率は肌の色と判別できないレベルだと断じて過言ではない。そんなハイレグ水着のピッタリ感を維持したまま裸ハイグレに興じるという、極上のエロスを体現して見せていたのだった。

「いけませんねぇ〜、未来ある若者をこんな風に誘惑しては。見かけによらず、随分と男漁りがお好きなのですね♪」

  「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

 人格を否定するようなジェイドの挑発にも、ティアは一切答えない。いや、答えられないと言った方が正しいのか……。焦点を結ばぬ瞳は既に光を失っており、ハイグレポーズを我慢し続けた心は既に折れてしまったように見受けられる。

「聞こえませんか……。まぁ、今はいいでしょう。ですが、これだけは覚悟しておいてください。
 いくら未洗脳の状態とはいえ、百人を超すハイグレ人間達を阿鼻叫喚に陥れた罪は決して消えてなくならない。グランコクマへ護送しハラマキレディース様の御前へ引き立てられた折には、然るべき『お仕置き』があなたの身に下されます」

 その発言からは元仲間を案ずる心遣いや情状酌量を求める思いやりは感じられない。あるのはただ、ハイグレの尖兵としてハイグレに仇なす者を打ち滅ぼす冷たい瞳だけだった。

「――では、引き揚げますよ」
「えっ!? ちょっ――」

 一転して殺気を消し踵を返したジェイドの後姿を、レントは慌てて呼び止める。

「ですが、この部屋のハイグレ人間達を保護しなくては!」
「あぁ、その件ですか」

 振り返ったジェイド、その瞳にはイタズラっぽい憎たらしい笑みが宿っていた。

「それは現状、不可能というものです。ここのハイグレ人間は皆快楽に溺れ切ってしまっているため、我々が触れようとしただけで、ほら」

  「っ!? ハイグレエェェェ〜〜〜ッ!!?」

 ハイレグ水着と同じ素材でできたロング手袋で臍(へそ)の辺りを突っついた瞬間、ティアは首を仰け反らせ獣の咆哮を上げた。ガクガクと震える腰の下では陰毛がびっしりと張り付き、これでもかと醜態を晒し上げる。

「恐らくこの混雑状況でハイグレを擦り合わせ、慰め過ぎた事が原因です。ですから我々が触れただけで絶頂の嵐、護送は不可能なんですよ」
「…………」

 言われてみれば彼女に限らず、残った人々は一人ぽつんと佇むというよりかは誰かと触れ合えそうな近距離で股を開きポーズを取っている。困難を切り抜ける一つの知恵だったと言えば聞こえがいいが、ハイグレ粒子だだ漏れで治療を要するその醜態にレントは言葉を失う。

「では、行きますよ。彼らにはこのまま、暴走したハイグレ粒子をある程度放出してもらうしかない。でないと地上の第七譜術士(セブンスフォニマー)を呼んだ所で、代謝を立て直す事は難しいでしょう。
なに、気にする事はありません。我々ハイグレ人間の感性から言えば、少々羽目を外した程度の醜態に過ぎないのですから♪」

  「ハイグレェッ! ハイグレッェ!ハイグレエェェッ!!」

 最低限の尊厳を守って見せたジェイドの口添えを前にしても尚、ティアは気が触れんばかりの勢いでハイグレポーズを繰り返す。涎を垂らし、白目を剥いて絶頂するその姿に、かつての凛々しき騎士としての面影はない。
 こうして同じハイグレ人間であるジェイドやレントからも哀憐の視線を向けられし傀儡ティア・グランツは、乳輪丸出しの豊胸を振り乱し倉庫の置物として在り続けたのだった……。









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