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* もっとHa Iguれ -はいぐれ-

日時: 2012/01/07(土) 00:15:52 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>

某所でも公開してる作品なので同じ内容ですが、書き進め次第、こちらでも投稿していきたいと思います。
相変わらずの遅筆、お許しください(´・ω・`)
 
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* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.6 )
日時: 2012/01/07(土) 00:32:52 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「ハイグレ人間ララ、アナタってコは本当に困ったちゃんねぇ……」

玉座に座ったハイグレ魔王が、俯きながら頭を抱えるような仕草をすると、下座に控えていたララが悪戯を咎められた子供のように舌を出して魔王に陳謝した。その隣には、ララに負けず劣らずのプロポーションをした水色のハイレグを着た薄茶色の髪のハイグレ人間が、気まずそうに跪いていた。

「じゃあもう行っていいわン、ハイグレ人間リト……じゃなかった、ハイグレ人間リコ、だったかしら? 新しい指令は明日あたりにでも追って沙汰するわン」

『『ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!』』

2人が退出のハイグレポーズを取ると、地面から透明な球体がせり出し、2人を包んだまま階下へと姿を消した。

「ハァ〜、ララ以上にもっと使えるハイグレ奴隷が欲しいわねぇン…………そう、あのコの妹達とか…………♪」



透明な球形の昇降装置に運ばれながら、リトはハァーと大きく息を吐いた。

「ゴメンね、リト。私のせいで魔王様のお側にいられなくなっちゃって」

「いや、別にいいんだけどさ。むしろ助かったって言うか何て言うか……もしかして、ララ、お前わざと俺の身体をこんな風にしたのか?」

「ん? なんのこと?」

頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、ララが首を傾げる。その後何も聞かなかったかのようにフンフンと鼻歌を歌いながら階下に到着するのを待つララの横顔を見ながら、リコは柔らかに微笑んだ。





「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! ハイグレニュースのお時間です。昨夜未明、仙台市を中心とした東北地方と福岡市以南の都市部にて、謎の生命体群によるテロ行為が同時刻・同時多発的に勃発したものとして、ハイグレ化侵略部隊は非戦闘員に避難勧告を通知すると同時に、大規模な援軍要請を各ハイグレ都市へ通達しました。繰り返します。昨夜未明に確認されたテロ行為について、ハイグレ化侵略部隊が避難勧告と同時に援軍要請を各ハイグレ都市へ通達しました。謎の生命体群による破壊行為には一貫した目的があるものと見られ、大変危険です。該当地域にお住まいの、ハイグレ魔王様にお力になれないハイグレ人間はむやみに外出しないようお願い致します。また、テロ行為に対して安易に手出しせず、担当の侵略指揮官あるいはパンスト兵様の指示に従って適切な対処を行うよう心掛けて下さい。以上、ハイグレニュースでした。ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」





「このような事をされて、本当に大丈夫なのですか? ナナ様、モモ様」

ハイグレ人間によるニュース番組が映されている大広間のモニターを見上げながら、ザスティンが不安そうに2人に尋ねた。

「ええ、今のところはこれで十分です。お姉様が人質に取られていて、しかもお姉様が人質にされることを自分から望んでいる以上、こちらから救出に向かわなければならない上に、不用意に手出しはできない……。まずはお姉様に対する警備を手薄にしておく必要があるんです」

「ハイグレ光線は動物や植物には通用しない、ってのは既にあたし達が実験済みだからな、こうやってあのコ達がそこら中を暴れ回ってくれれば、安全に相手の戦力を分散させられるって寸法だ! ……テロ行為とか言われるのはあんまし良い気分じゃないけどな」

巨大なスギの木のような生き物や巨大タコの怪物などが地方都市の建物を見境なく破壊している、ある種の特撮物のような現実離れしたニュースの中継映像を眺めながら、ナナが小気味よさそうにケタケタと笑う。

「しかし、これではニュースで言っているように、単なるテロ行為で終止してしまうだけです。何か、もっと決定的な打開策を打たねば……」

「ですから、それに関しては心配ご無用と言ったはずですよ、ザスティン親衛隊長♪」

未だ問題山積といった表情のザスティンに、モモが唇に指を当てて悪戯っぽく微笑むと、大広間にオレンジ色のハイレグを着た美柑と薄灰色のハイレグを着たお静が入ってきた。2人共ハイレグの他に同じデザインのメッセンジャーバッグを背負っている。

「こちらは準備万端ですよ、モモさん、ナナさん♪」

お静がその場でくるりと一回転してみて変装が完了したことをアピールすると、モモは嬉しそうに両手の指を合わせて口元に添えた。

「わあっ、お二人ともよくお似合いですよっ♪ これなら万が一洗脳されてしまっても安心ですね!」

「冗談にしては全然笑えないんだけど……」

胡散臭そうに自分を見る美柑の視線に気付くと、モモは笑みを引っ込めて表情を引き締めた。

「それでは美柑さん、お静さん、先程説明させていただいた手筈通り、お二人には『それ』をお任せします。ただ……美柑さん、本当に大丈夫ですか? お静さんならともかく、あなたには少々危険なお仕事になりますよ」

「…………大丈夫。ザスティンさんにララさんにお静さんにモモさんにナナさん、そして……ヤミさん。私、ずっと誰かに助けてもらおうとしてばっかりだったんだもん。危なくったって……私にも手伝わせてほしい」

決意を秘めた美柑の表情に負けたのか、モモがため息をついて小さく笑った。ナナも満面の笑顔とサムズアップで応えた。

「頑張れよ、お静、美柑! もしハイグレ人間になっちまっても、おっぱい作戦の同志として骨は拾ってやるからな!」

「はい! お任せください、ナナさん!」

「わ、私はその作戦に加わったこと覚えはないわよ! ……それじゃあ、行ってきます」

転送室に向かって行った美柑とお静の後ろ姿を見送ると、3人はモニターの前に鎮座した。ザスティンがモニター前に取り付けられた入力用のパネルを操作すると、ニュース画面が切り替わり、真っ暗な画面が映し出された。よく見るとそれはただの暗幕ではなく、夥しい数に分割されて表示されている。

「第1〜第9999サーバー、接続状態オールグリーン。アンチハイグレシステムも順調に作動中です」

「はぁ、ホントはあたし達が出向いてさっさと解決したいけど、これが最善……なんだよな、モモ?」

「ええ……。今一番避けなければならないのは、私達が洗脳されること……。酷なようだけど、今は美柑さん達に頑張ってもらわないとダメなの。お姉様のためにも…………私のハーレム計画のためにも、ね…………♪」

「?」


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.7 )
日時: 2012/03/04(日) 05:15:17 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「では状況を報告なさい、ハイグレ人間サキ」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! 各地に突如出現した謎の巨大生物の大群についてですが、未だに破壊活動の真意は不明ですわ。ただ、能動的に攻撃を加えるのは建物やパンスト兵様達に限定されているようで、私達ハイグレ人間に関しましては、申し訳程度に反撃するだけでして、その辺りにテロを指示している者の意図が感じられますわね……。今は私達女性ハイグレ人間部隊が各地の洗脳活動を担当し、対巨大生物戦には我が天条院家の誇るハイグレガードマン部隊に当たらせていますので、こちらに関してましては、どうかこのハイグレ人間天条院沙姫にお任せ下さいませ……!!」

玉座に深々と身を沈めたハイグレ魔王は、傍らでじゃれつくララの頭を撫でながら、ニヤニヤと笑みを浮かべて沙姫の報告を聞いていた。そして報告を終え、何らかの返答を待つ沙姫を待たせるままに、脇に控えた御門に何やら目配せする。微笑みながらそれに頷く御門と、自分を無視している魔王とを見比べつつ、沙姫がおずおずと口を開いた。

「あ、あの、魔王様……? 何か御指示などは……?」

「ん? ああ、何でもいいわン。アナタの良い様に取り計らいなさぁい、ハイグレ人間サキ。用が済んだのなら、さっさとお下がり、私は忙しいのよ……」

「は、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

(な、なんですの、このぞんざいな扱いは……!? きっとララが根回しして、私の軍中での評価を貶めているに間違いありませんわ! ああん、魔王様にあんなに頭を撫でていただいているなんて、なんて妬ましい……!!)

退出の意を表すハイグレポーズと共に透明の球体に包まれて床下へ消えていく沙姫の、見えなくなるまで続いた自分への妬ましげな注視の意味を知ってか知らずか、ララが笑顔で見送る。

「それで、ハイグレ人間ララにハイグレ人間ミカド? アナタ達はこれをどう見るのかしらン?」

「そうですね……各地で暴れている宇宙生物の種類からして、やはりララちゃんの妹ちゃん達が関わっている可能性が高いと思われます」

「う〜ん、私もそう思う……魔王様にこんな嫌がらせするなんて、ホントに困ったコだよ、モモもナナも……」

ララが人差し指を唇に沿わせながら、ハイグレ魔王に対して申し訳なさそうな表情を見せる。

「いいのよン、後で思う存分分からせてあげればいいンだから……♪ 計画的には順序が逆になってしまうけれど、飛んでハイグレ光線に入る未洗脳者とはこの事だわぁ♪ ハイグレ人間ララ、階下のハイグレ人間達に明日から彩南町に戻るよう通達なさい。第2・第3王女と面識のある彼女達なら、向こう側からのアプローチも期待できる……各自自由行動を取りつつ、包囲網を張りなさぁい!」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

ララが立ち上がって了解のハイグレポーズを取り終えると、先刻沙姫の退出した下座の位置までとてとてと走りだし、沙姫と同じように透明の球体に包まれ階下に消えた。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.8 )
日時: 2012/03/04(日) 05:21:20 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! 新田先生、さようなら〜」

ランドセルを背負った3人のハイグレ人間に挨拶されると、黄色のハイレグを着た女教師らしきハイグレ人間が、ずり落ちかけた大きめのメガネを指で押さえながら笑顔で股を開いてポーズを取る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! 寄り道しないで真っ直ぐ帰るのよ? まぁ、美柑ちゃんがいれば安心でしょうけど」

くすくすと笑いながら言う新田晴子に、3人の真ん中にいた美柑がややはにかんで応じる。晴子と別れ、昇降口で靴を履き替えながら、一緒にいた友人のサチとマミがにこやかに口を開いた。

「やっぱり美柑はすごいよねぇ〜、男子だけじゃなくて先生にも一目置かれてるもんね」

「それに美柑ちゃんのお兄さんも、ハイグレ魔王様から直接御指示を頂いて洗脳活動に従事してるんですって……憧れちゃうなぁ……♪」

「そ、そんな事ないって……」

友達から受ける羨望の眼差しも、平生の彼女ならば軽やかに受け流すのが当たり前だったが、尊敬を集める理由の異質さに面喰った美柑の額には、うっすらと困惑による汗が滲み出ていた。

「またまたぁ、ケンソンしちゃって! 皆も噂してるよ? 美柑は優秀だから、特別に魔王様のゴキョカを得て、高校生に混じって洗脳活動の練習に参加させていただけるんじゃないかって」

昇降口を出た3人が中庭を横切る途次、サチが中庭に面したグラウンドを指さしながら、美柑の事を重ねて誉めそやす。彩南第一小学校の広大なグラウンドは近接する彩南高校の生徒の為に解放されており、今では横に長い巨大なスクリーンが設置された、洗脳銃の射撃訓練場と化していた。サチの指さした方向には、放課後になった今も尚、熱心な高校生のハイグレ人間達が、ほふくの体勢や膝を突いた体勢を保ちつつ、両手に抱え持ったライフル型のハイグレ銃を構え、遠く離れた横長のスクリーンに向かって光線を放っていた。スクリーンの中にはハイグレ銃と連動した映像が流れており、逃げたり隠れたりする未洗脳者の画像が訓練用のハイグレ銃から射出される光線に触れると命中のアニメーションが流れ、傍らのモニターに示されたポイントがそれに応じて加算されていく。
 このゲーム感覚で洗脳活動を学べるシミュレータを使用できるのは栄誉ある最初期に洗脳された彩南高校の生徒達のみに限定されており、附属する小中学校の生徒たちは、ハイグレ予備軍である高校生に尊敬の眼差しを集め、皆が最初にハイグレ魔王が顕現した彩南高校を聖地として崇めている。実際、彩南高校のグラウンドには巨大なハイグレ魔王の銅像が建てられ、近隣の住民達は毎日のように銅像に向かって敬愛のハイグレポーズを取っていた。

「ねえねえ、ちょっと見学しよーよ、洗脳訓練♪」

「賛成! 美柑ちゃんもどう? 今から予習しておいた方がためになると思うよ?」

「わ、私は遠慮しとくよ、用事もあるし……。それに、新田先生も寄り道しないでって言ってたでしょ?」

サチが面白くなさそうにむーっと頬を膨らませたが、マミに窘められ、納得するようにガニ股になる。

「じゃあまた明日! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」





 食い入るような熱心さで洗脳訓練の様子を眺める友達から逃げるように下校した美柑は、通学路に指定されている商店街のアーケードをとぼとぼとした歩調で進みながら、大きく溜息を吐いた。いつもなら平日も賑わう彩南商店街だったが、魔王軍に支配されてからは、商いという営々と続けられていた行為がまともに機能しなくなり、炉端でハイグレ洗脳について熱心に談義する主婦や洗脳ごっこで遊ぶ幼いハイグレ人間の他には、家にこもってハイグレニュースに見入る者や地方の洗脳活動に志願して家を空ける者、さらには魔王の命令に即応できるよう自宅に待機し続ける者が多数を占めていた。

(ここもすっかり変わっちゃったなぁ……。まぁ、私達にとってはその方が都合がいいんだろうけど……)

「あ、美柑さん! ご苦労様です、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

思案しながらアーケードを抜ける美柑の背後から声が掛かる。振り向くと、ザスティンのセーフハウスにいた時と同じ薄灰色のハイレグにショルダーバッグを背負った出で立ちのお静の姿があった。お静の手首に、自分と同じく未洗脳の印である銀色のブレスレットが嵌められているのを確認し、安堵した美柑だが、思い直してお静と同じようにハイグレ人間らしく振る舞う。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! お静さんも、ご苦労様。調子はどう?」

「順調ですよ♪ 午前中だけでも、1丁目から3丁目まで、『例のアレ』を一軒残らず投函してきましたっ!」

「ちょ、ちょっと、声が大きいよ、お静さん……! じゃあ私も帰ってランドセル置いたらすぐにアレをばら撒きに行くから、お互い頑張ろうね」

敵地の真っ只中で得意げに工作活動の報告をするお静を注意しながら、美柑がひそひそと続けて耳打ちする。特に悪びれた様子も見せないお静が、にっこり笑ってわざとらしく腰を落とした了解のポーズを取る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

自然と返礼できる自分に驚きつつも、美柑は工作活動に戻って行くお静の後姿を頼りなげに見送った。

(大丈夫かなぁ、お静さん。うっかり誰かに喋っちゃいそう……それにハイグレポーズもあんまり上手じゃないし、せめて私くらいにきちんとハイグレポーズ取れなきゃバレちゃうかも……)


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.9 )
日時: 2012/03/09(金) 18:37:15 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! ただいま、お姉ちゃん」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! お帰りィ、春菜ッ! お仕事ご苦労様〜!!」

玄関で真っ白いブーツを脱ごうとしている春菜に、秋穂がぴょんと飛び掛かる。姉の身に纏った赤色のハイグレから突き出るように強調された胸が当たると、やや気分を害した春菜が鬱陶しそうに押しのけてブーツを脱ぎ終える。

「もぉ、いい年して落ち着きが無いんだから……」

「あら、いいじゃない、別にハグするくらい♪ 久しぶりの再会なんだからさぁ〜、ほぉら、愛い奴愛い奴〜〜!!」

「ちょ、ちょっと、分かったから、とりあえずリビング行ってよ、お姉ちゃん!」



 リビングのソファーに身を沈めて人心地ついた春菜に淹れたての紅茶を振る舞った秋穂が、楽しげに微笑みながらぺたりと床に座って口を開いた。

「ねぇ、それでそれで? 洗脳活動の方はどうだったの? 大活躍?」

「う、う〜ん、私の成果はイマイチだったかな。ほとんど結城君に助けられてばっかりだったし、古手川さんにも『ハイグレ人間としての自覚が足りない!』って怒られちゃったし……魔王様の足引っ張ってばっかりだよ」

「え〜〜っ、でも何か武勇伝みたいなのもあるんでしょ? ご近所さんにも、春菜は魔王様直属のハイグレ人間に選ばれた英雄だ、って皆して誇りに思ってるんだから応えてくれなきゃ!」

「直属って言っても、私の場合はたまたま洗脳して頂けた順番が皆よりも早かったから選ばれただけなんだけどなぁ……。あ、でも、何回か未洗脳者の振りして潜入活動したりとかはあったかな」

妹が事も無げに戦果を報告する様子を、惚れ惚れするような表情で聴きながら、秋穂が目をキラキラと輝かせる。

「ほぉら〜、やっぱすごい事してるじゃない! いいなぁ〜、潜入活動……私も魔王様のお役に立ちたいなぁ……。ねえ春菜っ、私も洗脳活動に従事できるように魔王様にお願いしてみてよ!」

「ん〜〜、それは難しいと思うよ? パンスト兵様と同時に出撃するハイグレ人間は、今のところ正式な洗脳活動訓練を受けた彩南高校の生徒に限られてるみたいだから」

期待とは裏腹に春菜が難色を示すと、秋穂はつまらなさそうにティーカップを持ち上げて、春菜に2杯目を注ぐためにキッチンへ行く。その後ろ姿を眺めながら、春菜は少し申し訳なく感じながらも、自分が特別な地位に就いているという事実に改めて誇らしく思った。

(それに、お姉ちゃんも洗脳されてから性格は変わってないけど、魔王様への信仰心のおかげか前よりも優しくなったような気がする……。ほんと、全部魔王様のおかげね)

 ふとカップのソーサーに落としていた視線をほどくと、テーブルの隅に封筒のような物が載っていることに気付いた。手に取ってみると、何も書かれていない真っ白い封筒に、ハイグレ魔王の仮面をあしらった封がなされている。

「ねえお姉ちゃん、テーブルの上に置いてる手紙、どうしたの?」

キッチンに向かって姉に尋ねる。

「ん〜〜? ああ、なんか今朝ポストに入ってたの。差出人書いてないんだけど、魔王様のマーク入ってるし、たぶん春菜宛てじゃない? 開けてみれば? 極・秘・任・務、かもよ?」

(何だろう……魔王様から、ナナちゃんとモモちゃんを誘き出すための作戦だからって休養を仰せつかったのに、何か変更があったのかな……?)

そう思い、仮面のデザインの封を切って開けてみると、中には何も入っていなかった。

(…………? なにこれ、イタズラ?)

小首を傾げてあらためて中身を覗きこむと、春菜はふわりと自分の身体が軽くなるのを感じた。不審に思うその刹那、体が縮むような感覚と、封筒の方向に向かって何かとてつもない力に腕を引かれるような感覚が春菜を襲った。

(え、なに…………? きゃああああああああああああああっ!!!)

「手紙の内容、何だったの? ちょっと私にも見せ…………春菜?」

温め直したティーポットを持ってリビングに入ってきた秋穂は、入口で立ち止まった。先刻まで妹のいた空間には今は何も無く、テーブルの上に空の封筒がふわりと着地した。


「いつつつつ……」

臀部に痛みを感じる。どうやらどこかから落下したのだろうとかすかに理解すると、春菜は何かが自分の下敷きになっているのを感じ俯いてみた。

「むごごごごごご……!!」

「きゃ……っ! ゆ、結城君!? ごごごごめんなさい!!」

赤面して、謝罪と共に下敷きになっているリトから飛び退く。

(ど、どどどうして結城君が私の家に…………? ってあれ、ここ、家じゃなくて……彩南高校…………?)

あわあわと狼狽しながら周囲を眺めまわす。確かに自分が今いるのは自分や姉の住んでいるマンションではなく、彩南高校の中庭に設けられている花壇だった。するとさっきの封筒は何らかのワープ装置のような物だったのだろうか? 春菜は以前にナナやモモのイタズラによって似たような事態に陥ったことがあると思い当たるや否や、起き上がるリトと視線がかち合った。花壇の花に水を撒くための如雨露を手に持ち、なぜか女の子の姿ではなく男の姿に戻っているリトは、水色のハイグレではなく、彩南高校の制服を着ていた。

「ど、どうしたの結城君、その恰好っ!?」

「ど、どうしたんだ西連寺、その恰好っ!?」

「「え…………?」」



* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.10 )
日時: 2012/03/09(金) 18:37:53 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 ザスティンのセーフハウスの大部屋では、何千と区切られたモニター画面の内、明りの灯った何百もの画面から様々な映像が中継されていた。その中の一つには、白いハイグレを着た春菜と制服を着たリトの映像も流れていたが、他の何百もの中継映像に紛れ、それを見る者の目に留まることはなかった。

「全サーバー、順調に稼働中。アンチハイグレシステムも問題無く展開中でございます」

モニターを操作しながら、ザスティンが経過を報告する。それを聞いたモモが、満足げに頷く。しかし、ナナの表情はやや暗い。

「なあ、モモ。洗脳解除って、どれくらいかかるんだ?」

「そうですねぇ……一般的な地球人だと、洗脳に掛かった時間1分につき約1日、といったところかしら。洗脳というものは個体差によって深度も速度も違ってくるし、長く洗脳に耐えてしまった人は、かえって解除に手間取るみたいね」

「……はぁ〜ぁ、なんか随分と悠長だなぁ。この網に姉上が引っかかってくれれば、スグに解決するんだけどな」

「望み薄、でしょうね……。あら、誰かしら?」

モモのポケットがブルブルと震える。デヤイヤルを取り出すと、発信者結城美柑と表示される。

「もしもし、美柑さん、御無事でしたか? ふぅ、よかった……。ええ、ええ、はい。分かりました、では、よろしくお願いしますね♪」

ピッという電子音を聞くと、横目で会話の様子を眺めていたナナが口を開く。

「美柑、何だって?」

「無事に帰宅できたので、今からお静さんと別行動で違う区域に網を張りに行ってくる、とのことです。ザスティンさん、網に掛かるハイグレ人間の数の増加が予想されますので、管理の程、よろしくお願いしますね♪」

「はっ! お任せ下さい! このザスティン、全身全れ――」

「あーもー、いちいち暑苦しいな。分かったからそのまま画面見てろ。おいモモ、そろそろ洗脳解除された人が送られてくるかもしれないから、寝床整備しに行こうぜ」

「ええ、部屋数を拡張してから何もしてないものね。広いから、手分けして作業しましょう」

硬く握った拳を宙にかざしたザスティンの隣をすたすたと通り過ぎると、モモとナナは開業前の宿屋を開くような陽気な忙しさにかられ、談笑しながら大部屋を後にした。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.11 )
日時: 2012/03/22(木) 23:09:42 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「と、とととと、とりあえず俺、服用意して来るから、西連寺はここにいてくれ。……そんな恰好してるトコ人に見られちゃアレだからな……。あーもー、ララの仕業だな!? アイツめ……!」

いそいそと春菜の背中を押して花壇の隅に隠すようにして追いやると、リトは春菜の方をなるべく見ないようにしながら自分の教室に戻ろうとした。

(そんな恰好……ですって……?)

ハイグレを中傷された春菜が、とっさに自分に対して照れ隠しにそっぽを向いているリトの手首を鷲掴みにした。

「ゆ、結城君! 今の言葉、撤回して! 畏れ多くもハイグレ魔王様に失礼だわ! 場合によっては再洗脳の必要が…………あれ? 洗脳銃が無い…………?」

あわあわと顔を赤くしたり青くしたりしている春菜の様子を、手を掴まれたまま、心配そうな表情で見つめていた。

「さ、西連寺……いったいどうし――」

「西連寺さん!? どうしたのその恰好……!? ハレンチなっ!!」

昇降口の裏口からリトと春菜の姿を認めた唯が、上履きもそのままに花壇の方へと駆け寄ってきた。一歩踏み出すごとに揺蕩う豊満な四肢を包んでいるのは、春菜の期待に反して青色のハイグレではなく、リトと同じように彩南高校の制服だった。駆け寄るや否や、唯が険しい目線を忙しく走らせると、顔を真っ赤に上気させてリトの両肩を掴み、前へ後ろへぶんぶんと乱暴に揺すった。

「ゆ、結城君ッ!! どうせまた貴方の仕業なんでしょ! 西連寺さんをこんな所へ連れ込んでこんなハレンチな水着を着せて、乱暴する気だったんでしょ!?」

「い、いや、なんで乱暴とかそういう話に……?」

「口答えしないでっ!! 何してるの、ほら、早く西連寺さん元に戻してあげなさいよ!!」

(何だろ、この状況…………ドッキリ? それとも、新しい訓練か何かなのかな…………?)

自分と同じく一般のハイグレ人間よりもよりハイグレ魔王に近しいポストに就くハイグレ人間としてこの1週間、共に洗脳活動に従事した仲間が、まるで未洗脳者のように振る舞っている。以前までは余りにも日常的だった光景が眼前に広がっているにも関わらず、洗脳に染まりきった春菜の脳では、この現状を上手く理解することができなかった。

「お〜〜い、リトぉ〜〜〜!! どうしたの〜〜?」

3人の頭上から間延びした声が聞こえる。春菜達が見上げると、2階の校舎の窓から3人に対して手を振るララの姿があった。そしてそのまま窓枠に太ももを載せると、事も無げにぴょんと飛び降りた。常人ならば確実に骨折するような高さから、猫のような身軽さでくるんと1回転を加えながら、ララが3人の間に軽々と着地した。着地の瞬間、腹部にまで派手に捲れ上がったスカートの中からレースの入った白色の下着が見えると、春菜は当惑をより一層深めた。

「なになに? みんなでなにやってるの?」

「ちょっとララさん! 降りてくるならちゃんと階段使ってよね、非常識な……!」

「え〜〜、だってこの方が早いもん。……あれ、どーしたの、春菜? そのカッコ……仮装パーティー?」

(!?)

「何言ってんだよ、ララ! どうせお前が何かの発明品で西連寺に無理矢理こんな恰好させたんだろ? 早く元に戻してやれよ。ほら、その……目にやり場に困るからさ……」

ララの言動に言葉を失った春菜だが、3人はその様子に気付くこともなく、ララがリトの言葉に不満げに頬を膨らませて口を開いた。

「え〜〜〜、私じゃないよぉ〜。リトったら、いっつも何かあったら私のせいにするんだから…………」

「ご、ごめんごめん。ララのせいじゃないにしても、とりあえず服、着せてやってくれないか? そろそろ休憩時間も終わるし、急がないと……」

リトに宥められると、パッと機嫌を直したララが笑顔で頷き、ポケットからハートマークを模った簡易型ペケバッジを取り出すと、春菜の胸元に近づけた。

「じゃあ、とりあえずコレで我慢してね、春菜♪ あ、前みたいな丈の短い制服じゃなくて、ちゃんと普通のに着せ替えるように調整してるから大丈夫だよ♪」

(い、嫌…………未洗脳者の恰好させられるなんて…………!!)

「や、やめてッ!!!」

とっさに胸元に近づけられたララの手を払いのけると、手からバッジが地面に零れ落ちた。数瞬、ララがぽかんと口を開けて固まった隙を突くように、春菜が後ろに飛び退いてから、3人に背を向けてその場から全速力で逃げ出した。

「お、おい! どうしたんだよ、西連寺!! ちょっと待てよ!!」

(な、なんで……? 皆が、皆が…………未洗脳者になってる…………!?)


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.12 )
日時: 2012/03/22(木) 23:12:16 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 昇降口から校舎内に入り込み、当ても無くただ走り回っている間に何人もの生徒達とすれ違う。やはりリト達と同じように未洗脳者の恰好をしており、皆が皆、春菜の痴態を目にする度に好奇や困惑の色を帯びた目を瞠った。

「おいおい、アイツ何やってんだ?」

「うっわ〜、すげえハイレグ……レースクイーンみてえ」

「何かの罰ゲームか? でなきゃ相当の変態だぜ」

「ねえねえ、あれって、2-Aの西連寺さんでしょ?」

「何かあったのかしらねえ……普段は真面目一筋だったのに」

ひそひそと自分を揶揄する声が耳に入り、春菜は恥ずかしさのあまり自分の着ている白色のハイグレを、両腕を巻きつけるようにして隠しながら顔を真っ赤に上気させた。

(あれ? わ、私、恥ずかしがってる…………? どうして? 私の方が正しい恰好をしているのに……間違った姿をしているのは皆の方なのに!!)

伏し目がちに俯いていた春菜が、思い直したようにキッと前に向き直る。何を恥じることがあろう、自分の正しさを誇示するように、1人のハイグレ人間が、未洗脳者の衆人環視の中、深くを腰を落とした。

「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」

未洗脳者に向かって、一番最初に転向したハイグレ人間としての矜持をぶつけるかのようなハイグレポーズを見せつける春菜。同志のハイグレ人間からは尊敬の眼差しで見つめられ、敵である未洗脳者には畏怖の対象として見つめられるそのポーズを見せつけられた周囲の生徒達は、しばしの沈黙の後、1人の男子生徒が耐えきれずにプッと噴き出した。

「はははははははははっ!!! なんだこいつ、なんかのギャグか!?」

「つーか何!? 今時コマネチ!? ねーよそのセンス!! あはははははは!!!」

「ちょっと、やめなよ皆……ほら、西連寺さんもそんなことやめなよ。一体どうしちゃったの?」

「いや、俺はけっこうアリだと思うぞ、この恰好でコマネチ。意外とそそる……」

「サイテー。エロい目で見てる男子もサイテーだけど、西連寺さんも、考えらんない……!」

未洗脳者達がこれ見よがしに嘲笑する。笑う男子生徒、困惑する女子生徒、性の対象と見なす男子生徒、軽蔑の眼差しを寄せる女子生徒……。ただの変態女として見なされている現状に、ハイグレ人間としてのプライド傷つけられた春菜の瞳から、思わず涙が頬を伝う。

「は………ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ、はいぐ……れ…………はい………ぐ…………」

(あれ? なんで……私、こんなこと、してるんだっけ……? はい、ぐれ…………って、何、だったっけ…………?)

はじめは力強かったハイグレポーズも、嘲笑を浴びるたびに動きが鈍くなり、春菜は自分の手足の重くなるのと同時に、少しずつ自分の意識が遠のいて行くのを感じた。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.13 )
日時: 2012/03/22(木) 23:16:26 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 陽も傾きかけた頃、人気の無い道路の隅にあった民家に封筒を投函し終えたお静が、達成感に満たされた表情でぐぐっと大きく背伸びをした。

「ふぅ…………これでこの辺りはみっしょんこんぽれーとです! そろそろ帰らないと皆さん心配して――」

「おおっ!! お静ちゃんじゃん♪」

「あーッ、ホントだ〜!!」

帰路に着こうと踵を返してお静の前に、黄色のハイグレを着たハイグレ人間とオレンジ色のハイグレを着たハイグレ人間が歩み寄ってきた。

「あっ、里紗さんに未央さん! こんにち……じゃなかった、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」

少し離れた位置から互いに挨拶のハイグレポーズを取り終えると、里紗と未央が親しげに小走りでお静に近づいた。

「あはは、ダメじゃんお静ちゃん、今こんにちはって言いかけてなかった?」

「ホントだ〜、未洗脳者みた〜い!!」

「そ、そそんなことありませんよ! 私はれっきとしたハイグレ人間ですよ!?」

とっさに取り繕おうとあたふたと狼狽えるお静の様子を見ていた里紗と未央だが、お互いに顔を見合わせながら、首を傾げたり肩をすくめたりしただけだった。その様子に心中で胸を撫で下ろすお静に対して、里紗達が口を開いた。

「まあいいや。それよりさぁ、久々じゃん、お静ちゃん! 洗脳されてから会うのは初めてだっけ?」

「ほんとほんと〜! こんなトコで会うなんて奇遇だよね♪ おっ、そのカバンかっこいーね! 何それ!? 何それ!?」

「あっ、だ…………っ!」

未央が興味津々といった態度でお静の背負っている大量の封筒の入った鞄に手を伸ばそうとしたので、お静が思わず後ずさりする。2度目の過剰な反応に、今度ばかりは訝しげに眉をひそめる里紗と未央が、ゆっくりとお静に詰め寄る。

「どうしたの、お静ちゃん……?」

「まさか、本当に未洗脳者…………!?」

「あ、いや、その、これは…………」

(ど、どうしよう…………? もしバレちゃったらわーぷして逃げるしか……でも、美柑さんの家からしかわーぷできないし…………そうだ!)

2人のハイグレ人間に不審を咎められ、お静が自分の右手に巻きつけられた美柑の物と同じ転送装置の役割を果たす銀色のブレスレットを頼りなげにさすりながら狼狽えるが、不意に電球が点灯するような閃きが頭をよぎり、流れに身を任せるかのように口を開いた。

「これに触っちゃだめです! 今、極秘任務の最中なんです!」

「ご、極秘任務!?」

「はい! 実は私、ハイグレ魔王様のご命令で、御門先生から秘密のお仕事を任されてまして……それでこんな町外れまでやって来たんです。この事は御門先生とハイグレ魔王様以外誰も知らないので、私がここにいたことは、どうかご内密に……!」

にわかに会話のトーンを下げて取り澄ました真剣な表情で喋るお静の言い訳に、里紗と未央が興味深げに聞き入り、ふんふんと相槌を打つ。最後にお静が口元に人差し指をピンと立てると、2人が生真面目な表情のまま、力強く頷いた。

「ハイグレ魔王様のご命令なら仕方ないわねぇ……わかった! この事は誰にも言わないから安心して!」

「影からひっそり応援するよ、お静ちゃん! 全てはハイグレ魔王様の為に!」

「「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」」

腰を落として全身全霊のハイグレポーズを取る里紗と未央にやや気圧されながらも、お静も最大限に力を込めて、見破られないようハイグレポーズを取る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! で、では、私は引き続き任務があるので、これで!」

ハイグレポーズを取り終えると、お静はこの場から脱したい一心で口早に里紗と未央に別れを告げ、2人の返答も待たずに振り返り、そそくさと家路に着いた。その後ろ姿をにこやかに手を振りながら見送った里紗と未央だが、お静が曲がり角に消えて見えなくなると、不意に顔から笑顔を拭い去り、無表情のまま互いに顔を見合わせた。

「…………どう思う、里紗?」

「ハイグレ魔王様のご命令、ねぇ…………」


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.14 )
日時: 2012/03/22(木) 23:17:34 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 目が覚めると同時に、春菜はその身を横たえていたベッドから跳ね起きるように上体を起こした。何か悪い夢でも見ていたような感覚が襲いかかり、動悸が早まるのを感じる。

「ちょ、ちょっと春菜さん、急に起きちゃダメだよ!」

聞き覚えのある声と共に、起き上がった上体を誰かに支えられるのを感じる。春菜が首を傾けると、そこには心配そうな表情をした想い人の妹の姿があった。

「美柑、ちゃん……?」

「あぁ、良かった、記憶は無事みたい……」

美柑はホッと胸を撫で下ろすと、洗脳解除による心身への負担で疲弊している春菜の身体をゆっくりとベッドに寝かせる。枕の上に載せられた頭を右へ左へきょろきょろさせながら、春菜がゆっくりと口を開いた。

「ここは、どこなの……?」

「ザスティンさん……って、今はもう違うか……モモさんとナナさんの隠れ家だよ」

美柑に割り当てられている居室と同じ間取りの部屋を眺めながら、春菜は脳内に散らばった取り留めの無い記憶の断片をゆっくりと整理しようと試み、それが一向に捗らない事を不安に感じた。

(モモちゃんに、ナナちゃんの……なんだっけ? 何か大事な事を忘れてるような……)

「ねえ美柑ちゃん、私ね、とても怖い夢を見たの。よく覚えてないんだけど、どうしても思い出さなきゃならない気がするの……」

その言葉を聞いた美柑の微笑む表情が一瞬曇り、軽く下唇を噛んだが、思い直したように、再度笑顔を取り繕い、春菜の着ている純白の、入院患者が着るようなローブの上に、捲れ上がった毛布を掛け直してあげた。

「今は何も考えない方がいいよ、春菜さん。今はゆっくり休んで、元気になったら、またお話しようね。……それじゃあ私、用事があるからそろそろ行くね? 何かあったらそこのボタン押して。ザスティンさんがすぐに駆けつけてくれるから」

春菜の手をぎゅっと握ってから離し、笑顔で彼女に軽く手を振ると、美柑はそのまま春菜の部屋を後にした。
 部屋を出ると、部屋数を拡張し終えた長い廊下にはいくつもの個室に通じるドアが規則正しく並んでいた。今ではその殆どが、「空き部屋」の札から「使用中」の札に差し替えられていた。

「おっす、美柑。ハルナの調子、どうだった?」

そこには、春菜の部屋の隣の壁にもたれかかりながら待ち焦がれていたような表情のナナがいた。美柑は、力無く、かすかに首を横に振った。

「目は覚めたみたいだけど、記憶が混濁してるみたい。今まで洗脳解除に成功した人達とほとんどおんなじ。…………ホントにこんな調子で上手くいくのかなぁ」

「仕方ないだろ、こんな急場で組み立てた作戦なんだからさ。あたしとモモのデダイヤルで敵主要戦力を分散、『とらぶるくえすと』を流用したアンチハイグレシステムでハイグレ魔王の居所近辺の戦力を奪取……作戦を開始してから2日経って、ここまでは順調なんだ。あとはハルナ達が立ち直ってくれるのを待つしかないだろ?」

「そう、だよね……私達が弱音吐いてちゃダメだよね。じゃあ私、そろそろ学校に行かないと……きゃ!」

振り返って自分の部屋に戻ろうとする美柑の足が、何も無い平坦な廊下にも関わらず躓いたようによろける。転びそうになる美柑の身体を、慌てたナナが抱きかかえるようにして助け起こした。

「お、おいおい、大丈夫か美柑! ハルナの看病でろくに寝てないんだろ? 今日くらいあんなヘンタイだらけのトコに行くのやめて休めよ。身体壊すぞ?」

「う、ううん、大丈夫だから……。下手に休んだりして周りに怪しまれたら動きづらくなるでしょ? だから行かなきゃ…………。封筒撒くのも私がやっとくね。お静さんに春菜さんの看病させてあげたいし。じゃあ、行ってくるね!」

ナナの制止を振り切って、そそくさと自分の部屋に戻る美柑の後姿を、ナナが心配そうに見送った。

(大丈夫かなぁ、美柑のヤツ……。何かヘマやらかしてもモモは目的の為なら容赦なく見捨てるだろうし、何か手を打っとかなきゃな……)


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.15 )
日時: 2012/03/31(土) 06:39:21 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「ハイグレ人間のみんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! こんにちハイグレ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 

「今日は私たちの歌を聴いて、洗脳活動頑張ってね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「きゃ〜〜〜〜〜、RUNちゃあああああん!! こっち向いてぇ〜〜〜〜!!!」

「うおおおおっ、ナマのハイグレキョーコだぜぇ……洗脳活動頑張った甲斐があったってもんだ……!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」

きらびやかな野外仮設ステージの上で、同じ赤色のハイグレを着た2人のアイドルがマイクを片手に持ちながら、空いた手でハイグレポーズを取ると、聴衆であるハイグレ人間達が狂喜の声援に沸き立つ。2人のハイグレアイドルがハイグレポーズを交えた扇情的な振り付けを踊りながらハイグレ魔王を賛美する一曲を熱唱すると、会場のボルテージが早くも最高潮を迎えた。
 その様子を離れた場所に置かれた椅子に座りながら満足げに微笑む沙姫の姿があった。その傍にはパラソルを掲げ持っている凛と、沙姫を扇ぐ扇を持つ綾を従えていた。

「ああん、ご覧下さい沙姫様、あの声援を……♪ 巨大宇宙生物との戦いで疲れ切っていたハイグレ人間達が活力を取り戻していくのを感じますぅ…………♪」

「これも全て、今回のハイグレ魔王軍慰問コンサートを企画なさった沙姫様の御功績でございます。ハイグレ魔王様も、さぞお喜びになられることでしょう」

「オーッホッホッホ!! それだけではありませんわよ、凛。彼女達をプロパガンダとして利用する事によって私の功績が全国のハイグレ人間に喧伝されれば、ハイグレ人間としての義務を何ら果たしていないララに代わって、この天条院沙姫がハイグレ魔王様の御傍に仕える日も夢物語ではありませんわ……♪ オーッホッホッホッホ!!」

 沙姫が椅子に座りながら高らかに笑うと、曲を終えたルンとキョーコが片手を高らかに挙げて、ステージ背後に設置された巨大スクリーンを指さした。

「それじゃあここで、スペシャルゲストをお呼びしちゃいま〜〜〜す!!!」

「みんな、挨拶のハイグレポーズの準備してね〜〜〜〜〜!!!」

ルンとキョーコの呼びかけに、サプライズ感を演出されて活気付く観客達がガヤガヤと賑わいながら、挨拶のハイグレポーズを取るために両サイドの間隔を空け始める。その様子を、凛と綾が訝しげな表情を見せる。

「沙姫様、これは一体……? 予定にはございませんが……」

「大丈夫よ、凛。コンサートのクライマックスで私を映すよう、予めお願いしておいたの。これで私の人気もうなぎ登りに急上昇するに違いありませんわ! オーッホッホッホ!!」

「「それではどうぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」」

ルンとキョーコが高らかに叫ぶと、鮮やかな視覚効果でコンサートの舞台を彩っていた巨大モニターの映像が切り替わり、1人のハイグレ人間の姿がアップで映る。沙姫は当然自分が映っているものと心得ているため、得意げにポーズを取りつつ観衆の歓喜の声を待ち望むが、モニターに映る人影が自分でないことに気付くと慄然とした。

「やっほ〜〜〜〜、西日本侵略部隊のみんな〜〜〜〜!! 元気かな〜〜〜〜〜??」

「きゃあああああああああああああ!! ララちゃあああああああん!!!」

「ララ様ァァァッ! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」

「な…………!? どうしてララが……」

モニターの中で手を振っているララの姿に、沙姫が弾けるように椅子から飛び上がる。しかし観客達がそれに気付く筈も無く、ハイグレ人間と洗脳活動の象徴であるララとハイグレ城から中継で繋がっているという事実に興奮が絶頂に達していた。

「……ねえねえ、キョーコ、なんでララが映ってるの? 予定じゃ天条院先輩が映るんじゃなかったの?」

「わ、私も分かんないよ……。技術さんも突然中継が繋がったって、てんやわんやみたいだし……と、とにかく続けよ?」

モニターに夢中になっている観客に気取られないように隅の方でひそひそと相談するルンとキョーコだが、ララが映っている以上、これはハイグレ魔王軍の意向が関係していると瞬時に理解した2人は即座に予定を変更して、再びステージの中央に戻り、ララを讃えるように腰を落としてハイグレポーズの準備を整えた。

「みんな、魔王様の為に命を懸けて戦ってくれて、ありがとう〜〜〜!! ちなみに、この映像は魔王様も直接ご覧になってるの!! だから私と一緒に、みんなでハイグレしよっ!! じゃあ行くよ〜〜、せーのっ!」

「「ハイグレッ!!!! ハイグレッ!!!! ハイグレッ!!!! ハイグレッ!!!!」」

ハイグレ魔王が見ている、というララの言葉に観客達のタガが外れ、ステージ上のララとルンとキョーコに合わせて120%のハイグレポーズを取るハイグレ人間の中には、興奮のあまり失神を起こしたり、喜びのあまり泣き崩れてハイグレポーズを取るどころではなくなっている者の姿が散見できる。その様子に唖然とする沙姫に、凛も綾も掛ける言葉が見つからなく、ただただ立ち尽くしていた。

「憐れですね、天条院沙姫。ですが、悪く思わないで下さい」

「!?」

上空から久しく聞かない声に驚き見上げると、沙姫の頭上に低空でホバリングする2人乗りのオマル号と、それに乗る金髪のハイグレ人間の姿があった。

「あ、あなたは……金色の闇! どうしてこんな所にいるんですの?」

「ドクター・ミカドのお手伝いです。活きの良い未洗脳者は、今ではこんな地方でしか捕獲できませんし……その途次に、ハイグレ人間天条院沙姫・ハイグレ人間九条凛・ハイグレ人間藤崎綾、あなた達に魔王様から別命を賜ってきました」

「べ、別命……?」

不安げに見上げる3人のハイグレ人間の視線を受け止めながら、ヤミが無表情に頷く。

「あなた達3名に、ハイグレ城への帰還命令が出ています。派兵したハイグレ人間はそのまま戦線を維持、指揮権は現場のパンスト兵様に譲渡せよとのご命令です」

「そんな……せっかく沙姫様の指揮の下、テロ抑制と洗脳活動の両方が上手くいっていたのに……!」

綾が不満をこぼすと、隣にいた凛が勇を鼓舞する思いでヤミに口を開いた。

「すまないが、魔王様に御再考いただくことはできないか、金色の闇。我々がいなくては、所詮ここにいるハイグレ人間達も烏合の衆……纏め上げられるのは沙姫様をおいて他にないんだ」

凛の言葉に、ヤミが険しい視線を投げかける。

「魔王様に口答えする気ですか? 自惚れないでください、九条凛。魔王様は未洗脳者よりもあなた達に憂慮されておいでです。魔王様に洗脳して頂いたにも関わらず元主人に対して追従する振る舞い……それに下らぬ虚栄心で軽率な行動を起こす天条院沙姫、あなたにも罰則が下る事でしょう。勝手ながら、コンサートの演出も、あなたからプリンセスに差し替えさせていただきました」

「そ、そんな…………!」

心から慕い忠誠を誓っている相手に対し悪感情を抱かれている、と告げられたことにより、沙姫達の顔からみるみる血の気が引いて行く。その表情とは対照的に、コンサート会場は飛び入りしたララの中継映像を交えながら、いよいよクライマックスに差し掛かろうとしている。

「とにかく、私は先に東京に帰還します。あなた方もパンスト兵様へ兵務を引き継ぎ次第、至急出頭するように。それでは……ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

「「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレ………………」」

オマル号に乗りながら器用にハイグレポーズを取るヤミに対して、不本意ながら、といった調子で応答のハイグレポーズを取る3人。それを確認し終えると、ヤミはオマル号の高度を上げ、東京方面へ向けて全速力で発進した。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.16 )
日時: 2012/03/31(土) 21:04:56 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 終業を告げるチャイムが鳴る。偉大なるハイグレ魔王の、宇宙を巡る偉業の数々を学ぶ授業が終わり、まだまだ授業を受けたそうにしているクラスメイト達の名残惜しそうな表情の中、唯一安堵した様子の美柑が、学級委員の義務として率先して起立した。

「きりーつ! れーい!」

「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」」

美柑の号令と共に、席を立ったハイグレ人間達が教壇に立つ先生に向けてハイグレポーズを取る。それを微笑みながら見終えた晴子が、同じように腰を落としてポーズを取る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! 明日は卑劣なデビルーク星人と偉大なるハイグレ魔王様との戦いについて授業します。テストにも出るので、みんな、お家に帰ってちゃんと予習しておいてね!」

ハイグレ人間にとって一段と興味深い単元を勉強できると聞いて、教室中のハイグレ人間がガヤガヤと楽しげに談笑する中、不眠による生欠伸を噛み殺しながら、美柑がそそくさとランドセルにハイグレ人間用の教科書を詰め込み、臭い物に蓋をするようにランドセルにロックを掛けた。

(まったく、何が『偉大なるハイグレ魔王様』よ! 毎時間毎時間ハイグレポーズ取るだけじゃ飽き足らずにこんな嘘っぱちだらけの授業までいちいち受けなきゃなんないなんて、馬っ鹿みたい!! …………あ、やばっ、明日ハイグレ語の書き取りテストあったんだっけ……? 夜寝る前に復習しとかなくちゃ……!)

 ホームルームの後、早く帰宅しようと教室を出た美柑の露出した背中を、例によって追いかけてきたサチとマミがおどけてパチンと叩いた。

「みーかーん! なにさ、さっさと帰ろうとして! 今日くらい一緒に洗脳訓練見学付き合ってよ! 今日はすごい人が来てるんだよ!」

「すごい人? んー、私あんまり……ふわぁ〜……興味無いから」

大口を開けて欠伸する美柑を見て、サチが頭上に「?」を浮かべるが、マミはどこ吹く風といった調子で美柑の両肩をがっしり掴んで笑顔で行先を強制した。

「わわわっ! ちょっと、マミぃ……。私、今から用事が……!」

「だーめ♪ 今日こそは見学に付き合ってもらいます! だって、憧れのあの人が来ているんだもの……♪」

頬を赤らめてポーッと宙を仰ぎ見るマミのキラキラと光る瞳にたじろぐ美柑が観念したように頷く。

「分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば…………」


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.17 )
日時: 2012/03/31(土) 21:05:32 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




「ええ、ええ、分かったわ。報告ご苦労様。 え、何かしら? ……うふふ、もちろん心得ているわよ……♪ あなた達のことは、私から魔王様へ強く推しておくから、期待してなさい。それじゃ」

通話を切り、白衣のポケットにケータイを収める。

「やっぱり便利ね、未洗脳者の服って。ハイグレにもポケットが付いてればいいのに……。あら、お客さんかしら?」

研究室のドアが音を立てて開かれると、気絶した小さな女の子を担いだヤミが部屋へ入ってきた。見慣れないオレンジ色のハイグレを着ているヤミの姿を、御門は興味深そうに観察する。

「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ」

「ハイグレッ、ハイグレッ、ハイグレッ。お待たせしました、ドクター・ミカド。研究用素体です」

事も無げに言うと、ヤミがドサッと手荷物でも扱うように乱雑に気絶した女の子を手放すが、御門の視線がそれに向かうこともなく、クスリと笑いながらヤミに語りかけた。

「ご苦労様、金色の闇。でも、ごめんなさいね……コレはもう必要ないわ」

ニコニコと笑いながら、ケータイの入っていない方のポケットから手を出すと、御門の手にはピストル型のハイグレ銃が握られていた。そしてそのまま未洗脳者に照準を合わせ、トリガーを引いた。

「きゃあああああああああああああああああああああッ! ……は、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

「なにをするんですか、ドクター・ミカド! せっかく生け捕りにしてきた未洗脳者を!」

「事情が変わったのよ。……それよりも、また新しいハイグレ着たの? あまりコロコロ変えるのもよろしくないわよ」

「さきほど、結城リト……もとい結城リコに会ったのですが、美柑はオレンジ色のハイグレを着用していると聞いたので、魔王様にお願いして着せていただきました。おそろいです」

キラッと目を光らせながら自慢げに新しいハイグレを見せつけるヤミに、御門がやや苦笑する。その隣ではハイグレ光線を浴びせられた女の子が黄緑色のハイグレを着せられ、苦しげな表情でハイグレポーズを取らされていたが、2人のハイグレ人間は、まるで彼女の事など初めから存在しないかのようにして話を進めた。

「その美柑ちゃんのことなんだけれど、少し気になる報告を受けたの。……ちょっと、会いに行ってくれるかしら?」

「美柑に気になる報告……と言うと……?」

ヤミが訊くと、御門は悪意を秘めた笑顔を見せながら、意味ありげにゆっくりと舌なめずりをした。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.18 )
日時: 2012/03/31(土) 21:06:03 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 2人に促されてグランドに行くと、洗脳訓練用射撃場の周りには、すでにハイグレ小学生達の人垣が出来上がっていた。射撃場には、身に纏った青色のハイグレを腹這いにしながら、ライフル型のハイグレ銃を構えているハイグレ人間が1人、射撃訓練に勤しんでいた。

「古手川さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、頑張って〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「すっげぇ、ここまでノーミスで洗脳人数100人突破したよ……かっけぇ……!!」

「ああん、素敵……♪ 後でサインもらおっかなぁ……?」

(あ、あれって…………古手川さん?)

口々に唯に向かって声援や驚嘆の声を送る少年少女の群衆の中に手を引かれ連れて行かれると、美柑の視線の先には、丁度訓練を終えた唯が立ち上がり、人心地ついた様子で額を拭い、腹這いになったせいでハイグレの腹部についた汚れをポンポンとはたいていた。

「ふぅ、こんなところかしら。…………あら? あなた確か、結城君の…………ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

群衆の中に紛れた美柑に気付いた唯が、挨拶のハイグレポーズを取ると、周囲のハイグレ人間達の注目が一気に美柑に集まった。サチとマミですら好奇の視線を向ける中、緊張で顔が上気するのを感じながら、美柑もハイグレポーズを取る。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

(うぅ、みんな見てる…………大丈夫かな? バレないかな? 古手川さんみたいに上手にハイグレできてるかな……?)

美柑がポーズを取り終えると、唯が気を許すように柔らかな表情を見せる。欺き通せたことに心中で胸を撫で下ろす美柑の両サイドで、サチとマミが彼女の腕をぐいぐい引っ張る。

「ちょっとちょっと、美柑! どういうこと!? 古手川さんと知り合いなの!?」

「ハイグレ人間の英雄とお知り合いだなんて、やっぱり美柑ちゃんってただ者じゃなかったのね!? ああん、すごいなぁ、憧れちゃうなぁ……♪」

困惑する美柑を気の毒に思ったのか、唯は興奮してまくし立てるサチとマミの肩に手を置いて、優しく微笑みかけた。

「ちょっと悪いんだけど、美柑ちゃん借りて行くわね。2人きりでお話したいことがあるの」

「あ……どーぞどーぞ! 遠慮しないで持ってっちゃってください!」

「いや、あんたが遠慮してよ……」

「あ、あの! …………お、お仕事頑張って下さい! 応援してます!」

マミが緊張しながら言うと、唯が嬉しそうに腰を落としながら、その場にいたハイグレ小学生全員に向けてハイグレポーズを取った。

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!! ありがとう。あなた達も頑張って、ハイグレ魔王様のためにしっかりお勉強するように」

「「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!!」」

ハイグレ小学生達のハイグレポーズに対して軽やかに手を振りながらグランドを去る唯に手を引かれ、美柑は小学校を後にした。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.19 )
日時: 2012/04/14(土) 02:52:08 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 帰宅の途に就きながら、美柑は横に並んで一緒に歩いている唯の横顔や身体、彼女が身に纏っている青色のハイグレをチラチラと盗み見ていた。

(やっぱり、完全に洗脳されてるんだよね、古手川さんも……………。普段なら絶対こんなカッコしたがらないような人なのに……でも、なんだろ……すっごく――)

「似合ってる…………」

「ん? 何か言った?」

思わず口をついて出た美柑の言葉に、唯が首を傾げて反応する。どうやら聞こえてなかったようだが、疲れのせいか、ややもすると言動が軽率になりかけている自分を恥ずかしく思った。

「あ、いや、何でもないです……。それよりお疲れ様でした、侵略活動。成果の方がどんな感じなんですか?」

「そうねぇ、各地方の小都市部まではほとんど洗脳活動は完遂されているんだけど、やっぱり地方にまで手が届いてないのが実情ね。それもこれも、例の巨大生物を使ったテロのせい……本当に卑劣だわ、未洗脳者って!」

「卑劣…………?」

美柑が密かに眉根をひそめると、唯は事も無げに二の句を継いだ。

「そうよ、卑劣よ。私達ハイグレ人間は未洗脳者達に真の支配者たるハイグレ魔王様の素晴らしい教えを理解してもらうために、暴力は一切使用していないわ。だけど、未だに地方で抵抗する未洗脳者は銃火器を平気で使ってくるし、各地で暴れまわっているヘンテコな生き物も、建物を壊したりパンスト兵様達を傷つけたりしている……。それに、一般のハイグレ人間である美柑ちゃんにこんな事言うのも気が引けるんだけど、未洗脳者っていう人種は、本当に酷いのよ……! 噂に聞いてるかもしれないけど、彩南町にいるハイグレ人間を秘密裡に誘拐しているって話…………」

「!」

「認めたくはないんだけど、アレ、本当の事なの。……同志達に手を掛けるなんて、許せないわ! 美柑ちゃんも、不審な手紙が来ても開封しないようにしてね」

「う、うん…………」

(やっぱりハイグレ人間にはそういう風に見られちゃうんだよね……私、こんなに頑張ってるのに…………)

隣で憤慨している唯の厳しい表情から目を逸らす。美柑は、彼女達の生活を脅かす事への後ろめたさと、その反動とも言える自身の正しさへの自負、そこから来る「卑劣」と揶揄された事への憤りといった万感の想いが綯い交ぜになって額が汗ばむのを感じた。

「どうしたの、美柑ちゃん? 顔色が悪いけど……大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫、です。…………あの、古手川さん? なんか、私の家からどんどん離れて行ってるみたいなんだけど……?」

商店街を抜ける前に左に曲がり、ひと気の無い路地裏へ進む唯に従って進んでいると、美柑には見慣れない区画の、どん詰まりに設置されたパーキングエリアに到着した。恐る恐る唯の方を振り返ると、彼女は不敵な笑みを浮かべ、美柑の退路を塞ぐように立ちはだかっていた。その手に握られているのは――

(ひぃっ…………! せ、洗脳銃……!?)

「先日、商店街の近辺で未洗脳者の嫌疑の掛かったハイグレ人間と何者かが接触していたとの報告を受けたの。その報告の人相があなたにとても似ていたのよ、美柑ちゃん。同志を疑うのはハイグレ人間としてタブーだけれど、念の為に撃たせてもらうわね」

そう言うと、唯はハイグレ銃のトリガーにかけた指にぐっと力を込めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ! なんのことか私わかんないよ! やめてよ、古手川さん!!」

咄嗟に手首に目をやるが、ワープ機能付きのブレスレットに反応は無い。

(ダメッ、家から遠すぎるからワープできない……や、やだ……ハイグレ人間になんかなりたくない! だ、誰か助けて! モモさん! ナナさん! リト! ヤミさ――)

「きゃああああああああああああっ!!」


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.20 )
日時: 2012/04/14(土) 02:53:18 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




唯の手に握られたハイグレ銃からピンクの色の光線が射出され、真っ直ぐ伸びた光がこの身体を貫いた、ような気がした。

(…………あれ?)

美柑は反射的にグッと強く瞑った瞼を上げると、自分の身体に何の異変も見当たらないことに気付いた。急いで唯の方を見やると、彼女は洗脳銃を宙に構えたまま、ふわりと全身の力が抜けたようにゆっくりと地面に膝を突き、コンクリートにその身を横たえた。その背後から、手刀に構えた右手をそのままに、くすりと口元に笑みを浮かべた金髪のハイグレ人間が姿を現した。

「…………ヤミさん…………!?」

「さすがですね、古手川唯……私達とは別ルートから未洗脳者のスパイを割り出すとは、優秀過ぎるというのも困りものです。ねえ、美柑……?」

当身で気絶させられた様子の唯を見下ろしながら苦言とも称賛とも取れる言葉を贈ると共に、ヤミが美柑の方を見やる。その視線とかち合った瞬間、美柑は自分の中の何かが崩れ去って行くような感覚に襲われた。
 モモさんもナナさんも言っていた。実際にハイグレしている映像も見た。それでも心の奥底では彼女を信じていた。面と向かって確かめるまで信じたくなかった。しかし――

(何人もハイグレ人間、見てきたもん……ヤミさんのそんな顔見れば、もう、分かっちゃうよぉ……完全に洗脳されちゃってるって……分かっちゃうよぉ……!)

脚ががくがくと揺れ、美柑は意図せず唯と同じように地面にしな垂れかかる。そのまま地面に目を落としつつ、すがるようにヤミに対して口を開いた。

「……助けて、くれたんだよね? ……わ、私が古手川さんに襲われそうになったから、助けてくれたんだよね、ヤミさん……?」

その言葉を聞いたヤミの口元から笑みが消える。そしてそのまま倒れ込んだ唯を跨いで越え、美柑の方へ一歩一歩歩み寄る。

「勘違いしないで下さい。古手川唯には、作戦の邪魔になるので眠ってもらっただけです。残念ですよ、美柑。美柑が未洗脳者だったなんて、信じたくなかった……美柑にだけは、裏切られたくなかった……」

(うら、ぎる……? 怒ってるの、ヤミさん……? ……ごめん、ごめんね……?)

美柑の傍で立ち止まったヤミが、片膝を突いて美柑を抱き起す。片手で美柑を支えながら、開いた手で自分の身に纏っているオレンジ色のハイレグの肩紐と肩の間に指を差し入れる。

「見て下さい、美柑。美柑とおそろいのハイグレを魔王様に着せて頂いたんですよ。一緒にハイグレするために……でも美柑の着てるそれ、偽物なんですよね。……ほら、見て下さい、美柑。これが本物ですよ」

ヤミが美柑の手を取り、自分のハイレグの生地に触れさせる。腹部から腰の切れ込み、胸部、やがて秘部へ……まるで美柑の手を使って自身を慰めているかのような行為に、ヤミの頬がほんのりと上気し始める。

「ん……っ! ふふっ♪ どうですか、気持ち良いですか? これが本物の感触です……」

(す、すごい……すりすりするの、すごい気持ちいいよぉ……ハイグレ人間って、こんなのいっつも着てたんだぁ……♪)

はーはーと息が荒くなる美柑の真っ赤な頬を愛おしげに見つめると、ヤミは嬉しそうに微笑む。そしてそっと美柑の手を放すと、ヤミは両手で美柑の頬で挟むように持ち上げ、小首を傾げて美柑の唇に自分の唇を重ねた。

「!?」

「ん、んむぅ……ちゅ、みはん……みはんんぅ……んふぅ…………!」

突然ヤミの舌が入り込んでくる事に困惑する美柑だったが、数分と事が及ぶうちに、身体の力は抜け、目も力無くとろんと色を失い始める。

(ああん……♪ ヤミさん、ヤミさん……っ! ヤミさんヤミさんヤミさん……!!)


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.21 )
日時: 2012/04/27(金) 03:28:33 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 ただヤミの舌による口腔への侵入を許していただけの美柑だったが、やがて自分からも彼女の滑るように動く舌へ追従し、取られていた手から離れ、自分の手でヤミのオレンジ色のハイレグに包まれた肢体をスリスリと愛撫していく。

「あむぅ……ん、ヤミ、さんっ……! はぁ……はぁ……♪ きもちっ……い……んうぅ♪」

(ふふっ、だいぶ素直になってきましたね、美柑…………♪ それではそろそろ……――!?)

連綿と美柑に対して快楽を与え続けていたヤミの手の動き、舌の動きが不意にピタリと止まる。しばらくは快感を求める美柑の方がしきりに動いていたため、美柑もヤミの異変に気付くことはなかったが、やがて押し返すように身体を任せても何の反応も無いヤミを妙に思ったのか、美柑がそっと身体を離す。

「ヤミ、さん…………?」

美柑が口を開くと、ヤミの口腔と繋がっていた唾液の糸がぷつりと切れて地面に垂れ落ちる。ヤミはと言うと、美柑が身体を離したにも関わらず、虚空に身を委ねるような体勢のまま、目を丸くして静止していた。耳を澄ますと、ギチッギチッとヤミが自分の身体に力を込めるのに難航している不可思議な音が聞こえる。

「身体が、動かな…………!?」

「そこまでですっ!!」

不意に大きな声が路地裏中に響き渡る。美柑が倒れている唯の方を向くと、唯の傍に、ビシッと立てた人差し指を此方に向けているお静の姿があった。

「お静、さん…………?」

「念力集中ッ……美柑さんっ! 今のうちに逃げて下さい!」

お静の念力によって身体の自由を封じられていたヤミが、ギチッギチッと音を立てながら、ゆっくりと背後を振り向き、膝を突いた体勢からお静の目を真っ直ぐに見上げる。明らかな敵対行動に対してヤミが発する殺気と射殺すような冷たい視線に、お静の身体がビクッと戦慄いた。

(くうっ……す、すごい力です…………! これ以上、抑えきれない…………ッ!!)

「村雨静ですか……。美柑とのひとときを邪魔するなんて、許せません……卑劣な未洗脳者のくせに…………!!」

お静の身に纏っている擬装用の薄灰色のハイレグに視線を落とし、怒りを露わにするヤミの身体が、這うようにして少しずつ彼女の方へ向かって行く。苦痛に顔をしかめながら、全身全霊を懸けてヤミを縛り付けているお静の様子を、ただ1人身体が自由な美柑がぺたんと座りながら、生気の宿らない瞳でぼーっと眺める。

「美柑さん……ッ!! 美柑さんッ!!!」

絞るように声を張り上げるお静の声が届いたのか、ハッと我に返った美柑が弾けるように立ち上がる。

「お静さん……ど、どうしてここに……?」

「な、ナナさんに言われて、来たんです……美柑さんの様子を、み、見守るようにって…………そ、それよりも、美柑、さん……はやく、逃げ……っ!!」

弱弱しくなっていくお静の声に、美柑は立ち止まったままおろおろと狼狽する。ゆっくりとお静に這い寄るヤミと、近づかれた分だけ後ずさるお静……文字通り一進一退の緊迫した状況の彼女を見捨てて逃げ去ることができない。しかしお静を助けようにも、自分にはどうすることもできない。

(ううん、違う……。私、お静さんを助けたいんじゃない……? ヤミさんから、離れたくない、だけ…………?)

再び生気がふっと消え去りそうになる瞳をヤミに向ける。その視線に気付いたのか、ズズズズ、とお静に迫るヤミの首が人形のようにぎこちなく美柑の方へと振り向く。

「待っててください、美柑………すぐに村雨静を洗脳しますので、終わり次第、さきほどの続きをしましょう…………♪」

「……ッ!」

殺気と獲物を狩る獣のように豹変した顔つきのまま喋るヤミの姿に、弱々しかった美柑の目が恐怖に揺れる。

(い、嫌あッ……!!)

先刻の快楽も忘れ、美柑が一目散に駆け出す。そのまま必死の形相のお静に一瞥もくれず、一言も発せず横を通り抜け、商店街の方向へと逃亡した。
 美柑が逃げ切ったのを確認すると、お静がホッと胸を撫で下ろすように安堵の表情を浮かべた。

「…………美柑さんをお仲間にし損ねて残念でしたね、ヤミさん」

お静が勝ち誇った顔でヤミを見下ろすと、ヤミが項垂れたようにして肩を震わせていた。

「……………………」

「どうしたんですか、ヤミさん。もう抵抗しないんですか?」

「…………ふふっ♪ ご心配無く。じきに美柑も、私と『おそろい』になりますから」

「え……? な、なにを言っ…………きゃあああああああああああああああああああっ!!」

聞き返そうとするお静の身体が赤く光り輝く。まばゆい光の中で身体を大の字にして苦しむお静に向かって、ヤミが怪しげな笑みを浮かべた。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.22 )
日時: 2012/04/27(金) 03:29:35 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 セーフハウスの大広間のモニター画面には、今では十数人程度のハイグレ人間の姿しか認められなかった。彼ら(あるいは彼女ら)もまた先刻春菜が体験したように、各人の記憶によって作り上げられた仮想空間内に強制的に送り込まれ、洗脳によって形成された人格を否定され続けている。その様子をすっかり飽きた表情のナナが、肘を突きながらぼーっと眺めている。

「こら、ちゃんと見てなきゃダメよ、ナナ。もし異常が起きれば、今までの努力が全て無駄になるんだから……」

だらけきった様子で椅子に座っているナナを、背後からモモがたしなめるように叱りつける。

「ナナぁ……異常なんて起きっこないだろ? 捕えてるハイグレ人間も今はこんだけしか居ないんだからさぁ……。っていうか、もう何日も経ってるってのに、今更こんな罠に掛かるヤツなんていねえって。それよりも――」

「ダメ」

話題を切り替えようとするナナを、モモがぴしゃりと跳ね除けた。その冷淡な態度に、ナナが不満げに頬を膨らませる。

「なんだよ……まだ何も言ってないだろ?」

「美柑さんの事でしょう? さっきも言ったように、私達が直接出向くのはダメ。いちいち何度も言わせないで……それに、美柑さんはお静さんにお任せしたんでしょう? 何かあっても、きっと大丈夫よ」

「お静じゃ頼んないから言ってんだよ! ……ふん、モモだって、結城リトの事が心配なくせに、自分だけ冷静ぶっちゃってさ」

愚痴っぽくこぼしたナナの言葉に、モモが暗く俯く。大広間に漂い出した暗鬱な空気を知ってか知らずか、ガシャガシャと鎧の擦れる音を響かせながら、ザスティンが入室して来る。

「ナナ様、モモ様。西連寺さんの御容態ですが、現在は非常に安定しております。洗脳解除による反動からもすっかり立ち直られ……いかがなさいました?」

「いえ、何でもありません、ザスティンさん。引き続き、春菜さん並びに洗脳解除の完了した人達のケアをお願いします」

取り繕った笑顔でモモが言い、ナナも鬱陶しそうにシッシッと手を振ってザスティンを追い出そうとする。

「は、はっ! それでは失礼致します」

重苦しい雰囲気に耐えかねたザスティンが足早に立ち去って行く。大広間には互いの顔を見ようともしない双子の姉妹だけが取り残された。彼女らが無言で佇んでいる間にも、モニターからまた1人、ハイグレ人間の洗脳解除完了を知らせるアラームが鳴り響き、ハイグレを脱ぎ去った洗脳解除者がセーフハウスに転送されて来る。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.23 )
日時: 2012/04/27(金) 03:30:09 メンテ
名前: 0106  <haiguremaousama@yahoo.co.jp>




 ヤミが眩しそうに見つめる視線の先。赤い光が収まると、そこには擬装用の薄灰色のハイレグからピンク色のハイグレに着せ替えられたお静が、必死に抵抗する様子を見せながらぎこちなくハイグレポーズを取る姿があった。

「〜〜〜〜!! は、ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

(くうっ…………! ゆ、油断してしまいました……でも、いったいどこから……!? ヤミさんが撃った素振りは見られなかったのに…………)

「うふふ……♪ 大・成・功♪ これでお静ちゃんも魔王様の下僕ね」

お静にとって聞きなれた声が背後から聞こえると共に、何者かに抱きつかれる。柔らかな肢体がのしかかるが、お静の義体はバランスを失うことなくハイグレポーズを強要させられ続ける。

「まったく……遅すぎです、ドクター・ミカド。未洗脳者を挟撃する手筈ではなかったのですか?」

「ええ、分かってはいたんだけど……あんなにお楽しみ中の2人を邪魔するなんて、私にはできないわ♪ あなたも、栄誉あるハイグレ人間へ転向した今ならそう思うでしょう、お静ちゃん?」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」

(うぅ、そんな……御門先生…………!!)

美柑を守るため後を追っていた自分もまた、御門に尾行されていた。その事実に気付かなかった間抜けさから、お静の義体の中の思念体が悔しげに歯噛みする。そんなお静の思惑とは裏腹に、彼女の義体は1分と持たず滑らかにポーズを取り始める。口ではハイグレ魔王への忠誠を誓う「ハイグレッ!」の言葉を発しながら、意志とは無関係に、頬が上気していく……。

「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!!」

「ああん、可愛いわぁ、お静ちゃん、食べちゃいたいくらい……♪ この様子だと、ハイグレ魔王様の御威光は、バイオロイドにも普通の人間と同様の効果を与えて下さるみたいね。やはり魔王様の愛は唯一無二にして絶対……素晴らしいわぁ……♪」

「私達やプリンセスのような宇宙人もハイグレ人間になることができたのですから、魔王様のお力は素晴らしくて当然、バイオロイドにも効いて当然に決まってます。それよりも、ドクター・ミカド、作戦は完了しました。美柑への投薬も完了しましたし、これ以上の長居は無用です。早く魔王様の下へ帰還しましょう」

ヤミの言葉に御門がこくりと頷くと、御門は地面に伏して気絶している唯を抱きかかえ、様々なハイグレポーズを試すように変えながらポーズを取っているお静に向かって口を開いた。

「あらあら、クロスハイグレにノックバックハイグレまで習得済みじゃない♪ その調子なら、お静ちゃんも優秀なハイグレ人間になれるわよ……それじゃあ、気が済んだら魔王様のお城まで来て頂戴ね。ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!!」

唯を担いだままハイグレポーズを取る御門とその隣でハイグレポーズを取るヤミ。そんな挨拶を送る2人のハイグレ人間など眼中に入っていないかのように、お静は懸命にハイグレポーズを取り続けた。

「ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレッ!! ハイグレぇッ!!」

(ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇ♪ ハイグレぇッ♪)


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.24 )
日時: 2013/07/23(火) 05:29:36 メンテ
名前: 0106




 息を弾ませながら商店街のアーケードを抜ける美柑。家路を目指す道すがら、町内の見知った顔のハイグレ人間に何人も出会ったが、挨拶のハイグレポーズを取る余裕のない美柑とすれ違う度に、皆一様に困惑するように小首を傾げた。

「はぁ……はぁ、はぁ…………こ、ここまで来れば大丈夫、かな……?」

のめるように両手を膝に載せ、肩で息をしながら後ろを振り返る。周囲には人の気配は無く、ヤミや御門も追ってくる様子は見られない。ブレスレットのワープ機能が使える結城家近辺の安全圏まで目と鼻の先だが、安堵した途端、美柑の膝が不意にがくがくと震えだした。

(あ、あれ……? なんだろ、ふらふらする……。そういえば昨日、全然寝てなかったっけ。それとも――)

さっきのヤミさんとしたことが原因……? そう考えると、この動悸が逃走によるものなのか、興奮によるものなのかが分からなくなってくる。ふと先刻の行為を思い出し、口腔内に入ってきたヤミの柔らかな舌の感触を、自分の内頬の感触に重ねあわせて舌を動かす。

(ん、はぁ……はぁ……ああもう、何やってんだろ私、早く逃げなきゃなんないのに! ホントに、最低…………あれ? なんだろ、口の中に、何かある……?)

うねらせた舌の端が内頬に付着していた何かとぶつかる。舌でそれを転がしてみると、それは小豆一粒程度の大きさの、桃のような甘みを発する固形物だった。

(美味しい…………。でも、なんでこんな飴みたいなのが口の中に入ってるんだろ? もしかしてさっきヤミさんとキスした時に、私の口に入れ――)

と美柑が考えた刹那、パン! と小さな音を鳴らして飴らしき物体が口腔内で破裂する。

(甘……ッ!?)

破裂と同時に、美柑の口いっぱいに、むせ返るような甘ったるい霧状の薬液が飛び出した。反射的にそれを吐き出そうと前傾姿勢を取った筈の美柑の身体が、仰向けに地面に倒れ込んだ。

(身体の自由が、きかない……!? 息も、できな……苦、し………!!)

アスファルトの上に倒れ込んだ美柑の視界の中で、抜けるような青い空と、それを区切るようにして建っている民家の石塀が、ゆらゆら歪んで見える。頭がガンガンと鳴り響き、意識が遠のく。

(リ………ト…………)

心の中で小さく呟くと、美柑はそのまま意識を失った。


* Re: もっとHa Iguれ -はいぐれ- ( No.25 )
日時: 2015/07/03(金) 05:46:37 メンテ
名前: 0106




 目を覚ますと同時に頭がフラフラするのを感じながら、辺りをキョロキョロと見回す。美柑は自分が先刻倒れこんだままの状態である事を真っ先に認識した。日の傾き加減から時間の経過を感じる事はできないが、自身がまだ何者からも助けられてもいなければ捕まってもいない以上、気絶していたのはほんの数分間から十数分間だったのだろうと推量する。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

ヤミ達にまだ見つかっていない事にひとまず安堵のため息をついた筈の美柑の息遣いが、徐々に乱れ始める。立っていられない程ではないにせよ、ドクドクと脈打つ心臓の音が鼓膜に響き、頭をぼーっとさせる。

(ど、どうしたんだろ、私…………なんか、まだヤミさんとキスしてるみたいにドキドキしてる……?)

よろよろと道端の石塀にもたれかかりながら息を整えていると、視線の先に見知った2人のハイグレ人間の姿を認めた。

(サチ、マミ…………)

彩南高校のハイグレ人間訓練所を見学した帰りなのだろう、サチもマミも、ランドセルを背負ったまま家路につく途次のように見える。反射的に、美柑は電信柱の陰に身を隠した。

(今ふたりに見つかるのはマズい……ゼッタイ、古手川さんと一緒じゃない理由とかいろいろ訊かれちゃうだろうし、まっすぐ家に帰れなくなっちゃう………)

「やー、それにしても美柑はすごいな! あの古手川さんからも一目置かれてるなんてねー! 私達も友達として鼻が高いよな!」

「うん♪ それに美柑ちゃんのお兄さんも同じくハイグレ魔王様に近しいお方だもんね。美柑ちゃんも魔王様にお会いした事あるのかなぁ……ああ、いいなぁ、羨ましいなぁ……♪」

会話の一部を洩れ聞きながら、2人が曲がり角を曲がって姿を消すまで電信柱に背中を預ける。声が聞こえなくなるとそっと顔を出してやり過ごした事を確認すると、美柑は安堵すると同時に脳裏に強烈なイメージを焼き付けていた。

(ハイグレ、魔王…………)

その存在はもちろん知っていた。この一連の奇怪な異変の元凶…………。その未だ見ぬ倒すべき敵の名を心の中でひとりごちた時、ふとサーカスのピエロを思わせる仮面のようなものが浮かんだ気がした。仮面だけでもなく、その青い肌、漆黒のマント、奇抜な赤い頭髪、それと同じ色のハイグレ…………。

(これが、ハイグレ魔王……の、姿……………?)

なぜこんな姿が思い浮かぶのだろうと美柑は自問した。テレビや新聞、学校で使う教科書、友人知人の会話、モモとナナから聞かされたデビルーク星とハイグレ星の戦いの顛末………ありとあらゆる時と場において嫌と言うほどその存在についての知見を得てはいたが、どの情報からも、その姿にまつわる直接的な印象を得る機会は1度として無かった筈だった。にも関わらず、自然と思い浮かんだその姿形について、美柑は何故か、謂い知れぬ懐かしさ………きゅっと胸を締め付けるような奇妙な感覚を覚えていた。

「はぁっ………はぁっ………はぁっ………はぁっ………」

 そうだ、こんなことしてる場合じゃない、早く帰らなくちゃ………頭ではそう思っているのに、帰り道について考えたくない自分が居る。せわしなく動いていた右手を無理矢理止めて、いったい私はどうしてしまったのだろう、と頭を抱えて蹲る。すると、美柑の両手に触れる何かが、頭頂部の先端にあった。


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